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43.無駄にポジティブだと、本人は幸せでいられる

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 夜が更ける頃、レオンが大量の荷物を持って帰ってきた。

「ただいま~、一応色々買ってきたんだけど、もう食べた?」

「え、いや。そういえば食べてないかも」

 いつもと変わらない飄々とした態度で帰ってきたレオンは、荷物の置き場を探してうろうろした後で、テーブルの端に置いて魔導具を覗き込んだ。

「中ってこうなってるんだ、初めて見た」

「うん」

「これってまた組み立てられるの?」

「できなくはないけど⋯⋯」

 ロクサーナは分解された魔導具の上に手を翳して、復元魔法を使う。これはクロノスの時間魔法のひとつ。

「今のって、この魔導具の時間を戻したとか?」

「⋯⋯うん、まあ。それに近いかも(レオンが帰って来るまでに復元しとけばよかった。間抜けだなあ)」

「マジか! 時間が戻せる魔法なんて伝説かと思ってた」

「あんまり古いものはできないし、生き物には無理。えーっと、いろんな魔法が使えたり、魔導具とかポーションとか色々⋯⋯だから、人には知られないようにしてる。あんまり関わると揉め事があったりするから」

「なんか分かる。俺なんて火魔法が使えるだけなんだけど、それでも色々言われる事があるもんな。ロクサーナの使う魔法を知ったら妬まれたり便利に利用しようとする奴、絶対出てくるよ。昔は魔法が使えるだけで攫われてたんだぞって、何度も家族に言われて心配されたし。
でも、聖王国のお陰でなくなったんだ。俺を助けてくれた聖女様の国だからさ、いつかお礼に行きたいなぁって両親と話してるんだ」

(その聖王国のルールで、拐われたようなもんだけどね)

「うん」



「で、どれ食べる? どれでも好きなのを選んで」

 魔導具を片付けると、レオンがテーブルに料理を並べはじめた。

「オレンジは売り切れだったからさ、りんごを買ってきたんだ~」

 出かける前の揉め事などなかったように、『今日は皮剥きにチャレンジする』とレオンは張り切って林檎を見せびらかしている。

【呑気だよな~、考えが浅いよ】

【そういう人ってさ、すっごく幸せだよね。問題を先送りしても元気いっぱいだなんて、僕には理解できないけどね】


「毛布と枕はもう少ししたら持ってきてくれるって。出かける前に、俺が帰ってきてからにしてくれって言っておいたから⋯⋯ロクサーナ、忘れてただろ?」

 ロクサーナは抜けてるからねと言いながら、ポットからお茶を淹れスプーンを手に取った。

「うん」

 大きな口を開けてソーセージを挟んだパンにかぶりつき、満足そうにシチューを食べるレオンの表情はいつもと変わらない。



「さっきはその⋯⋯ごめん」

 ほとんど食がすすんでいないロクサーナが、皿の上の豆をつつきながら謝った。

「ん? こっちもごめん。ちょっと驚きすぎて興奮しすぎた」

「いや、あの。ごめん」

「傲慢な考えかもしれないけど、ロクサーナは本気で俺の事を信じてないとは思ってないんだ。ロクサーナが本当に俺の事を信じてないなら、俺の頼みなんて無視してとっくに転移でいなくなってるもんな。
だから、信用してないんじゃなくて、信用できるかどうか分からないだけ」

「⋯⋯よく分かんないけど、対して違わないような気がする」

「すっごい違うよ。信用してないならもうダメかもだけど、分からないならこれから分かるかもしれない」

「⋯⋯レオンって、無駄にポジティブだよね」

「ええっ! それ、褒めてる? 貶してる? でもまあ、そういうわけで、これからもよろしく」



 食事の後で宣言通り、りんごの皮剥きにチャレンジ中のレオン。今現在で3回指を切って、その度にロクサーナがヒールをかけている。

「あのダンジョンだけどさ、人為的にスタンピードを起こすって、何がしたいんだろうな」

「魔導具の実験かもしれないし、別の理由かも」

「別のって?」

 ようやく剥けたりんごをロクサーナに貢いだレオンは、『今のは皮が厚すぎた』とぼやきながら、次のりんごを手にした。

「それを調査してるんだけど、まだはっきりしてない」

「って事は予測はできてるって事⋯⋯で、帝国に来たって事は⋯⋯う~ん、想像もつかない。ロクサーナはいつもこういう調査とかをやってるの?」

「任務の内容は色々かな」

「任務かぁ、上司がいるって言ってたし⋯⋯こんなにちっこいのに凄いよ」

「今年の春に16歳になるんだけど」

「ええっ! 俺より一個下⋯⋯嘘だろ? てっきり⋯⋯あ、ごめんなさい」

「人よりちょっと成長期が遅いだけで、これからナイスバディになる予定だから」

「あ~、そだね~。うん。そうだ! もう一個気になってるんだけどさ、あのダンジョンの場所ってかなり森の奥だったのに必ず魔物達が王国に行くのってなんでだろ」

「ジェネラルかロード辺りを使役した奴が、群れの方向とかをコントロールするのかも」

 決まった時期にスタンピードを起こすのは、魔物を増やすのに時間がかかるから。

 魔力増幅や結界の魔導具のような貴重な物をわざわざ使ってまでスタンピードを起こしたいなら、テイマーを使って確実に実行しようとしてもおかしくない。

(ジェネラルやロードをテイムできる⋯⋯やっぱり帝国っぽい)



 ダンジョンを見つけた時には、既に魔獣が大量発生していたので、調査にはピッピが行ってくれた。

【わちゃわちゃで~、すっご~いざわざわだったの~】

 よく分からない感想をミュウに叱らたピッピは拗ねてしまったが、ダンジョン内の状況はなんとか教えてくれた。

 各階層に魔力増幅の魔導具が設置されていたと言う情報もピッピから聞いた話。



 毛布と枕が届いてから、どちらがソファに寝るかでひと騒動起きたが、宿のソファを収納して学園の寮でも使っていたソファベッドを出した。

 ランプを消して毛布にくるまっても寝付けなかったロクサーナは、ベッドの周りに壁を作って明かりを灯し、王城の見取り図を取り出した。

(以前と変わってないなら、このルートが安全だけど⋯⋯ドワーフに接触する前に、一度確認しておいた方がいいよね)

【念の為に隠れられる場所も決めておいたら?】

(確かに、すぐに転移できなかった時に隠れる場所があれば⋯⋯地下牢の手前の詰め所がいいかも)

 ドワーフには持久力はあるが瞬発力はない。帝国兵に追われたら一網打尽にされてしまうだろう。

(だったら、ここの⋯⋯)



 明け方から数時間眠ったロクサーナは、レオンが起きた時にはソファベッドを片付けてのんびりお茶を飲んでいた。

「寝てないの?」

「さっき目が覚めたから。お茶を淹れようか?」

 立ち上がってポットのお湯を温め直しお茶を淹れると、寝癖を気にしたレオンが手櫛を入れながらソファに座った。

「目が赤いけど、寝てないの?」

 ロクサーナがレオンと同じ言葉を返すと、サッと目を逸らされた。

「そりゃ⋯⋯気になって⋯⋯ブツブツ⋯⋯でも大丈夫。それより今日はどうするの?」

「一階の食堂で食事をして、薬師ギルドでちょっと仕事をして、魔導具士ギルドを覗いてみる」

「ついて行ってもいい?」

「⋯⋯いいけど、退屈かも」



 朝食を済ませたロクサーナ達は薬師ギルドにやってきた。

「すみません、薬師のニーナと申します。ポーションを持ってきたんですけど買い取りをお願いできますかしら」

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