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10.レベッカ劇場にはすでに出演者がいるという驚きの事実

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「どうして⋯⋯何故、私だけ仲間外れにするの? 知り合いがほとんどいない国で⋯⋯」

「先に行ってって言われたからなんだけど?」



「レベッカ、大丈夫か!?」

「ビクトール! 大声を上げてごめんなさいね。私⋯⋯一人ぼっちで心細かったの」

「そんなに泣いたら可愛い顔が台無しになるよ。ほら、メイドのとこに行こう」

「でもぉ⋯⋯」

 チラッとロクサーナ達の方を見てビクトールの陰に隠れるレベッカ。

「可哀想に⋯⋯。ここに剣があれば俺が叩き切ってやるのに⋯⋯いいか! お前ら、よく覚えとけ。
この学園で虐めなんて低俗な遊びは俺が許さないからな! レベッカ、こんな奴ら放っておけばいいよ。アーノルドが心配して探してたから行こう」

「ええ、嬉しいわ。皆さん、お騒がせしてごめんなさい」

 涙の残る顔で弱々しく頭を下げたレベッカが観衆に微笑みかけ、ビクトールの腕に縋りながら会場を後にした。

(いや~、もう籠絡してるって早くないか? 化粧崩れてても堂々としてて、最早神業?)



「⋯⋯ビクトールって誰?」

「アーノルドってやっぱりあの方よね」

「今回のレベッカ劇場は短かったけど、今までの中でもトップクラスで派手だったかも。迷惑度ナンバーワン」



「記念すべき入学式で仲間外れなんて」

「可哀想だわ」

「あんなに泣いて⋯⋯」

 何も知らない野次馬の非難する声が聞こえてくる。

(やられたな~、この状況じゃ言い返すこともできないしね~)

 聖王国にいた時もレベッカが同様の騒ぎを起こすのは日常茶飯事なので、ロクサーナ達は慣れっこになっている。

 はじめは『可哀想』だと言っていた人が多かったが、今では取り巻きや一部の新人が慰める程度。

 大半の人は『またはじまったか~、今日のお題は何?』と思うくらいには聞き飽きている。

(それだけ練度が上がってるって事だよね)

【魔法の練度は最低だけどね~】

(知り合い、いそうじゃん)

【流石クソ女、魔物の気配は分かんなくても、獲物を見つけるのは素早い】

(子猫ちゃんは悪い言葉使っちゃダメです。私は使っても良いけどね)

【子猫じゃないのに⋯⋯】

(んじゃ、子犬)

 気分次第で姿を変えるミュウ。疲れた時は光の玉になり、たまに羽根の生えた少年の姿にもなる。

(どれがホントの姿かわかんな⋯⋯)

「ねえ、この雰囲気どうしよう」

 サブリナに袖を引かれて、ミュウとの念話をやめたロクサーナが苦笑いを浮かべた。

「どうにもできないっしょ。『皆さん、聞いて下さい。今のは⋯⋯』とかって叫ぶのは顰蹙買うだけだし」



 冷ややかに睨みつける生徒や、背後から妙な圧をかけてくる保護者達。壇上ではロクサーナ達を見ながらヒソヒソと話す教師達。

(何年振りかな~、この四面楚歌でヒリヒリする感じ)

「懐かしいねぇ⋯⋯」




「お集まりの皆さん、入学式をはじめたいと思います。どうぞ席におつき下さい」

 拡声の魔導具を使っているらしい大きな声が聞こえてきた。バタバタと席についた生徒が背筋を伸ばして前を向き、保護者席から咳払いが聞こえる。

「第六回、ダンゼリアム王国王立学園の入学式を開催する。一同起立!」

 それ以降はよくある式と同じ流れ。長ったらしい学園長や来賓の挨拶で、うたた寝をする生徒が時々席から転げ落ちたり、在園生挨拶で壇上に現れたイライザに拍手喝采と指笛が浴びせられたり。

