上 下
29 / 37

29.国王の謝罪、第一弾

しおりを挟む
「はい! この度のことは全て誤解から生じたものでございます。今後はリリスティーナを妻として大切にいたしたいと思います」

「全ては醜聞のせいだと言えば許されると思おておるのか?」

「あの、思っていると申しますか⋯⋯事実、醜聞が誤りでそれが告知されればなんの問題もなくなりますし。リリスティーナを妻として大切にして参ります」


「ディーセル、余が其方にリリスティーナとの縁組を提案した際、醜聞について知っておったな。その上で婚姻をしたのではなかったか?」

「はい、社交界で有名でしたから」

「ならば初めからあのような扱いをして良いと思いながら縁を結んだと言うことじゃな」

「は? え? いや、そんなつもりはなくて、あの」

「後から知って裏切られたと思うたならまだ話はわかる。じゃが、知っておったならばそうするつもりだったと思われても仕方あるまい」

「えっとその」

「例えばじゃ。元犯罪者をそれを承知で雇ったとしよう。その者を犯罪者のくせにと言い続け虐げ続ける主人は正しいか?」

「えーっと、元々そいつが犯罪を犯さなければそんな事は起きないわけで⋯⋯犯罪を犯したなら反省するべきだし⋯⋯主人が叱るのを素直に受けとめるのが⋯⋯正しい?」


「はあ、余はこのような愚か者にリリスティーナを娶せたのか⋯⋯。
マルフォーセバスと申したな。其の方はどう思うか答えてみよ」

「恐れながら申し上げます。その主人は元犯罪者を雇うべきではなかったと思います。瑕疵のある者を受け入れる器がない方でございます」

「そうじゃ。例えは悪かったが、ディーセルがした事はそれと同じ。許すことはできん」

「あっ、私はそんなつもりはなくて、その」



オーエンマックス、報告を」

「はい。ディーセル家は婚約が整い王家より祝い金が下賜された直後ヘールスの別荘地に広大な敷地の屋敷を購入。また、王都の外れに購入した屋敷には家具の搬入と同時に愛人を住まわせました。
父親は馬車を母親はイエローダイヤのアクセサリー一式を購入。
結婚式でディーセル卿は新しく購入した別荘へ新婚旅行に行くと言い、2日後に愛人を伴い出発。約1ヶ月逗留。
社交は全て愛人を伴い『魔女は反省させる為に屋敷で蟄居』と公言。
結婚後約半年で愛人を同居させ出産後は両親共育児放棄と虐待。
リリスティーナ様の私物を売却した代金を散財して作った支払いに流用。
婚姻の取り決めで、ポーレット伯爵家から毎月支援金がディーセル伯爵家に支払われておりますが、それ以外にリリスティーナ様の購入分として仕立て屋や宝飾品の代金の一部がポーレット伯爵家へ請求されています」

「えっ? お父様、それは本当ですの?」

「ああ、リリスティーナが気にすると思って言わなかったんだ。心配するな、きちんと領収書はとってあるから返していただくつもりで立て替えておった」

 リリスティーナがディーセル家で孤軍奮闘している間少しでも手助けになればとデイビッドからの要求を飲み続けていた。デイビッド達に内緒で帰ってきた時には遠慮するリリスティーナに食事を取らせ日持ちのするチーズや果物を持たせた。


『そんなに心配しなくても大丈夫なのよ。裏口の鍵が壊れてたからそこから毎日ご飯を食べに出かけてるの。最近はエアリアスやコレットとも会ってるしこの間なんてグレーニア公爵夫人にご馳走様していただいたの。おまけに美味しいお菓子をお土産にいただいたし。
出かけられない時用の食料も常に確保してあって最近は食べ過ぎを気にしてるくらい。
だからと言ってあの人達を許すつもりはないけどね』

『掃除だってすごく狭いお部屋で家具もほとんどないからすぐ終わっちゃうし、お洗濯も自分の着替えとかだけだとあっという間に終わるのよ。
狭い部屋と物がないのは逆にラッキーなの』


 悲惨な環境だと心配されたが職業訓練だと気持ちを切り替えてからのリリスティーナは周りが思うより逞しかったようだ。

『3年って期限があるからそう思えるのかもしれませんけど、お父様が仰っておられた楽しんだ者が勝ちっていうのがこれだと思うとあまり辛くありませんの』



「リリスティーナ様が口にされなかったものの中で悪質なものを抜粋いたしました。以上です」

「何か申し開きはあるか?」

「あっ、あうぅ」


「結納金・婚姻に際しポーレット伯爵家が準備しディーセル家に運ばれた品・毎月の支援金・追加請求のあった支払い分・3年間の不当な扱いに対する慰謝料をポーレット伯爵家に支払う事を命ずる。
期限は3年。それをすぎた場合は違約金が発生し利息が生じるものとする。
また、その支払いについては男性は鉱山労働か兵役、女性は鉱山の掃除婦か娼館行きとなり給金より強制的に返済が行われる。
ディーセル伯爵家は管財人と弁護士の監視下に置かれる。資産隠しや支払いの不当な遅延、拒否、逃亡などの不正行為が確認された場合は犯罪者として逮捕処罰される。
陛下の温情により、王家から下賜した祝い金や品についてはポーレット伯爵家への返済完了後に行うものとする」

