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18.初めてのドレス選びと思い上がったメイド
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最終的にセアラが選んだのはガウンもペティコートも白地に数種類の青糸と紫色と銀糸で細やかな植物柄が織り込まれたローブ・ア・ラ・フランセーズ。
ストマッカーを使わずガウンの前身頃が釦留めのコンペール形式になっているドレスは最新の物で、レースのショールを止める小さな薔薇のコサージュの赤やオレンジや緑が大人しめのドレスに華やかで若々しい印象を与えている。
裾も殆ど引き摺らないボリュームも少ないそれは、並んだドレスの中でコサージュの色がなければ会場で埋没してしまうのではないかと思うほど大人しめの物だった。
「アクセサリーはルビーの髪飾りくらいかしら⋯⋯。でも、これだけだと首元が少し寂しいわね」
「あの、首にリボンを巻いたらどうでしょうか? 生成りのレースと赤いリボンを重ねてコサージュと合わせた小花か宝石を前に」
セアラの提案を仕立て屋の女性が大急ぎで絵に描いていった。
「そうね、これにしましょう。若いうちからあれこれ宝石をつけるのは品がないからこのくらいがちょうど良いわ。但し使うのはピジョンブラッドで、最高品質の物を使うように」
(もし夜会以外でも関わることになるならレトビア公爵家との繋がりを調べておいた方がいいのかもしれないわ)
マーシャル夫人の話によると夜会は毎年1月5日に開かれる恒例のもので、高位貴族の中でもごく一部の者が参加しセアラのような年若い令嬢が参加するのは特別な理由がない限り珍しいと言う。
「まさかデビュタントも済ませていない令嬢が参加するとは思いませんでした。サイラスが何を考えているのか聞いていませんが失礼のないようになさい」
サイズの調整を終わらせたドレスと出来上がったチョーカーは3日後に届くことになった。マーシャル夫人はまだ信用する事はできないが夜会用のドレスはなんとか真面な物を手に入れる事ができたとセアラは胸を撫で下ろした。
打ち合わせが終わりジョージと共にマーシャル夫人を見送ったセアラは一気に緊張がほぐれたのか部屋に戻ると椅子に座り込んだ。因みにソファとコーヒーテーブルはメイド専用と化しているのでベッド以外でセアラが寛げるのはドレッサー前のスツールと学習机の椅子のみ。鏡の前に長時間座り込むのは落ち着かないので学習机に向かうしかなくなる。
セアラは椅子に腰掛けたまま机に肘をついてぼーっと窓の外を眺めていた。この部屋には広いテラスがあるが鍵がかかっているので出られない。公爵邸に来たばかりの頃テラスに出るドアに鍵がかかっている理由をメイドに聞いたところテラスは隣の部屋と繋がっているからと言われてしまった。
(軟禁生活には慣れたけど、こんな日は寮の部屋に帰りたいわ。あそこなら狭くても一人になれるし小さいけどソファもあるのよね)
寮のソファに座ってのんびりお茶を飲んでいる想像をしていると肩を怒らせたナビアがやって来た。
「何で言わなかったの!?」
「何のことかしら?」
ナビアは酷くイラつき腹を立てているようだがマーシャル夫人との駆け引きと初めてのドレス選びで精魂尽き果てているセアラは何を言われているのか直ぐにはわからなかった。
「メイドのせいで遅れたって言うって脅したじゃない!」
「⋯⋯ああ、そう言えばそうね。言って欲しかったのかしら?
あの時もしわたくしが何も言わずにナビアの言葉に従って部屋で待ち続けていたらどうなったか考えてみたらいかが?」
いい加減放っておいて欲しいと思っている気持ちが顔に出ていたのかナビアが顔を赤くしてドンと机を叩いた。
「巫山戯んじゃないわよ! 人のこと脅しといて『そう言えばそうね』だって!? あたしがどれだけ慌てたか、アンタわかって言ってんの!?」
「⋯⋯話はそれだけかしら? 疲れてるから愚痴を聞いて欲しいのならメイド仲間とお茶でもして来たらどうかしら?」
「なっ! 謝んなさいよ!! 恩に着せてやったとでも思ってるなら大間違い。生憎だけどアンタなんか【レトビアの呪い】で殺される生贄の癖に!!」
使用人達の酷すぎる態度で真面に話をする気がないセアラだったが堪忍袋の尾が切れた。椅子から立ち上がりナビアの前に仁王立ちした。
「巫山戯ているのはどちらかしら。どんな理由であってもわたくしはこの家の娘になったの。それをとやかく言うあなたはメイドとして雇われている単なる使用人だって覚えてるかしら?
