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24.ゴリアテの好み
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「収支については私共の問題ですし、ここで預かるのは平民学校へ行く前の5歳以下の子供のみです」
「失礼しました。差し出がましい事を申しました。お許し頂けますか?」
「勿論です。保育学校の事を知った方は皆さん同じ事を仰います。まだはじめたばかりではありますが問題なく経営出来ておりますし今後の資金計画もきちんと立てております」
(まだ若いのに随分しっかりしてるな。多分ジョシュアより下だろうに)
「ここでは子供達は何をして過ごすのですか?」
「思いっきり遊びます。かくれんぼや鬼ごっこ、絵本を読んだりクッキーを作ったり」
「バイオリンとかピアノとかは」
「一応置いてはあるのですが子供達には不評で・・。親御さんの希望もピアノよりパンやクッキー作りの方が良いみたいですし。
よほど興味を惹かない限り平民の子供には楽器は必要ないので。
それよりは名前が書けたり計算が出来たりする方が喜ばれます。他には掃除や洗濯の練習とか」
背筋を伸ばしソファに浅く腰掛けたソフィーは優雅で話し方や内容には深い知識が見受けられる。
(家名はなし・・平民だよな。裕福な?)
「私の記憶では6歳から平民学校に入り文字や計算を習うのではなかったかと」
「では、それより小さな子供はどんなふうに暮らしていると思いますか?」
(紅茶のカップを持つ仕草も洗練されてる)
幼い頃から女性に全く免疫のないレオナルドはソフィーの何気ない仕草の全てが気になって仕方ない。
「それは・・親とか祖父母とか」
「共働きする必要がある家庭や片親の子供達の中には子供だけで親の帰りを待つ子もいるんです。危険だと思われるでしょうがそういう家庭は結構多いんです。
その子達は火を使わずに済むようパンを齧って、危険のないように家に閉じこもって親の帰りを待ちます。怪我や病気があっても生活の為にはなかなか仕事が休めないですし」
「病気の子供も預かると?」
「ケースバイケースですね。専属の医師が常駐していますので彼の判断に一任しています」
「聞けば聞くほど収支が気になります」
「・・私自身別の収入があるので」
(だから昨日も一昨日もいなかったのか・・これだけの事業を支えるってなんの仕事だ?)
「怖くないのか? いや、あー。ここは敷地が結構広そうだと」
レオナルドはついうっかり口に出してしまった事に気付き慌てて誤魔化したつもりだったが上手くいかずソフィーはキョトンと首を傾げた。
「えーっと、何がとお聞きするべきでしょうか?」
「・・私の事が怖くないのか」
不思議そうな顔でレオナルドを見つめたソフィーはプッと吹き出した。
(もしかして女性と話す時は必ずこれを聞くのかな?)
「魔王? ベルセルク? 残念ながらあまり怖くはないみたいです。迫力満点ですけどね」
「怖くないなんて生まれて初めて言われた気がするな。いつも怯えて泣かれるんだが。堅苦しい言葉は終わりにしても良いかな? それとソフィーと呼んで構わないかな?」
(ああ、そうか。そうよね)
レオナルドは貴族の子息らしい振る舞いを諦めた。堅苦しいのが苦手だというのもあるし女性と真面に話す最初で最後のチャンスかもしれないし。
「はい。宜しくお願いします」
「では俺の事はレオで頼む」
「侯爵家の方にそれはちょっと・・紅茶のおかわりはいかがですか?」
「是非。俺が淹れると兄弟騎士達に毒薬か自白剤だって言われるんだ。それと三男だしとっくに家を出て騎士修道会に所属してるから」
ソフィーは席を立ち部屋の隅でお湯を沸かしはじめた。
「私のコーヒーと一緒かも。お仕置きの為に胃薬持参で飲むレベルだから」
「紅茶とコーヒーじゃそんなに違うのか・・じゃあ今度コーヒーを淹れてみようかな。もしかしたらそっちに才能が隠れてるのかも」
「騎士修道会の方には初めてお会いしました。敬虔な信者の方が参加されるのでしょう?」
「実は聖務の時はうたた寝してるか昼飯のことを考えてる。
出来れば敬語はなしでお願いしたいな。普段ムサイ男ばかりの中にいるから違和感が半端なくて」
「それでずっとソワソワしていらした・・いたのね。居心地が悪いのかと」
「いや、こんなに居心地の良い家は初めてかも。こんな家なら毎日住みたいと思うくらいだ」
「ありがとう。ここは私が基本設計してリノベーションしたから、そんなふうに言われると嬉しいわ」
「凄いな、もしかしてそれが本業? いや、詮索するつもりはないんだ。純粋に凄いと思って」
「貸家をいくつか持ってるから毎日バタバタしてるって感じなの。
ここは私の夢の国だから夢中になりすぎて仕事仲間にしょっちゅう怒られてるけど。
レオナ・・レオはお仕事で此処へ?」
ソフィーが次に入れたのは輝くような黄金色が美しい紅茶。
「この若葉のような瑞々しい感じは俺の大好きなやつだ。ダージリンのファーストフラッシュだろ? うーん、最高だ。
長期休暇をもらって帰って来たんだ。5年分の休暇だから結構長くて暇を持て余しそうだ」
「それで保育学校に興味を?」
(すっごく怪しい。レオはなんて返事をするつもり?)
