上 下
25 / 37

25.はじまりの時

しおりを挟む
 サルバン教会から呼び出されたのはディーセル伯爵家の3人とブリトニー・アレックスの計5人だが話し合いに必要な証人などがいれば人数制限なく参加可能とされていた。

「よし、裁判は暫く時間がかかりそうだ。取り敢えず白い結婚などと言う茶番を潰してやろう」

 通達が届いた翌日、ディーセル一家は教会に意気揚々と乗り込むべく玄関ホールに集まった。
 豪奢な衣装に身を包んだ5人はセバスと女中頭のフィンチだけでなく従者やメイド計8人を連れて行くことにした。ディーセル伯爵家に仕えている年数が長い者から順に選ばれた彼等は皆一様に引き攣った顔をしている。

「お前達のやるべき事と話すべき内容は覚えているだろうな。何年も不快な思いをしてきたお前達の気持ちは理解しておる。ヘマをしたらクビだがきちんと証言すれば褒美をやる」


 5人にはそれぞれ従者やメイドなどがついてくるので総勢20名の大所帯になりディーセル家の馬車2台と貸し馬車2台で出発した。

「これだけ多くの証人がいれは大司教も納得するだろう」

「ええ、忠誠心で選びましたから私たちの期待に応えてくれるはずですわ」


 貴族街の外れにあるサルバン教会の正面に馬車を停めた一行はジョーダンとライラを先頭にゾロゾロと入り口を入って行った。

 教会の正面扉を開けると狭い前室があり司祭が足速にやってきた。

「ジョーダン・ディーセルだ。大司教のナサニエル様に取り次いでくれたまえ」

「ディーセル伯爵家の方々ですね。お聞きしておりますのでこちらへどうぞ」


 司祭に連れられて入り口を入るとそこは広々とした聖堂で、正面に十字架の掲げられた祭壇があった。
 両側には火が灯された蝋燭があり、数人の信者が椅子に腰掛け祈りを捧げているように見受けられた。

 入り口横の水盤に入っている聖水に指先を浸し十字を切るっているのは信者の一人だろう。
 
 司祭の後をついて聖堂の左端を進むと一つ目のドアの前で司祭が立ち止まった。

「男性はこのお部屋、女性の方はお隣のお部屋で持ち物などの確認をさせて頂きます。それぞれに助祭とシスターが待機しておりますので指示に従っていただければ簡単に終わりますので」

「どう言う事だ?」

「教会の規則でございます。お手数をお掛けしますが順番にお一人ずつお入り下さい。お子様は乳母の方とご一緒にこちらへどうぞ」

 穏やかな表情だが毅然とした態度の司祭に言われるままに部屋で身体検査を行う。

 全員が終わる頃には長い時間がかかり立たされたままのジョーダン達が不平を漏らした。

「せめて椅子くらい」


 全員の身体検査が終わり廊下を奥へと進み突き当たりのドアを開けて渡り廊下から隣の建物に移動した。目の前には両開きの巨大な扉があり一列に武装した騎士団が並んでいる。

「なんとも大掛かりだな。ここはいつもこのような警備体制なのか?」

「左様でございます。滅多に使われる事はありませんがここを使用する際は殆どこのような状態ですね。ご準備は宜しいでしょうか?」

 司祭の話に納得したジョーダンが軽く頷きライラと共に胸を張って扉の前に立った。その後ろにデイビッドとブリトニー、次は乳母に抱かれたアレックスとセバス。女中頭達がわらわらと後ろに並んでいった。

 司祭が頷くと騎士が扉を開けた。


 夜会が開けそうなほどの大きな広間の高い天井には宗教画が描かれ、窓のない壁にはタペストリーや巨大な絵画が飾られている。その前に等間隔で並ぶ騎士団全員が正装で帯剣しているのが異様な雰囲気を醸し出していた。

 広間の突き当たりは緞帳が下されておりその前には祭服を纏った大司教が豪華な椅子に腰掛け、その斜め後ろに2人の助祭が立っていた。広間の中央を仕切るように並んでいる2列の長テーブルと椅子は両家を仕切る役割も持っているのだろう。

 右側にはリリスティーナとポーレット伯爵一家が並んで立ち、その後ろにいるのはローブを纏った男性と女性が一人ずつ。

 リリスティーナ達が少人数で並んでいるのを見たディーセル伯爵一家はゲラゲラ・クスクスと笑いはじめた。

「随分とお粗末なメンバーだな」


「ではディーセル伯爵様御一行は左側にどうぞ。少しお時間がかかる可能性もございますので身分に拘らずご着席いただけますでしょうか?」

 毅然とした態度で腰掛けるリリスティーナ達を睨みつけたディーセル伯爵一家の側では武器を持つ騎士団の迫力に気圧された従者やメイドたちがビクビクしながら端の方に腰掛けた。

(この騎士団の様子は⋯⋯話の終わりに私物の窃盗や虐待で逮捕する予定でしょうか?)



