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35.戦闘狂の予定と予測

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「カイロスやクロノスが神様なら、今まで想像してたより強いって事だね! うわぁぁ、戦ってみた~い」

【モグゥゥッ!】

 ドワーフと一緒になって、呑気に酒を飲んでいたカイロスとクロノスが振り返り、自分の顔を指さして『俺の事?』と首を傾げている。

【究極の戦闘狂】

【バトルジャンキーって言うんだよね~】

 ロクサーナの熱い視線にさらされたカイロスとクロノスの顔が引き攣り、ドワーフ達も唖然としている。

 人見知りするモグモグが驚愕の声を上げ、ウルウルの後ろに逃げ込んだ。




「爺ちゃん、ウンディーネとサラマンダーはおらんの? あと、なんだっけ」

「シルフとノーム。あれらは下位精霊じゃけん、フェンリル達が呼ばんにゃあ、これんじゃろう」

「えーっと、そうだ! 確かに水とか雷の精霊がいないよね! こんなにたくさんいてくれてるんだから、文句じゃないよ。ただの疑問だからね」

 ロクサーナの頭に浮かんだ自分が使える魔法の属性一覧と、ドワーフが教えてくれた周りにいる精霊を比べると、『水の精霊』と『雷の精霊』だけ足りない。

【雷は風と水の複合魔法だから、精霊はいないよ~。水属性なら俺がいるじゃん】



 水の精霊がいない理由が分かりロクサーナが感心していると、ジリジリと後ずさっていたミュウが突然姿を消した。

【ププッ、クラーケンは美味しかったもんね~】

【僕、ロクサーナは知ってると思ってた】

 水の上位精霊はクラーケンだと言う、ピッピ達の大暴露にロクサーナが大絶叫をあげた。

「⋯⋯ぎゃあぁぁぁ? たた、食べちゃったよぉぉ」

「ぶっ、ぶははは! なんとも豪快な人間じゃ」

 村長のブランドンが大爆笑。他のドワーフは口を押さえたり横を向いたりして堪えている。

(知らなかったんだもん。美味しかったけどさ。超ヤバいよお!)

「もしかして、精霊の怒りを買ったりしてる?」

「フェンリルやらフェニックスが何も言わなんだなら、問題のない個体じゃったと言う事じゃろう」

 よく分からないが、大丈夫だったなら一安心だと胸を撫で下ろした。

 異空間収納に残っているクラーケンの残りを思い出したロクサーナは、ブルッと身体を震わせた。



「ミュウは一回おやつ抜きの刑かな」

 ポツリと呟くと姿を現したミュウが、ロクサーナの頭の上で飛び跳ねた。

【酷い、酷いよ! だったら、キルケーんとこに行く方法教えてあげないからね!】

「ええ! マジで知ってるの!? なら、キルケー楽勝じゃん! ミュウ様には焼き立てアップルパイをホールで献上いたしますでございます。是非是非教えてくだされ~」

【ふっふっふ! 俺の勝ち~】

【フェイのことぉ? あの子がいたら行けるよね~】

【あ! ピッピのバカァ】

 魔術に詳しいフェイは水場を棲家としている精霊で、異次元の世界に住んでいる。

「フェイは人間には見えんからのう」

【フェイならズレた次元の狭間を飛び越えられるしね~】

【あ~も~、全部言われちゃったじゃん。俺のアップルパイがぁ】

 フェイの能力があれば、リューズベイの沖にある次元がズレた場所を通り抜け、キルケーの棲家のあるアイアイエー島に簡単に辿り着けるという。

「おお、いつの間にか問題解決! ミュウとピッピのお陰で大冒険できちゃうじゃん! 薬草学と薬学でしょ? 冥府に赴いて霊を呼び寄せて予言を得る方法に、変身術にキメラ。アコニツムトリカブトの扱いとキュケオーン向精神的な醸造酒の作り方もあるし。
どうしよう⋯⋯時間が足りなくて、帰ってきたくなくなるかも!」



