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27.悪人が人のせいにするのはお決まりなの?

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 ジェラルドがライラの手を払いのけて箱を奪い取った。

「馬鹿だ馬鹿だと思っていたが証拠を抱えてやってくるなんてな。ハーヴィーはお人よしだったがお前はただの間抜けだよ」

「このまま騎士団に行くつもりだから、それを返して」

「は! 証拠がなければどうにもできんだろ? 横領は認めてやるさ、主犯はウェインで俺は少しばかり融通してもらっただけだって。ハーヴィーに手を下したのはウェインに違いないって言ってやる。俺はハーヴィーが左利きだって知ってたから犯人じゃないってな」

「知らなかったくせに」

「だからどうした? ここには俺たちしかいないからどんな話をしたのか誰も知らないんだ。ノアを連れてなくてラッキーだったよ」

 口元を歪めて笑うジェラルドは普段の貴公子然とした様子とは違い醜悪な顔をしていた。

「やっぱり、ハーヴィーに手をかけたのはジェラルドだったのね」

「ああ、そうだとも! 教えてやろうか!?」



 仕事を終えたハーヴィーが帰りかけていた時に声をかけたジェラルドは帳簿について話があると言った。

『ジェラルド、今更だってわかってるんだろ?』

『ほんの出来心だったんだ。父上からお叱りを受けたけど使った分の返済をしてもらえることになったんだ。だから』

『でも、そのせいでひとりの生徒が既に学園を退学してるんだ。返金して全てを無かったことにすることはできない。
せめてもっと早ければ⋯⋯』


 ジェラルドの願いに首を横に振るハーヴィーに腹が立ち声が荒くなっていった。激しい言い争いになったが、返金する事を約束し一旦生徒会室に戻ろうと言う話になった。

『ジェラルドとウェインは同罪だから彼の事は最後まで責任を持たないといけないと思う』

 あくまでも正論を口にするハーヴィーだが、ジェラルドは父親に相談などしていないし返金の目処も立っていない。

 父親から返金分を貰うまでだからと言えば貿易会社の役員報酬を受け取っているハーヴィーが立て替えてくれるはずだとジェラルドは思っていた。

(生徒会室についたら土下座してでも頼み込もう。お人好しのハーヴィーなら二つ返事で助けてくれるさ)


『私にとりあえず建て替えておいてくれなんて言わないよね』

 ハーヴィーが言った一言でジェラルドは進退極まってしまった。

(くそ! それじゃあもう⋯⋯)


 遠回りするよりは大階段を使おうと言い、嫌がるハーヴィーを宥めすかしながら並んで階段を登りはじめた。


「仕方なかったんだ。金があるくせにケチらず助けてくれさえしたらあんなことはせずに済んだんだ。
背中を引っ張ると簡単に転げ落ちてさ、驚くほど簡単だった」


 罪の意識もなく平然と話すジェラルドはどこかが壊れているのかもしれない。

「また、人のせいなのね」

「本当の事だろう? ハーヴィーは予算不足になってる事に気付くのが遅すぎたんだ。もっと早く気付いていれば横領額もあれほどにはならなかったし。
ハーヴィーとライラの金で返済してくれれば済んだんだ」

「何故私たちがそんなことしなくちゃいけないのよ!」

「借金まみれで名前だけだったターンブリー侯爵家やろくでなしのプリンストン侯爵家と付き合ってやったんだ。その程度のお礼で我慢してやろうって思ったのにね。
人の親切がわからない奴ばかりで嫌になる」

「本気で言ってる? 頭がおかしいとしか思えないわ」

「メイヨー公爵家は特別なんだ。王家の次に尊い我が家に傅くのは当然だろう?
当たり前のように友達ヅラして話しかけるのを何年も我慢してあげたんだ。貢ぎ物代わりに罪も引っ被ってもらう予定だったんだけどね」

「まさか、しつこく証拠を探してたのは横領の罪をハーヴィーに被せるためだったの?」

 ジェラルドが『ちっ!』と舌打ちした。

「被せるんじゃない。俺の為に身代わりになってもらうだけさ。使用人が当主の代わりに罪を償うのと同じだね」

「そんな事考えてたなんて⋯⋯」

「馬鹿なミリセントと違ってお前はウザかったしな。いつもノアなんて護衛を連れてきやがって、公爵家の俺に平民の相手をさせるような不届者だったんだ。少しばかりの損害を補填するくらい当然だろ?
そうだ、今からでもお前がなんとかしろよ。このまま俺に瑕疵がつけばミリセントが悲しむ」




「悲しむわけないじゃない!!」

 ドアが『バン!』と大きな音を立てて入ってきたのは怒髪天を突くほど怒りに燃えたミリセントだった。

「ミリセント、部屋にいろって言ったじゃないか!!」


 その後から蒼白なノアが飛び込んできてライラの元に駆け寄った。

「お嬢様!」


「ええ、言ってたわね。それと同じように私の事を『成績もダメダメで生徒会にも選ばれない恥ずかしい婚約者』って言ってたのも聞いたわ! この場で婚約破棄させていただきます!!」

「ミリセント! 俺と婚約破棄なんてあり得ないよ俺達がどれほど上手くいってた⋯⋯おい、貴様らは誰だ! ここをどこだと思ってるんだ、出て行け!!」

 騎士団の団長や騎士達が続々と部屋に入ってきたのを見たジェラルドが真っ赤な顔で怒鳴りはじめた。


「浮気して横領して幼馴染を手にかけた人となんてお断りよ!!」

「な、なんのことを言ってるのか⋯⋯聞き違いだよ。君達もさっさと出て行きたまえ、不法侵入だとわかっているんだろうな!! おい、誰かこいつらをつまみ出せ!!」


「私は第二騎士団団長グレッグ・モートン。彼は第三騎士団団長マックス・ファイフと、同じく第三騎士団副団長ハンター・アースキン」

 地団駄を踏んで応接室の外に向けて大声をあげていたジェラルドが第二騎士団と聞いて固まった。

「第二騎士団?」

「はい、我々は非常時には貴族の屋敷に強制捜査に入る権限を認められております。今回の案件はそれに該当するとみなし、隣室よりお話を伺わせていただきました」

「な、でも。我が家は⋯⋯強制捜査なんて⋯⋯そ、そうだ! 越権行為だ! 出ていかないと訴えてやる。父上は王家からも覚えがめでたいメイヨー公爵だ、さっさと出ていかな⋯⋯」

「勅令が出てるわ。勅令の意味分かるかしら? 陛下が直接下された命令のこと。法的効力のある命令。オーケー?」

 最後に入ってきたターニャが王印の押された書状を開いてジェラルドに向かって立ち塞がった。


「下がりなさい! 公爵家令息ジェラルド・メイヨー、横領と殺人の容疑で逮捕します」

「そんな⋯⋯ターニャ王女殿下! お、俺は⋯⋯俺達は」

「私は第二騎士団副団長としてここにいる。貴様の戯言を聞く気はない」

「間違いなんです、誤解というか。ライラが怒らせるから⋯⋯怒らせてやってもいない事をやったって言わせたんです! ターニャ様なら俺の事昔から知っておられるし。俺がそんなことなんてしないってわかってくれますよね。
ライラに騙されたんです!」


「隣室で話は全て聞いたと言っただろう? それからな、情に訴えたいなら教えてやろう。ライラは私の弟子だ、貴様よりも深く付き合いがある」

「「「は?」」」

 ノア以外がパッとライラの方を向いた。


「ええ、その。数年前から剣の指導をすこーし、ね?」

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