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21.恥知らずの遺伝子

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「うちは明るい茶色の髪ばかりだし碧眼なんて。それに⋯⋯ああ、母親に似たのね。もう、吃驚したわ」

 茶髪と翠眼のデイビッドとストロベリーブロンドに茶色の目をしたブリトニーの子供アレックスは艶やかなブロンドと鮮やかな碧眼。

 指を咥え乳母の後ろに隠れたアレックスはドレスの陰から初めて会った祖父母をチラ見している。

「アレックス様、ご挨拶なさいませ」

 乳母の声かけにぺこりと頭を下げて直ぐに乳母の影に隠れてしまったアレックスを見たソフィア祖母が笑い声を上げた。

「あら、随分恥ずかしがり屋なのね。後でいっぱいお話ししましょうね。あなたのお母様と一緒が良いわね、それなら恥ずかしくないでしょ?」




 身支度を整えたディーセル前伯爵夫妻はセバスを伴いポーレット伯爵邸へ向かっていた。
 
「わしらは今までの経緯を話でしか知らんから、おかしな話が出たら直ぐに教えてくれ」

「はい」

「セバスを信じてるからな」

「⋯⋯」

 自身のした事を恥じているセバスはジョーダン前伯爵の言葉に下を向いた。


「ここへ帰ってくるまでに思い出したのだけど、今回の事はオーエン伯爵家の時と同じなのよね。オーエン伯爵はサミュエル王子殿下のお陰で助かったけれどデイビッドは優しすぎて逃げられなかった。
勿論、使用人達がリリスティーナにやった事は間違ってたわ。でも愛してる恋人との間に子供ができても結婚できずにいるデイビッドの気持ちを忖度してくれたんだと思うの」

 使用人達は忠誠心が厚すぎたとニコニコ笑うソフィアは使用人達には厳重注意だけで罪は問わないつもりだと言い出した。

「⋯⋯それは良くないのではないでしょうか」

「それをキチンと話し合えば良いのよ。デイビッドを大切に思いすぎるのも問題だって」

「デイビッドには良い勉強になっただろうし、このまま離婚できるのが一番被害が少ないだろうな。
心配なのは本当は離婚したいんじゃなく別の目的があった時だ」

「それはどのような」

「別の男ができて慰謝料を欲しがってるというのが一番可能性が高いとは思っておるが、あの女ならデイビッドの気を引くために離婚だと騒いでるだけだと言われても納得できる」

 ディーセル前伯爵夫妻が自論を展開している間にポーレット伯爵邸が見えてきた。

「まあ、そこが分かれば話の持っていきようはあるだろう」




 先触れを出していたお陰ですんなりと応接間に通されたディーセル前伯爵夫妻はポーレット伯爵夫妻と挨拶を交わし本題に入った。

「リリスティーナから離婚したいと言う連絡が来ていると聞いたのですがそれは本当ですかな?」

「はい、このまま何もなければあと3週間ほどで離婚が成立します」

「そうか。当家としても別に問題はないですな。3週間待たず離婚しても構わんと思うております」


「白い結婚での離婚⋯⋯婚姻解消となりますので、弁護士と税理士に書類を作らせておりますのでそれがもう暫くかかりそうです」

「うちとしても離婚より婚姻そのものがなかったことになる方が「ジョーダン! 白い結婚なんて駄目よ!」」

「ん? 離婚でなければデイビッドは直ぐにでもブリジットと結婚できるじゃないか」

「白い結婚だと支援金とか全部返さなくちゃいけなくなるのよ!」

「ええっ!」

 白い結婚による婚姻解消では結納金や支援金を返還する必要がある。新郎は屋敷を準備し家財道具は新婦が準備するのが一般的なので、新婦側が準備した物も全て返さなくてはならない事をジョーダンは知らなかった。

「そんな馬鹿な話があるか!」

「既に3年以上経っておりますし、教会に意義を申し立てられても認められないと思います」

 冷ややかな態度で答えるヒューバートはディーセル前伯爵が先ず最初にリリスティーナへの非道を謝罪を口にしなかったことに腹を立てていた。

「何で別れたいなんて言い出したのかと思えば金が目的か! 恥を知れ!!」

「教会法に則った行動を取ることが恥になるとは思えませんが?」

「あんな⋯⋯あんな娘を貰ってやった恩も忘れて金を寄越せと言うのが恥知らずだと言っておるんじゃ。醜聞まみれの淫売を貰ってやったのに感謝して慰謝料を払うのが筋であろうが!!」

「なんて事を!! わたくしの娘を侮辱する事は許しません! 直ぐに謝罪なさいませ!」

 大人しくヒューバートの隣に座っていたライラが激昂し扇子をジョーダンに突きつけた。

「大旦那様、どうか落ち着いてお話し下さい」
 
 ライラとセバスの言葉にますます頭に血を昇らせたジョーダンがいきり立ち、怒鳴りはじめた。

「セバス! 貴様は誰に仕えておる!! 淫売を淫売と言って何が悪い。社交界どころかこの国全員が知っておるわ!」


「娘を愚弄する言葉をこれ以上聞けば私も黙ってはいられません。仰りたいことがそれだけならばお引き取りいただきましょう。名誉毀損の訴えを起こさなくてはなりませんから、書類は出来次第届けさせます」

「陛下に捩じ込んで無理矢理成立させた婚姻を勝手な理由で破断させようとしておるが、世間はもう誰も相手をせんだろう。
穏やかに離婚してやろうと思っておったのだがこれほど下劣な輩だったとは」

「捩じ込んだ? 話が見えませんな」

「恥知らずの娘を清廉潔白な我が息子に強引に押し付けたではないか!」

「この婚姻を当家はキッパリとお断りしておりました。ご子息が陛下からの下知をいただいた事を喜び何度も説得に来られて仕方なく決まった縁組です。
ディーセル前伯爵はご子息と話し合われた方がよろしいようですな」

『私はリリスティーナに会えた事を陛下に感謝しているんだ。私の気持ちを伝える為に時間をくれないか?』

『心からリリスティーナを愛しています。だから私との婚姻をもう一度考えていただけませんか。お願いします』


「ふん、後からならいくらでも言い抜けできる。悪評しかないポーレット伯爵家との縁を喜ぶ奴がどこにいる! 夢でも見ておるのかな。
現に貴様の息子は未だ婚約者の一人もおらぬそうではないか」


「この国で信頼できる相手を見つけるのはとても難しい。しかも、おかしな噂や勝手な想像で物事を判断し貶める人のなんと多いことか。
そういう者に限って私利私欲に走り愚かな行動に出るのです。
息子はそれを憂いて、哀れな者達に何と言われようと気にもならないと断言した。私達家族は息子を心から尊敬しております。
それと同じくリリスティーナの事も、この国で最も気高いレディだと胸を張って言うことができます」

 やっぱりあの噂には裏があるのだとセバスは得心した。仮に身贔屓が強い家族だったとしてもここまで言い切ることは出来ない。


「は? あれが気高い? レディ? これほど笑える話を聞いたのがいつの事だったか思い出せんな」

「ディーセル前伯爵ご夫妻がお帰りだ。玄関までお見送りを」

 部屋の隅に控えていた執事に声をかけたヒューバートがライラに手を添えて立ち上がらせようとするとソフィアが高らかに笑いはじめた。

「そんな事をしても笑い者になるだけですわ。だって、白い結婚が認められるわけがありませんもの」

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