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23.妄想膨らむ者達
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「リリスティーナの私物を売り払ったお金は返ってこなかった事にしたら? うちとしては迷惑料の一部を払って貰ったって事でいいんじゃないかしら」
「しかし⋯⋯それではメイド達の罪が重くなってしまいます」
「あら、罪に問うつもりなんてないわよ。忠誠心だったからって言ったでしょう? ブリジットの嘘だって可愛いものだわ」
「ブリジット? 母上、彼女の名前はブリトニーだよ? 何で嘘が可愛いの?」
「あら、そうなの? 気付かなかったわ。
ブリトニーが嘘をついたのは単なるヤキモチでしょう? それだけデイビッドの事を愛してるのよ。相手がリリスティーナなら離婚なんて簡単に出来たのに、好きな人に出会った時点でデイビッドはリリスティーナと別れるべきだったの」
「えっ、あーうん」
デイビッドが結婚して10か月目に元気な男の子が産まれたが大らかな両親は気付いていなかった。
「やれるもんならやってみろと言わんばかりの態度だったが訴訟を起こされたと知ったら大慌てで頭を下げてくるだろう」
「えー、訴訟とか面倒そうだなあ。でも父上達に任せるよ」
「それからオーエン伯爵に連絡をとりましょう。デイビッドは随分ひどい事を言われたようだし、あんな目にあったのに妹さんは魔女の味方をしてますって教えて差し上げたら道理を諭してくださるんじゃないかしら」
「ならコレット・グレーニアもだよ。アイツにはもっとひどい事を言われたんだ(公爵夫人の事は⋯⋯言うと怒られそうだな)」
「グレーニア公爵家に苦情を言うのは流石にまずかろう。変に機嫌を損ねたら何をされるかわからんからな。
オーエン伯爵の様子次第で名前を出すにとどめておいた方が無難だろう」
「じゃあ、俺はブリトニーに会ってくるかな。あっ、その前に風呂に入らなくちゃ。セバス急いで準備してくれ。八つ当たりしたのを謝らないといけないし⋯⋯ネックレスの一つでも買ってやれば。ブリトニーはまだ客間にいるの?」
「はい」
「なら早めに元の部屋に戻してやらなきゃかわいそうだ」
「あの、お願いがございます。今回の騒動が治るまでブリトニー様のお部屋をこのまま封印させて下さい」
セバスが頭を下げた。
「そんな必要はないだろ? ブリトニーはもうすぐ女主人になるんだし」
「でしたら、一切の貴重品を持ち出さないよう徹底していただけませんでしょうか? どうかお願いします。私を信じて部屋の使用と荷物の持ち出し禁止を徹底して下さい。
新しく購入するのも状況が落ち着いた後にして下さい」
デイビッド達は楽観視しているが今後ディーセル伯爵家は間違いなく多額の負債を抱えるはずだと思ったセバスは必死に懇願した。ブリトニーの性格を考えると状況が怪しくなった時点で金目の物を全て持っていなくなるはず。もしかしたら既にその予定でいるかも知れない。
「取り越し苦労で終わった時はどんな責めでもお受けします。どうか現在ある資産の確保をお願いします」
「つまりセバスはわしらが支援金やらを払わなければならなくなると言いたいんだな? わしの考えが間違っていると」
「そうではございません。ただ今回は不確定要素がありそうな気がいたしますし、安全対策をとっておくべきと思うのです」
今この屋敷にある物はリリスティーナとポーレット伯爵家への返済に回すべき物ばかり。リリスティーナに卑劣な行いをし続けたセバスに出来る唯一の謝罪は少しでも返済額を増やし誠意を見せる事だと思った。
(リリスティーナ様の私物を売った代金を使い込む気でおられるし、払う金がなくなったら今度は使用人達に『お前達のせいだ』くらいは言いそうだし)
「まあ良いんじゃないかしら。セバスの話ではブリジッ⋯⋯ブリトニーは高額なお品をたくさん買っているみたいだし。これからディーセル伯爵家の女主人として一から学んでもらう為には一度諦めさせた方が良いかもしれないわね」
