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17.マーシャル夫人登場
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「しかもその格好。礼儀を弁えていないにも程があります! 部屋着で客人の前に出るなど恥ずかしくないのですか!
生まれが何であろうと公爵家の名を名乗る以上、あなたの愚かな行動はレトビア公爵様の評判に傷をつけることになるのですよ!」
マーシャル夫人の剣幕に恐れをなしたナビアの脳裏にセアラの言葉が去来した。
『部屋付きのメイドのナビアに部屋で待つよう言われたからって言うしか』
ナビアはセアラの斜め後ろで頭を下げたままガタガタと震えていた。
(旦那様の評判だなんてセアラが言ってた通りじゃない!! もうお終いだわ、公爵家をクビになる。旦那様の事だからクビだけじゃ済まないかも⋯⋯鞭打ちとか牢に入れられるとか。ころ、殺されちゃう)
「お待たせをしてしまい大変申し訳ございませんでした。わたくしの為にわざわざご足労頂きましたのにこのような不調法をしてしまい心よりお詫び申し上げます」
頭を下げたままセアラがマーシャル夫人に謝罪した。
「⋯⋯言い訳はしないのかしら!?」
「はい、例えどのような理由があったとしましてもお待たせした事に変わりはございません」
頭を下げたままカーテシーを続けるセアラの足がプルプルと震えたがマーシャル夫人はセアラを睨みつけたまま何も言わない。マーシャル夫人の後ろに立つ侍女は平然とした顔で立っているがドレスの横の男女は今にも倒れんばかりの形相で俯いていた。
緊迫した応接間の中は静まり返り大きく薪が爆ぜる音が響いた。
「ひっ!」
腰が抜けたナビアがセアラの後ろで座り込んだ。恐怖で真面に息が吸えなくなったのかナビアから『ひゅう、ひゅっ』と変な声が聞こえてくる。
遠くから『ボーン、ボーン』と柱時計が四時を知らせる音がした。
「はぁ。仕方ないわね、頭を上げなさい。わたくしはこの後用事があるのだけどその事を感謝なさい。
で? その見窄らしい服装はどういうつもりかしら」
「はい、簡単に脱ぎ着できる物が他に見当たりませんでしたので」
「レトビア公爵様が準備してくれないと言いたいのね」
「いえ、言葉不足で申し訳ありません。公爵様は身に余るほど沢山のドレスを下さいました。今日はドレスの試着の際に時間のかからないものの方が良いのではないかと愚考しこのようなデイドレス姿で参りました」
「そのヘアースタイルも?」
「はい、下ろしたままでは着替えの際に邪魔になるかと」
「⋯⋯時間がないのでそのままで良いとしましょう。わたくしはモーガン・マーシャル。今度の夜会であなたのシャペロンを頼まれています」
「はい。ご挨拶が遅れ申し訳ございません。セアラ・レトビアでございます。どうか宜しくお願い致します」
「今回は既製のドレスになります。そこに並ぶドレスの中から一つ選びなさい」
マーシャル夫人が差した先には華やかなドレスが着せられたトルソーがいくつも並んでいた。セアラは緊張しながらドレスの側まで歩いて行ったがどれも派手な色使いと大胆なデザインでセアラの年齢にはそぐわない気がした。
青褪め立ち尽くしていた男性の探るような目がセアラを追いかけていた。
「あの、ここに並んでいる以外にはないのでしょうか?」
「お気に召しませんでしたでしょうか? どっ、どれもこのシーズンの流行りのドレスなのですが」
「とても素敵なドレスだとは思うのですがわたくしにはどれも大人っぽすぎるように思います。未だデビュタントもしておりませんので、あまり目立たないデザインやお色の方が良いのではないかと」
男性が困ったように隣にいた女性をチラッと見た。
(何かありそう。ここにあるドレスを選んだのってマーシャル夫人かしら。もしそうなら前途多難だわ)
「この中に気に入ったものがないと言う事ね」
