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37.2度目はないから

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「ローリーおはよう、住み込みで働きたいって言ってる人がいたら教えてくれる?」

 翌朝出社したばかりのローリーにソフィーが元気いっぱいの笑顔を向けた。

「ソフィー、突然どうしたんですか?」

「仔犬が来たらこっちに住もうかなって考えてて、それならいっその事何人か住み込みの人がいてもいいんじゃないかと思ったの」

「それはソフィーのお世話をするメイドとかですか?」

「私専用のメイドは不要だけど屋敷の掃除とか洗濯をする人はいた方がいいかなって」

「確かに、その話は以前からありましたね。でですけど」

「そうなの、それを住み込みで募集するのはどうかしら? 私がここに住むなら住み込みの人がいてもいいでしょ?」

「・・それなら寂しくありませんしね」

「・・バレちゃった」

「この屋敷は広いですから日中は賑やかですけど夜はね」

「そう、昨日の夜試してみたんだけど1人はちょっと厳しかったの。それぞれの部屋が広いから音も響くし」

「少し考えてみます。勉強会の事も考えなくてはなりませんし」

「そうなのよね。平民学校について聞いてみるつもり。そこではどんな勉強をするのか」

「やはりソフィーは学園に通ったのですね?」

 平民が行くのは名前通りの平民学校だが、貴族専用の学校は複数ある為その総称として学園と呼ばれている。

「わたしはどっちにも行ってないの。だから誰かに教えてもらわなくちゃと思ってるの」

「えっ?」

 ソフィーは美しい文字を書くし税率の計算なども簡単にやってしまう。地理や歴史、経済などにも造詣が深く恐らくマナーも。その為ソフィーは元貴族令嬢で学園の卒業生なんだろうとローリーは思っていた。

「そう言えばこれはうちとは関係ないんだけど成績優秀な平民に学園の入学許可を出そうって言う動きがあるの」

「・・ヘンリーですね」


 貴族は家庭教師から必要な教育を受け12歳から18歳まで学園に通うのが一般的。その後は希望者のみ4年から6年の大学に通う。平民学校は6歳から8歳の2年間のみ。その後はギルドで専門職の見習いになるなど何かしらの仕事につく者が多い。



「ソフィー、ちょっといい?」

 大広間で話していたソフィー達にジェニーが声をかけ・・。
 慌ただしい一日がはじまり子供達は今日も元気一杯で走り回っている。今は全員で外遊びの真っ最中。


「おはよう」

 レオがやって来たが昨日に比べ顔色が優れず覇気がない気がした。

「おはよう、今日もいいお天気ね」

「ああ、そうだね」

(どうしたのかしら? 何かあった?)

「もしかして忙しくなったとか? それだったらここの事は気にし「いや、全然問題ない。もう見積もりの連絡はした?」」

「ええ、事務所で話す?」

「いや、事務所じゃない方が良いかな」

(事務員なら事務所にいるかもな。俺に気があるとかは万に一つもないが危険は回避しておいた方が良いだろう)

「そう、じゃあ応接室で紅茶でもいかが?」

「是非」

 ソフィーとレオは連れ立って2階に上がった。紅茶を前にレオが話を切り出した。

「あー、今日は忙しいかな? ソフィーの予定はどうなってる?」

「えっと、金属加工ギルドに行って導水管や鉛管に詳しい人に話を聞いてみようと思ってるの。それとレバータンブラー錠についても調べたいの。レバータンブラー錠は強い素材で作れるし、まだそれほど出回ってないからいいんじゃないかと思って。
後は平民学校について詳しい人を探すか図書館に行くか。
朝、業者に見積もりを頼んだから様子を聞きに会社を覗いてみるつもり。
突発事項がなければその位かな?」

「見積もりってもう頼んだのか」

「ええ、鉄柵を設置してくれた業者はここの資料を持ってるはずだからそんなに時間はかからないと思う。造園業者の方は詳しい資料は添付しておいたけど少し時間がかかるかも。何か問題でも?」

「いや、いつ準備をしたのかと思って」

「昨日の夜は時間があったから・・」

 ソフィーが話をする毎にどんどんレオの眉間の皺が深くなっていった。



 ドアがノックされてサラが入ってきた。

「あの平民学校について聞きたいってソフィーさんが仰ってるってローリーさんから聞いてきたんですが」

「えーっと、そう今朝ローリーと話をして誰かに聞こうって言ってたの」

「はい、それで私でお役に立つならって。アントリム様おはようございます。今日はこちらにいらっしゃるのでしたらお昼を準備しておきましょうか?」

 サラが頬を染めてレオに話しかけた。

 平民学校についてサラに頼もうと話し合った覚えはないが、預かった子供の1人が熱を出していたのでその対応で今朝のジェニーはサラに仕事を説明する時間がとれないと言っていた。その為ローリーが気を利かせてくれたのかも知れない。

「おはよう、お昼はソフィー次第だがどちらにしろ準備は不要だから。
ソフィーがサラと話をしている間ローガン達と遊んで来る。終わったら声をかけてくれるかい?」

「えっええ、それで構わないなら」

 眉間に皺を寄せたままレオが応接室を出て行く後ろ姿をサラがじっと見送っていた。

「あの、アントリム様はどうかされたのでしょうか? なんだかご機嫌が悪いみたいでした」

「・・何かあったとしても私達が気にすることではないと思うわ」

「ではアントリム様とソフィーさんはそれほど親しいわけではないのですね」

 ほっとしたように胸に手を置きにっこりと笑ったサラを見てソフィーは自分の判断が間違っていたのかもしれないと不安になった。

(もう少し様子を見てみなきゃわからないわよね。2度目はないって釘は刺しておいたし、恋愛は自由だけど公私混同はお断りだから)

「それよりも平民学校について話に来たのではなかった?」

「はい。ソフィーさんは平民なのに平民学校の事をご存じないのは凄く不思議ですけど、何がお聞きになりたいですか?」





(ソフィーが態とサラに頼んだのか? ソフィーは『詳しい人を探すか図書館に行く』って言ってたよな。なら、サラの独断か他の人の考えか?)

 大広間でローリーを見かけたレオは直接聞いてみることにした。

「ローリー、ちょっと聞きたいことがあるんだが今少し時間をもらえるだろうか?」

「はい、何でございますか?」

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