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5.ソフィー、爆走

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 ソフィーは今でも休みなしの終日営業で、3階の仕事部屋のソファに寝泊まりすることが多く従業員から顰蹙を買っている。

「せめて夜くらいベットで寝なさいって言ってるでしょ!」
「ここに簡易ベッド入れようかなぁ」

「社長が休み取らなかったら従業員が休みにくいでしょうが!」
「えー、ハンナはちゃーんと定時に帰ってるじゃん。事務の子達だって帰ってるよ?」

 顳顬をピクピクさせたハンナからのお叱りもなんのそののソフィーはマイペースを貫いている。
 ハンナは自称メイドの従業員で、会社設立前から貸家の管理全般を担当している非常に優秀な女性。複数の部下を抱え非常に忙しくしているはずなのに定時出勤定時退社の女王。
 仕事の合間にソフィーの書類仕事を手伝ったり秘書のような仕事もこなしているのに・・。

 ソフィーは実はハンナは魔法使いではないかと疑っているが、ハンナ曰く『私は飼育係か猛獣使い』だそう。


「部屋に帰ってもやりたい事を見つけたら気になって寝られないしね。毎回下まで降りるの面倒なんだもん」

「良い歳して『もん!』じゃなーい。てか、いつの間に仕事部屋に着替えと歯ブラシ常備したわけ?」

「ここにお風呂があれば完璧なんだけどねー。ほんとマジで失敗したー、1日一回は帰らないといけないのって面倒なんだよね。今からでもお風呂作ろうかなあ」

「はあ」






「わたくしソフィーは本日22歳になりましたー。それを記念しまして、新事業立ち上げまーす!!」


「・・今度は何を思いついたの?」

 ただ今お昼休憩中とばかりに足を組んで椅子に座って光に翳した爪をめつすがめつしていたハンナが僅かに動きを止めた。

「わお、ハンナがビビってる」

「ふん! 昨日のお休みにさ、こないだ出来たハンマムに行ってみたの。でね、マヌスキュアマニュキアしたのよ、見てみて~。だから仕事は頭脳労働限定でよろしく~」

 ハンマムはモロッコ式サウナとお風呂をあわせた様なお店で、そこでは美容にこだわる女性達がクリームを用いて爪のお手入れをするのがブームになっている。

「高いんでしょ?」

「貧乏人はやあねぇ。爪に色を施すのは古代エジプト時代からあるの。女は磨いてなんぼ! アンタも磨いたら少しは見られるようになるかもよ」

(貧乏人・・社長だよ? 一番沢山お給料貰ってるのに)

 とは言うもののハンナはソフィーのメイドと言うよりも家庭教師に近いので態度が大きいのは仕方ないとこはある。世間知らずで呑気なソフィーはハンナ的にかなり危なかしく見えたらしく・・。

「アンタ、そんなんじゃいつまで経ってもお金は貯まんないし直ぐに騙されて有り金全部毟り取られるんだから! アタシが鍛えてあげるから雇いなさい。職業はメイド、いいわね!」

 押しかけ女房ならぬ押しかけメイドになったハンナの言い分は、
『秘書とか家庭教師とかって礼儀とか気にしなきゃいけないじゃん。めんどくさーい。敬語嫌いだしー』

 メイドも礼儀大事なんだけど・・などと思いながらも家族みたいに接してくれるハンナはソフィーの中では仲良しのお姉ちゃんポジをキープしている。愚痴を言って怒られたり甘えて嫌がられる毎日が嬉しくて堪らないソフィーは時折態とハンナにボケをかましている。


(言っとくけど、そう言う趣味はないから。守銭奴ハンナがいなかったら会社なんて夢のまた夢だったし、口は悪いけどやりたい事をやりたいだけやらせてくれるし)


 テンションの高いソフィーはとんでもないことを言い出す事を知っているハンナは、ソフィーを横目で見ながら恐る恐る聞いてきた。

「で、何やるの?」

「ふっふっふ、よく聞いてくれました。保育学校をやる!!」

「・・ちょっと前まで家に帰るのに迷子になってたアンタが学校? 迷子防止に会社の上に自宅を持ってきたのに教育とかすんの?」

 プッと吹き出したハンナが涙を流しながら笑い転げた。

「ちっちっち、そう言うのとは違うの。ほ・い・く。つまり、学校に行く前の子供達を預かるの」

 バーンと立ち上がり左手は腰。指を振り立ててドヤ顔でハンナを見るとキョトンとした顔で見返された。

「は? 赤ん坊の世話をするってこと?」

 教区簿冊に登録されている平民は6歳から平民学校に通って文字や計算などを習う。

「でも、それよりちっちゃい子って野放しじゃん。親が働いてる間子供だけでお留守番してたりそこら辺でフラフラしてたり」

「爺ちゃん婆ちゃんが面倒見るんじゃないの?」

「いない家は? 子供だけでいると危なかったりするじゃん。
うちがそうだったのよねー。父さんと母さんがいない時お姉ちゃんと二人でお留守番するんだけど、お姉ちゃん何にもしなくてさ。自分の背より長い箒持って雑巾絞って・・。
今考えると結構危なかったなあって。お陰で奉公に行った先で掃除洗濯は褒められたんだけどね」

「まあ、確かに事故とかよく聞くけど」

「だから、そういう子を集めてお世話するの。条件は共働きか片親の家庭で面倒を見る人がいない家の5歳以下の子ども。
お昼寝や手洗いとかを教えたり健康的な外遊びをする。モフモフの犬とか飼ってみんなで走り回るの」

「ふーん、趣味と実益を兼ねるわけだ」

「うっ!(バレてる・・)」


「面白そうだけどさ、そいつらがお金払うとは思えない。慈善事業やるなら長期計画立てなくちゃあっという間に潰れるよ。有象無象が押しかけるの間違いないもん。
土地の買収や設備投資の資金算定と毎月の経費を予測して支払い計画を立てる。経営方針や保険、後は入所させる人の選別。これが一番大変かも」

 以前、チラッと言っていたがハンナは貴族令嬢だったらしい。知識豊富でかなりしっかり教育してもらったのではないかとソフィーは思っている。


「大丈夫、資金計画はハンナに任せるから問題なし!!」


 無責任極まりない発言でゴリ押ししたソフィーは、唖然としたハンナの抗議を無視して新規事業立ち上げた。

「頭脳労働限定で良いからね~」

「くそー、ソフィーを野放しにしたの誰よー!!」

「勿論、ハンナでっす」

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