「ご挨拶が遅れましたが司祭のセルジオと申します。それでは私が双方にお声がけさせていただきます。
皆様は今、神の御前におられます。ここで話す全ての内容を神はお聞きになられている事をしっかりと御心に留め置かれ発言されますように。
嘘偽りを申せば神は怒り悲しみ、真実を述べるものには祝福が齎される事でしょう。
まずはリリスティーナ・ディーセル様ご発言をお願いします」

「はい、わたくしリリスティーナ・ディーセルは夫であるデイビッド・ディーセルに対し白い結婚による婚姻無効を要求致します」

「デイビッド・ディーセル様ご発言をどうぞ」

「認めません。貴様は⋯⋯だって証拠がないだろう?」

「証人は宮廷医師のルーク・エーギル様と同じくサラ・モーガン様です。お二人には白い結婚の申し立てが正当であるとの診断いただき証明書も発行していただいております」

「嘘だ! 貴様のような淫売が未通だなんてあるわけがない」

「ここは教会の敷地内ですぞ! 神の御前では言葉を謹んでいただきます!」

 司祭の言葉にデイビッドが真っ青になり大司教を見遣ると首を横に振りながら眉間に皺を寄せていた。

「落ち着きなさい、人を買収して虚偽の申し立てをさせるのはあの女の得意であると忘れたのか!? 彼奴は以前にも学園長を買収し成績を改竄させたではないか」

「そ、そうでした。まさか宮廷医師を丸め込んでいるとは思わず」

「では私から証拠「お待ち下さい。どうか発言をお許しいただけませんでしょうか」」


 乳母の膝に座ったアレックスの隣に腰掛けていたセバスが立ち上がった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

モブだった私、今日からヒロインです!

まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。 このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。 そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。 だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン…… モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして? ※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。 ※印はR部分になります。

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

愛しているだなんて戯言を言われても迷惑です

風見ゆうみ
恋愛
わたくし、ルキア・レイング伯爵令嬢は、政略結婚により、ドーウッド伯爵家の次男であるミゲル・ドーウッドと結婚いたしました。 ミゲルは次男ですから、ドーウッド家を継げないため、レイング家の婿養子となり、レイング家の伯爵の爵位を継ぐ事になったのです。 女性でも爵位を継げる国ではありましたが、そうしなかったのは、わたくしは泣き虫で、声も小さく、何か言われるたびに、怯えてビクビクしていましたから。 結婚式の日の晩、寝室に向かうと、わたくしはミゲルから「本当は君の様な女性とは結婚したくなかった。爵位の為だ。君の事なんて愛してもいないし、これから、愛せるわけがない」と言われてしまいます。 何もかも嫌になった、わたくしは、死を選んだのですが…。 「はあ? なんで、私が死なないといけないの!? 悪いのはあっちじゃないの!」 死んだはずのルキアの身体に事故で亡くなった、私、スズの魂が入り込んでしまった。 今のところ、爵位はミゲルにはなく、父のままである。 この男に渡すくらいなら、私が女伯爵になるわ! 性格が変わった私に、ミゲルは態度を変えてきたけど、絶対に離婚! 当たり前でしょ。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観です。 ※ざまぁは過度ではありません。 ※話が気に入らない場合は閉じて下さいませ。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

初夜で白い結婚を宣言する男は夫ではなく敵です

編端みどり
恋愛
政略結婚をしたミモザは、初夜のベッドで夫から宣言された。 「君とは白い結婚になる。私は愛している人が居るからな」 腹が立ち過ぎたミモザは夫家族を破滅させる計画を立てる。白い結婚ってとっても便利なシステムなんですよ? 3年どうにか耐えると決意したミモザだが、あまりに都合の良いように扱われ過ぎて、耐えられなくなってしまう。 そんなミモザを常に見守る影が居て…。

聖女の妹に幼馴染の王子をとられて婚約破棄「神に見捨てられた無能の職業は追放!」隣国で優秀な女性だと溺愛される

window
恋愛
公爵令嬢アンナ・ローレンスはグランベル王国第一王子ダニエル・クロムハートに突然の婚約破棄を言い渡された。 その理由はアンナの職業にあった。職業至上主義の世界でアンナは無能と言われる職業を成人の儀で神に与えられた。その日からアンナは転落人生を歩むことになった。公爵家の家族に使用人はアンナに冷たい態度を取り始める。 アンナにはレイチェルという妹がいた。そのレイチェルの職業は神に選ばれた人しかなれない特別な職業と言われる聖女。アンナとレイチェルは才能を比較された。姉のアンナは能力が劣っていると言われて苦しい日常を送る。 そして幼馴染でもある婚約者のダニエルをレイチェルに取られて最終的には公爵家当主の父ジョセフによって公爵家を追放されてしまった。 貴族から平民に落とされたアンナは旅に出て違う国で新しい生活をスタートする。一方アンナが出て行った公爵家では様々な問題が発生する。実はアンナは一人で公爵家のあらゆる仕事をこなしていた。使用人たちはアンナに無能だからとぞんざいに扱って仕事を押し付けていた。

処理中です...