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27.レオが異常に怖がられた理由
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「最初は学校を覗いてる目的がわからなくて警戒したけど、少し話したらこの人は大丈夫そうだって思ったの」
「そう言えば噂を聞かなくなりましたね。ハンスも見かけなくなったって言ってましたし」
ここ1ヶ月位保育学校の近くで何度も不審者が目撃されていたので学校の職員や保護者はかなり神経質になっていた。そのせいでレオが必要以上に警戒されたのだが、その不審者はジョシュアに頼まれた調査員だったと後で知ったレオは頭を抱えた。
(本当に怖い人とは目が違うと思うの。私は見た目よりそう言うとこの方が気になる。それにレオは昔も良い人だったし)
体格で言えばソフィーの両親の方がレオよりよっぽど小柄だし機嫌のいい時の顔つきなら断然レオよりも両親の方が優しげに見えるだろう。グレイ男爵も機嫌良く打ち合わせしている時は警戒心を持ったことがないとルイスが言っていた。
(大奥様が要注意人物だから近づかないようにって仰った方達、見かけはとても上品な紳士淑女だったし)
レオの思い出の『唯一俺を怖がらなかったメイド』はソフィーの事。レオが、
『俺のことが怖くないのか?』
と聞いて来た時ソフィーは思い出した。あの時のレオも無表情で遠くを見ながら緊張を押し隠した様子で背筋をピンと伸ばしていた。
(あの頃からずっと怖がられてばっかりだったのかもね)
あの日、ソフィーが怖がっていないとわかった途端頬を赤らめて目を泳がせたレオはソフィーの淹れた紅茶のカップを覗き込んだまま、
『うん、美味い』
(以前も同じセリフ言ってましたねって揶揄ったらどんなリアクションするのかしら)
レオはまだ気づいていないようなのでいつ思い出すのか、それとももう忘れてしまっているのかソフィーは楽しみにしていた。
「ジェニー、お昼なんだけどお客様1人追加でお願い出来る?」
「良いけどその人は何か持って来てるの? 差し入れに林檎が届いてるからそれを切って出すつもりだけど、それしかないよ?」
「朝ご飯食べ損ねたから2食分持ってるの。それを半分こするつもり」
「ソーフィー、また食べなかったの? ハンナに言い付けるわよ」
「朝ご飯ってついつい食べ損ねちゃうのよね。その分オヤツとかしっかり食べてるし問題ないって」
ジェニーは保育学校の事務を頼んでいる女性。足の悪い義母の世話をすることになりフルタイムで働けなくなって困っていた時に知り合った。
書類仕事の他にお昼やオヤツどきの飲み物の準備と細々した雑用を請け負っていて、子供達の昼食が終わったら一度家に帰って義母の世話をして戻って来る。
いつの間にかハンナと結託してソフィーのお姉さんポジションにおさまり、アレコレと世話を焼きたがるようになってしまった。
「お義母さんの具合はどう? 何か困ってることがあったら言ってね」
「ありがとう。マーリン先生が診察をしてくれるから以前より調子が良いみたい。家事とかやりたがって張り切ってるからお陰で時間の余裕ができて前より生活が楽になったの。
旦那が、だったら子供作れるんじゃないかって言い出して面倒ったらないわ」
「じゃあ、新しく生徒一名確保?」
「その頃には定員一杯で入れなさそう。日に日に問い合わせが増えてるから対策を立てた方が良さそうよ。それと勉強を教えて欲しいって話があるのは聞いた?」
「うん、朝ローリーから聞いた。後で時間のある時に声かけてくれる?」
「了解」
食堂に集まった子供達は順番に並びジェニーからお茶の入ったカップをもらっている。
「今日は林檎があるからねー。ご飯を全部食べ終わったら取りにおいで」
「「やったー!」」
ジェニーの言葉に大喜びの子供達は急いで背の低いテーブルにつきご飯を食べはじめた。男の子達が慌ててパンを口に押し込んでいるのを見たローリーが声をかけた。
「慌てなくてもみんなの分あるからゆっくり噛んで食べましょうね」
「レオさまのぶんもある?」
