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11.情熱を滾らせる末っ子 sideレオ

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 レオナルドが騎士修道会を出発して2週間経った。修道服以外を着るのは偵察の時の平民服くらいだったので、妙に着心地が悪い気がする。ちなみに今着ているのは5年前に騎士修道会に向かう時着ていた服。

(多分サイズの問題だな。肩と腕がパツパツだ)

 のんびりと馬を走らせ気が向いた宿に泊まり好きなものを食べる生活はレオナルドの眉間の皺を薄くしてくれたが、どこに行っても怖がられるのは変わらなかった。

「ぼっ、冒険者の方です・・よね?」
「ひっ! ごめんなさいぃ」



 騎士修道会にやって来たアントリム侯爵家の末っ子はのジョシュア。

 今ジョシュアが住んでいるのは王都の貴族街にある修繕してそれほど経っていない屋敷。3階建てのバロック様式の建物は楕円をモチーフとする過剰な装飾の豪奢な建物だった。

(こんなとこで幼児学校をやるのか?)


 レオが玄関脇の警備室に声をかけるとうたた寝していた門番が『ひいっ』と聞き慣れた悲鳴を上げた。引き攣っている門番にレオナルドが名前を告げると玄関に向けて脱兎の如く走って行った。

(あんなんで門番の役に立つのか? 王都は平和なんだな)


「レオ兄様、遅ーい。ずっと待ってたのよ」

 門番を放置したままジョシュアがドレスの裾をからげて豪快に走ってきた。

「ああ、久しぶりの休暇なんでちょっとのんびりしてた」

「しょうがないわね。で、沢山怖がらせてきた?」

「そこは、楽しんできたのかを聞くとこだろ?」

 ニマニマ笑うジョシュアはレオの腕を引き屋敷に向けて歩き出した。

「レオ兄様が楽しんだのは顔を見たら分かるもの。それと同じくらい周りを恐怖に陥れてきたのもね」

 レオナルドが来たのが嬉しいようでジョシュアは腕にぶら下がったまま離れようとしない。昔からジョシュアは3人の兄の中でもレオナルドに一番懐いていたので、レオナルドが騎士修道会に向けて出発する日は前日から泣き続けて目が開かないくらい泣き腫らしていた。

「レオ兄様が出て行くのはお父様のせいね。絶対に絶対に許さないんだからね!」

 父親は小さい頃から末っ子のジョシュアを溺愛していたが、マーカス長兄の手紙には『あの日以来ジョシュアに塩対応され続けて拗ねている』と書かれていた。



「なあ、こんな奴に幼児学校の手伝いができると思うのか?」

「大丈夫。詳しい事は中で話すけど、レオ兄様にピッタリのお仕事なの」

 装飾過多のドアを通り抜ける時、待機していた従僕が顔を引き攣らせているのが目に入った。ジョシュアはメイドにお茶の準備を頼みながら応接室らしき部屋にレオを連れ込んだ。

「どう、素敵でしょう? 直すのに2年もかかったのよ。元々は別の目的だったんだけど・・それぞれの部屋の家具は別々の様式になってるから後で一緒に見て回りましょうね」

「一体どれだけ金をかけたんだ?」

「貴族の子女を預かるのよ。それなりじゃなきゃ格好がつかないと思うわ」

 レオの方を見ないようにしながらメイドがお茶を準備し終えるとそそくさと部屋を出て行った。レオがカップを手にして香りを楽しんでいるとジョシュアがじっと凝視してきた。

「ん?」

「何でみんな怖がるのかなあって思って見てたの。見慣れたらレオ兄様が一番優しくてカッコいいって分かると思うんだけどなぁ」

な。見慣れるまで凝視するのはハードだぞ? で、何が問題なんだ?」

「んー、それより先に部屋を見てもらおうかなー。自慢の設備なの」

 よしっと立ち上がったジョシュアに腕を引っ張られたレオナルドは大急ぎでお茶を飲み干して順番に部屋を見て回った。


「さっきいたのは一番大きな部屋で応接室だから一番豪華な様式にしたの。それがウィリアム&メアリー様式」

 この様式は左右非対称で渦巻きの模様や翼を広げた鷲などのモチーフが多く芸術的な要素がとても強い。パーケットリー寄木細工マーケットリー 象嵌などのデザインが影響している。

「この動物の脚のカタチをデザインした『カブリオールレッグ』が特徴なの」


 次の部屋はチューダー様式。ローレリーフ 浅浮き彫りと呼ばれる彫りで家具の前面などにチューダーローズやメダリオンヘッドが彫られている。

 エリザベス様式の部屋は、背もたれのついたダイニングチェアやバルボスレッグと呼ばれる細工が珍しい。部屋の傍らにはドローリーフテーブル 伸張式テーブルが置かれていた。

「ジャコビアン様式のこの部屋が一番のお気に入り。装飾が華やかで女の子らしいでしょ。何よりこの挽きもの細工を見て! これってろくろや旋盤を使って作ってるのよ。ここは女の子専用の部屋に決めてるの」

 家具の前面や側面に『リネンフォールド』と呼ばれる布を折り返したようなデザインの彫りもあった。

「じゃじゃーん、引き出しの出し入れすっごくスムーズでしょ? サイドランナーって言うの」

 うっとりと家具を眺めるジョシュアは閉めたばかりの引き出しを開けたり家具の彫り物を撫でたりしながら『ほうっ』っと溜息をついた。

「ここはウォルナット製の家具のカロリアン様式のお部屋。木目が細かくて木が硬くないからこんな大ぶりの彫刻が出来るようになったの。この螺旋『バーリーシュガーツイスト』って言うのよ」


 レオはジョシュアについて食堂や厨房も見て回った。

「なあ、幼児学校より女性用のサロンとか博物館の方が合ってないか?」

「そんなことないわよー。小さい頃から本物に囲まれてこそ真の貴族になれるの。美しい部屋で正しい教育を受ければ学校に入った時落ちこぼれなんて絶対に出ないはず」

「ここで家庭教師をするって事か?」

「そう、学校に入る前に家庭教師から逃げ出して遊び呆けるガキども・・子供達を正しく育成するの」

 ドヤ顔のジョシュアが元気良くサムズアップした。

「で、何が問題なんだ?」

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