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16.直接対決

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「アイヴィ殿は魔女?」

 カリタス修道士の表情や口調がガラリと変わった。

 今までの寡黙な雰囲気はアイヴィを揶揄うような影のある表情に、口調はややぶっきらぼうで力強い話し方に。
 たぶんこちらが本当のカリタス修道士なのだろう。

「さあ、どうかしら。私は今まで魔女に会った事がないから判断基準が分からないわ。
カリタス修道士はあった事があるの?」

「さて、どうかな? 魔女だと言われた人に会ったかと言われれば答えはYES、その人が本当に魔女だったのかと聞かれたら分からないと答えるだろうな」

「その人は火炙りに?」

「ノーコメント」

「今でも魔女裁判があるなんて信じられない。あれってインチキだって聞いたわ。
ヨーハン・ヴァイヤーの『悪霊の幻惑について』 を読んだ方がいいって事?」

「へえ、随分詳しいんだな」

「ええ、サレルノで散々揶揄われたもの。
“あんまり勉強しすぎると、ヤキモチ妬いた奴らに異端審問官の所に連れていかれるぞ” って。
水審や拷問にかけられたら何でも言いなりになると思うわ」

「実際の所、魔女狩りは復活の兆しを見せてる。異端審問所ではなく司教裁判所や世俗裁判所が執行する場合も増えてきた」


「念のために言っておくけど、悪魔を崇拝してはいないから。
私が崇拝してるのは医学と薬学だけ。
聖なる物品を侮辱した事は今の所ないはずだし、子供を捕えて食べたこともない。
勿論魔女の集会がどこで行われてるのか興味もないわ。

それから、あなたの愛すべき修道院長がそれを信じるかどうかも知らない」


「奴は俺の愛すべき修道院長じゃない。単なる俗物の権力者だ。
まあ、この世で一番厄介な人種だな」


「まあ、そんな人に仕えてるなんてご苦労様。ゆっくり休んでちょうだい」

 アイヴィはカリタス修道士との話をやめて食事に専念することにした。
 途中一言も話さず料理を平げ、席を立ったアイヴィの腕をカリタス修道士が掴んだ。

「嘘だと思ってるのか?」
「いいえ」

「なら何で何も言わない?」
「さっき言ったわ。“念の為・・” って。あれで十分でしょ?」

「あんな話で俺がやめると思ったのか?」
「さあ、多分・・やめないんじゃないかしら」

「なら、そこに座って説得しろよ」
「興味ないわ。腕、離してくれる?」

「何で急に王宮を出たんだ?」
「・・」

 カリタス修道士は、何も言わず冷たく見つめてくるアイヴィの腕を離し肩をすくめた。

 アイヴィは女給に代金を支払い、さっさと二階の部屋に上がって行った。



 翌朝、荷物を纏めて階下に降りたアイヴィをカリタス修道士が待っていた。

「「おはよう」」


 アイヴィが乗った郵便馬車の後ろを、カリタス修道士が騎馬で悠々とついて来た。

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