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93.さあ、やるぞ〜! はじまるぞ〜!

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 向かっているのは勿論領主館。メンバーはロクサーナとジルベルト、ウルサ達4人と屋台のおじさんのグラント。

「作戦も立てずに来たけど、この後どうすんだ? んで、ちびはどこに行ったんだ?」

 歩いている途中で突然姿を消したロクサーナを心配したウルサが、ジルベルトの腕を掴んだ。

「隠蔽と気配遮断を使ったんです。ロクサーナが本気で姿を消したら、見つけられる人はいないから⋯⋯どの辺りにいるのかは分からないですね」

 ジルベルトの言葉が終わると同時に、ウルサの後ろ頭に石がぶつけられた。

「痛え! 誰だ⋯⋯って、あれ?」

 ウルサの後ろには誰もいないが、2個目の石が宙に浮いているのが見えた。

「ここにいるもーん。ジルベルト司祭が話をする間気配を消しておくつもりなんだけど、次にちびって言ったら眉間を撃ち抜くからね」

 ふわふわと揺れていた石が、2つ3つと増えていく。

「という事で、行きましょう。あの時喧嘩したのはロクサーナと俺だったのに、探していたのはロクサーナだけだというのが気になります。まずは相手の出方を見て、情報を引き出します」

 ロクサーナがいれば問答無用で、実力行使に出てくるかもしれない。

(そうなったら情報が引き出せなくなる。この件にレベッカ達が関与してるのかどうか、きっちり話させないとな)

「俺は喧嘩のきっかけを見てたから、デニスの野郎が因縁をつけてきたっていう証人になるぜ」

 仕事を休んで同行しているイカ焼きおじさんのグラントが拳を握りしめた。

「この港町はちびすけに色々恩があるのに、手伝わねえわけにはいかねえってな」





 領主館の入り口で門番らしき男を見つけて声をかけた。

「昨日から領兵が一人の少女を探していると聞いて来たのですが、その少女は私の連れのようで⋯⋯彼女を探している方との面会は可能でしょうか?」

「あ! ええと、勿論大丈夫だと。で、問題の女の子はどこに?」

「理由も分からず領兵に捕縛されては困りますから、先ずは話を伺いたいと思っております」

 門番らしき男は納得がいかなそうな顔をしていたが、『ちょっとここで待っててください』と言い残して館に駆け込んで行った。

「さーて、どいつが出てくるのか楽しみだな」

 ウルサ達がついて来たのは、領主の言動を確認する証人として。

 横暴で欲深かった前領主よりはましだが、新しい領主は商人ギルドや漁業ギルドの顔色を伺っているばかりで、二転三転する政策に領民は右往左往せざるをえない。

『港の利用時間を制限し、大陸から来た商船を優先する』これは、船主達からの抗議で頓挫した。

『積荷は商人ギルド経由で取り扱い、他領の商人は取引不可』宿に泊まっていた商人達が一斉に引き上げ、生活必需品が手に入らなくなり、政策を取り下げた。

『屋台や店への魚介類等の販売は漁業ギルドが管理する』仲介手数料を払いたくない漁師達がストライキを起こして中止になった。


「海賊やらギルドやらに、いい顔をしたがるだけの領主ならいらねえ」



 戻って来た男の案内で、ジルベルト達は館の2階にある広い部屋に連れてこられた。部屋に入った途端、武器を携帯した領兵が雪崩れ込み広い部屋の両端に待機した。

 ドアが大きな音を立てて閉まり領兵が武器を構えると、別の扉から3人の男が現れてジルベルト達と対峙したが、余裕そうに踏ん反り返って腕を組む男と陰湿そうな顔の男の横で、ひとりだけ顔を引き攣らせている。

(腕を組んでいるのはあの時のおっさんで、その隣が商船の責任者。となるとビクビクしてるのが領主⋯⋯頼りなさすぎだな)

