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16.グレッグ参戦

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「男爵がルイス宛に手紙を届けたのなら私が行かなくちゃいけないわね。
ルイスはアポをとってくれる? ハンナには手土産を準備して貰わなくちゃ。
ジュードは今日中に最初から最後に会った時まで詳細に書き出して。何日の何時ごろにどこで会って何をしたのか、どんな話をしたのか。
誤魔化しや漏れは一切許さないわ。
うっかり忘れてましたなんてのが後から出てきたらタダじゃおかないし、自己保身に走った気配が見つかった時も同様だから。
ジュードがプライベートで自由を満喫するのをとやかく言うつもりはない。会社を巻き込まない限りはね。
被害を最小限に抑えるために必要なのは正直さと真摯な態度だって覚えておいて」

 初めて見るソフィーの厳しい態度にジュードは小さく頷き部屋を出た。

 静まりかえった部屋に小さく開けてある窓から大通りの喧騒が聞こえてきた。馬車の警笛の音やザワザワと大勢の人が行き交う気配は重苦しい雰囲気には不釣り合いで、ルイスが小さく身じろぎした時の靴が床を擦れる音やハンナが座る椅子の小さな軋み音が妙に大きく聞こえた。



「ルイス、グレイ男爵邸の作業状況を教えて」

「設計は終わって男爵のオーケーも出たんで資材の発注も終わってる」

「後戻りできないタイミングを狙ったみたいだけどウチとしてはラッキーだわ。ルイスは設計を見直して。条件は全く別のイメージ、独創的だけどクラシカルなのが良いわね。明確なテーマを持たせましょう。
それから発注済みの資材を使う事。人の手配も終わってるなら工事の開始も竣工日も遅らせない。出来るかしら?」

「出来るかどうかじゃねえ。必ずやる。もしかして勝算があるって事か?」

「出来るかどうかじゃなくて必ずやる・・でしょ?
それと、フレディに今やってる案件をストップしてルイスの手伝いに入って貰うわ」

「いや、それは・・」

「勘違いしないで。ルイス1人で出来ないって思ってるわけじゃないの。折角だからついでにフレディを鍛えてもらおうかなって。多分フレディに一番必要な勉強が出来そうな気がするだけ」

 フレディは独創的な発想に長けているが細かい事を気にしすぎる余り決断力にかける。そのお陰で新しいアイデアが思いつくのだが設計が形になるまでに時間がかかりすぎる。

「限られた条件の中で新しい発想を形にするのはフレディの一番得意な事だから。ただ、フレディがアイデアを捻り出すのに一番必要なを制限したら面白そうだなって思ったの。
最後まで頑張れたらフレディには特別ボーナスを出そうかしら。
因みにこれはルイスへのペナルティ。今までで一番大変な案件かもしれないけど追加で後輩の育成をして貰うわ」

「分かった。そう言う事なら後で声をかける。他の奴らに見られたくないから5階を作業場に借りる」

 部屋を出ていきかけた時ルイスがドアの前で立ち止まり振り返った。

「ソフィー、済まなかった。謝って済む問題じゃないのはわかっ「謝らないで。今回の件がどんな結果になるか分からないけど責任とって辞めるなんて許さない。どんな状況になっても社員の生活は絶対に守るしこの仕事も辞めない。だからルイスには責任とって今まで以上に働いて貰うわ」」

「・・ああ、馬車馬が呆れるくらい働かせて貰う。ソフィー・・ありがとうな」 





「ハンナ、大至急グレッグに連絡をしてくれる? 今なら直ぐに動けたはず」

 ハンナが急いで出かけていきソフィーはグレッグに渡すために男爵の手紙を書き写しはじめた。



 ソフィーがグレイ男爵邸の作業報告書を確認しているとハンナがグレッグを連れて入ってきた。

「よお、面白い事になってるって?」

「そこは見解の分かれるとこね。グレッグの調査能力が優秀なら面白いかもしれない。来てくれてありがとう」

 ソファに座り込んだグレッグの前に男爵の手紙とさっきまで読んでいた作業報告書を置き、ハンナが今回の経緯を説明している間にソフィーはお茶の準備をはじめた。
 
「んー、やっぱソフィーの紅茶は最高だな。しっかしまあ、ジュードの奴はショボい詐欺に引っかかったもんだ」

 幸せそうな顔で紅茶の香りを嗅いでから一口飲んだグレッグはヘラっと緊張感のかけらもない笑い方でソフィーを見やった。

「男爵の狙いってやっぱこの会社でしょ? 私の予想だけど・・グレイ男爵は手慣れてる気がするの」

 ソフィーはテーブルの上の手紙をトントンと指で叩いた。

「嵌められたって事でしょ? だってこの手紙の内容、何度も使ってるうちに無駄のない完璧な仕上がりになってるって感じ」

 グレッグに話し終えて落ち着いたのかハンナは紅茶と一緒に出したチョコレートに手を出している。

「よくある美人局ってやつだな。何度も会っているのを知っているにも関わらず名前を知らないだの、夜遅く帰った日に親しい貴族が泊まりに来ていてその貴族はとても厳格な人だとか」

「小煩い貴族が泊まりに来ている日に態々夜遊びしたがるなんて有り得ないって誰でもわかるわ」

「デイジーが帰りたがらなかったってのがジュードの嘘だったとしてもデイジーはその日は何としてでも早く帰りたがるのが普通だもんね」


「グレイ男爵って名前を聞いた事ないんだよな。今住んでるのは・・貴族専用の賃貸しのタウンハウスか」

「ええ、来たのはグレイ男爵と娘のデイジー。使用人は従者兼御者とメイドのみ」

「ふーん、ハンナは貴族名鑑を調べてくれるか? 一代貴族でも名前が載ってる最新のやつで。まあ載ってないと思うけどな。んで、載ってなかった場合この詐欺にあった一番の責任者は誰だと思う?」

 グレッグがテーブルの作業報告書をペラペラと捲りながら問いかけた。

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