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8.婚約破棄を強行した樽王子達は
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ルーナがすんなり婚約破棄を了承したことに気を良くしたグレイソンは善は急げと先触れも出さず国王の執務室にやって来た。
「どけ!」
「なりません! 陛下は大切な会議「牢に入れられたいか!!」」
執務室前の護衛が怯んだ隙にグレイソン王子はノックもせずドアを押し開け国王の執務室に入って行った。
後ろから続いて入って行くのはイザベル・リディア・エミリーの3人と青い顔で項垂れたままのドジャース法務官。
「父上、非常に重大な話があってまいりました」
財務大臣と打ち合わせをしていた国王は不躾なグレイソン王子を見て眉間に皺を寄せた。財務大臣はグレイソン王子の『非常に重大な』と言う言葉に慌てて部屋の隅に下がり、国王は手に持っていた書類を机に置いてグレイソン王子を睨みつけた。
「先触れもなく勝手に入室するとはどう言う了見だ?」
不機嫌な父親の様子を気にもとめずドヤ顔で胸を逸らしたグレイソン王子は持ってきた書類をヒラヒラさせた。
「ルーナとの婚約破棄の件で急ぎ報告をしたいと思い無礼は承知で参りました」
「は?」
グレイソン王子が入室した際後ろに下がっていた財務大臣が王子とその横に並ぶ3人の令嬢を順番に見た後顔色を変えた。
「先程あいつを呼び出し職務怠慢による婚約破棄を申し渡しました。
父上がご存知ないと言う事は大人しく帰ったのですね。いやー、あいつが父上にご迷惑をかけなかったと知って安心しました」
あまりのショックに呆然として口が利けなくなった国王とソレイブル財務大臣だったが、先に正気に戻った財務大臣がグレイソン王子に声をかけた。
「あっあの、ルーナ様の職務怠慢とは?」
「あいつは学園にも通わず王子妃教育も逃げ出して王宮内をふらつくだけ。それを咎めたら大人しく婚約破棄を受け入れました。
これからはこの3人を婚約者として教育します」
「国王陛下、チャーター侯爵が娘イザベル・チャーターでございます。王子妃のちの王太子妃として精一杯努めさせて頂きます」
「ディスペンサー伯爵が娘リディア・ディスペンサーと申します。グレイソン様が王太子となられた暁には我がディスペンサー伯爵家が後ろ盾となります」
「エミリーで~す。おとーさまはフラウド男爵。宜しくね~」
「・・ばかな、馬鹿な事を申すな。婚約破棄などさせぬ」
「大丈夫です。ちゃんと書類にサインさせました」
「余が認めておらん書類など無効に決まっておろう」
「あー、父上の手を煩わせるのも申し訳ないので正式な書類を作ってサインさせました。慰謝料は財務大臣に計算させて請求します。大臣、早急に準備して侯爵家が御託を並べる前に全額払わせろ」
グレイソン王子は悪びれもせずサイン済みの書類を国王に手渡した。
「なっ、何故国璽が押してある! なんと言う事だ・・このままではウォルデンに逃げられてしまう。ユージーンを呼べ!!」
「ウォルデン侯爵家は随分と財政難のようですから急ぎませんとね」
部屋の隅に控えていた従者に王弟を呼びに行かせた後、必死に書類を確認していた国王と財務大臣がリディアの言葉に驚いて顔を上げた。
「は? 侯爵家が財政難だと? そのような話聞いておらんぞ?」
「はい、(王子妃教育の)お金が払えないんですのよ」
「なっ、なんと! 毎月の(侯爵家からの)支援金はどうなるのだ」
「あのー、エミリーは側妃狙いなんでー。お勉強はちょっぴりでいいですぅ」