「それなら良いだろう。だがな、今回の事を食い止められなかったことといい今の発言といい降格もあり得ると覚悟しておくんだな」
「はい、覚悟はできております」
「今月の支払いはメイドから返してもらった金で良いんだよね」
「それは構わないでしょ? あの娘の持ち物を売ったお金がこの家の生活費に変わるだけですもの。あの娘がここに住んでいた時の生活費だわ」
「メイドもつけておりませんでしたし、食事も出さず掃除洗濯もご自身でしておられました。生活費とするのは問題があるのではありませんか? 裁判をおこされるのでしたらこちらの不利になります」
「誰もそんな事は知らないのよ。家の中の事なんて言わなければ良いだけ。セバスは頭が固すぎるわ」
(ん? 誰かに⋯⋯誰かが知ってるって言われたような。まあいいか)
ブリトニーと使用人達の口から家の内情が社交界で有名になっているとコレットから聞いたのを思い出せなかったデイビッドは、母親の言う通りにして口を閉ざしておけば良いと呑気に考えていた。
「はあ、こんな事ならもっと早く父上達に来てもらえば良かった。あれこれ悩んだのが馬鹿みたいだ。
リリスティーナとの結婚だって父上と母上は反対してたもんな」
「その通りだな。デイビッドは爵位を継いだと言っても世間の海千山千の輩に太刀打ちできるほどの手腕はない。今回のように上手く丸め込まれないよう気をつけなくてはいかん」
「暫くはここに住んであなた達2人の教育をしてあげますからね。しっかりと勉強してちょうだい。2度と同じような馬鹿な事をしないでね」
「連絡が来た時は肝が冷えた」
「セバスのせいだよ。セバスは物事をややこしくするんだ。文句ばかり言ってちっとも助けてくれないし」
「そうだわブリジットとアレ⋯⋯なんだったかしら⋯⋯孫に紹介してもらおうかしら。会いに来るのは待ってくれっていうからさっき初めて会ったのよ」
「さっきは人見知りして乳母の影におったぞ」
「うん、アレックスは俺を見ても隠れるから」
ご機嫌なディーセル一家はデイビッドの準備が終わるとすぐに意気揚々とブリトニーとアレックスに会いに行った。
「しかし⋯⋯それではメイド達の罪が重くなってしまいます」
「あら、罪に問うつもりなんてないわよ。忠誠心だったからって言ったでしょう? ブリジットの嘘だって可愛いものだわ」
「ブリジット? 母上、彼女の名前はブリトニーだよ? 何で嘘が可愛いの?」
「あら、そうなの? 気付かなかったわ。
ブリトニーが嘘をついたのは単なるヤキモチでしょう? それだけデイビッドの事を愛してるのよ。相手がリリスティーナなら離婚なんて簡単に出来たのに、好きな人に出会った時点でデイビッドはリリスティーナと別れるべきだったの」
「えっ、あーうん」
デイビッドが結婚して10か月目に元気な男の子が産まれたが大らかな両親は気付いていなかった。
「やれるもんならやってみろと言わんばかりの態度だったが訴訟を起こされたと知ったら大慌てで頭を下げてくるだろう」
「えー、訴訟とか面倒そうだなあ。でも父上達に任せるよ」
「それからオーエン伯爵に連絡をとりましょう。デイビッドは随分ひどい事を言われたようだし、あんな目にあったのに妹さんは魔女の味方をしてますって教えて差し上げたら道理を諭してくださるんじゃないかしら」
「ならコレット・グレーニアもだよ。アイツにはもっとひどい事を言われたんだ(公爵夫人の事は⋯⋯言うと怒られそうだな)」
「グレーニア公爵家に苦情を言うのは流石にまずかろう。変に機嫌を損ねたら何をされるかわからんからな。
オーエン伯爵の様子次第で名前を出すにとどめておいた方が無難だろう」
「じゃあ、俺はブリトニーに会ってくるかな。あっ、その前に風呂に入らなくちゃ。セバス急いで準備してくれ。八つ当たりしたのを謝らないといけないし⋯⋯ネックレスの一つでも買ってやれば。ブリトニーはまだ客間にいるの?」
「はい」
「なら早めに元の部屋に戻してやらなきゃかわいそうだ」