ナニー達も一緒のテーブルに座ってそれぞれが持って来たお弁当を鞄から出してテーブルの上に広げはじめた。
子供達の使うテーブルにはソフィーやナニー達専用のやや大きめの大人用の椅子があるがレオには小さすぎるだろうと、ソフィーとレオはテーブル横のラグの上に靴を脱いで直に座る事にした。
「ソフィー、良いなぁ。アタシもピクニックしたい」
口一杯にパンを押し込んでいたローガンが『ピクニック』と聞いてガバッと後ろを振り向いてレオを睨みつけた。
「ソフィー、アタシもそっちにすわりたい」
「残念だけどこっちは2人で満員なの」
ソフィーとナニー達は普段交代制で食事を取る。半数は子供達と一緒のテーブルについて一緒に食べ、残りの者達はまだテーブルで食事の出来ない小さな子供達の世話と早く食べ終わった子供達の守りをする事になっている。
「食事に誘ったにしてはメニューが残念なんだけど」
「本当に良いのかな? これはソフィーのお昼ご飯じゃないのかい?」
「私のはこっち・・残すと林檎が貰えなくなっちゃうから食べてもらえると助かるわ」
「食事は各自持ち込みなんだ」
「ええ、学校で準備をするとなると食べちゃいけないものとかがあったりするしその他にも色々理由があるの。真夏はどうするか検討中」
食事を持ち込み制にしたのは子供の体質や信仰する宗派によって食べられないものがある事を配慮したものだが、1ヶ月分の昼食代が負担になる家庭があることも理由の一つだった。
「家では食べられない物をここで毎日食べていたら家の食事に不満を持つ子が出てくる可能性があるでしょう? 内容がどうであってもそれぞれの家の状況の中で作ってもらったご飯を感謝して食べる事や、他人と比較しないで現状に感謝する事を覚える良いチャンスだと思って」
「貴族は外面ばかり気にして人を貶めるのが好きな奴ばっかりだが、家庭の事情か・・子供を預かるのは大変だな」
「そう、でも平民がそれをすると問題が起きる。収入に見合わない物を欲しがるようになると碌な事にならない」
ソフィーの毒親と姉のように収入に見合わない食事やドレスを欲しがって人を妬むようになって欲しくない。
「レオ、しんまいのくせになまいきだぞ!!」
「そう言えば噂を聞かなくなりましたね。ハンスも見かけなくなったって言ってましたし」
ここ1ヶ月位保育学校の近くで何度も不審者が目撃されていたので学校の職員や保護者はかなり神経質になっていた。そのせいでレオが必要以上に警戒されたのだが、その不審者はジョシュアに頼まれた調査員だったと後で知ったレオは頭を抱えた。
(本当に怖い人とは目が違うと思うの。私は見た目よりそう言うとこの方が気になる。それにレオは昔も良い人だったし)
体格で言えばソフィーの両親の方がレオよりよっぽど小柄だし機嫌のいい時の顔つきなら断然レオよりも両親の方が優しげに見えるだろう。グレイ男爵も機嫌良く打ち合わせしている時は警戒心を持ったことがないとルイスが言っていた。
(大奥様が要注意人物だから近づかないようにって仰った方達、見かけはとても上品な紳士淑女だったし)
レオの思い出の『唯一俺を怖がらなかったメイド』はソフィーの事。レオが、
『俺のことが怖くないのか?』
と聞いて来た時ソフィーは思い出した。あの時のレオも無表情で遠くを見ながら緊張を押し隠した様子で背筋をピンと伸ばしていた。
(あの頃からずっと怖がられてばっかりだったのかもね)
あの日、ソフィーが怖がっていないとわかった途端頬を赤らめて目を泳がせたレオはソフィーの淹れた紅茶のカップを覗き込んだまま、
『うん、美味い』
(以前も同じセリフ言ってましたねって揶揄ったらどんなリアクションするのかしら)
レオはまだ気づいていないようなのでいつ思い出すのか、それとももう忘れてしまっているのかソフィーは楽しみにしていた。
「ジェニー、お昼なんだけどお客様1人追加でお願い出来る?」
「良いけどその人は何か持って来てるの? 差し入れに林檎が届いてるからそれを切って出すつもりだけど、それしかないよ?」
「朝ご飯食べ損ねたから2食分持ってるの。それを半分こするつもり」
