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78.ヤバいヤバい〜、大失敗なのは誰
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ご機嫌のステファンと無表情のメイルーンが浜辺に戻る頃には銃声も罵声もほとんど聞こえなくなっていた。
「あれ? 思ったより早えじゃん。まあ、ここは暑いしちょうどいいかあ。な~んかすっかり酔いが覚めたぜ、ワイン持ってこい⋯⋯えーっと、一番高いやつな」
(親父とメリッサを何とかしないといけねえのに、ゲームがこんなに早く終わるとかヤバいじゃん)
メイルーンとの話し合いが予想以上に上手くいきご機嫌だったステファンはソワソワと焦りはじめた。
ケニスが運んできた赤ワインを一気に飲み干したステファンがチラチラとメリッサの後ろ姿を見ながらおかわりを入れろとグラスを突き出した。
「メイルーン司教様はいかがされますか?」
エリオットが声をかけると煩さそうに手を振って追い払ったメイルーンは足を組んで親指の爪を噛みはじめた。
(コークの野郎にあんな物を握られてたなんて! 俺が家探しする前に見つけたって事か⋯⋯部屋が荒れてたと報告があったのがそのせいだったとは)
苛立ちが収まらないメイルーンはワッツを弄んで憂さ晴らししようと思いつき、さりげない風を装って声をかけた。
「そう言えばワッツはゲームに参加しなかったんだな」
「⋯⋯ああ、まあな」
「おいメリッサ、話があるからちょっとこい」
イライラと立ち上がったステファンが大きな声でメリッサを呼びつけた。
「今ですか? 少し待って下さいね~」
返事を待たずに歩きはじめていたステファンの背中に向けて返事をしたメリッサはさっさと空の皿を持って木箱の陰に逃げ込んだ。
(ヤバいヤバい! 絶対なんか仕掛けてくるつもりだよね)
立ち止まって悪態をつくステファンと忙しそうなメリッサを見るともなく見ていたメイルーンが思い出したように話を続けた。
「こういうの好きそうだと思ったんだが、今からでも参加してきたらどうだ~? 別に本人が戦闘要員でも構わないんじゃないかなぁ」
「遠慮しとく」
メイルーンがしつこくワッツに絡んで楽しそうに笑いはじめ、ソファに戻り酒をあおりはじめたステファンがグルーヴのニヤニヤ笑いに気づいて鼻を鳴らした。
「そう言えば俺がサマネス枢機卿から権利を譲り受けたランクル子爵領だが、あれは元々ワッツ公爵家の自領だったんだよなぁ」
「⋯⋯昔話なんか興味ない」
警戒しはじめたワッツがグラスをテーブルに置いてソファのアームレストにもたれかかった。
「そう? あの領地には結構面白い話があっ⋯⋯」
砂まみれになったひとりの男が宝箱を抱えて姿を現しメイルーンが言葉を途切れさせた。
(ん? 誰が連れてきたやつだっけ⋯⋯それより早くメリッサを呼び出さね⋯⋯)
「やった! マジかよぉ、その服は俺の雇った奴の⋯⋯勝った、モートン商会は俺のもんだぁぁぁ!」
興奮して飛び上がったのは事務弁護士をしているジャック・マートンで、お腹の肉がプルプルと跳ねてシャツがはみ出した。
「ブブゥゥゥ!」
ステファンが飲みかけていたワインを吹き出した。
「マートン、黙れぇぇ!」
「ほ~、モートン商会がなんだって!?」
ルーカスの低い声の問いかけに答えようとしたのは満面の笑みを浮かべたマートン。
「このゲームの賞⋯⋯」
「黙れ黙れ黙れ! この賭けは無しだ! 保留だ!」
「損失が⋯⋯」
青い顔で怒鳴り散らすステファンの胸ぐらを小太りのマトン⋯⋯マートンが掴んで怒鳴り返した。
「モートン商会は俺のもんだ、賭けは成立したんだからな!」
「ステファン、どういう事か説明してもらおうか」
ルーカスが人をかき分けマートンを突き飛ばしてステファンの胸ぐらを掴み上げると『ぎひゅ!』とおかしな音を立てた。
「モートン商会は俺のもんだ、テメェのもんじゃねえ。なんでゲームの賞品にできるのか言ってみろ!? ああ?」
(父さんったら予想外の展開で喜んでる)
(おじさん⋯⋯予想外の展開で喜びすぎ)
「経費をどうやって⋯⋯」
ルーカスに突き飛ばされて尻餅をついたステファンが『はっ!』と何かを思いついたようにメイルーンの方に向かって身を乗り出した。
「⋯⋯メイルーン、お前の信者はどうしたんだ!? まさか全員殺られたとか言わねえよな?」
「帰ってこないとこをみると殺られたのかもね~。エリオット、シャンパンを持ってきてくれるかなぁ」
