上 下
14 / 126

14.午後の試験が楽しみ〜

しおりを挟む
「はぁ、失敗したなあ。黙って帰れば良かった」

「ロクサーナったら、脅しじゃなくて本気で帰るつもりだったの?」

「勿論! 最大のチャンスが来た、よっしゃあって感じ」

「⋯⋯もしかしてロクサーナは、例の話に興味ないの?」

「へ? ないない! ぜんっぜん興味ない。相手が誰だろうとぜ~ったい結婚なんてしない。第一、お世話係さんで呼ばれただけだし」

「ええっ! マジ?」

「サブリナもセシルもこの国に来るの初めてでしょ? だから、いざっていう時に私がいれば魔鳥ですぐに連絡できるとか、そんな感じでメンバーに入れられたんだ~」

 定期的に起きるスタンビードや海獣の調査が参加理由だと言うのは、2人には秘密。

 ロクサーナはジルベルト司祭の話を思い出した。



『タンザリアム王国は治癒魔法使いが欲しいって駄々を捏ねてるけどさぁ、サブリナかセシルがあの国の誰かと結婚しても、うちの問題は解決しないんだよね』

 サブリナなら魔物討伐に活躍できるが一人の力には限りがあり、対応できるのは単体の大型の魔物か複数体の小型の魔物。

 治癒魔法はヒールアクアだけだが、練度が高いので薬師レベルくらいはなんとかなる。

 セシルが結婚した時は治癒魔法はそこそこ役に立つが、広範囲の治療はまだできない。魔物の討伐や災害が起きた時の攻撃力は弱く、補助的な役目がメイン。

『もし仮に、セシルやサブリナの力が覚醒しても、一人でできることなんて知れてる。だから、今までと変わらずうちに『魔物だぁ、災害がぁ』って救助要請が来る。ってことはさ、うちには何もメリットがないどころか、頑張ってる子を奪われるだけなんだよね~。
だからと言って、両方をカバーできる魔法士や聖女を送り出すなんてあり得ない話だしさ』

 そんな事をしたら、すべての国から魔法士をくれと言われるようになるのは間違いない。

『ロクサーナにはさ、サブリナ達と一緒に行って、現地調査して欲しいんだ。あの国の報告書をちょっと調べてみたんだけど⋯⋯定期的に起きるスタンビードで、魔物の種類も数もほぼ同じっておかしくない? 海獣も同じ種類が同じ時期に出没するし。
つまり、人為的な災害の可能性が高いって事なんだけど、誰が何の為にやってるのかが分からない』

 かなり力のある闇属性の魔法士か魔導具を使えば、強制的に魔物をコントロールする事ができるはず。あとはテイマーとか。

 魔法士の派遣費用さえ払えない国で、それをする理由は?

『ロクサーナは名前も力も公になってないからさ、こっそり調査しても向こうは気付かないと思うんだよね~』

 ロクサーナは単独で依頼を受けた時も他のメンバーと行動する時も、必ず認識阻害や隠蔽を使う。これは、期間限定で聖女登録する時に決めた条件のひとつ。

(名前や力が有名になったら、聖女を辞めにくくなるもん)

 ロクサーナの魔力量・使用可能属性数・魔法の練度は、過去の大聖女以上だと言われている。

 人嫌いで神を信じていないのも、規格外の力を持っているのもロクサーナの過去に理由がある。

(私は聖女を辞めたい。私は聖女として不適格)



「さて、午後の実技試験に行かなくちゃだね」

「剣術の試験ってさ、試合形式なんだって。午前中の学科試験のストレスも、さっきのイライラも全部ぶつけて、ギッタギタにしてくるね」

「私は時間内に刺繍を仕上げるらしくて、終わった人から帰っていいみたい」

「私はポーションを作るって書いてあったんだけど、すごく久しぶりだから楽しみなんだ」

 サブリナとロクサーナは試験が終わり次第、剣術の試験会場に行くと約束して、カフェテリアの入り口で解散した。

(さて、何人くらいいるのかなぁ。『おらぁワクワクしてきたぞ』ってやつだね)




 錬金術&魔導具クラスの教室は校舎裏の研究棟にあった。

 頑丈なドアをこじ開けて中に入ると、薬品や薬草の匂いに混じって焦げたような鼻をつく臭いがする。

(実験で失敗でもしたのかな)

 教卓に向かって並ぶ広い机と背もたれのない椅子に生徒が16人。

(思ったより多いかも⋯⋯)