つまり、さっきの発言だけでも高位貴族令嬢に対する不敬罪になるわよ。
真面に仕事もせず優雅にティータイムを過ごしてばかりいる役立たずのメイド風情が上から目線で囀ってるようだけど立場を弁えなさい」
普段メイド二人が何をしていても文句を言わないセアラの事を見下していたナビアは目を見開いて呆然と立ち尽くした。
「この家でのわたくしの立場がどうであろうと使用人に蔑まれる謂れはないわ。
マーシャル夫人にあなたの事をなぜ言わなかったのか? あの時わたくしは謝罪をして一応許された。でもね、お馬鹿な行動をとった使用人が謝罪したところでマーシャル夫人は絶対に許さなかったわ。その程度のこともわからないのかしら。
マーシャル夫人がいらっしゃった後直ぐに連絡をして来なかった使用人は全員失格だわ。
わたくしへの嫌がらせの為だけに来客に迷惑をかける行為がどれだけ間違っているかさえ理解できないなんて⋯⋯。
お馬鹿な使用人のせいで寒い部屋で延々と無駄に待たされたってレトビア公爵に抗議されたらどうなるのか。その程度のこともわからない使用人の謝罪なんて何の役にも立たないわ」
「⋯⋯」
「使用人のレベルは雇用主のレベルだって言うのくらいは知ってるかしら? 使用人が愚かですってお客様に言うって事はレトビア公爵は愚かですって公言することになるの。
プライドの高い方なら烈火の如くお怒りになるでしょうし、人によったらそんな愚かな使用人なんて生きてる価値もないって考える方もいらっしゃるらしいわ。
レトビア公爵はご自身に無駄に恥をかかせた使用人に対してどんな風に行動される方かしらね」
「わた、わたし⋯⋯」
「あれほど立派な啖呵を切ったんですもの。どうぞ旦那様に抗議しに行ってみられたらいかがかしら? 【レトビアの呪い】で死んでしまう為の生贄が偉そうだって。
その際はジョージに同行を願うといいかも知れなくてよ。きっと優しく相談に乗って下さるわ。
執事と言えば使用人全員を管理する立場ですものね。メイドがそこのソファで優雅なティータイムをしているのもメイドの代わりにわたくしが部屋の掃除をするのも許容するほど心の広い執事ですもの。共感してくれるのではないかしら?
話は終わったかしら? そう言えば今日は掃除がまだでしたわ。ソファ周りは食べこぼしでいつも不衛生だから急がなくては、次のメイド達のティータイム迄に終わらなくなりそう」
呆然と立ち尽くしたままのナビアを放置してセアラは部屋の奥に置いてある掃除道具を取りに行った。
ストマッカーを使わずガウンの前身頃が釦留めのコンペール形式になっているドレスは最新の物で、レースのショールを止める小さな薔薇のコサージュの赤やオレンジや緑が大人しめのドレスに華やかで若々しい印象を与えている。
裾も殆ど引き摺らないボリュームも少ないそれは、並んだドレスの中でコサージュの色がなければ会場で埋没してしまうのではないかと思うほど大人しめの物だった。
「アクセサリーはルビーの髪飾りくらいかしら⋯⋯。でも、これだけだと首元が少し寂しいわね」
「あの、首にリボンを巻いたらどうでしょうか? 生成りのレースと赤いリボンを重ねてコサージュと合わせた小花か宝石を前に」
セアラの提案を仕立て屋の女性が大急ぎで絵に描いていった。
「そうね、これにしましょう。若いうちからあれこれ宝石をつけるのは品がないからこのくらいがちょうど良いわ。但し使うのはピジョンブラッドで、最高品質の物を使うように」
(もし夜会以外でも関わることになるならレトビア公爵家との繋がりを調べておいた方がいいのかもしれないわ)
マーシャル夫人の話によると夜会は毎年1月5日に開かれる恒例のもので、高位貴族の中でもごく一部の者が参加しセアラのような年若い令嬢が参加するのは特別な理由がない限り珍しいと言う。
「まさかデビュタントも済ませていない令嬢が参加するとは思いませんでした。サイラスが何を考えているのか聞いていませんが失礼のないようになさい」
サイズの調整を終わらせたドレスと出来上がったチョーカーは3日後に届くことになった。マーシャル夫人はまだ信用する事はできないが夜会用のドレスはなんとか真面な物を手に入れる事ができたとセアラは胸を撫で下ろした。
