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10.超絶分かりやすい男は手先が器用?

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 その日の夜、いつもより遅く帰ってきたステファンは妙に機嫌が良く、お土産だと言って持って帰ってきたワインを開けてメリッサのグラスに注いだ。

「メリッサ、いつも仕事大変だから少しワインでも飲んでみないか? 酔っ払ってもちゃんと部屋まで連れて行ってやるから大丈夫」

(うわぁ、分かりやすーい)

「あと二日はちょっと⋯⋯」

「ん、何かあるなら相談に乗ってやるよ? 仕事なんて休みを取れば良いんだしな。折角メリッサのために買ってきたんだよ」

「ありがとう、じゃあ少しだけいただくわ」



 ワインを少し飲んだだけでメリッサの顔が真っ赤になり目が潤みはじめた。

「やっぱりお酒は無理みたい⋯⋯先に部屋に行きますね」

 ゆっくりとした歩みで食堂を出るメリッサの後ろでステファンがほくそ笑んでいた。




 パタンと食堂のドアが閉まると同時に立ち上がったステファンは食堂を出て、使用人が近くにいないのを確認しながらメリッサがいつも使っている執務室に向かった。

(使用人の殆どが通いなのは都合がいいよな、へへっ)

 わざと人払いされているのを知らないステファンは執務室のドアノブを回し鍵がかかっているのを確認して床に膝をついた。

(チャチな鍵だよなぁ、こんなので安心してるとか超ウケる)

 折り曲げた針金を鍵穴へ差し込み少し力を加え、もう一本の針金を差し込んだ。耳を澄ませて少しずつ動かし⋯⋯。


 カチリ


「よし!」

 口の端を歪めて針金をポケットにしまったステファンが立ち上がり執務室の中に忍び込んだ。

「さて、金庫はどこだ?」

 カーテンの開いた執務室の中は思ったより明るく、机やソファなどの場所や壁にかけられた絵画などもはっきりと見えた。

 机の先出しを漁り絵画の裏を確認したステファンは『チッ!』と舌打ちをして腕を組んだ。

「ふざけやがって⋯⋯どこに隠したんだ?」

 ソファやコーヒーテーブルを調べラグも剥がして確認したステファンは本棚の前に立って針金を取り出した。

「もうここしかねえ、めんどくせえなあ」

 鍵を開けて本を一冊ずつ確認していると壁に埋め込まれた金庫があるのを見つけた。

「よっしゃあ! 俺様の勝ちだ」



 戦利品をポケットに入れたステファンが満面の笑みを浮かべながら執務室を出ると隠し扉からケニスと二人の男が出てきた。

「手慣れてましたなぁ、あの様子では余罪がたっぷり出てきそうです」

 メリッサが部屋に戻った後ステファンが犯行に及ぶと踏んたケニスが裁判官と弁護士に依頼して隠し部屋に潜んでいたが、これ程すんなりと忍び込んでくるとは思っていなかった。

「しかし、これ程堂々と盗んでバレないと思っているとは⋯⋯間抜けすぎて哀れになりますね」

「夜遅くにお手数をおかけして申し訳無かったが、お二方に犯行の現場を確認していただけて助かりました」

 顔が赤くなるのが嫌で滅多にお酒を飲まないメリッサが実はかなりの酒豪だと言うのは家族以外ほとんど知らない。

 結婚式の後からもずっとステファンとは別の部屋を使っているメリッサは今頃元気いっぱいで結果報告を楽しみにしているに違いない。

「しかし、あんなに簡単に盗ませて良かったんですか?」

「あれは模造品なんで大丈夫です。よほどの目利きでなければ明るいところで見ても分からないほど精巧にできたやつなんで、問題ないですね」

 メリッサの父親と祖父が商会を立ち上げたばかりの頃騙されて高額で手に入れた偽物の真珠は、ほんの数日前まで事務所の本棚に飾られていた。

『コイツは爺さんと俺の教訓なんだ。騙す方が悪いのは決まってるが、商売するなら物の価値をちゃんと見分けられるようになれって事だよな』



「この屋敷の所有者はメリッサ殿の父上でステファン・コークは単なる同居人ですからな、窃盗だけでなく住居侵入罪も追加されておりますなあ」

「恐らくコークの母親も教唆若しくは共犯にできるでしょう」

 裁判官と弁護士がボソボソと話す内容を聞きながらケニスは最悪の予想が当たった事に溜息を漏らした。

(これでコークの誘いに奴が乗ってきたら⋯⋯とんでもないことになりそうだな)



 部屋に戻り盗んだ真珠を丁寧に布で包んでクローゼットの奥に隠したステファンは食堂からワインのボトルを持ってきて祝杯を上げた。

(俺様からの招待を断りやがったアイツがどんな顔をしてやって来るか見ものだよなぁ⋯⋯あの馬車の事故のせいで退屈になった責任もついでに取らせてもいいし。
弁護士事務所の就職なんてケチな事考えるより奴の伝手がありゃあ、もっと⋯⋯)

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