上 下
23 / 37

23.妄想膨らむ者達

しおりを挟む
「リリスティーナの私物を売り払ったお金は返ってこなかった事にしたら? うちとしては迷惑料の一部を払って貰ったって事でいいんじゃないかしら」

「しかし⋯⋯それではメイド達の罪が重くなってしまいます」

「あら、罪に問うつもりなんてないわよ。忠誠心だったからって言ったでしょう? ブリジットの嘘だって可愛いものだわ」

「ブリジット? 母上、彼女の名前はブリトニーだよ? 何で嘘が可愛いの?」

「あら、そうなの? 気付かなかったわ。
ブリトニーが嘘をついたのは単なるヤキモチでしょう? それだけデイビッドの事を愛してるのよ。相手がリリスティーナなら離婚なんて簡単に出来たのに、好きな人に出会った時点でデイビッドはリリスティーナと別れるべきだったの」

「えっ、あーうん」

 デイビッドが結婚して10か月目に元気な男の子が産まれたが大らか間抜けな両親は気付いていなかった。


「やれるもんならやってみろと言わんばかりの態度だったが訴訟を起こされたと知ったら大慌てで頭を下げてくるだろう」

「えー、訴訟とか面倒そうだなあ。でも父上達に任せるよ」

「それからオーエン伯爵に連絡をとりましょう。デイビッドは随分ひどい事を言われたようだし、あんな目にあったのに妹さんは魔女の味方をしてますって教えて差し上げたら道理を諭してくださるんじゃないかしら」

「ならコレット・グレーニアもだよ。アイツにはもっとひどい事を言われたんだ(公爵夫人の事は⋯⋯言うと怒られそうだな)」

「グレーニア公爵家に苦情を言うのは流石にまずかろう。変に機嫌を損ねたら何をされるかわからんからな。
オーエン伯爵の様子次第で名前を出すにとどめておいた方が無難だろう」

「じゃあ、俺はブリトニーに会ってくるかな。あっ、その前に風呂に入らなくちゃ。セバス急いで準備してくれ。八つ当たりしたのを謝らないといけないし⋯⋯ネックレスの一つでも買ってやれば。ブリトニーはまだ客間にいるの?」

「はい」

「なら早めに元の部屋に戻してやらなきゃかわいそうだ」

「あの、お願いがございます。今回の騒動が治るまでブリトニー様のお部屋をこのまま封印させて下さい」

 セバスが頭を下げた。

「そんな必要はないだろ? ブリトニーはもうすぐ女主人になるんだし」

「でしたら、一切の貴重品を持ち出さないよう徹底していただけませんでしょうか? どうかお願いします。私を信じて部屋の使用と荷物の持ち出し禁止を徹底して下さい。
新しく購入するのも状況が落ち着いた後にして下さい」

 デイビッド達は楽観視しているが今後ディーセル伯爵家は間違いなく多額の負債を抱えるはずだと思ったセバスは必死に懇願した。ブリトニーの性格を考えると状況が怪しくなった時点で金目の物を全て持っていなくなるはず。もしかしたら既にその予定でいるかも知れない。

「取り越し苦労で終わった時はどんな責めでもお受けします。どうか現在ある資産の確保をお願いします」


「つまりセバスはわしらが支援金やらを払わなければならなくなると言いたいんだな? わしの考えが間違っていると」

「そうではございません。ただ今回は不確定要素がありそうな気がいたしますし、安全対策をとっておくべきと思うのです」

 今この屋敷にある物はリリスティーナとポーレット伯爵家への返済に回すべき物ばかり。リリスティーナに卑劣な行いをし続けたセバスに出来る唯一の謝罪は少しでも返済額を増やし誠意を見せる事だと思った。

(リリスティーナ様の私物を売った代金を使い込む気でおられるし、払う金がなくなったら今度は使用人達に『お前達のせいだ』くらいは言いそうだし)


「まあ良いんじゃないかしら。セバスの話ではブリジッ⋯⋯ブリトニーは高額なお品をたくさん買っているみたいだし。これからディーセル伯爵家の女主人として一から学んでもらう為には一度諦めさせた方が良いかもしれないわね」

「それなら良いだろう。だがな、今回の事を食い止められなかったことといい今の発言といい降格もあり得ると覚悟しておくんだな」

「はい、覚悟はできております」


「今月の支払いはメイドから返してもらった金で良いんだよね」

「それは構わないでしょ? あの娘の持ち物を売ったお金がこの家の生活費に変わるだけですもの。あの娘がここに住んでいた時の生活費だわ」

「メイドもつけておりませんでしたし、食事も出さず掃除洗濯もご自身でしておられました。生活費とするのは問題があるのではありませんか? 裁判をおこされるのでしたらこちらの不利になります」

「誰もそんな事は知らないのよ。家の中の事なんて言わなければ良いだけ。セバスは頭が固すぎるわ」

(ん? 誰かに⋯⋯誰かが知ってるって言われたような。まあいいか)


