上 下
14 / 65

14.明日は学校に行く(遊ぶ)日なのに

しおりを挟む
 レオが途端に真顔になった。

「えーっと、お前が何を聞いているのかさっぱりわからんな」

 ジョージアナに個人情報を渡すことは自分から処刑台にのぼるようなものだと学習しているレオは、仕事で敵と対峙した時よりも緊張した。

「洗いざらい吐いてもらおうかなーって。だってレオ兄様ったら鼻の下を伸ばしてすごーく楽しそうだもの」

(くそ、今日のこいつの顔はヤバい。獲物を見つけた猟犬みたいだ)

 前回ジョシュアのこの顔を見た時は、
『口を割らないなら僕がドレスを着てるのはレオ兄様の希望だって学園で言いふらす』
と脅され実行された。
 そのお陰でジョシュアが『あれは冗談だよ』と生徒達に言うまでレオナルドは弟に女装を強要する変態だと白い目で見られた。

「レオ兄様がそんなに嬉しそうな顔してるなんて気になって当然でしょー。どこで? 何があったの? さっさと吐いて楽になりましょうね」


 ギラリとジョシュアの目が光り、レオの恐怖の時間がはじまった・・。







「これは却下。今回のコンセプトをもう一度思い返してみて」

 ソフィーは設計士のフレディが提出してきた図面を突き返した。

「それほど裕福でない年配の方向け。老後や引退後を優雅に暮らす」

「その通り。お年寄りにはほんの数段が辛かったり危険だったりする。暑さや寒さも堪えるしちょっとした凸凹で転んだりする。フレディはお祖母様が一緒に住んでると言ってたけどすごく元気な方なんじゃない?」

「・・はい、婆ちゃんは我が家の中でも一番ってくらい元気で。どんなとこに住みたいか聞いてみたら今までより優雅な生活に憧れるって」

「元気な今考える優雅と将来を見据えた優雅は違うと思う。元気なうちは便利で洒落てて、揺れるレースのカーテンと香り高い紅茶の似合う家に住んでみたいって思うかもしれない。だけど先の人生を考えたら不安でいっぱいのはず。怪我をしたら? 病気になったら? そういう時にもただ安全で機能的なだけの家に住むのって寂しいと思う。それを解消した家が今回の狙いなの」

「もっかい勉強し直してきます」

「お祖母様に意見を聞く時聞き方を変えてみると良いかも。きっともっと詳しく教えてくれるんじゃないかしら。救貧院で話を聞くのもありだし」

「救貧院ですか? だってあそこに入る人達には家なんて買えないし、聞きに行ったら何言われるか」

「救貧院には貧窮者を対象とするもの以外に何らかの形で同じ雇用関係にあった人対象や寡婦対象の施設とかもあって、面白い話が聞けることがあるの。そういう所だと慈善団体ではなくてトラスト(信託団体)が維持してる」

「詳しいんですね」

「テラスハウスやアパートを手掛ける前に勉強の一環で色々行ってみたんだけど、内装や設備以外に使い勝手・不満・お気に入りの使い方・独自の工夫なんかも教えて貰えて勉強になったの」

「もう一回一から見直ししてみます」

「楽しみにしてる。老後と優雅を兼ね備えた家ってすごく難しいと思うけどフレディならきっと出来るわ」

 フレディが設計書をかき集めて部屋を出て行くと入れ替わりにハンナが入ってきた。

「フレディ坊やはどう?」

「迷走中ってとこかな。頑張ってるけどね」

「まだ早いってこと? メイソン辺りと組ませた方が良くない?」

「この案件はうちでは珍しく時間の余裕があるからフレディの勉強に丁度いいと思う。最初から先輩と組むと早く仕事を覚えはするけど独創性がなくなっちゃうから」

 少し変わり者のフレディは他人と歩調を合わせるのが苦手で独創的な物の見方をする。組織としてみれば使いにくいが、ソフィーの会社にはフレディのような一匹狼がかなりの数在籍していて独創的なアイデアを出し続けている。

