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58.嬉し恥ずかし、ブチギレた

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 終業式までの暇な時間に少しずつ島に手を入れ、家が形になりはじめた。

 巨大な穴を掘り壁を固めて作った地下室は、錬金術の作業部屋と温度管理の必要な薬草や素材用の倉庫になる。

 地上階は木を切り枝を落としてログハウス風の家を建てていく。広い窓とテラスは必須で、キッチンは大きなテーブルが置ける広さにしたい。

 暖炉の前はミュウ達全員とゴロゴロできるように、どこよりも広いスペースにするつもり。

 細かく粉砕した貝殻を畑の予定地に蒔いた後は、モグモグが大喜びで土を掘り返し、悪戯を仕掛けようとするピッピがウルウルに追いかけ回されていた。



 ミュウ達が走り回る姿を見ながらのんびりとお茶をするのが、ロクサーナの一番の楽しみ。

【みてみて、ピッピお魚取れた~】

【逸れた魔物の子供発見!】

「え? 迷子なの!? 親、親を探さなくちゃ」



【みてみて~、ドラゴンが卵産んでたの~】

「返してきてぇぇぇ! 山が揺れてるからぁぁ」




 ジルベルト情報によると、領主が世代交代したリューズベイは、落ち着きを取り戻したらしい。ギルド長も罷免され、副ギルド長が繰り上がりでギルド長に就任。

 シーサーペントは解体されて素材は冒険者ギルドに売り、身は屋台や食堂で色々な料理になって売りに出された。

 収益は、シーサーペントを討伐する為に使用した魔導具の購入費用として、ウルサに届けられ⋯⋯わざわざ教会に乗り込んできたウルサ達がロクサーナのものだからと言って置いて行った。

『タダ働きはチビには似合わねえ』



 シーサーペントが討伐されてから、漁場の魚が増え、海の汚染も減ったと言う噂が流れた。

 そのお陰か町は以前より活気にあふれ、観光客も増えている。

【キルケーはいいの?】

「うん、少しほとぼりが覚めてからにする」

 教会を出る前にウルサ達が『チビからの連絡を待ってる』と言っていたので、当分リューズベイには近寄らないつもり。

「楽しかったけど、私は余所者だからね」

【だから、こっそり船だけ回収に行ったんだ】

「まあね」





 7月、学園の終業式まで10日あまり。

「ぐふっ⋯⋯デヘヘ⋯⋯」

【ロクサーナがこわれたの~】

「カジャおばさんがさぁお祝いしてくれるって言うんだも~ん。でへっ⋯⋯お祝いだよ~」

【昨日ドワーフ村から通信が来てからずっとこの調子⋯⋯治んないかも。そ、そうだ! クロノスに時間を戻してもらえば⋯⋯】

 ドワーフの中で一番積極的に『救出してぇぇ』と言っていたのがカジャおばさん。子供の頃から可愛がってくれていた親戚⋯⋯叔父が捕まっていたので、必死だったと教えてくれた。