【よくある式とは、ぜんっぜん違うよ~】

 ミュウのツッコミをスルーして真面目な顔を取り繕うロクサーナの横で、サブリナが心配そうな顔をしていた。

「レベッカは戻ってこなかったわね」

「きっと化粧直しが間に合わなかったんだよ」

 ヒソヒソと小声で話すサブリナとセシル。

(ちょっと気が弱いけど気遣い屋さんのサブリナと、口は悪いけど正直者のセシルらしいね)

【⋯⋯ロクサーナは、口は悪いけど腹の中は真っ黒くろ◯けだね】

(今日はおやつなし)

【うわぁ、ごめんなちゃい】



 新入生代表は筆頭公爵家三男のトーマス・マクガバン。神経質な甲高い声でメモを延々と読み上げた。

 後から知った話だが、王立学園では最も家格が高い家の子息令嬢が挨拶をするそう。

 納得納得!


「では、これより教室に移動する。Aクラス起立!」

 時々軍隊形式、のちライブ会場⋯⋯のような入学式が終わり、体格の良い教師の後に続いて教室に向かった。

 一年生の教室がある園舎は講堂から一番近い建物で、Aクラスは2階の一番端。雛壇式になっている席は横3列縦5列で、3人掛けのベンチシートが設置されているが、席順は決められていないらしい。

 チラッとロクサーナ達を見ては席に着く生徒達を横目に見ながら、教室後方の窓際に陣取った。

 ロクサーナとセシルが並び、その前にサブリナが座ったのはレベッカ対策だったが、当の本人は一番前の席に座って振り向き、ロクサーナ達を睨んでいた。

「横に座ってるダークブロンドは第二王子かな~。んで、反対側はビクトールとか言う奴? レベッカってば最速でお友達作ってるじゃん。流石だねえ」

「私の隣⋯⋯開けておく必要なかったのかしら」

 身体を横に向けてサブリナが話しかけてきた。

「他の生徒対策としては3人で並ばない方が良いよ。時間毎に席替えしようね」


「制服のボリュームによっては一人掛けになるからかな、人数の割に教室が広い」

「セシル、みんなに聞こえちゃうから⋯⋯」

 かなりストレスが溜まっているらしいセシルの毒舌が止まらない。



 引率してきた教師が教壇に立ち、パンっと手を叩いて話しはじめた。

「1年間このクラスを担当するネイサン・オッタルだ。受け持つ教科は剣術。今年度はこの学園が設立されて以来初の王族、第二王子殿下が入学された。皆、友好を深めたいと考えていると思うが、節度を保って行動するように!
アーノルド王子殿下、一言いただけますか?」

 席を立って後ろを振り抜いたアーノルド王子が、胡散臭い爽やかな笑顔を浮かべて話しはじめた。

「この中の大半はすでに私の顔を知っていると思うが、これから1年間⋯⋯いや、クラスが変わらなければ3年かな⋯⋯共に切磋琢磨していこう」

 盛大な拍手に手を振りかえして席に着くアーノルド王子。教室でそれはないだろうという指笛が鳴り響く。

「皆も気付いたと思うが、本来ならアーノルド王子殿下が新入生代表として挨拶されるはずだが、心の広い殿下は下位貴族が王族の前で萎縮しないようにと代表を辞退された。
そのお心遣いに感謝し、学園生活を送るように」

「何この王子讃歌⋯⋯キモ!」

 小声で呟いたセシルが光属性魔法のライトボールを詠唱しはじめ、ロクサーナに太腿を叩かれた。

「この後は自己紹介だが、今年度は特例として⋯⋯我が国の文化やしきたりに教えを乞いたいと、聖王国から4人の留学生が来ている。
数多くの魔法士を独占し、ほぼ鎖国状態を貫いている聖王国の者達に、広い世界を知る良い機会を与えた国王陛下の御心に沿うべく、皆の持つ知識を分け与えてくれたまえ」

 顔を引き攣らせたサブリナがウォーターバレットの攻撃体制に入り、ロクサーナに頭を叩かれた。

「では、レベッカ・マックバーンから自己紹介したまえ」

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