「うちは個性的な家が売りだからね、フレディのようにちょっと人と違った発想をする人は大切なの」

「そうやって自分の休みを増やそうとしてるんでしょ?」

「えー、そんな事ないって。私のアイデアだけだと面白みがなくなってワンパターンになりかねないからね」

「そうそう、明日もこっちで働いてね」

 ソフィーが机の端に避けておいたおやつを吟味していたハンナが『これ珍しいじゃん』と言いながら勝手に食べながらサラッと一つ目の爆弾を投下した。

「えーっ、明日は学校の日なのに」

「諦めな。とうとうジュードがやらかしやがったの。この後顔を出すよう言っといたからきっちり締め上げてよね。お陰でうちは大損だわ」

 二つ目の爆弾投下。ジュードは第一設計部に格上げされたばかりのルーキー。

 ソフィーの会社は新築や大規模修繕を担当する第一設計部とリフォーム・リノベーションを担当する第二設計部の他、実際に建築を担当する部署や資材の調達管理を行う部署など複数に分かれている。メイドとして契約したハンナは現在統括部長として経理・人事・総務などに目を光らせている。

 件のジュードは第二設計部所属だったが第一設計部の部長ルイスの推薦で第一設計部に変わったばかりだった。


「何やらかしたの?」

 不満げな顔のソフィーが胡桃入りのコンフェッティを手に持って口をもぐもぐさせているハンナに尋ねるとハンナが小指を立てた。

「マジか。損害はいくら?」

「最大で見積もったら新築一軒と慰謝料。それと風評被害かな」

「ジュードが設計に参加したのって・・はあー、グレイ男爵のタウンハウスじゃん」

「そう、そこの娘に手を出したのよー」

「まだ乗り込んで来てないってことは男爵は知らないって事?」

「男爵から手・・」

 ハンナの言葉の途中でドアが強くノックされ問題のジュードがルイスと共に現れた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

好きな人と結婚出来ない俺に、姉が言った

しがついつか
恋愛
グレイキャット伯爵家の嫡男ジョージには、平民の恋人がいた。 彼女を妻にしたいと訴えるも、身分の差を理由に両親から反対される。 両親は彼の婚約者を選定中であった。 伯爵家を継ぐのだ。 伴侶が貴族の作法を知らない者では話にならない。 平民は諦めろ。 貴族らしく政略結婚を受け入れろ。 好きな人と結ばれない現実に憤る彼に、姉は言った。 「――で、彼女と結婚するために貴方はこれから何をするつもりなの?」 待ってるだけでは何も手に入らないのだから。

幼馴染みに婚約者を奪われ、妹や両親は私の財産を奪うつもりのようです。皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?

水上
恋愛
「僕は幼馴染みのベラと結婚して、幸せになるつもりだ」 結婚して幸せになる……、結構なことである。 祝福の言葉をかける場面なのだろうけれど、そんなことは不可能だった。 なぜなら、彼は幼馴染み以外の人物と婚約していて、その婚約者というのが、この私だからである。 伯爵令嬢である私、キャサリン・クローフォドは、婚約者であるジャック・ブリガムの言葉を、受け入れられなかった。 しかし、彼は勝手に話を進め、私は婚約破棄を言い渡された。 幼馴染みに婚約者を奪われ、私はショックを受けた。 そして、私の悲劇はそれだけではなかった。 なんと、私の妹であるジーナと両親が、私の財産を奪おうと動き始めたのである。 私の周りには、身勝手な人物が多すぎる。 しかし、私にも一人だけ味方がいた。 彼は、不適な笑みを浮かべる。 私から何もかも奪うなんて、あなたたちは少々やり過ぎました。 私は、やられたままで終わるつもりはないので、皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?