打ち合わせが終わりジョージと共にマーシャル夫人を見送ったセアラは一気に緊張がほぐれたのか部屋に戻ると椅子に座り込んだ。因みにソファとコーヒーテーブルはメイド専用と化しているのでベッド以外でセアラが寛げるのはドレッサー前のスツールと学習机の椅子のみ。鏡の前に長時間座り込むのは落ち着かないので学習机に向かうしかなくなる。
セアラは椅子に腰掛けたまま机に肘をついてぼーっと窓の外を眺めていた。この部屋には広いテラスがあるが鍵がかかっているので出られない。公爵邸に来たばかりの頃テラスに出るドアに鍵がかかっている理由をメイドに聞いたところテラスは隣の部屋と繋がっているからと言われてしまった。
(軟禁生活には慣れたけど、こんな日は寮の部屋に帰りたいわ。あそこなら狭くても一人になれるし小さいけどソファもあるのよね)
寮のソファに座ってのんびりお茶を飲んでいる想像をしていると肩を怒らせたナビアがやって来た。
「何で言わなかったの!?」
「何のことかしら?」
ナビアは酷くイラつき腹を立てているようだがマーシャル夫人との駆け引きと初めてのドレス選びで精魂尽き果てているセアラは何を言われているのか直ぐにはわからなかった。
「メイドのせいで遅れたって言うって脅したじゃない!」
「⋯⋯ああ、そう言えばそうね。言って欲しかったのかしら?
あの時もしわたくしが何も言わずにナビアの言葉に従って部屋で待ち続けていたらどうなったか考えてみたらいかが?」
いい加減放っておいて欲しいと思っている気持ちが顔に出ていたのかナビアが顔を赤くしてドンと机を叩いた。
「巫山戯んじゃないわよ! 人のこと脅しといて『そう言えばそうね』だって!? あたしがどれだけ慌てたか、アンタわかって言ってんの!?」
「⋯⋯話はそれだけかしら? 疲れてるから愚痴を聞いて欲しいのならメイド仲間とお茶でもして来たらどうかしら?」
「なっ! 謝んなさいよ!! 恩に着せてやったとでも思ってるなら大間違い。生憎だけどアンタなんか【レトビアの呪い】で殺される生贄の癖に!!」
使用人達の酷すぎる態度で真面に話をする気がないセアラだったが堪忍袋の尾が切れた。椅子から立ち上がりナビアの前に仁王立ちした。
「巫山戯ているのはどちらかしら。どんな理由であってもわたくしはこの家の娘になったの。それをとやかく言うあなたはメイドとして雇われている単なる使用人だって覚えてるかしら?
つまり、さっきの発言だけでも高位貴族令嬢に対する不敬罪になるわよ。
真面に仕事もせず優雅にティータイムを過ごしてばかりいる役立たずのメイド風情が上から目線で囀ってるようだけど立場を弁えなさい」
普段メイド二人が何をしていても文句を言わないセアラの事を見下していたナビアは目を見開いて呆然と立ち尽くした。
「この家でのわたくしの立場がどうであろうと使用人に蔑まれる謂れはないわ。
マーシャル夫人にあなたの事をなぜ言わなかったのか? あの時わたくしは謝罪をして一応許された。でもね、お馬鹿な行動をとった使用人が謝罪したところでマーシャル夫人は絶対に許さなかったわ。その程度のこともわからないのかしら。
マーシャル夫人がいらっしゃった後直ぐに連絡をして来なかった使用人は全員失格だわ。
わたくしへの嫌がらせの為だけに来客に迷惑をかける行為がどれだけ間違っているかさえ理解できないなんて⋯⋯。
お馬鹿な使用人のせいで寒い部屋で延々と無駄に待たされたってレトビア公爵に抗議されたらどうなるのか。その程度のこともわからない使用人の謝罪なんて何の役にも立たないわ」
「⋯⋯」
「使用人のレベルは雇用主のレベルだって言うのくらいは知ってるかしら? 使用人が愚かですってお客様に言うって事はレトビア公爵は愚かですって公言することになるの。
プライドの高い方なら烈火の如くお怒りになるでしょうし、人によったらそんな愚かな使用人なんて生きてる価値もないって考える方もいらっしゃるらしいわ。
レトビア公爵はご自身に無駄に恥をかかせた使用人に対してどんな風に行動される方かしらね」
「わた、わたし⋯⋯」
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話は終わったかしら? そう言えば今日は掃除がまだでしたわ。ソファ周りは食べこぼしでいつも不衛生だから急がなくては、次のメイド達のティータイム迄に終わらなくなりそう」
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