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2.はじまりの鐘の音が聞こえる
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「と言う状況でしたけど、おじ様は再婚なさるのですか?」
「ライルが再婚? いやぁ、私は聞いてないな」
「わたくしもお話どころかそのような噂さえ聞いておりませんわ」
デイビッドの父親ライル・キャンストルは妻の不貞で離婚した後『女は懲り懲りだ』と言い独身を貫いている。嫡男のザッカリーは現在23歳で王宮に文官として出仕し王宮近くのアパートで妻子と共に暮らしている。
キャンストル伯爵家とローゼンタール伯爵家が共同出資して貿易会社を立ち上げたのはアーシェ達の祖父がお互いに独身だった頃のこと。
将来子供達を娶せようと約束をしていたものの両家共に男子しか生まれず次の代に持ち越されたが、ローゼンタール家は一人娘のアーシャが家を継がなくてはならない為に次男デイビッドとの婚約が決まった。
(運が悪すぎだよな~。おじさまもザック兄様もすごく優しい方なのに⋯⋯所謂ハズレクジってやつ?)
「かなり親密な様子だったんですけど⋯⋯だったら、あのキャサリンと言うのは誰だったんでしょう?」
「それは私の方で調べてみよう。しかし、デイビッド達がラ・ぺルーズに乗り込んできた時には驚いたよ。てっきりアーシェが来たのだと思って受付に行ったらデイビッドが全身ピンクのお嬢さんの肩を抱いて店員に怒鳴り散らしていたんだ。普段のデイビッドとは別人のような横柄な態度だった」
アーシェの父ケインが眉間に皺を寄せたのを見た母リリベルが驚きの声を上げた。
「まあ、そんなに酷かったんですの? 普段は少しお調子ものですけれど優しい子ですのに」
(これってチャンス? もしかして今ならお話を聞いてくださるかも)
今まで何度デイビッドの我儘な態度や横暴を訴えても『まだ子供だからだよ』と取り合ってくれなかった父親が初めてデイビッドの態度に不信を持った気配にアーシェは胸を高鳴らせた。
「何度も言ってますけど⋯⋯お父様やお母様の前とそれ以外では別人ですもの。ミーニャ達に聞いて貰えば間違いありません」
テーブルに手をついて少し身を乗り出したアーシェが目を輝かせた。
「まだ学生だしデイビッドは年より幼いところがあるからと大目に見ていたが、あれが本来の姿だとしたらローゼンタール伯爵家としては婚約破棄を考えた方がいいかもしれんな」
(お父様の口から『婚約破棄』だなんてよっぽど酷い態度だったんだわ。この流れでデイビッドの本当の姿を知ってもらえたら!)
「でも、お義父様達がなんて仰るか。今頃セルージュの避暑地で結婚式の相談でもしておられるかもしれませんわ」
この縁組を切望しているのは両家の祖父ランドルフ・キャンストルとエマーソン・ローゼンタール。今でも仲の良い2人は暑くなりはじめてから毎年恒例の避暑に出掛けていた。
「しかしねえ、今日のアレ⋯⋯私があの場に行かなければアーシェの暴挙にされていたんだよ」
「へ?」「は?」
ラ・ぺルーズの受付で騒いでいたデイビッドはローゼンタール伯爵家の名前を出し騒ぎ立ててた。
『ローゼンタール伯爵家の名前で予約が入ってるはずだ! アーシェが予約を取ったんだから間違いない、だよな』
そう言いながらデイビッドは隣に並んだピンク少女の顔を覗き込んで同意を求めた。
『ええ、その通りよ。予約の確認をするべきだわ』
それを聞いた店員は目の前のピンク少女が予約してきた『アーシェ・ローゼンタール』だと勘違いした。
「それで食事中の私のところにオーナーが確認にきたんだ。予約についてのご連絡でお嬢様と行き違いがあったらしい。大変申し訳ないが受付にお嬢様がおられるのでご足労願いますと言われて⋯⋯受付に辿り着く前からデイビッドの怒鳴り声が聞こえてきた」
「それではローゼンタール伯爵家がラ・ぺルーズで理不尽に騒いだと周りの方から思われていると言うことですの?」
「しばらくは周りの動向に注意しておいた方がいいかもしれん。わざと誤解させたとまでは言わんが勘違いしても仕方ない言葉の選び方や行動だからな。貴族の大人達が利用する店であんな騒ぎを起こせばどうなるか、準成人になっても理解できていないのは問題だね」
「明日学園に行ったら、ラ・ぺルーズの予約を取り違えたのに騒ぎ立てたとか言われる可能性大ってことですね」
キャンストル伯爵家との婚約はほとんどの貴族が知っている為デイビッドがローゼンタールの名前を出して騒げば皆『アーシェ』がやらかしてデイビッドが腹を立てたと勘違いするだろう。
「連れの女の子の顔を見ていたとしても火の粉のほとんどは私に向かって飛んできそう⋯⋯最悪だわ」
「大丈夫よ、そんな酷い事にはならないはずだもの。誰かに聞かれたらわたくしがちゃんと説明してあげるわ」
「仲のいい友達には先に話しておけばいいかもしれん。そうすればすぐに理解してもらえるはずだよ」
気の重い夕食を終えたアーシェだったが翌日から数多くの醜聞に巻き込まれ、アレがはじまりだったのだと知る事になる。
「お聞きになりました? ラ・ぺルーズの件」
「ええ、格好をつけて背伸びしすぎたのでしょう? ローゼンタール伯爵家は出入り差し止めになるって聞きましたわ」
「キャサリン様への虐めだって聞きましたわ」
「わたくしも聞きましたわ。アーシェ様は常日頃からヤキモチを焼いてはあのような嫌がらせをされてるとか」
そんな人だとは思わなかったと言ってアーシェから距離を置く人が増えはじめた。
「ライルが再婚? いやぁ、私は聞いてないな」
「わたくしもお話どころかそのような噂さえ聞いておりませんわ」
デイビッドの父親ライル・キャンストルは妻の不貞で離婚した後『女は懲り懲りだ』と言い独身を貫いている。嫡男のザッカリーは現在23歳で王宮に文官として出仕し王宮近くのアパートで妻子と共に暮らしている。
キャンストル伯爵家とローゼンタール伯爵家が共同出資して貿易会社を立ち上げたのはアーシェ達の祖父がお互いに独身だった頃のこと。
将来子供達を娶せようと約束をしていたものの両家共に男子しか生まれず次の代に持ち越されたが、ローゼンタール家は一人娘のアーシャが家を継がなくてはならない為に次男デイビッドとの婚約が決まった。
(運が悪すぎだよな~。おじさまもザック兄様もすごく優しい方なのに⋯⋯所謂ハズレクジってやつ?)
