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00.久しぶりの⋯⋯あの人達は今!

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「聖王国に帰らずレベッカと一緒に行動してるなら、仲良くなってたって事?」

「うーん、それはどうかなぁ。報告してきた神官の話によると、聖王国での評判を気にして帰るのを躊躇ってたみたいだね」

 あの、意味不明な婚約破棄騒動の後で王家から責任を問われ、『詐欺だ』『不敬罪だ』『責任を取って金を払え』とわめかれたレベッカとレベッカパパは、隙をみて王宮から逃げ出すことに決めた。

「財産の全てを没収されてるから、払う金なんてないだろ? 手持ちの貴重品だけ持って逃げだしたんだ。
レベッカが『聖女だ、女神の愛し子だ』って公言してたから、王家には問い詰める権利があるし、レベッカ達は平民になったからいつ首を切られるかわからない」



 同行していたメイドや従者に逃げられ、着替え一つできないと気付いたレベッカとパパは、サブリナとセシルに声をかけることにした。

『サブリナは今でも伯爵令嬢で魔法士だし、セシルんちは子爵家だけど商会があるから金持ちで聖女見習いだもん。
あの2人がいればお金に困らないし、いざとなったら高く売れそうじゃん。しかも便利なメイドが手に入る! アタシって超頭いいでしょ~?』

『付加価値が少しでも高いうちにサブリナを売って、セシルは商会の権利と引き換えにすればこれからもやっていける。爵位なんぞほとぼりが冷めたら買えばいいしなあ』

 そんな下心満載でレベッカが声をかけてきたとはつゆ知らず⋯⋯。



『レベッカが聖女だの女神の愛し子だのって詐欺やったのが、聖王国に広まってるんだって』

『あの子の事なんてどうでもいいじゃない! レベッカの嘘を黙認してたのが懲罰の対象になってるそうよ』


『あたし達が卒業パーティーでロクサーナの悪口を言ったのも報告されてるって。あの時の話しが全部、魔導具で記録されてたんだよ!
大聖女候補だなんて知らなかったって言ったんだけど、聖女見習いが聖女を貶めただけで重罪だって』

『わたくしだって言われたわ! 魔法士として聖女の価値も分からないのかって酷く叱責されたの。今後、運良く仕事を受けられるようになったとしても、聖女の助力は期待できないだろうって』


『⋯⋯こんな状態で聖王国に帰るなんて無理だよお。みんなになんて言われるか、聖女の虐めって凄いんだから!』

『わたくしだって、聖女の助力なしで仕事させられたらすぐに死んじゃうわ。治癒も出来ないし、防御力アップなんかの付与だって出来ないんだもの!』

『仕方ない、レベッカについて行こう』

『わたくしも行きますわ!』

 聖王国に帰って聴聞委員会で吊し上げを喰らうより、今の肩書きのまま仕事か結婚相手を見つける方が良い。実家に手紙を書いて窮状を訴えておけば教会に手を打ってくれるはず。

『ほとぼりが冷めるまで実家からの援助で食い繋ごう』

『ええ、わたくしもそうするわ。レベッカと別行動にできるまで黙っておかなくちゃね』

『当然だよ! レベッカが平民落ちして教会を破門されたのなんて自業自得だもん。巻き込まれただけのあたし達が助ける必要なんてないし、貧乏人には銅貨1枚だって貸したげるつもりはないからね』

『レベッカが無理矢理参加しなければこんな事にならなかったのに! わたくし達は悪くない、レベッカの参加を許した教会が悪いのよ』

『それにさあ、ロクサーナが教えてくれないからこんな事になったんだよ! 初めから『大聖女候補です』って言えば良いのに秘密にしてたからじゃん。リーダーのくせにレベッカの嘘だってほっといたし⋯⋯わざと意地悪したのかも!
友達だと思ってたから、忙しいのに声をかけてあげてたのにさ』