「ルーナの奴、王子妃教育をさせようとしたら慌てて逃げ帰ったんですよ」
「あれは情けなかったですわ。侯爵家令嬢として惨めですわね」
「あ、紅茶とおやつを持ってきてくれ。ゴーフルとチョコレートは多めにしろ」
グレイソン達4人は勝手にソファに座ってキャラキャラとルーナの悪口を言い合っている。一人放置されたドジャース法務官は謝るチャンスを見つけられず直立不動で執務室の壁に張り付いていた。
青褪めて頭を抱えた国王と財務大臣が書類の内容を精査しているとユージーンが悠々とやって来た。
「兄上、お呼びですか?」
呑気なユージーンはグレイソンに片手を上げて挨拶した後令嬢達ににっこりと微笑んだ。
「「「ユージーンさまぁ!!」」」
「ユージーン、ウォルデン侯爵家が財政難とは真か!?」
「は? とんでもない。ウォルデン侯爵家はまだまだいくらでも搾りとれ・・余裕がありますよ」
長年贅沢の限りを尽くし多額の負債を抱え立ち行かなくなったレミリアス王家は、15年前に地下資源を狙い隣国へ戦争を仕掛けた。見かけだけ派手な装備で碌な訓練もされていないレミリアス王家の兵士は隣国の精鋭部隊に瞬殺され賠償金を支払わざるを得なくなった。
『払う金なぞあるか! あったら面倒な戦争なぞふっかけたりせなんだわ』
『大丈夫、俺がなんとかしますよ』
現ウォルデン侯爵のマッケナと学園時代仲の良い友人だったユージーンは王家の窮状を訴えウォルデン侯爵家からの融資と支援金の約束を取り付けて辛うじて窮地を逃れた。
その時から毎年なんだかんだと理由をつけては融資と支援をもぎ取ってきた国王・王弟・重鎮達。
『毎回適当な理由を考えるのも面倒じゃな。黙って金だけを吐き出させる方法はないものかのう』
『ルーナは一人っ子。ルーナを王子と結婚させて俺の次男を養子にやればウォルデン侯爵家は丸々俺達のものになる』
『マッケナの首を縦に振らせることができるのですか?』
『あいつはまだ俺の事を友だと思ってる。安心させて酒に酔わせて・・サインさせてしまえば文句を言ってもどうにもならんだろ?』
『あの戦いにマッケナが出ておれば間違いなく我が国が勝っておったはず』
『前ウォルデン侯爵が頑なに戦争反対を訴えたせいで有力貴族が不参加になりました。負けた責任を取らせるには丁度良いですな』
そうして7歳のルーナと王子の婚約が成立した。
「この、この、大戯けが!! 我が国は終いじゃ。これ程の間抜けとは思おておらなんだわ!」
「どけ!」
「なりません! 陛下は大切な会議「牢に入れられたいか!!」」
執務室前の護衛が怯んだ隙にグレイソン王子はノックもせずドアを押し開け国王の執務室に入って行った。
後ろから続いて入って行くのはイザベル・リディア・エミリーの3人と青い顔で項垂れたままのドジャース法務官。
「父上、非常に重大な話があってまいりました」
財務大臣と打ち合わせをしていた国王は不躾なグレイソン王子を見て眉間に皺を寄せた。財務大臣はグレイソン王子の『非常に重大な』と言う言葉に慌てて部屋の隅に下がり、国王は手に持っていた書類を机に置いてグレイソン王子を睨みつけた。
「先触れもなく勝手に入室するとはどう言う了見だ?」
不機嫌な父親の様子を気にもとめずドヤ顔で胸を逸らしたグレイソン王子は持ってきた書類をヒラヒラさせた。
「ルーナとの婚約破棄の件で急ぎ報告をしたいと思い無礼は承知で参りました」
「は?」
グレイソン王子が入室した際後ろに下がっていた財務大臣が王子とその横に並ぶ3人の令嬢を順番に見た後顔色を変えた。
「先程あいつを呼び出し職務怠慢による婚約破棄を申し渡しました。