にこやかに微笑んだメイルーンがテーブルにあったキャビアの乗ったカナッペを美味しそうに口に放り込んだ。
「で、さっさと説明してもらおうか~?」
(くそ! あれほど言っといたのにクソマートンの野郎)
「旅費だって⋯⋯」
「誰でもいい、このオッサンを殺った奴に商会をくれてやるから! 商会が欲しけ⋯⋯」
「そんなに騒ぐならコークが殺ればいいだろ?」
シャンパンのおかわりをエリオットに注がせながらメイルーンが笑った。
「メイルーン⋯⋯んなこと言っていいと思ってんのかよ!」
「ああ、構わんとも。パーティーは終わったし俺は帰らせてもらうとするかな。そうだ、商会長⋯⋯エリオットを俺の従者に貰い受ける、構わないよね」
「こういう時にあれを言うんだろ? 『謹んで拝辞致します』ってな」
ゲラゲラと笑いながらメリッサを振り返ったルーカスがサムズアップした。
「しっかし、俺を殺してもメリッサがいるのに商会を手に入れられると思ってるとか馬鹿じゃねえの?」
ルーカスが挑発すると分かりやすくステファンがボロを出しはじめた。
「⋯⋯りょ、両方いなくなりゃそれで問題ねえ、俺にはあの書類があるんだからテメエさえくたばりゃ全部丸く収まるんだよ!」
「あの書類ねえ、何のことかわからんがステファンには商会の羊皮紙一枚ゴミ屑ひとつ手に入れる権利なんかねえって忘れたのか?」
「武器の支払いが⋯⋯」
「くっそぉ! メイルーン、何とかしろよ。この親父を始末してくれたら屋敷は諦めてやる。アレも全部お前んとこに持っていってやるから」
「う~ん、俺は指示する側にしかなったことがないんだよね。実際に誰かに手をかけるのは俺の仕事じゃないって知ってるだろ? それにさあ、コークがマルティン枢機卿と友人なら俺も父上のサマネス枢機卿も終わりだから、そのオッサンがどうなろうと関係ないって事だね」
(ええっ!? ステファンがマルティン枢機卿と知り合い⋯⋯意外だ~、全然イメージがつかない)
騒ぎが起こってから様子を覗きに木箱の陰から出てきていたメリッサはチラッとケニスと目を合わせてからそっと後ろに下がり木箱の陰に忍びこむと、ロジャーがブンブンと首が折れそうなほど横に振って無実を訴えた。
「嘘だから! 奴の事なんてぜんっぜん知らないからね」
「ほんとに~? 無理しなくてい⋯⋯」
「マジで知らないからぁぁぁ!」
ロジャーがメリッサの両腕を掴んで大声で叫んだ。
「今の声は誰だ?」
「あれ? 思ったより早えじゃん。まあ、ここは暑いしちょうどいいかあ。な~んかすっかり酔いが覚めたぜ、ワイン持ってこい⋯⋯えーっと、一番高いやつな」
(親父とメリッサを何とかしないといけねえのに、ゲームがこんなに早く終わるとかヤバいじゃん)
メイルーンとの話し合いが予想以上に上手くいきご機嫌だったステファンはソワソワと焦りはじめた。
ケニスが運んできた赤ワインを一気に飲み干したステファンがチラチラとメリッサの後ろ姿を見ながらおかわりを入れろとグラスを突き出した。
「メイルーン司教様はいかがされますか?」
エリオットが声をかけると煩さそうに手を振って追い払ったメイルーンは足を組んで親指の爪を噛みはじめた。
(コークの野郎にあんな物を握られてたなんて! 俺が家探しする前に見つけたって事か⋯⋯部屋が荒れてたと報告があったのがそのせいだったとは)
苛立ちが収まらないメイルーンはワッツを弄んで憂さ晴らししようと思いつき、さりげない風を装って声をかけた。
「そう言えばワッツはゲームに参加しなかったんだな」
「⋯⋯ああ、まあな」
「おいメリッサ、話があるからちょっとこい」
イライラと立ち上がったステファンが大きな声でメリッサを呼びつけた。
「今ですか? 少し待って下さいね~」
返事を待たずに歩きはじめていたステファンの背中に向けて返事をしたメリッサはさっさと空の皿を持って木箱の陰に逃げ込んだ。
(ヤバいヤバい! 絶対なんか仕掛けてくるつもりだよね)
立ち止まって悪態をつくステファンと忙しそうなメリッサを見るともなく見ていたメイルーンが思い出したように話を続けた。
「こういうの好きそうだと思ったんだが、今からでも参加してきたらどうだ~? 別に本人が戦闘要員でも構わないんじゃないかなぁ」
「遠慮しとく」
メイルーンがしつこくワッツに絡んで楽しそうに笑いはじめ、ソファに戻り酒をあおりはじめたステファンがグルーヴのニヤニヤ笑いに気づいて鼻を鳴らした。
「そう言えば俺がサマネス枢機卿から権利を譲り受けたランクル子爵領だが、あれは元々ワッツ公爵家の自領だったんだよなぁ」