『村長は気が利かんけん、相談事はうちらに言いんちゃい。男らの尻を叩いちゃるけんね』

『ロクサーナちゃんはドワーフ村みんなの孫じゃけん、遠慮せんのんよ』

『ちゃんと3食食べよる? 早うおっきゅう大きくならんとね』

 村長との通信に必ず割り込んでは色々と心配してくれる、元気いっぱいのおばちゃん達のひとり。

『もうすぐ終業式じゃって聞いたけん、終わったら村に来んちゃい。うちでお祝いするけんね』

 それからずっと『でへへ』となっているロクサーナだった。



 夕方になりようやくロクサーナに正気が戻ってきた頃、通信鏡の向こうに⋯⋯机に頭と両手をつけた平身低頭のジルベルト司祭の姿が現れた。

「⋯⋯と言う事で、お願いできないかなぁと」

「はいぃぃぃ!?」

 またあの肩のこる制服を着て、歌って踊るポンコツ達に会うと思っただけでも溜め息しかでない⋯⋯考えるのはもう少し先⋯⋯と思っていたロクサーナの絶叫が響き渡った。

「卒業パーティーへの参加ってなにそれ⋯⋯なんの罰ゲーム?」

「だよね、俺もそう思うよ」

 終業式の前日に3年生の卒業式があり、その後『卒業パーティー』があるのはお決まりだが、王国では在園生を含めて全員参加が決まりだと言う。

 卒業パーティーとなっているが、教職員や両親を招待したいわゆる謝恩会で、王宮の大広間を使って開かれる⋯⋯。

 一体何人いるのか想像したくもないパーティーのよう。

「ふ~ん、気軽に制服でご参加下さいってわざわざ追記してある?⋯⋯すっご~く分かりやすい狙いだよねぇ」

「う、うん」

「拒否できないの?」

 徐々に⋯⋯じわ~りじわりと⋯⋯スイッチが深く深~く押し込まれる気配にジルベルト司祭が震え上がった。

「ご、ごめんね! ほんっとにごめん! 断ってあげたかったのよ。何度も交渉したんだけど⋯⋯留学生のリーダーが出席できないのかって言われちゃったのよぉ」

 感情の振り幅が大きくなるとオネエ言葉になるのは、ジルベルト司祭の過去に理由があるが⋯⋯それはまた別の話として。

「やっぱ辞めにするわ! 卒業式前にあの王国をぶっ潰して来るから! だから、ロクサーナは気にしないで。この通信は終業式がなくなる連絡ってこ⋯⋯」

「やーめーれー! たかがパーティーひとつのために国を潰しちゃダメじゃん」

「でもね⋯⋯あの国、図に乗りすぎだから、きっちり仕返ししないと気が済まないって言うか⋯⋯」

「やってやろうじゃん! パーティーでアイツらぜーんぶボッコボコにして、アホ面を晒させてくる!」

「⋯⋯本当の本当にいいの? 絶対嫌な思いすると思うから、無理しないで」

「だって、今あの国を潰したら特別報酬がなくなりそうだし、パーティーで難癖つけてきたらその分をさらに追加でもらっちゃうもんね~。慰謝料よ! 精神的苦痛に大勢の前で聖女を貶めた不敬罪を追加して、がっぽり毟り取ってやる!
なんならその時だけ『大聖女候補』になってもいいかも⋯⋯その方がもっと毟り取れそうだしね」

 流石、銭ゲバ聖女。

「⋯⋯教会の『ぜひ大聖女に!』と言うお願いは拒否し続けてきたくせに」

「ふっふっふ、白金貨のためなら使えるもんはなんでも使うのだよ」

「⋯⋯プハッ、ロクサーナらしくていいじゃん。なら、こっちで『大聖女昇格』を作っとく」

「すぐに本格的なドレスを準備しなきゃだね! ロクサーナさんの本気、見せてやろうじゃん!」

 この短期間ではどうせ大した準備はできないだろうと、下劣な笑いでも浮かべていそうなポンコツ達。

(それなら予想を覆すのがセオリーってやつだもんね~)




 通信を切って異空間収納の中から、大量のアクセサリーとドレスの素材を取り出して腕を組んだロクサーナがほくそ笑んだ。

(足りないものがあるよねぇ⋯⋯)






「でね、来ちゃったの~。それと、ジルベルト司祭を拉致してきちゃいました。テヘッ」

 突然、教会の執務室に現れたロクサーナは、机に張り付いていたジルベルト司祭の首根っこを掴み、問答無用で転移。

 ロクサーナの目の前でふるふると震えながらすでに泣いているのは⋯⋯変異種のアラクネ。

「ドレス一着分でいいです! どうかお願いしまっす」

「あの、初めてお目にかかります。ルイス・ジルベルトと申します。一度お会いしたいとは思っておりましたが⋯⋯えーっと、この度はご面倒をおかけ⋯⋯」

【きゃ、イケメンじゃない! いいわよ~、バンバン出しちゃうわ。少し面窶れした感じとか、かき乱した髪を慌てて纏めたみたいな⋯⋯主人公に振り回された哀れなイケメン!
妄想高まるこの感じ~、出まくっちゃうかも~】

(アラクネにもイケメンが効くのか⋯⋯主人公って、なんぞ? でもでも、いい事知っちゃった~)

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