『じゃあ、すぐに荷物を詰めるように言ってくる。忘れ物があったらもったいないもんね』

『貴重品を忘れないように指示してこなくては。家から援助が届くまでには時間がかかるはずだもの』

『うちの商会の支店が、この国にもあったら便利だったのに⋯⋯』

 2人の予想は見事に外れ、サブリナのメイドもセシルのメイドも同行を断ってきた。

『私達にはなんの瑕疵もありませんから、聖王国に戻らせていただきます』

『失礼な言い方かもしれませんが、お二方に同行したら私達の資格にまで影響しそうですから』

 教会に所属しているメイド達からすれば、聖女詐欺に加担し、大聖女候補の聖女を貶めた2人は大罪人にしか見えない。

『私達がお二方に同行する前は、聖女ロクサーナ様に宿題や課題を押し付けておられたのも知っています。このまま仕えていたら、何を押し付けられるか不安ですから』

 聖女でさえ平気で利用していたサブリナとセシルなど信用できないと言い切り、自分の荷物だけ持って寮を出て行った。



 王都以外で行ったことがあるのはリューズベイだけ。そこに狙いを定めたレベッカ達は王宮を抜け出した。

『リューズベイなら聖女の祈りで助けてあげたことがあるからね、アタシ達を喜んで迎えてくれるはずだもん。早く領主館に着かないかなあ』

『先触れを出しておけば、歓迎パーティーの準備ができておるかもしれん。使用人の手配もしておいてもらわんと、田舎の港町の魚臭い使用人を当てがわれてはかなわん』

 適当に見繕ったらしい皺だらけの衣装を着て、寝起きのままでボサボサの髪と、目ヤニと涎の乾いた跡がついたレベッカとレベッカパパだが、狭い辻馬車の中で踏ん反り返って座り相変わらずの傲慢さを発揮していた。

 サブリナとセシルはレベッカ達が大量に振りかけている、臭い体臭を消す香水の匂いに酔って真っ青な顔で小さくなっていた。

(失敗したわ⋯⋯別にレベッカと一緒じゃなくても構わなかったのに。なんで一緒に行くなんて言ってしまったのかしら)

(もうヤダ! 結局辻馬車の運賃から宿代まで全部払わされたじゃん。サブリナと2人だけなら食事代だってあんなにかからなかったのに)

 今でも侯爵家当主と令嬢のつもりでいるレベッカ達は、一番格下のセシルに全ての手配を押し付けていた。

『サブリナはアタシの荷物を運んでちょうだい。アンタは高位貴族の端くれだから、アタシの荷物の扱いも分かるよね!』

『商会の娘なら交渉ごとは得意じゃろう? さっさと行ってこい! わしに逆らうとどうなるか分かっておるよな。支払いはほれ、これを売ってこい』

 初日に『費用は個人持ち』だと言ってステッキで散々叩かれたセシルは、荷物から貴重品を奪われた。その品々が移動にかかる資金に様変わりしている。

『今は爵位を奪われておっても、聖王国にはわしを支える者達が大勢おる。奴らの手にかかれば、子爵家がやっておる商会を潰すことなど簡単じゃからのう』

『魔の森に放り出してあげようか? 治癒も出来ないサブリナなんて瞬殺されちゃうかもぉ』

 サブリナとセシルは聖王国に帰る勇気が出ず、レベッカ達にくっついて来た事を死ぬほど後悔している。



 領主館に着いたが聖女の祈りの場にいた領主はおらず、代替わりした新しい領主が困惑した顔で出迎えた。

 レベッカ達の悪運が働いたのか、リューズベイには王都での騒ぎの詳細が届いておらず、気の弱い新領主はレベッカ達のゴリ押しに負けて宿泊の許可を出してしまった。

『本当に少しの間だけなんですよね?』

『いつまでなのかはっきり決めていただかないと⋯⋯』

 聖王国からの援助金が届くのを待っていると言う言葉に騙され、王都の卒業パーティーで発覚した事件の詳細が届いた後も⋯⋯そのまま居座られてしまっている。




 後悔先に立たず⋯⋯。

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