「夜会への参加自体初めてなものですから、ここにあるドレスはわたくしには華やか過ぎるのではないかと思ったのです」
「⋯⋯もう少し落ち着いたデザインの物はないの?」
思案顔でセアラを見つめていたマーシャル夫人がドレス横の男性に問いただすと飛び上がった男性は冷や汗をかきながら口籠もった。
「はい、あの⋯⋯」
「あるのかないのかはっきりなさい。ないなら時間の無駄ですからね、直ぐに別の商会に連絡を入れます」
「ごっ、ございます! あるにはあるのですが、ただその⋯⋯」
「さっさと荷物をまとめて帰りなさい。わたくしはこういう時間の無駄が大嫌いなの。わたくしが懇意にしている仕立て屋に頼むことにします」
「おっ、お待ちください! おっおい、さっさと別のドレスを準備しろ」
グズグズとはっきりしない態度をとっていた男はレトビア公爵家の御用達の商会長らしく、横に並んでいた仕立て屋の女性を怒鳴りつけた。
「でも、あの。商会長? 本当に良いんですか?」
あたふたとドレスをトルソーから外し次に出てきたのは淡い色使いのシンプルなドレスばかりだった。
「⋯⋯あなた達が何をしようとしてあんなドレスばかり並べていたのかよくわかりました。どうやらわたくしは随分と馬鹿にされていたようですね。誰の差金か聞くつもりはありませんがわたくしの時間を無駄にしたことは忘れませんからね」
マーシャル夫人の言葉が本心ならセアラの年齢に相応しくない派手なドレスばかりが並んでいたのはマーシャル夫人のせいではなくアメリアの指示だったようだ。
王族や高位貴族の中であのような派手なドレスを着たセアラを笑い物にするつもりだったのかもしれない。既婚の婦人であればまだ許容範囲かもしれない、派手な色使いと大きく開いた胸元にこれ見よがしに膨らませたガウンばかり。
但しどれも人目を引くほど美しいドレスで、絵本に出てくる貴婦人達がこぞって身につけているような⋯⋯。縫い付けられた宝石がキラキラと輝くものや繊細で華やかな刺繍が目を惹くもの、レースやリボンで飾り立てられたドレスは花冠を被った王女様の気分を味わえそう。
(あの中から選べと仰ったマーシャル夫人は私を試したのかしら。それともご自分の評判をお考えになって作戦を変更した?)
生まれが何であろうと公爵家の名を名乗る以上、あなたの愚かな行動はレトビア公爵様の評判に傷をつけることになるのですよ!」
マーシャル夫人の剣幕に恐れをなしたナビアの脳裏にセアラの言葉が去来した。
『部屋付きのメイドのナビアに部屋で待つよう言われたからって言うしか』
ナビアはセアラの斜め後ろで頭を下げたままガタガタと震えていた。
(旦那様の評判だなんてセアラが言ってた通りじゃない!! もうお終いだわ、公爵家をクビになる。旦那様の事だからクビだけじゃ済まないかも⋯⋯鞭打ちとか牢に入れられるとか。ころ、殺されちゃう)
「お待たせをしてしまい大変申し訳ございませんでした。わたくしの為にわざわざご足労頂きましたのにこのような不調法をしてしまい心よりお詫び申し上げます」
頭を下げたままセアラがマーシャル夫人に謝罪した。
「⋯⋯言い訳はしないのかしら!?」
「はい、例えどのような理由があったとしましてもお待たせした事に変わりはございません」
頭を下げたままカーテシーを続けるセアラの足がプルプルと震えたがマーシャル夫人はセアラを睨みつけたまま何も言わない。マーシャル夫人の後ろに立つ侍女は平然とした顔で立っているがドレスの横の男女は今にも倒れんばかりの形相で俯いていた。
緊迫した応接間の中は静まり返り大きく薪が爆ぜる音が響いた。
「ひっ!」
腰が抜けたナビアがセアラの後ろで座り込んだ。恐怖で真面に息が吸えなくなったのかナビアから『ひゅう、ひゅっ』と変な声が聞こえてくる。
遠くから『ボーン、ボーン』と柱時計が四時を知らせる音がした。
「はぁ。仕方ないわね、頭を上げなさい。わたくしはこの後用事があるのだけどその事を感謝なさい。
で? その見窄らしい服装はどういうつもりかしら」