 窓はなく左右の壁際には、錬金釜や魔道コンロが2列になって並んでいる。後ろにはびっしりと作り付けの棚が並び、様々な大きさの瓶や素材が整然と収納されていた。

 錬金術や魔導具作りは正しく管理された素材と器具が重要で、雑な扱いはそのまま結果に影響する。

(先生は割と几帳面な人かな? それならちょっと期待できるね)



 後ろの席につき、周りを見渡していると40代くらいの男性教師が入って来た。

「全員揃ってるね。担当のジェイムス・チェンバーだ。さて、本日の試験は例年と同じで、指定された素材を使って初級ポーションの作成を行う。
えー、素材はここに準備してあるものだけを使うんだが、ポーションの品質だけでなく、完成するまでの時間も採点に影響する。
作り直しは何度でもオーケー。鑑定の魔導具を使い、ポーションの品質を確認するのは一回のみだから、納得のいくポーションが出来たら私のところに持ってきなさい。
何か質問は?」

「あの⋯⋯聖王国の留学生がひとり参加してますけど、ズルというか⋯⋯魔法を使って誤魔化すとかできるんですか?」

 見たことがある男子生徒なので、Aクラスの生徒かもしれない。

「魔法を使うには詠唱というものが必要になるから、使ったか使ってないかは見ていたら分かる」

「じゃあ、見張っておかないと!」

「魔力はどうなんですか!?」

「目に見えないんだが、魔力を使うと品質が変わると言われている。
ただ、君達にも大なり小なり魔力は存在するんだ。魔法が使えないと魔力を意識する事はないから、知らない人が多いだけでね」

「ええっ! そんなの、聞いた事ないよな」

「だって魔力があるなら魔法だって⋯⋯」

「魔法を使う時は魔力を必要とするが、魔力があっても魔法が使えるわけではない。つまり、魔法が使えるか使えないかの問題と、魔力があるかないかは別の問題だという事。これはとても重要な事だから、覚えていて欲しい。
これよりも詳しい話は授業で行うとしよう。他に質問は?」

「魔法を使って作るのと魔法を使わずに作るのでは品質は変わりますか?」

「魔法の種類によっては、高品質のものができる」

「そんなのズルい!」

「⋯⋯まず一つ目。留学生と言うのは人の名前ではない。そして二つ目、何もはじめないうちから、不正をした場合の話ばかりするのは公平ではないと私は思うんだが、君達はどうかな?」

「同じ留学生を虐めてるって聞きました」

「昼休憩でアーノルド王子殿下に叱られてたし」

「⋯⋯うーん、君達の話は伝聞と詳細不明のものだけなのかな? 今から君達はポーションを作るが、その時に最も大切なのは正しい素材を自分の目で選び、正確な分量を測り、正しい手順で作る。
人の評価と錬金術や魔導具作成には通じるものがあるとは思わないか? 噂とは不確かで、間違った思い込みや想像が含まれる場合がある。自分の目で見て、あらゆる角度から確認した物でなければ、正しい結果は生まれない」

「じゃあ、先生は噂が嘘だって言うんですか?」

「王子殿下のお言葉が間違ってるって?」

 教室中の生徒がざわざわと騒ぎはじめ、何を言っているのか聞き取れないほどになっていった。

「さあ、その全てが伝聞だから、私には正しいとも間違っているとも言えない。自分の目で見てないのだから、分からないと言うしかないね。
では、噂の留学生のロクサーナ・バーラム。君の意見は?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪で婚約破棄され、隣国に嫁がされそうです。そのまま冷遇されるお飾り王妃になるはずでしたが、初恋の王子様に攫われました。

櫻井みこと
恋愛
公爵令嬢のノエリアは、冤罪によって王太子から婚約破棄を告げられる。 どうやらこの婚約破棄には、国王陛下も関わっているらしい。 ノエリアを、隣国に嫁がせることが目的のようだ。 だが夫になる予定の国王にはもう妻がいて、ノエリアは血筋だけを求められるお飾りの王妃になる予定だった。 けれど結婚式直前に、ノエリアは忍び込んできたある男に攫われてしまう。 彼らの隠れ家に囚われているうちに、ノエリアは事件の真実を知る。