「ソーフィー、また食べなかったの? ハンナに言い付けるわよ」
「朝ご飯ってついつい食べ損ねちゃうのよね。その分オヤツとかしっかり食べてるし問題ないって」
ジェニーは保育学校の事務を頼んでいる女性。足の悪い義母の世話をすることになりフルタイムで働けなくなって困っていた時に知り合った。
書類仕事の他にお昼やオヤツどきの飲み物の準備と細々した雑用を請け負っていて、子供達の昼食が終わったら一度家に帰って義母の世話をして戻って来る。
いつの間にかハンナと結託してソフィーのお姉さんポジションにおさまり、アレコレと世話を焼きたがるようになってしまった。
「お義母さんの具合はどう? 何か困ってることがあったら言ってね」
「ありがとう。マーリン先生が診察をしてくれるから以前より調子が良いみたい。家事とかやりたがって張り切ってるからお陰で時間の余裕ができて前より生活が楽になったの。
旦那が、だったら子供作れるんじゃないかって言い出して面倒ったらないわ」
「じゃあ、新しく生徒一名確保?」
「その頃には定員一杯で入れなさそう。日に日に問い合わせが増えてるから対策を立てた方が良さそうよ。それと勉強を教えて欲しいって話があるのは聞いた?」
「うん、朝ローリーから聞いた。後で時間のある時に声かけてくれる?」
「了解」
食堂に集まった子供達は順番に並びジェニーからお茶の入ったカップをもらっている。
「今日は林檎があるからねー。ご飯を全部食べ終わったら取りにおいで」
「「やったー!」」
ジェニーの言葉に大喜びの子供達は急いで背の低いテーブルにつきご飯を食べはじめた。男の子達が慌ててパンを口に押し込んでいるのを見たローリーが声をかけた。
「慌てなくてもみんなの分あるからゆっくり噛んで食べましょうね」
「レオさまのぶんもある?」
ナニー達も一緒のテーブルに座ってそれぞれが持って来たお弁当を鞄から出してテーブルの上に広げはじめた。
子供達の使うテーブルにはソフィーやナニー達専用のやや大きめの大人用の椅子があるがレオには小さすぎるだろうと、ソフィーとレオはテーブル横のラグの上に靴を脱いで直に座る事にした。
「ソフィー、良いなぁ。アタシもピクニックしたい」
口一杯にパンを押し込んでいたローガンが『ピクニック』と聞いてガバッと後ろを振り向いてレオを睨みつけた。
「ソフィー、アタシもそっちにすわりたい」
「残念だけどこっちは2人で満員なの」
ソフィーとナニー達は普段交代制で食事を取る。半数は子供達と一緒のテーブルについて一緒に食べ、残りの者達はまだテーブルで食事の出来ない小さな子供達の世話と早く食べ終わった子供達の守りをする事になっている。
「食事に誘ったにしてはメニューが残念なんだけど」
「本当に良いのかな? これはソフィーのお昼ご飯じゃないのかい?」
「私のはこっち・・残すと林檎が貰えなくなっちゃうから食べてもらえると助かるわ」
「食事は各自持ち込みなんだ」
「ええ、学校で準備をするとなると食べちゃいけないものとかがあったりするしその他にも色々理由があるの。真夏はどうするか検討中」
食事を持ち込み制にしたのは子供の体質や信仰する宗派によって食べられないものがある事を配慮したものだが、1ヶ月分の昼食代が負担になる家庭があることも理由の一つだった。
「家では食べられない物をここで毎日食べていたら家の食事に不満を持つ子が出てくる可能性があるでしょう? 内容がどうであってもそれぞれの家の状況の中で作ってもらったご飯を感謝して食べる事や、他人と比較しないで現状に感謝する事を覚える良いチャンスだと思って」
「貴族は外面ばかり気にして人を貶めるのが好きな奴ばっかりだが、家庭の事情か・・子供を預かるのは大変だな」
「そう、でも平民がそれをすると問題が起きる。収入に見合わない物を欲しがるようになると碌な事にならない」
ソフィーの毒親と姉のように収入に見合わない食事やドレスを欲しがって人を妬むようになって欲しくない。
「レオ、しんまいのくせになまいきだぞ!!」
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