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46.危険すぎる虐め

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 セアラとルークがお昼休憩終わりの時間ギリギリに教室に戻ると待ち構えていた令嬢達に取り囲まれた。


「生徒会のお仕事お疲れ様でした。少しもお休みできなくて大変でしたわね」

「お食事は召し上がられましたかしら?」

「あの、もし良ければ次の休憩時間にでも召し上がっていただけたらと思って⋯⋯」

 セアラを押し退けて群がる令嬢達の前で不機嫌な顔のままのルークがきっぱりと言い切った。

「食べたし休憩もしたんで」



「皆さん、ルーク様が困っていらっしゃるわ。授業がはじまるので席につかれた方が宜しくてよ」

 シャーロットの声かけに渋々席についた令嬢達を見てルークが小さく頭を下げた。

「ありがとう。助かった」

「いえ、ルーク様の為ですもの。お気になさらず。放課後少しお時間をいただけますかしら? わたくしの友人達が楽しみにしておりますの」

「いや、それは」

「その時にはルーク様と同じく生徒会の秘書に任命されたローランド様をご紹介致しますわ。わたくしの友人の婚約者でいらっしゃるのですけれど、首席で入学されて学級委員もしておられる優秀な方ですの」

「授業がはじまるから」

「ええ、ええ。本当に。では放課後を楽しみにしておりますわね」

 ルークの返事を待たずさっさと席に戻ったシャーロットはグレイスを見て小さく頷いた。



 セアラはルーク達の様子を気にする余裕もないほど焦っていた。

(どうしよう、この椅子に座ったら確実に壊れるわ)



 席につこうと椅子を引き出した時足の一本がぐらついているのに気がついた。朝は画鋲で昼は椅子、虐めはだんだん酷くなっている。

 解決策が思いつかなくて悩んでいると不審に思ったらしいルークが近付いてきた。

「どうした? 座らないのか?」

「ええ、どうやら椅子が壊れてしまったみたいで。職員室に行って参ります」

「一緒に行こうか?」

「ありがとうございます。もうすぐ授業がはじまりますし途「あらあら、大変ね。早く職員室に行かなくては間に合わなくなりましてよ」」

「次の授業は天文学基礎ですわね。あの先生はとても厳しくていらっしゃるから」

「授業の妨げになるから早く行った方が良いんじゃないかしら?」


「その通りですわ。途中で先生とすれ違うかもしれませんし、もしもの時は職員室に行ったとお伝えくださいませ」



 何事もなかったようにセアラは平然とした態度で教室を出て職員室に向かった。

 廊下に人影はないく静まりかえっているが、大声をあげれば近くの教室まで聞こえるはずだと気持ちを落ち着けながら歩いていると、曲がり角から飛び出してきた生徒に思い切り突き飛ばされ転んでしまった。

 ぶつかった生徒はセアラの様子を見もせずバタバタと逃げて行ったが足を捻ったセアラは痛みで立ち上がれずにいた。

(ルーク様の侍女が教室を出たところに立っていたんだから、声をかけてついてきて貰えば良かった)

 
 なんとか片足で立ち上がった頃には足首だけでなく右手首も腫れてきた。保健室は隣の棟にあるからと、ここから一番近い職員室に向けて足を引き摺りながら少しずつ歩きはじめた。

(わざとよね。そうじゃなければ驚いたり立ち上がるのを手伝ったりするはずだもの)

 

 バタバタと誰かが走ってくる足音が聞こえてきた。さっきの生徒が戻ってきたわけではないと思いはしたが不安で壁に張り付いた。

「セアラ!」

「殿下?」

「大丈夫か? 突き飛ばされたって連絡が来たんだ」

「はい、あの。転んで少し足と手を」

「ルークはどこだ? あんなに頼むと言ったのに」

 小声でぶつぶつと呟きながらリチャード王子がセアラを抱き上げて保健室に向けて駆け出した。青褪めたリチャード王子は口を引き結び眉間に皺を寄せている。

(普段穏やかそうな方が怒るとすごく怖いわね。後できっと叱られるわ)




「あの、えっ? リチャード王子殿下? 一体どうされたのですか?」

 保健室のドアを足で開けたリチャード王子を見た保険医が目を丸くした。リチャード王子はセアラをベッドに座らせながら保険医に説明した。

「セアラが突き飛ばされた。手と足を痛めたらしい」

 

「そんなに近くにおられたら診察の邪魔です。もっと離れて下さい」

 仁王立ちして睨むリチャード王子を押し退けた保険医は腫れている手首と足首を冷やしながら包帯や湿布の準備をはじめた。

「何があったのか話せるかしら?」

「職員室に行こうとしていたのですが飛び出してきた人とぶつかって転んでしまいました」

 保険医のアーチャーがリチャード王子を横目で睨んだ。

「違います。全然知らない方で、リチャード王子殿下は真面に歩けなくなっていたわたくしを助けて下さったんです」


「骨に異常はないようだけどかなり腫れてるから暫く学園はお休みしなくちゃダメね。特に手首は動かないように固定した方がいいかも。その足では動けなかったはずだから、リチャード王子が側にいてくれて良かったわ。
他にも痛いところはない?」

 セアラに質問しながらテキパキと足と手首に湿布をして包帯を巻いていく。

「少し腫れがひいたら添え木をしましょうね」

「少しセアラと話したいんだが?」

「⋯⋯本当は良くないことだけど。ドアは開けたまま、すぐ外にいますからね」

 アーチャーが保健室を出た音がすると、ベッドの横の椅子にリチャード王子が腰掛けた。

「帰りがけに影から連絡が来た。何があったか詳しく話してくれ」


 セアラは椅子が壊れていたことからリチャード王子に助けられるまでを話した。

「逃げていった奴の顔は見た?」

「いえ、一瞬のことだったので赤みがかったブロンドの女性だったとしか覚えていません」

「全く、あれほど一人になるなと言っておいたのに。護衛はすると約束したルークはなにをやってるんだ!?」

「わたくしが断りましたの。まだ大丈夫だろうと思ってしまって」


「教科書破損・通行妨害・画鋲・プリント紛失⋯⋯他にも話した方がいいか?」

「ご存知だったのですか?」

「言ったろう? セアラにはアリエノールが影をつけていると。今回はアリエノールの教室は遠いし偶々俺が近くにいたから俺に連絡が来たんだ」

「申し訳ありません」

「⋯⋯お仕置きだな。約束を破って心配をかけた悪い子には必要だろ?」

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