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15.ケレイブ子爵と女狐親子の
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「台本では親女狐がライルを攻略してキャンストル伯爵家と『ミーレス貿易会社』を手に入れて、子女狐がデイビッドを誑かしてローゼンタール伯爵家の財産を狙う⋯⋯それにしては⋯⋯ああ、そう言うことね。多分ですけれど、子女狐が暴走してるのかもしれませんわ」
「リリベル、どう言う意味だい?」
「女狐親子がライルとデイビッドを攻略するだけだとしたらデイビッドの言動に齟齬が出ますでしょう? デイビッドは2つの伯爵位を手に入れるつもり⋯⋯子女狐は親女狐を出し抜くつもりかもしれませんわ。
当初の予定でいくと親女狐はキャンストル伯爵夫人になるけれど、子女狐はデイビッドの愛人止まり。デイビッドは自分がローゼンタール伯爵になると信じていますからそれを鵜呑みにしていたとしても愛人確定ですわね。
親女狐を追い落として伯爵夫人になりたい、その上社長夫人の座も奪いたいって感じかしら」
リリベルは優雅に首を傾げながら話しているが、男性陣はその内容に皆青ざめている。
「は、母親を出し抜く⋯⋯親子でそこまでするかな?」
「ええ、ああいう輩はやりますとも。お義父様達が騙されまくった⋯⋯哀れな身の上話を涙ながらに語った女性とか悲壮な面持ちで社員達の将来を憂えた傭兵団とか街の存続に命をかけていると意気込んで夢を語った村長のフリをした盗賊とか。人を騙す者は自分の利益になると思えば誰だって騙すし蹴落としますの。
子供をダシに援助を手に入れて自分だけ逃げ出した父親とか年老いた母親の治療費を手に入れた途端愛人と消えた娘とか、傭兵団の団長も村長のフリをした盗賊もひとりで逃げ出そうとしましたものね。
ご記憶、戻られましたかしら?」
「「あ、それは⋯⋯うん、いたね」」
「ザッカリーが不義の子であると思い込んだ子女狐が長期不在のライルが解雇されれば副社長の座はデイビッドに転がり込むと踏んだといった感じかしら。その後ローゼンタールを追い出せば自分のものになる。
ローゼンタールはキャンストル伯爵家に借りがあるから好き放題しても文句は出ないと思っているようでしたから、デイビッドがローゼンタール伯爵になったら直ぐにアーシェを追い出して夫人の座に納まる気かもしれませんわねえ。
我が国が他国のように爵位の生前贈与禁止でなくて良かったですわね。でなければライルが親女狐と結婚した途端毒を盛られていたかもしれませんもの。
考えれば考えるほど⋯⋯お会いするのが楽しみになってきましたわ。わたくしの愛娘を粗略に扱いローゼンタール伯爵家を手玉に取ろうとした三文役者達に吠え面をかかせてやらなくてはなりませんものね」
ケインは貿易会社からの撤退とローゼンタール伯爵家の出資金などの一括返還を求めた書類を作成し、ランドルフが作成した伯爵位の譲渡を命じる書類と財産の凍結命令を併せてライルへ送りつけた。
「ライルが帰って来るまでに数日はかかるはずですからその間にデイビッドの方を片付けて置きましょう。親玉が付いてくれば早くカタがついてラッキーなんですがね」
デイビッドとキャサリンをお茶会に招く正式な招待状をローゼンタール伯爵夫人の名前で届けると、ケインの言葉通り親玉のケレイブ子爵が是非自分も参加させて欲しいと連絡をしてきた。
「面識もないのに図々しい事。飛んで火にいるなんとやらだから許しますけどね」
お茶会の場所はリリベルの希望で庭の奥にあるガゼボに決まった。
「屋敷の中には一歩たりとも足を踏み入れることは許しませんからね。雨が降っても屋敷の外を回らせてガゼボへ案内してちょうだい。それと食器は女狐一家とデイビッドだけ今回用に準備したものを使うように伝えてね。もちろんその後はテーブルや椅子を含めて彼らが少しでも触れたものは全て廃棄します」
リリベルの指示で準備された食器やテーブルクロスは全て『ソルダート貿易会社』の子会社が店舗販売している高級ブランドの模造品。
「偽物を平気で売り捌く方達に本物の食器など使う必要はないし、お茶菓子や茶葉もそれなりで構わないから」
「ですがああいう方達ですから⋯⋯ローゼンタール伯爵家を貶めるような事をあちこちで仰るかもしれません」
「大丈夫、このお茶会が終わった後でも彼らの話を真面に聞くような方はほとんどいらっしゃらないし、いたとしてもわたくし達の交友関係とは重ならない方ばかりですからね」
ハウスキーパーのミセス・ビーダルの心配をよそにリリベルが朗らかに微笑んだ。
リリベル主催のお茶会の日は夏の大雨が降れば面白いのにねと笑っていたケインの予想が今回は外れ、雲ひとつない晴天に恵まれた。屋根の下にいてもジリジリと焼け付くように暑く案内されたばかりのケレイブ子爵と孫娘のキャサリンとデイビッドの3人はダラダラと流れる汗を拭いていた。
「いや、外は暑いですなあ。あっという間に茹で上がってしまいそうだ」
「もう帰りたい⋯⋯せっかくの新しいドレスがヨレヨレになってきたもん」
「おばさんが来たら屋敷の中の方が涼しいから移動しようって言ってあげるからね。北側の音楽室の隣の部屋なんかいいと思うんだ」
3人の不満が溜まるのを待っ⋯⋯ゆっくりと時間をおいてリリベル達3人が歩いて来た。
「初めまして、ケイン・ローゼンタールです。妻のリリベルとアーシェ⋯⋯」