「いや、知り合いに頼まれたんだ。正直渋々来たんだが美味しい紅茶は役得だった。何度も足を運んだ甲斐があった」
半分ほどに減った紅茶のカップを覗き込みながらレオナルドはにっこりと笑った。
「うん、美味い」
(あ、やっぱり)
「中を見学して行く?」
「失礼しました。差し出がましい事を申しました。お許し頂けますか?」
「勿論です。保育学校の事を知った方は皆さん同じ事を仰います。まだはじめたばかりではありますが問題なく経営出来ておりますし今後の資金計画もきちんと立てております」
(まだ若いのに随分しっかりしてるな。多分ジョシュアより下だろうに)
「ここでは子供達は何をして過ごすのですか?」
「思いっきり遊びます。かくれんぼや鬼ごっこ、絵本を読んだりクッキーを作ったり」
「バイオリンとかピアノとかは」
「一応置いてはあるのですが子供達には不評で・・。親御さんの希望もピアノよりパンやクッキー作りの方が良いみたいですし。
よほど興味を惹かない限り平民の子供には楽器は必要ないので。
それよりは名前が書けたり計算が出来たりする方が喜ばれます。他には掃除や洗濯の練習とか」
背筋を伸ばしソファに浅く腰掛けたソフィーは優雅で話し方や内容には深い知識が見受けられる。
(家名はなし・・平民だよな。裕福な?)
「私の記憶では6歳から平民学校に入り文字や計算を習うのではなかったかと」
「では、それより小さな子供はどんなふうに暮らしていると思いますか?」
(紅茶のカップを持つ仕草も洗練されてる)
幼い頃から女性に全く免疫のないレオナルドはソフィーの何気ない仕草の全てが気になって仕方ない。
「それは・・親とか祖父母とか」
「共働きする必要がある家庭や片親の子供達の中には子供だけで親の帰りを待つ子もいるんです。危険だと思われるでしょうがそういう家庭は結構多いんです。
その子達は火を使わずに済むようパンを齧って、危険のないように家に閉じこもって親の帰りを待ちます。怪我や病気があっても生活の為にはなかなか仕事が休めないですし」
「病気の子供も預かると?」
「ケースバイケースですね。専属の医師が常駐していますので彼の判断に一任しています」
「聞けば聞くほど収支が気になります」
「・・私自身別の収入があるので」
(だから昨日も一昨日もいなかったのか・・これだけの事業を支えるってなんの仕事だ?)
「怖くないのか? いや、あー。ここは敷地が結構広そうだと」
レオナルドはついうっかり口に出してしまった事に気付き慌てて誤魔化したつもりだったが上手くいかずソフィーはキョトンと首を傾げた。
「えーっと、何がとお聞きするべきでしょうか?」
「・・私の事が怖くないのか」
不思議そうな顔でレオナルドを見つめたソフィーはプッと吹き出した。
(もしかして女性と話す時は必ずこれを聞くのかな?)
「魔王? ベルセルク? 残念ながらあまり怖くはないみたいです。迫力満点ですけどね」
「怖くないなんて生まれて初めて言われた気がするな。いつも怯えて泣かれるんだが。堅苦しい言葉は終わりにしても良いかな? それとソフィーと呼んで構わないかな?」
(ああ、そうか。そうよね)
レオナルドは貴族の子息らしい振る舞いを諦めた。堅苦しいのが苦手だというのもあるし女性と真面に話す最初で最後のチャンスかもしれないし。
「はい。宜しくお願いします」
「では俺の事はレオで頼む」
「侯爵家の方にそれはちょっと・・紅茶のおかわりはいかがですか?」
「是非。俺が淹れると兄弟騎士達に毒薬か自白剤だって言われるんだ。それと三男だしとっくに家を出て騎士修道会に所属してるから」
ソフィーは席を立ち部屋の隅でお湯を沸かしはじめた。
「私のコーヒーと一緒かも。お仕置きの為に胃薬持参で飲むレベルだから」
「紅茶とコーヒーじゃそんなに違うのか・・じゃあ今度コーヒーを淹れてみようかな。もしかしたらそっちに才能が隠れてるのかも」
「騎士修道会の方には初めてお会いしました。敬虔な信者の方が参加されるのでしょう?」
「実は聖務の時はうたた寝してるか昼飯のことを考えてる。
出来れば敬語はなしでお願いしたいな。普段ムサイ男ばかりの中にいるから違和感が半端なくて」
「それでずっとソワソワしていらした・・いたのね。居心地が悪いのかと」
「いや、こんなに居心地の良い家は初めてかも。こんな家なら毎日住みたいと思うくらいだ」
「ありがとう。ここは私が基本設計してリノベーションしたから、そんなふうに言われると嬉しいわ」
「凄いな、もしかしてそれが本業? いや、詮索するつもりはないんだ。純粋に凄いと思って」
「貸家をいくつか持ってるから毎日バタバタしてるって感じなの。
ここは私の夢の国だから夢中になりすぎて仕事仲間にしょっちゅう怒られてるけど。
レオナ・・レオはお仕事で此処へ?」
ソフィーが次に入れたのは輝くような黄金色が美しい紅茶。
「この若葉のような瑞々しい感じは俺の大好きなやつだ。ダージリンのファーストフラッシュだろ? うーん、最高だ。
長期休暇をもらって帰って来たんだ。5年分の休暇だから結構長くて暇を持て余しそうだ」
「それで保育学校に興味を?」
(すっごく怪しい。レオはなんて返事をするつもり?)
「いや、知り合いに頼まれたんだ。正直渋々来たんだが美味しい紅茶は役得だった。何度も足を運んだ甲斐があった」
半分ほどに減った紅茶のカップを覗き込みながらレオナルドはにっこりと笑った。
「うん、美味い」
(あ、やっぱり)
「中を見学して行く?」
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