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53.王の決断

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「青の間ですと! お待ち下さい、一体何が書かれていたのでございますか!?」

 青の間は王城にいくつかある特殊な目的で使われる部屋の一つ。それらは赤・青・緑・紫・黒などの色で呼ばれ、青の間は政治的判断で内密の話を行う時に使われる。



「此奴・・ソフィーはこの者達の申す通り無罪である事が証明されたようだ」



「「「お待ちください!」」」

 エリス達3人に騙された子爵達が謁見室になだれ込んできた。


 気絶したソフィーを抱えたレオは乱入してきた帝国貴族達を冷ややかな目で見つめた。

「ギル!」

 レオの指示でギルがソフィー達の前に立ちはだかり、俺もいるぞとばかりにマシューがギルの横に並んだ。


「陛下がソフィーを呼び出したと聞き参りました。ソフィーはどこに!?」

 ハリソン・ランバルド伯爵嫡子は父親に叱責され『伯爵位は弟に継がせる』と言われソフィーに責任を取らせようと使節団に無理やり参加して王国に乗り込んできた。


「家族を手先に使いあのような悪辣極まりない詐欺を働いた悪党をこの手で処罰させていただきたい」

 祖母の威光で自由を満喫している侯爵家三男のロニー・シーモアは『我こそ正義』と舞い上がっている。第一騎士団団長なのが自慢で自分は現代の勇者だと本気で思い帯刀している。

 壁際に並んでいた衛兵が周りを取り囲み剣を構えた。


「エリス達に渡した大量のドレスや宝石を弁償してもらうぞ。勿論慰謝料もな」

 ユーストス・ヴィリアース子爵はソフィーの財産が手に入るなら婚約を続けてもいいと思っている。




「皆様方陛下の御前ですぞ、剣を持ち込むとは何事ですか! お控え下さい。例え帝国からのご使者であっても許される事ではございません!」

「ご無礼の程平にご容赦を。我らは帝国のオーレリウス・ナスタリア皇帝陛下の正式なる使者。我らの意志は帝国の意思と同じ!! 我らの意向を無視する者は帝国へ翻意ありと捉えさせて頂く所存。
にっくきソフィーなる悪女を引き渡していただこう!!」

 ナスタリア帝国との戦いに敗れた王国など恐れる必要なしとロニーは国王の見ている前で平然とギルに向かい剣を構えた。

(忌々しい奴らめ。我が国をまるで属国のように思い好き勝手しおって!)

 国王の忌々しげな視線に気付いたレオが声をかけた。

「ジョージアナ・・(奴等を煽れ)」

 小さく頷いたジョージアナジョシュアが両手を頬に当てて大声で叫んだ。

「こわ~い、で剣を振り回すなんて信じらんなーい。王国のこと、バカにしてるみたいー。帝国からの使者様って帝王様の代理だと思ってたのにぃ。ちょー、やばんー!!」

「五月蝿い! 女のくせにししゃり出るな! はっ、まさかお前がソフィーか?」

(この状況で人間違い? あり得ねー)

 ロニーが剣の矛先をジョージアナに向けた。

「きゃー、誰かぁ・・誰か助けてぇ。

「しかも謁見室の王国の重鎮が居並ぶ前でな」

(流石マーカス兄様、抜け目ないわねー。でも、もうちょっと決定打が欲しい)


「帝国貴族は常識も騎士道精神もお持ちではないようだ」

「たかが王国の貴族如きが! 誇りある帝国を愚弄するなど許さん!」

 ギルの煽りで顔を真っ赤に染めたロニーが切り掛かってきた。ぎえぇっと可笑しな叫び声を上げ上段からギルに切り込んだロニーはスキだらけの脇腹にギルの回し蹴りがヒットし吹き飛んだ。

(なーんだつまんない。帝国の第一騎士団団長ってただのお飾りだったのね)

 衛兵に拘束されたロニーを遠巻きにしながら残りの2人が青褪めた。



 ソフィーの服に滲んだ血はどんどん広がっている。

(これ以上茶番になんぞ付き合っていられるか!)

「陛下、急ぎ怪我人の手当てをしたいと思います。御前を下がらせて頂いて宜しいでしょうか?」

 レオはこの発言が国王に対して不敬となるのを承知で声をかけた。本来なら『下がれ』と言われるまでは何があろうと退席してはならない。

「良いだろう、王宮の医局に案内させようぞ」

「アリシア様、ソフィーに付き添っていただけませんでしょうか? 俺では手当ての間同席できないので」

「勿論ですとも。この子はわたくしの大切な養い子ですからね」

 レオはソフィーを抱えて立ち上がった。

(クソ! どこもかしこも血だらけでぬるぬるする)

 アリシアとジョシュアがレオの後をついてきた。その後ろからギルが護衛しマーカスとマシューはこの後の片付けの為に残った。

「とまれ、勝手にここを離れることは許さん! 帝国の使者に暴力を振るっておきながら。この・・無礼者が!!」

 帝国寄りの外務大臣が叫んだが無視して歩き続け謁見室を出るレオ達。



「失礼ながら無礼なのは使者の方ではございませんか? 断りもなく帯刀したまま謁見室に乱入し剣を振り回したのです。
しかも、弟達は陛下のお許しを頂いております」

「だっだまれ。このような事が帝国に知られれば・・」

「どうなると言うのか。大臣、申してみよ」

「わっ我が国と帝国がまた以前のように戦う事になりかねません。そのようなことになれば我が国は・・」

「では、かの者の乱心を許せと?」

「左様でございます。元はと言えば帝国にて貴族に対し詐欺を働いた平民のせいでございますれば、使者殿のお怒りは正当なものでございます」

「余の前で剣を振り翳し余の国の貴族に切り掛かった事を不問にせよと申すか?」

 無表情の国王に外務大臣は冷や汗を垂らしながら言い募った。

「ここは致し方ないと・・しかもロニー様は・・」

「彼奴の祖母は王の血を引いておったな」

「左様でございます」


「では貴様もあの使者と共に行くが良い」

「はっ! そっそれは、まさか!?」

「帝国へあの者を送り返す際貴様も共に行くが良かろう。貴様はどうやら帝国の方が気に入っておるようだ」

「衛兵!」

 衛兵が宰相の声かけで外務大臣を拘束し、ロニーと共に牢へ連れて行った。



「この事は一切他言無用! 話が少しでも漏れればタダではおかん。ここにおる者達の連帯責任とする。よいな」

「「「は!」」」

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