 部屋の正面にいるのはその3人だけだが、彼等の後ろに引かれたカーテンの陰に、レベッカ達の気配がある。

 港に面した大きな窓の外にあるテラスは、奇しくもレベッカが『聖女の祈り』を捧げた場所で、この部屋は華やかなパーティーが行われた大広間だった。

「で、問題の小娘はどこにいるのですか? すぐに連れてくれば報奨金を出しましょう」

「ルイス・ジルベルトと申します。皆様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか」

「わ、私は領主のトーマス・キリング。こちらの方はオルフェーヌ王国から来られたオラール貿易会社のニール・スミス様。その向こうにいるのはスミス様の商船で雇用されているデニスだ」

「冒険商人の方でいらっしゃいましたか。で、この町でデニス達のような破落戸を雇われたのですね」

「てめえは昨日、あのガキと一緒にいた奴じゃねえか! のこのこと俺様の前に顔を出して、タダで帰れると思うなよ!」

「まあ待ちなさい。問題の少女がいなくては話にもならないのですからね」

「その前にお聞きしたい。そこにいる破落戸が言うように、昨日の喧嘩には私もおりました。なぜ、少女だけを探しておられるのですか?」

「少女がデニスを無駄に煽ったのが、昨日の喧嘩のきっかけだからですよ。船乗りのような気の荒い奴等ですから、喧嘩を咎めることはしたくない⋯⋯何しろ毎日のように殴り合ってますからね。ただ、その原因を作った少女を見逃すわけにはいきません」

「私はこの港町で屋台を出している者でグラントと申します。昨日の喧嘩ですが⋯⋯私の屋台の前で、デニスが突然少女に絡んできたのがキッカケです。ボコボコにしてやると言い出し仲間を集めたのもデニス。
問題があるのは間違いなくデニスの方でございます」

 以前ロクサーナがデニスを蹴り飛ばした時も、デニスからウルサとロクサーナに絡んできた。

「喧嘩の時も先に手を出したのはデニスの仲間だったと、見ていた者達が証言しています。正当防衛だったのではありませんか?」

「それに、ちびだけを捕まえようとする理由になってねえしな。喧嘩は両成敗、先に手を出した方が悪いってのは世界共通の理屈だろ? 法律でもそう決まってるしな。
新領主のキリング様は、そこんとこどう考えておられるんですかね」

「⋯⋯わ、私はその。オルフェーヌ王国やオラール貿易会社の顔に泥を塗った行為は慎んでもらいたいというか⋯⋯話し合いで解決してもらうのが、今後の貿易の為には⋯⋯領民の生活を守る為には、他国の少女を優先するわけにはいかない。
この件が片付けば、リューズべイとの交易品に係る関税も安くなるんだ。そ、そうなれば領民の生活の役に立つ。だから⋯⋯」

(ロクサーナを生贄に出せば関税を下げる⋯⋯情報は漏れた後のようだな)

 レベッカ達がどこまで話したのかは分からないが、少なくともロクサーナが聖王国の聖女だと言うのは話しているだろう。

(かなり力があるとバラしている可能性もありそうだ)



「その少女がここにいたらどうされるつもりですか? オルフェーヌ王国の主要な輸出品は魔鉱石と銀で、輸入品は宝石や絹織物だと言われていますが、メインは略奪品の転売と奴隷の密輸。聖女・魔法士・魔導具。
この町ではどれを密輸しておられるのですか?」

「⋯⋯」

 無言でジルベルトを睨みつけるスミスの後ろのカーテンが揺れ、レベッカ達が慌てている気配がした。

 口先だけの美味しい話を聞かされてペラペラと喋ったのだと思うが⋯⋯レベッカ達は、聖女や魔法士の密輸という言葉に慌てふためいているのだろう。

(聖王国の教会に所属する事で、他国の脅威から守られていると知らないはずはないのに。教会の教育を見直した方が良いんじゃないか?)

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