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8.三人目の変態

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「お嬢様、今朝もまた玄関先で怪しい影が彷徨いています」


「影? と言うことは今日はライアン様ね。いつもの馬車を玄関にまわした後、別の馬車を裏口につけてくれるかしら」

「と言う事は、今日も玄関先に置き去りですか?」

「仕方ないのよ、ライアン様が一番手に負えないんだもの。
下手したら馬車の後ろから走ってこられるかも。もっと可能性が高いのは、馬車に張り付くとかかしら。
騎士団団長のご子息に怪我でもさせたら大変な事になるわ」


 ハリエットは裏口からこっそりと、公爵家の紋章のない地味な馬車に乗り込んだ。


「ライアン様はお嬢様に、何を望まれているのですか?」

「騎士道精神を勘違いされているのか、私を守りたいって仰るのよ」

「ありがたいことではありませんか。お嬢様の素晴らしさに感銘を受けられたのでしょうか」


 手放しで喜ぶハンナに、

「この間ね、階段を踏み外しかけたの。落ちなかったし怪我もしなかったんだけど、ライアンさまが走ってこられて私を助けようとしてくださったの」

 ハリエットの暗い顔を見て、
「お優しい事だと申し上げるのは止めておいたほうが良さそうですね」


「私は怪我をしなかったんだけど、駆けつけたライアン様の後ろには突き飛ばされて怪我をした方が何人も倒れてたわ。

他にもあるけど聞きたい?」


「・・いえ、やめておきます。何故そのような事になったのか、きっかけのようなものがあったのですか?」

「よく覚えていないの。気が付いたら背後に潜んでいたと言うか、ある日突然現れ始めたと言うか。

怖くて聞けないし」



 学園に着きジェイムズの顔を見て漸くほっとしたハリエット。

「元気になったようで、安心したよ」
「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」

「本当にもう大丈夫? 今日の放課後は生徒会があるから送ってあげられないんだけど」

「はい、実は今日の放課後クラスメイトのルーシーさんとお喋りをする約束をしてるんです」

「そうか、それで昨日は緊張していたんだね」
「そうだと思います」

「肩の力を抜いて落ち着いて話すと良いよ。
自分自身では気づいていないようだけど、ハリエットはとても話し上手の聞き上手だから」

 ハリエットは握り拳を作って、
「頑張ってみます。いつまでも周りの人に甘えてはいられませんもの」

 ジェイムズが優しい笑顔で、
「俺にはもうちょっと甘えてくれても良いんだけどね」


 教室に着いた時、一番にルーシーが目に入って来た。ルーシーは仲の良い女の子達と輪を作りとても楽しそうに談笑している。


(どう見ても女の子よね。何より、悩みを抱えてるように見えないの)

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