「かなり親密な様子だったんですけど⋯⋯だったら、あのキャサリンと言うのは誰だったんでしょう?」
「それは私の方で調べてみよう。しかし、デイビッド達がラ・ぺルーズに乗り込んできた時には驚いたよ。てっきりアーシェが来たのだと思って受付に行ったらデイビッドが全身ピンクのお嬢さんの肩を抱いて店員に怒鳴り散らしていたんだ。普段のデイビッドとは別人のような横柄な態度だった」
アーシェの父ケインが眉間に皺を寄せたのを見た母リリベルが驚きの声を上げた。
「まあ、そんなに酷かったんですの? 普段は少しお調子ものですけれど優しい子ですのに」
(これってチャンス? もしかして今ならお話を聞いてくださるかも)
今まで何度デイビッドの我儘な態度や横暴を訴えても『まだ子供だからだよ』と取り合ってくれなかった父親が初めてデイビッドの態度に不信を持った気配にアーシェは胸を高鳴らせた。
「何度も言ってますけど⋯⋯お父様やお母様の前とそれ以外では別人ですもの。ミーニャ達に聞いて貰えば間違いありません」
テーブルに手をついて少し身を乗り出したアーシェが目を輝かせた。
「まだ学生だしデイビッドは年より幼いところがあるからと大目に見ていたが、あれが本来の姿だとしたらローゼンタール伯爵家としては婚約破棄を考えた方がいいかもしれんな」
(お父様の口から『婚約破棄』だなんてよっぽど酷い態度だったんだわ。この流れでデイビッドの本当の姿を知ってもらえたら!)
「でも、お義父様達がなんて仰るか。今頃セルージュの避暑地で結婚式の相談でもしておられるかもしれませんわ」
この縁組を切望しているのは両家の祖父ランドルフ・キャンストルとエマーソン・ローゼンタール。今でも仲の良い2人は暑くなりはじめてから毎年恒例の避暑に出掛けていた。
「しかしねえ、今日のアレ⋯⋯私があの場に行かなければアーシェの暴挙にされていたんだよ」
「へ?」「は?」
ラ・ぺルーズの受付で騒いでいたデイビッドはローゼンタール伯爵家の名前を出し騒ぎ立ててた。
『ローゼンタール伯爵家の名前で予約が入ってるはずだ! アーシェが予約を取ったんだから間違いない、だよな』
そう言いながらデイビッドは隣に並んだピンク少女の顔を覗き込んで同意を求めた。
『ええ、その通りよ。予約の確認をするべきだわ』
それを聞いた店員は目の前のピンク少女が予約してきた『アーシェ・ローゼンタール』だと勘違いした。
「それで食事中の私のところにオーナーが確認にきたんだ。予約についてのご連絡でお嬢様と行き違いがあったらしい。大変申し訳ないが受付にお嬢様がおられるのでご足労願いますと言われて⋯⋯受付に辿り着く前からデイビッドの怒鳴り声が聞こえてきた」
「それではローゼンタール伯爵家がラ・ぺルーズで理不尽に騒いだと周りの方から思われていると言うことですの?」
「しばらくは周りの動向に注意しておいた方がいいかもしれん。わざと誤解させたとまでは言わんが勘違いしても仕方ない言葉の選び方や行動だからな。貴族の大人達が利用する店であんな騒ぎを起こせばどうなるか、準成人になっても理解できていないのは問題だね」
「明日学園に行ったら、ラ・ぺルーズの予約を取り違えたのに騒ぎ立てたとか言われる可能性大ってことですね」
キャンストル伯爵家との婚約はほとんどの貴族が知っている為デイビッドがローゼンタールの名前を出して騒げば皆『アーシェ』がやらかしてデイビッドが腹を立てたと勘違いするだろう。
「連れの女の子の顔を見ていたとしても火の粉のほとんどは私に向かって飛んできそう⋯⋯最悪だわ」
「大丈夫よ、そんな酷い事にはならないはずだもの。誰かに聞かれたらわたくしがちゃんと説明してあげるわ」
「仲のいい友達には先に話しておけばいいかもしれん。そうすればすぐに理解してもらえるはずだよ」
気の重い夕食を終えたアーシェだったが翌日から数多くの醜聞に巻き込まれ、アレがはじまりだったのだと知る事になる。
「お聞きになりました? ラ・ぺルーズの件」
「ええ、格好をつけて背伸びしすぎたのでしょう? ローゼンタール伯爵家は出入り差し止めになるって聞きましたわ」
「キャサリン様への虐めだって聞きましたわ」
「わたくしも聞きましたわ。アーシェ様は常日頃からヤキモチを焼いてはあのような嫌がらせをされてるとか」
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