天才少女は旅に出る~婚約破棄されて、色々と面倒そうなので逃げることにします~

キョウキョウ
恋愛
ユリアンカは第一王子アーベルトに婚約破棄を告げられた。理由はイジメを行ったから。 事実を確認するためにユリアンカは質問を繰り返すが、イジメられたと証言するニアミーナの言葉だけ信じるアーベルト。 イジメは事実だとして、ユリアンカは捕まりそうになる どうやら、問答無用で処刑するつもりのようだ。 当然、ユリアンカは逃げ出す。そして彼女は、急いで創造主のもとへ向かった。 どうやら私は、婚約破棄を告げられたらしい。しかも、婚約相手の愛人をイジメていたそうだ。 そんな嘘で貶めようとしてくる彼ら。 報告を聞いた私は、王国から出ていくことに決めた。 こんな時のために用意しておいた天空の楽園を動かして、好き勝手に生きる。

王子からの縁談の話が来たのですが、双子の妹が私に成りすまして王子に会いに行きました。しかしその結果……

水上
恋愛
侯爵令嬢である私、エマ・ローリンズは、縁談の話を聞いて喜んでいた。 相手はなんと、この国の第三王子であるウィリアム・ガーヴィー様である。 思わぬ縁談だったけれど、本当に嬉しかった。 しかし、その喜びは、すぐに消え失せた。 それは、私の双子の妹であるヘレン・ローリンズのせいだ。 彼女と、彼女を溺愛している両親は、ヘレンこそが、ウィリアム王子にふさわしいと言い出し、とんでもない手段に出るのだった。 それは、妹のヘレンが私に成りすまして、王子に近づくというものだった。 私たちはそっくりの双子だから、確かに見た目で判断するのは難しい。 でも、そんなバカなこと、成功するはずがないがないと思っていた。 しかし、ヘレンは王宮に招かれ、幸せな生活を送り始めた。 一方、私は王子を騙そうとした罪で捕らえられてしまう。 すべて、ヘレンと両親の思惑通りに事が進んでいた。 しかし、そんなヘレンの幸せは、いつまでも続くことはなかった。 彼女は幸せの始まりだと思っていたようだけれど、それは地獄の始まりなのだった……。 ※この作品は、旧作を加筆、修正して再掲載したものです。

(完結)妹の為に薬草を採りに行ったら、婚約者を奪われていましたーーでも、そんな男で本当にいいの?

青空一夏
恋愛
妹を溺愛する薬師である姉は、病弱な妹の為によく効くという薬草を遠方まで探す旅に出た。だが半年後に戻ってくると、自分の婚約者が妹と・・・・・・ 心優しい姉と、心が醜い妹のお話し。妹が大好きな天然系ポジティブ姉。コメディ。もう一回言います。コメディです。 ※ご注意 これは一切史実に基づいていない異世界のお話しです。現代的言葉遣いや、食べ物や商品、機器など、唐突に現れる可能性もありますのでご了承くださいませ。ファンタジー要素多め。コメディ。 この異世界では薬師は貴族令嬢がなるものではない、という設定です。

婚約破棄をされて魔導図書館の運営からも外されたのに今さら私が協力すると思っているんですか?絶対に協力なんてしませんよ!

しまうま弁当
恋愛
ユーゲルス公爵家の跡取りベルタスとの婚約していたメルティだったが、婚約者のベルタスから突然の婚約破棄を突き付けられたのだった。しかもベルタスと一緒に現れた同級生のミーシャに正妻の座に加えて魔導司書の座まで奪われてしまう。罵声を浴びせられ罪まで擦り付けられたメルティは婚約破棄を受け入れ公爵家を去る事にしたのでした。メルティがいなくなって大喜びしていたベルタスとミーシャであったが魔導図書館の設立をしなければならなくなり、それに伴いどんどん歯車が狂っていく。ベルタスとミーシャはメルティがいなくなったツケをドンドン支払わなければならなくなるのでした。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈 
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

処理中です...