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22.飲むしかないか

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「ぷっ、ブハッ」

 ジョセフが吹き出した。

「そこ笑うとこ?」

「だってよう、やりたいならいくらでもチャンスあったろ? アイヴィなんて防御ゆるゆるだから」

「ゆるゆるじゃないわ。まあ、気にしてないのは確かだけど」

「だろ? 毒薬持って来てんだろうし、店にもいっぱいある。
なら、何でやらねえ?」

「何にも言わないから分かんない。鼠をいたぶる猫?」

「お前が気にしてねえのに、いたぶれるかよ」

「だよね~」

 アイヴィはカウンターの上にかがみ込み、額をコツンとあてた。


「カリタス修道士がここに来たのが春で、今は夏真っ盛り。いっぺん真面目に話してみろよ」



 次の日の朝、マチルダの家からの帰り道に河原に寄り道した二人。

 河原に座り込んで持ってきた果実水をコップに注ぎ、
「ほら、これに入れて」

「・・」

「持ってるんでしょ?」

「死にたくなったのか?」

「まさか、でもそれを私が飲まないとお家に帰れないんでしょ。さっさと任務済ませて帰って」

「奴の準備した薬だからな、多分飲んだらイチコロだ」

「飲んだけど、吃驚して吐き出したから死にませんでしたって報告してもらう予定」

「・・無謀すぎんだろ。そこまで俺が邪魔か?」

「はっきり言って良いなら二人とも邪魔。私の平和な時間の邪魔してる。
本気じゃないくせにいい加減にして欲しいわ」

「本気ならいいのか?」

 鋭い目つきでカリタス修道士に見つめられたアイヴィは、
「・・ほっ本気で毒殺? それはちょっと困るかも」

 カリタス修道士がアイヴィの頬を両手で挟み、顔を寄せてきた。

 アイヴィは咄嗟にカリタス修道士を突き飛ばし立ち上がった。

「なっ、何してんのよ! 修道士の癖に・・馬鹿じゃないの?」

 真っ赤な顔で睨みつけるアイヴィを見ながら、カリタス修道士はゲラゲラと腹を抱えて笑いだした。

「おまっ、反応ガキすぎんだろ」

 カリタス修道士は笑いすぎて涙を拭きながら、
「くっそ腹痛え」

「いつまでも笑ってたらいいじゃん、ではさようなら」

 河原に寝っ転がって腹を抱えて笑い続けているカリタス修道士を無視して、アイヴィは一人で店に帰って行った。


 河原に一人残されたカリタス修道士は、河原に寝そべったまま笑うのをやめた。

(信じらんねえ。たったあれっぽっちのことで、あんなに動揺する女がまだいたんだ)


 幼い頃から騎士修道会に所属しているカリタス修道士がいつも目にしてきたのは、戦う仲間達と逃げ惑う人達ばかりだった。

 そこにはいるのは死傷者の山とそれに群がるハイエナ達だけ、女達は怯えて逃げ回るか媚を売る娼婦かの二つしか知らない。


(・・珍しいもんみたな)

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