「まさか⋯⋯異次元の世界に行くとゆうとるんか!?」

「はい、他の予定もあるんですぐは無理だけど、張り切って行ってきます! カリュブディスとスキュラと、もしかしたらセイレーンですね。
その前にスタンピードとシーサーペントも片付けなきゃ。あ、薬草! シルフィウムはガンツに任せても⋯⋯コントライェルバがなぁ。任せられる人を探さないと萎れちゃうよね。なら⋯⋯」

 指折り数えながらぶつぶつと予定を数え上げているロクサーナ。

「無茶じゃけん、やめときんさい。キルケーもじゃけど⋯⋯あんたが言いよるのはリューズベイのシーサーペントと『魔の森』じゃろう? あれは関わったらいけん、ほっとかんにゃ」

 眉間に皺を寄せたブランドンが首を横に振った。

 山奥に住んでいても情報は届いているらしく、何か言いかけて口を閉じたブランドンは、まるで苦い薬を飲むみたいな顔で酒を 呷あおった。



「でも、困ってる人達がいるから放置できないです」

 人嫌いのロクサーナの気持ちを変えたのは、チェンバー先生やウルサ達。王国で会った人達の中では極々少人数だが、調査だけで終わらせたくない⋯⋯できれば助けたいと思ってしまった。

(私の決めたルール⋯⋯ 必要以上に人に関わらない⋯⋯とはズレてるし、国だのアリエス達だのが関わって面倒だとは思うけど)

 魔の森の中に畑を作る危ない教師のチェンバーは、薬の効果を知る為なら平気で自分を傷つけるマッドサイエンティスト。

(魔物の被害に遭った人達や、戦う冒険者の手助けをするのが目標だなんて聞いちゃったんだもん)

 イベントを盛り上げる為に船を壊されて飲んだくれていたウルサ達が、船に飛びつき子供のような満面の笑顔を見せたのが忘れられない。

(騎士団で、ひとりで書類と格闘してた人も見ちゃったしな)

 正直に言って聖王国の事情は気にしていないが、シーサーペントとスタンピードは潰したい。

 シーサーペントはすぐ殺れるし、南の森で起きるスタンピードの原因はほぼ判明してる⋯⋯後は西の調査のみ。



「国を相手にするつもりがあるんか」

「まあ、その辺は聖王国のジルベルト司祭に丸投げでも良いかなって思ったりもしてて。無理なら国ごとプチって潰すのもありです」

 ダンゼリアム王国とズブズブのアリエス達やガーランド司教、適当な仕事をし続けていい加減な報告をあげていた魔法士達。

「スタンピードがなくなって、単発の魔物の被害だけになれば聖王国の管轄じゃなくなるし、シーサーペントが出てくる原因を潰しちゃえば、領主が領民の船を壊したがる理由もなくなるんで」

 ダンゼリアム王国やアリエス達の過去の不正を裁くのは、ジルベルト司祭や教会の上の人達の仕事。

(その頃には契約終了で、聖女は引退だしね)

 ロクサーナの頭の中では非常にwin-winな状態になっている。

「ダンゼリアムの王家やら貴族やらが大人しくしとるかのう」

「今まで聖王国に対しては依頼料払ってないですから、文句言えないと思うんですよね~。てか、文句言わせません。
多分ですけど、あのスタンピードって人の仕業だと思うし」

「はあぁぁ、なんじゃそりゃあ」

「王国のスタンピードって人為的に起こされてるっぽくて、それができるのは少なくとも王国ではないですね」

「なら、どこがやっとるゆうんかい」

「一番の可能性としては聖王国の担当司教や魔法士で、後はダンゼリアム王国が邪魔だって思ってる国かな」

「邪魔⋯⋯王国は3方向が魔物の森に囲まれとるけん、あんまり欲しがる奴はおりゃせんで」

「そうでもないと思いますよ~。だってほら」

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