「はい、簡単に脱ぎ着できる物が他に見当たりませんでしたので」
「レトビア公爵様が準備してくれないと言いたいのね」
「いえ、言葉不足で申し訳ありません。公爵様は身に余るほど沢山のドレスを下さいました。今日はドレスの試着の際に時間のかからないものの方が良いのではないかと愚考しこのようなデイドレス姿で参りました」
「そのヘアースタイルも?」
「はい、下ろしたままでは着替えの際に邪魔になるかと」
「⋯⋯時間がないのでそのままで良いとしましょう。わたくしはモーガン・マーシャル。今度の夜会であなたのシャペロンを頼まれています」
「はい。ご挨拶が遅れ申し訳ございません。セアラ・レトビアでございます。どうか宜しくお願い致します」
「今回は既製のドレスになります。そこに並ぶドレスの中から一つ選びなさい」
マーシャル夫人が差した先には華やかなドレスが着せられたトルソーがいくつも並んでいた。セアラは緊張しながらドレスの側まで歩いて行ったがどれも派手な色使いと大胆なデザインでセアラの年齢にはそぐわない気がした。
青褪め立ち尽くしていた男性の探るような目がセアラを追いかけていた。
「あの、ここに並んでいる以外にはないのでしょうか?」
「お気に召しませんでしたでしょうか? どっ、どれもこのシーズンの流行りのドレスなのですが」
「とても素敵なドレスだとは思うのですがわたくしにはどれも大人っぽすぎるように思います。未だデビュタントもしておりませんので、あまり目立たないデザインやお色の方が良いのではないかと」
男性が困ったように隣にいた女性をチラッと見た。
(何かありそう。ここにあるドレスを選んだのってマーシャル夫人かしら。もしそうなら前途多難だわ)
「この中に気に入ったものがないと言う事ね」
「夜会への参加自体初めてなものですから、ここにあるドレスはわたくしには華やか過ぎるのではないかと思ったのです」
「⋯⋯もう少し落ち着いたデザインの物はないの?」
思案顔でセアラを見つめていたマーシャル夫人がドレス横の男性に問いただすと飛び上がった男性は冷や汗をかきながら口籠もった。
「はい、あの⋯⋯」
「あるのかないのかはっきりなさい。ないなら時間の無駄ですからね、直ぐに別の商会に連絡を入れます」
「ごっ、ございます! あるにはあるのですが、ただその⋯⋯」
「さっさと荷物をまとめて帰りなさい。わたくしはこういう時間の無駄が大嫌いなの。わたくしが懇意にしている仕立て屋に頼むことにします」
「おっ、お待ちください! おっおい、さっさと別のドレスを準備しろ」
グズグズとはっきりしない態度をとっていた男はレトビア公爵家の御用達の商会長らしく、横に並んでいた仕立て屋の女性を怒鳴りつけた。
「でも、あの。商会長? 本当に良いんですか?」
あたふたとドレスをトルソーから外し次に出てきたのは淡い色使いのシンプルなドレスばかりだった。
「⋯⋯あなた達が何をしようとしてあんなドレスばかり並べていたのかよくわかりました。どうやらわたくしは随分と馬鹿にされていたようですね。誰の差金か聞くつもりはありませんがわたくしの時間を無駄にしたことは忘れませんからね」
マーシャル夫人の言葉が本心ならセアラの年齢に相応しくない派手なドレスばかりが並んでいたのはマーシャル夫人のせいではなくアメリアの指示だったようだ。
王族や高位貴族の中であのような派手なドレスを着たセアラを笑い物にするつもりだったのかもしれない。既婚の婦人であればまだ許容範囲かもしれない、派手な色使いと大きく開いた胸元にこれ見よがしに膨らませたガウンばかり。
但しどれも人目を引くほど美しいドレスで、絵本に出てくる貴婦人達がこぞって身につけているような⋯⋯。縫い付けられた宝石がキラキラと輝くものや繊細で華やかな刺繍が目を惹くもの、レースやリボンで飾り立てられたドレスは花冠を被った王女様の気分を味わえそう。
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