「今日はおじさんも参加なの!? 俺聞いてないんだけど」
ケインの言葉を無遠慮に遮ったデイビッドがソワソワと慌てだした。
「午後の予定が延期になったと仰るから参加していただくことにしたの。何か問題でもあったかしら?」
「リリベル、どう言う意味だい?」
「女狐親子がライルとデイビッドを攻略するだけだとしたらデイビッドの言動に齟齬が出ますでしょう? デイビッドは2つの伯爵位を手に入れるつもり⋯⋯子女狐は親女狐を出し抜くつもりかもしれませんわ。
当初の予定でいくと親女狐はキャンストル伯爵夫人になるけれど、子女狐はデイビッドの愛人止まり。デイビッドは自分がローゼンタール伯爵になると信じていますからそれを鵜呑みにしていたとしても愛人確定ですわね。
親女狐を追い落として伯爵夫人になりたい、その上社長夫人の座も奪いたいって感じかしら」
リリベルは優雅に首を傾げながら話しているが、男性陣はその内容に皆青ざめている。
「は、母親を出し抜く⋯⋯親子でそこまでするかな?」
「ええ、ああいう輩はやりますとも。お義父様達が騙されまくった⋯⋯哀れな身の上話を涙ながらに語った女性とか悲壮な面持ちで社員達の将来を憂えた傭兵団とか街の存続に命をかけていると意気込んで夢を語った村長のフリをした盗賊とか。人を騙す者は自分の利益になると思えば誰だって騙すし蹴落としますの。
子供をダシに援助を手に入れて自分だけ逃げ出した父親とか年老いた母親の治療費を手に入れた途端愛人と消えた娘とか、傭兵団の団長も村長のフリをした盗賊もひとりで逃げ出そうとしましたものね。
ご記憶、戻られましたかしら?」
「「あ、それは⋯⋯うん、いたね」」
「ザッカリーが不義の子であると思い込んだ子女狐が長期不在のライルが解雇されれば副社長の座はデイビッドに転がり込むと踏んだといった感じかしら。その後ローゼンタールを追い出せば自分のものになる。
ローゼンタールはキャンストル伯爵家に借りがあるから好き放題しても文句は出ないと思っているようでしたから、デイビッドがローゼンタール伯爵になったら直ぐにアーシェを追い出して夫人の座に納まる気かもしれませんわねえ。
我が国が他国のように爵位の生前贈与禁止でなくて良かったですわね。でなければライルが親女狐と結婚した途端毒を盛られていたかもしれませんもの。
考えれば考えるほど⋯⋯お会いするのが楽しみになってきましたわ。わたくしの愛娘を粗略に扱いローゼンタール伯爵家を手玉に取ろうとした三文役者達に吠え面をかかせてやらなくてはなりませんものね」
ケインは貿易会社からの撤退とローゼンタール伯爵家の出資金などの一括返還を求めた書類を作成し、ランドルフが作成した伯爵位の譲渡を命じる書類と財産の凍結命令を併せてライルへ送りつけた。
「ライルが帰って来るまでに数日はかかるはずですからその間にデイビッドの方を片付けて置きましょう。親玉が付いてくれば早くカタがついてラッキーなんですがね」
デイビッドとキャサリンをお茶会に招く正式な招待状をローゼンタール伯爵夫人の名前で届けると、ケインの言葉通り親玉のケレイブ子爵が是非自分も参加させて欲しいと連絡をしてきた。
「面識もないのに図々しい事。飛んで火にいるなんとやらだから許しますけどね」
お茶会の場所はリリベルの希望で庭の奥にあるガゼボに決まった。
「屋敷の中には一歩たりとも足を踏み入れることは許しませんからね。雨が降っても屋敷の外を回らせてガゼボへ案内してちょうだい。それと食器は女狐一家とデイビッドだけ今回用に準備したものを使うように伝えてね。もちろんその後はテーブルや椅子を含めて彼らが少しでも触れたものは全て廃棄します」
リリベルの指示で準備された食器やテーブルクロスは全て『ソルダート貿易会社』の子会社が店舗販売している高級ブランドの模造品。
「偽物を平気で売り捌く方達に本物の食器など使う必要はないし、お茶菓子や茶葉もそれなりで構わないから」
「ですがああいう方達ですから⋯⋯ローゼンタール伯爵家を貶めるような事をあちこちで仰るかもしれません」
「大丈夫、このお茶会が終わった後でも彼らの話を真面に聞くような方はほとんどいらっしゃらないし、いたとしてもわたくし達の交友関係とは重ならない方ばかりですからね」
ハウスキーパーのミセス・ビーダルの心配をよそにリリベルが朗らかに微笑んだ。
リリベル主催のお茶会の日は夏の大雨が降れば面白いのにねと笑っていたケインの予想が今回は外れ、雲ひとつない晴天に恵まれた。屋根の下にいてもジリジリと焼け付くように暑く案内されたばかりのケレイブ子爵と孫娘のキャサリンとデイビッドの3人はダラダラと流れる汗を拭いていた。
「いや、外は暑いですなあ。あっという間に茹で上がってしまいそうだ」
「もう帰りたい⋯⋯せっかくの新しいドレスがヨレヨレになってきたもん」
「おばさんが来たら屋敷の中の方が涼しいから移動しようって言ってあげるからね。北側の音楽室の隣の部屋なんかいいと思うんだ」
3人の不満が溜まるのを待っ⋯⋯ゆっくりと時間をおいてリリベル達3人が歩いて来た。
「初めまして、ケイン・ローゼンタールです。妻のリリベルとアーシェ⋯⋯」
「今日はおじさんも参加なの!? 俺聞いてないんだけど」
ケインの言葉を無遠慮に遮ったデイビッドがソワソワと慌てだした。
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