【完結】魔力なしの役立たずだとパーティを追放されたんだけど、実は次の約束があんだよね〜〜なので今更戻って来いとか言われても知らんがな

杜野秋人
ファンタジー
「ただでさえ“魔力なし”の役立たずのくせに、パーティの資金まで横領していたお前をリーダーとして許すことはできない!よってレイク、お前を“雷竜の咆哮”から追放する!」 探索者として“雷竜の咆哮”に所属するレイクは、“魔力なし”であることを理由に冤罪までかけられて、リーダーの戦士ソティンの宣言によりパーティを追われることになってしまった。 森羅万象の全てが構成元素としての“魔力”で成り立つ世界、ラティアース。当然そこに生まれる人類も、必ずその身に魔力を宿して生まれてくる。 だがエルフ、ドワーフや人間といった“人類”の中で、唯一人間にだけは、その身を構成する最低限の魔力しか持たず、魔術を行使する魔力的な余力のない者が一定数存在する。それを“魔力なし”と俗に称するが、探索者のレイクはそうした魔力なしのひとりだった。 魔力なしは十人にひとり程度いるもので、特に差別や迫害の対象にはならない。それでもソティンのように、高い魔力を鼻にかけ魔力なしを蔑むような連中はどこにでもいるものだ。 「ああ、そうかよ」 ニヤつくソティンの顔を見て、もうこれは何を言っても無駄だと悟ったレイク。 だったらもう、言われたとおりに出ていってやろう。 「じゃ、今まで世話になった。あとは達者で頑張れよ。じゃあな!」 そうしてレイクはソティンが何か言う前にあらかじめまとめてあった荷物を手に、とっととパーティの根城を後にしたのだった。 そしてこれをきっかけに、レイクとソティンの運命は正反対の結末を辿ることになる⸺! ◆たまにはなろう風の説明調長文タイトルを……とか思ってつけたけど、70字超えてたので削りました(笑)。 ◆テンプレのパーティ追放物。世界観は作者のいつものアリウステラ/ラティアースです。初見の人もおられるかと思って、ちょっと色々説明文多めですゴメンナサイ。 ◆執筆完了しました。全13話、約3万5千字の短め中編です。 最終話に若干の性的表現があるのでR15で。 ◆同一作者の連載中ハイファンタジー長編『落第冒険者“薬草殺し”は人の縁で成り上がる』のサイドストーリーというか、微妙に伏線を含んだ繋がりのある内容です。どちらも単体でお楽しみ頂けますが、両方読めばそれはそれでニマニマできます。多分。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうとカクヨムでも同時公開します。3サイト同時は多分初。 ◆急に読まれ出したと思ったらHOTランキング初登場27位!?ビックリですありがとうございます! ……おいNEWが付いたまま12位まで上がってるよどういう事だよ(汗)。 8/29:HOTランキング5位……だと!?(((゚д゚;))) 8/31:5〜6位から落ちてこねえ……だと!?(((゚∀゚;))) 9/3:お気に入り初の1000件超え!ありがとうございます!

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

(完)浮気ぐらいで騒ぐな?ーーそれを貴方が言うのですか?

青空一夏
恋愛
「浮気ぐらいで騒ぐな!」私を突き飛ばし罵倒した貴方。 「貴族なんて皆、愛人がいるじゃないかっ! 俺は当然の権利を行使しただけだ!」  なおも、言い募る貴方、忘れてませんか? 貴方は、婿養子ですよね?  私に、「身の程をわきまえろ!」という夫をどうしたら良いでしょうね? イシド伯爵家は貴族でありながら、この世界から病気をなくそうと考え、代々病院経営を生業としてきた。私はその病院経営のために、医者になった男爵家の次男を婿養子に迎えた。 父が亡くなると夫は図に乗りはじめ、看護部長の女もやたらと態度がでかいのだった。 さぁ、どうしましょうか? 地獄に突き落としていいかしら?

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

終焉の世界でゾンビを見ないままハーレムを作らされることになったわけで

@midorimame
SF
ゾンビだらけになった終末の世界のはずなのに、まったくゾンビにあったことがない男がいた。名前は遠藤近頼22歳。彼女いない歴も22年。まもなく世界が滅びようとしているのにもかかわらず童貞だった。遠藤近頼は大量に食料を買いだめしてマンションに立てこもっていた。ある日隣の住人の女子大生、長尾栞と生き残りのため業務用食品スーパーにいくことになる。必死の思いで大量の食品を入手するが床には血が!終焉の世界だというのにまったくゾンビに会わない男の意外な結末とは?彼と彼をとりまく女たちのホラーファンタジーラブコメ。アルファポリス版

処理中です...