 ブリトニーと使用人達の口から家の内情が社交界で有名になっているとコレットから聞いたのを思い出せなかったデイビッドは、母親の言う通りにして口を閉ざしておけば良いと呑気に考えていた。


「はあ、こんな事ならもっと早く父上達に来てもらえば良かった。あれこれ悩んだのが馬鹿みたいだ。
リリスティーナとの結婚だって父上と母上は反対してたもんな」

「その通りだな。デイビッドは爵位を継いだと言っても世間の海千山千の輩に太刀打ちできるほどの手腕はない。今回のように上手く丸め込まれないよう気をつけなくてはいかん」

「暫くはここに住んであなた達2人の教育をしてあげますからね。しっかりと勉強してちょうだい。2度と同じような馬鹿な事をしないでね」

「連絡が来た時は肝が冷えた」

「セバスのせいだよ。セバスは物事をややこしくするんだ。文句ばかり言ってちっとも助けてくれないし」


「そうだわブリジットとアレ⋯⋯なんだったかしら⋯⋯孫に紹介してもらおうかしら。会いに来るのは待ってくれっていうからさっき初めて会ったのよ」

「さっきは人見知りして乳母の影におったぞ」

「うん、アレックスは俺を見ても隠れるから」


 ご機嫌なディーセル一家はデイビッドの準備が終わるとすぐに意気揚々とに会いに行った。

しおりを挟む
感想 257

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

婚約破棄と追放を宣告されてしまいましたが、そのお陰で私は幸せまっしぐらです。一方、婚約者とその幼馴染みは……

水上
恋愛
侯爵令嬢である私、シャロン・ライテルは、婚約者である第二王子のローレンス・シェイファーに婚約破棄を言い渡された。 それは、彼の幼馴染みであるグレース・キャレラの陰謀で、私が犯してもいない罪を着せられたせいだ。 そして、いくら無実を主張しても、ローレンスは私の事を信じてくれなかった。 さらに私は、婚約破棄だけでなく、追放まで宣告されてしまう。 高らかに笑うグレースや信じてくれないローレンスを見て、私の体は震えていた。 しかし、以外なことにその件がきっかけで、私は幸せまっしぐらになるのだった。 一方、私を陥れたグレースとローレンスは……。

完結 裏切りは復讐劇の始まり

音爽(ネソウ)
恋愛
良くある政略結婚、不本意なのはお互い様。 しかし、夫はそうではなく妻に対して憎悪の気持ちを抱いていた。 「お前さえいなければ!俺はもっと幸せになれるのだ」

婚約破棄のその後に

ゆーぞー
恋愛
「ライラ、婚約は破棄させてもらおう」 来月結婚するはずだった婚約者のレナード・アイザックス様に王宮の夜会で言われてしまった。しかもレナード様の隣には侯爵家のご令嬢メリア・リオンヌ様。 「あなた程度の人が彼と結婚できると本気で考えていたの?」 一方的に言われ混乱している最中、王妃様が現れて。 見たことも聞いたこともない人と結婚することになってしまった。

王太子殿下の小夜曲

緑谷めい
恋愛
 私は侯爵家令嬢フローラ・クライン。私が初めてバルド王太子殿下とお会いしたのは、殿下も私も共に10歳だった春のこと。私は知らないうちに王太子殿下の婚約者候補になっていた。けれど婚約者候補は私を含めて4人。その中には私の憧れの公爵家令嬢マーガレット様もいらっしゃった。これはもう出来レースだわ。王太子殿下の婚約者は完璧令嬢マーガレット様で決まりでしょ! 自分はただの数合わせだと確信した私は、とてもお気楽にバルド王太子殿下との顔合わせに招かれた王宮へ向かったのだが、そこで待ち受けていたのは……!? フローラの明日はどっちだ!?

(完)婚約破棄ですね、従姉妹とどうかお幸せに

青空一夏
恋愛
私の婚約者は従姉妹の方が好きになってしまったようなの。 仕方がないから従姉妹に譲りますわ。 どうぞ、お幸せに! ざまぁ。中世ヨーロッパ風の異世界。中性ヨーロッパの文明とは違う点が(例えば現代的な文明の機器など)でてくるかもしれません。ゆるふわ設定ご都合主義。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

王宮で虐げられた令嬢は追放され、真実の愛を知る~あなた方はもう家族ではありません~

葵 すみれ
恋愛
「お姉さま、ずるい! どうしてお姉さまばっかり!」 男爵家の庶子であるセシールは、王女付きの侍女として選ばれる。 ところが、実際には王女や他の侍女たちに虐げられ、庭園の片隅で泣く毎日。 それでも家族のためだと耐えていたのに、何故か太り出して醜くなり、豚と罵られるように。 とうとう侍女の座を妹に奪われ、嘲笑われながら城を追い出されてしまう。 あんなに尽くした家族からも捨てられ、セシールは街をさまよう。 力尽きそうになったセシールの前に現れたのは、かつて一度だけ会った生意気な少年の成長した姿だった。 そして健康と美しさを取り戻したセシールのもとに、かつての家族の変わり果てた姿が…… ※小説家になろうにも掲載しています

処理中です...