「王家への返済を遅くした分、リリスティーナへの返済を滞りなくいたせ。よいな」


「そんな⋯⋯一体いくらになるんだ」


「オーエン、大切な事を忘れておるであろう? ディーセルは独身になったのじゃ。婚姻無効であるからには直ぐにでも結婚ができる」

「失礼いたしました。今日は教会におります上に大司教様も列席しておられます。この後、ディーセル家デイビッド・ディーセル伯爵とブリトニー・ヴィッツ男爵令嬢の結婚式を執り行う予定でおります」

「嫌よ!! なんで私がこんな貧乏人と結婚しなくちゃいけないのよ! リリスティーナに支払ったらどうせ何にも残んないんでしょ。それに、リリスティーナを虐めて追い出したとか言われて友達がいなくなっちゃうわ」


「ご安心ください。大司教様から特別結婚許可証を頂いておりますのでわたくしからプレゼントさせて下さいませ。
デイビッド様、ブリトニー様がデイビッド様と結婚したいと

 ずっと黙り込んで様子を伺っていたブリトニーへ、リリスティーナからの最後の痛烈なしっぺ返しにポーレット伯爵家とその仲間達は満面の笑みを浮かべた。




 国王と王妃が退席し、リリスティーナ達は別室に移動した。

 断罪の行われた広間では逃げられないように騎士団に周りを包囲された状態でデイビッドとブリトニーの結婚式が行われたと言う。

 騎士団は国王と王妃の護衛以外にも役目があったのだと初めて気付いたセバス達だった。めでたくディーセル伯爵家の女主人になったブリトニーには夫と共に返済の義務を負うことになった。

しおりを挟む
感想 257

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

婚約破棄と追放を宣告されてしまいましたが、そのお陰で私は幸せまっしぐらです。一方、婚約者とその幼馴染みは……

水上
恋愛
侯爵令嬢である私、シャロン・ライテルは、婚約者である第二王子のローレンス・シェイファーに婚約破棄を言い渡された。 それは、彼の幼馴染みであるグレース・キャレラの陰謀で、私が犯してもいない罪を着せられたせいだ。 そして、いくら無実を主張しても、ローレンスは私の事を信じてくれなかった。 さらに私は、婚約破棄だけでなく、追放まで宣告されてしまう。 高らかに笑うグレースや信じてくれないローレンスを見て、私の体は震えていた。 しかし、以外なことにその件がきっかけで、私は幸せまっしぐらになるのだった。 一方、私を陥れたグレースとローレンスは……。

完結 裏切りは復讐劇の始まり

音爽(ネソウ)
恋愛
良くある政略結婚、不本意なのはお互い様。 しかし、夫はそうではなく妻に対して憎悪の気持ちを抱いていた。 「お前さえいなければ!俺はもっと幸せになれるのだ」

婚約破棄のその後に

ゆーぞー
恋愛
「ライラ、婚約は破棄させてもらおう」 来月結婚するはずだった婚約者のレナード・アイザックス様に王宮の夜会で言われてしまった。しかもレナード様の隣には侯爵家のご令嬢メリア・リオンヌ様。 「あなた程度の人が彼と結婚できると本気で考えていたの?」 一方的に言われ混乱している最中、王妃様が現れて。 見たことも聞いたこともない人と結婚することになってしまった。

王太子殿下の小夜曲

緑谷めい
恋愛
 私は侯爵家令嬢フローラ・クライン。私が初めてバルド王太子殿下とお会いしたのは、殿下も私も共に10歳だった春のこと。私は知らないうちに王太子殿下の婚約者候補になっていた。けれど婚約者候補は私を含めて4人。その中には私の憧れの公爵家令嬢マーガレット様もいらっしゃった。これはもう出来レースだわ。王太子殿下の婚約者は完璧令嬢マーガレット様で決まりでしょ! 自分はただの数合わせだと確信した私は、とてもお気楽にバルド王太子殿下との顔合わせに招かれた王宮へ向かったのだが、そこで待ち受けていたのは……!? フローラの明日はどっちだ!?

(完)婚約破棄ですね、従姉妹とどうかお幸せに

青空一夏
恋愛
私の婚約者は従姉妹の方が好きになってしまったようなの。 仕方がないから従姉妹に譲りますわ。 どうぞ、お幸せに! ざまぁ。中世ヨーロッパ風の異世界。中性ヨーロッパの文明とは違う点が(例えば現代的な文明の機器など)でてくるかもしれません。ゆるふわ設定ご都合主義。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

処理中です...