「あの、お願いがございます。今回の騒動が治るまでブリトニー様のお部屋をこのまま封印させて下さい」
セバスが頭を下げた。
「そんな必要はないだろ? ブリトニーはもうすぐ女主人になるんだし」
「でしたら、一切の貴重品を持ち出さないよう徹底していただけませんでしょうか? どうかお願いします。私を信じて部屋の使用と荷物の持ち出し禁止を徹底して下さい。
新しく購入するのも状況が落ち着いた後にして下さい」
デイビッド達は楽観視しているが今後ディーセル伯爵家は間違いなく多額の負債を抱えるはずだと思ったセバスは必死に懇願した。ブリトニーの性格を考えると状況が怪しくなった時点で金目の物を全て持っていなくなるはず。もしかしたら既にその予定でいるかも知れない。
「取り越し苦労で終わった時はどんな責めでもお受けします。どうか現在ある資産の確保をお願いします」
「つまりセバスはわしらが支援金やらを払わなければならなくなると言いたいんだな? わしの考えが間違っていると」
「そうではございません。ただ今回は不確定要素がありそうな気がいたしますし、安全対策をとっておくべきと思うのです」
今この屋敷にある物はリリスティーナとポーレット伯爵家への返済に回すべき物ばかり。リリスティーナに卑劣な行いをし続けたセバスに出来る唯一の謝罪は少しでも返済額を増やし誠意を見せる事だと思った。
(リリスティーナ様の私物を売った代金を使い込む気でおられるし、払う金がなくなったら今度は使用人達に『お前達のせいだ』くらいは言いそうだし)
「まあ良いんじゃないかしら。セバスの話ではブリジッ⋯⋯ブリトニーは高額なお品をたくさん買っているみたいだし。これからディーセル伯爵家の女主人として一から学んでもらう為には一度諦めさせた方が良いかもしれないわね」
「それなら良いだろう。だがな、今回の事を食い止められなかったことといい今の発言といい降格もあり得ると覚悟しておくんだな」
「はい、覚悟はできております」
「今月の支払いはメイドから返してもらった金で良いんだよね」
「それは構わないでしょ? あの娘の持ち物を売ったお金がこの家の生活費に変わるだけですもの。あの娘がここに住んでいた時の生活費だわ」
「メイドもつけておりませんでしたし、食事も出さず掃除洗濯もご自身でしておられました。生活費とするのは問題があるのではありませんか? 裁判をおこされるのでしたらこちらの不利になります」
「誰もそんな事は知らないのよ。家の中の事なんて言わなければ良いだけ。セバスは頭が固すぎるわ」
(ん? 誰かに⋯⋯誰かが知ってるって言われたような。まあいいか)
ブリトニーと使用人達の口から家の内情が社交界で有名になっているとコレットから聞いたのを思い出せなかったデイビッドは、母親の言う通りにして口を閉ざしておけば良いと呑気に考えていた。
「はあ、こんな事ならもっと早く父上達に来てもらえば良かった。あれこれ悩んだのが馬鹿みたいだ。
リリスティーナとの結婚だって父上と母上は反対してたもんな」
「その通りだな。デイビッドは爵位を継いだと言っても世間の海千山千の輩に太刀打ちできるほどの手腕はない。今回のように上手く丸め込まれないよう気をつけなくてはいかん」
「暫くはここに住んであなた達2人の教育をしてあげますからね。しっかりと勉強してちょうだい。2度と同じような馬鹿な事をしないでね」
「連絡が来た時は肝が冷えた」
「セバスのせいだよ。セバスは物事をややこしくするんだ。文句ばかり言ってちっとも助けてくれないし」
「そうだわブリジットとアレ⋯⋯なんだったかしら⋯⋯孫に紹介してもらおうかしら。会いに来るのは待ってくれっていうからさっき初めて会ったのよ」
「さっきは人見知りして乳母の影におったぞ」
「うん、アレックスは俺を見ても隠れるから」
ご機嫌なディーセル一家はデイビッドの準備が終わるとすぐに意気揚々とブリトニーとアレックスに会いに行った。
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