「⋯⋯昔話なんか興味ない」
警戒しはじめたワッツがグラスをテーブルに置いてソファのアームレストにもたれかかった。
「そう? あの領地には結構面白い話があっ⋯⋯」
砂まみれになったひとりの男が宝箱を抱えて姿を現しメイルーンが言葉を途切れさせた。
(ん? 誰が連れてきたやつだっけ⋯⋯それより早くメリッサを呼び出さね⋯⋯)
「やった! マジかよぉ、その服は俺の雇った奴の⋯⋯勝った、モートン商会は俺のもんだぁぁぁ!」
興奮して飛び上がったのは事務弁護士をしているジャック・マートンで、お腹の肉がプルプルと跳ねてシャツがはみ出した。
「ブブゥゥゥ!」
ステファンが飲みかけていたワインを吹き出した。
「マートン、黙れぇぇ!」
「ほ~、モートン商会がなんだって!?」
ルーカスの低い声の問いかけに答えようとしたのは満面の笑みを浮かべたマートン。
「このゲームの賞⋯⋯」
「黙れ黙れ黙れ! この賭けは無しだ! 保留だ!」
「損失が⋯⋯」
青い顔で怒鳴り散らすステファンの胸ぐらを小太りのマトン⋯⋯マートンが掴んで怒鳴り返した。
「モートン商会は俺のもんだ、賭けは成立したんだからな!」
「ステファン、どういう事か説明してもらおうか」
ルーカスが人をかき分けマートンを突き飛ばしてステファンの胸ぐらを掴み上げると『ぎひゅ!』とおかしな音を立てた。
「モートン商会は俺のもんだ、テメェのもんじゃねえ。なんでゲームの賞品にできるのか言ってみろ!? ああ?」
(父さんったら予想外の展開で喜んでる)
(おじさん⋯⋯予想外の展開で喜びすぎ)
「経費をどうやって⋯⋯」
ルーカスに突き飛ばされて尻餅をついたステファンが『はっ!』と何かを思いついたようにメイルーンの方に向かって身を乗り出した。
「⋯⋯メイルーン、お前の信者はどうしたんだ!? まさか全員殺られたとか言わねえよな?」
「帰ってこないとこをみると殺られたのかもね~。エリオット、シャンパンを持ってきてくれるかなぁ」
にこやかに微笑んだメイルーンがテーブルにあったキャビアの乗ったカナッペを美味しそうに口に放り込んだ。
「で、さっさと説明してもらおうか~?」
(くそ! あれほど言っといたのにクソマートンの野郎)
「旅費だって⋯⋯」
「誰でもいい、このオッサンを殺った奴に商会をくれてやるから! 商会が欲しけ⋯⋯」
「そんなに騒ぐならコークが殺ればいいだろ?」
シャンパンのおかわりをエリオットに注がせながらメイルーンが笑った。
「メイルーン⋯⋯んなこと言っていいと思ってんのかよ!」
「ああ、構わんとも。パーティーは終わったし俺は帰らせてもらうとするかな。そうだ、商会長⋯⋯エリオットを俺の従者に貰い受ける、構わないよね」
「こういう時にあれを言うんだろ? 『謹んで拝辞致します』ってな」
ゲラゲラと笑いながらメリッサを振り返ったルーカスがサムズアップした。
「しっかし、俺を殺してもメリッサがいるのに商会を手に入れられると思ってるとか馬鹿じゃねえの?」
ルーカスが挑発すると分かりやすくステファンがボロを出しはじめた。
「⋯⋯りょ、両方いなくなりゃそれで問題ねえ、俺にはあの書類があるんだからテメエさえくたばりゃ全部丸く収まるんだよ!」
「あの書類ねえ、何のことかわからんがステファンには商会の羊皮紙一枚ゴミ屑ひとつ手に入れる権利なんかねえって忘れたのか?」
「武器の支払いが⋯⋯」
「くっそぉ! メイルーン、何とかしろよ。この親父を始末してくれたら屋敷は諦めてやる。アレも全部お前んとこに持っていってやるから」
「う~ん、俺は指示する側にしかなったことがないんだよね。実際に誰かに手をかけるのは俺の仕事じゃないって知ってるだろ? それにさあ、コークがマルティン枢機卿と友人なら俺も父上のサマネス枢機卿も終わりだから、そのオッサンがどうなろうと関係ないって事だね」
(ええっ!? ステファンがマルティン枢機卿と知り合い⋯⋯意外だ~、全然イメージがつかない)
騒ぎが起こってから様子を覗きに木箱の陰から出てきていたメリッサはチラッとケニスと目を合わせてからそっと後ろに下がり木箱の陰に忍びこむと、ロジャーがブンブンと首が折れそうなほど横に振って無実を訴えた。
「嘘だから! 奴の事なんてぜんっぜん知らないからね」
「ほんとに~? 無理しなくてい⋯⋯」
「マジで知らないからぁぁぁ!」
ロジャーがメリッサの両腕を掴んで大声で叫んだ。
「今の声は誰だ?」
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