父上がご存知ないと言う事は大人しく帰ったのですね。いやー、あいつが父上にご迷惑をかけなかったと知って安心しました」
あまりのショックに呆然として口が利けなくなった国王とソレイブル財務大臣だったが、先に正気に戻った財務大臣がグレイソン王子に声をかけた。
「あっあの、ルーナ様の職務怠慢とは?」
「あいつは学園にも通わず王子妃教育も逃げ出して王宮内をふらつくだけ。それを咎めたら大人しく婚約破棄を受け入れました。
これからはこの3人を婚約者として教育します」
「国王陛下、チャーター侯爵が娘イザベル・チャーターでございます。王子妃のちの王太子妃として精一杯努めさせて頂きます」
「ディスペンサー伯爵が娘リディア・ディスペンサーと申します。グレイソン様が王太子となられた暁には我がディスペンサー伯爵家が後ろ盾となります」
「エミリーで~す。おとーさまはフラウド男爵。宜しくね~」
「・・ばかな、馬鹿な事を申すな。婚約破棄などさせぬ」
「大丈夫です。ちゃんと書類にサインさせました」
「余が認めておらん書類など無効に決まっておろう」
「あー、父上の手を煩わせるのも申し訳ないので正式な書類を作ってサインさせました。慰謝料は財務大臣に計算させて請求します。大臣、早急に準備して侯爵家が御託を並べる前に全額払わせろ」
グレイソン王子は悪びれもせずサイン済みの書類を国王に手渡した。
「なっ、何故国璽が押してある! なんと言う事だ・・このままではウォルデンに逃げられてしまう。ユージーンを呼べ!!」
「ウォルデン侯爵家は随分と財政難のようですから急ぎませんとね」
部屋の隅に控えていた従者に王弟を呼びに行かせた後、必死に書類を確認していた国王と財務大臣がリディアの言葉に驚いて顔を上げた。
「は? 侯爵家が財政難だと? そのような話聞いておらんぞ?」
「はい、(王子妃教育の)お金が払えないんですのよ」
「なっ、なんと! 毎月の(侯爵家からの)支援金はどうなるのだ」
「あのー、エミリーは側妃狙いなんでー。お勉強はちょっぴりでいいですぅ」
「ルーナの奴、王子妃教育をさせようとしたら慌てて逃げ帰ったんですよ」
「あれは情けなかったですわ。侯爵家令嬢として惨めですわね」
「あ、紅茶とおやつを持ってきてくれ。ゴーフルとチョコレートは多めにしろ」
グレイソン達4人は勝手にソファに座ってキャラキャラとルーナの悪口を言い合っている。一人放置されたドジャース法務官は謝るチャンスを見つけられず直立不動で執務室の壁に張り付いていた。
青褪めて頭を抱えた国王と財務大臣が書類の内容を精査しているとユージーンが悠々とやって来た。
「兄上、お呼びですか?」
呑気なユージーンはグレイソンに片手を上げて挨拶した後令嬢達ににっこりと微笑んだ。
「「「ユージーンさまぁ!!」」」
「ユージーン、ウォルデン侯爵家が財政難とは真か!?」
「は? とんでもない。ウォルデン侯爵家はまだまだいくらでも搾りとれ・・余裕がありますよ」
長年贅沢の限りを尽くし多額の負債を抱え立ち行かなくなったレミリアス王家は、15年前に地下資源を狙い隣国へ戦争を仕掛けた。見かけだけ派手な装備で碌な訓練もされていないレミリアス王家の兵士は隣国の精鋭部隊に瞬殺され賠償金を支払わざるを得なくなった。
『払う金なぞあるか! あったら面倒な戦争なぞふっかけたりせなんだわ』
『大丈夫、俺がなんとかしますよ』
現ウォルデン侯爵のマッケナと学園時代仲の良い友人だったユージーンは王家の窮状を訴えウォルデン侯爵家からの融資と支援金の約束を取り付けて辛うじて窮地を逃れた。
その時から毎年なんだかんだと理由をつけては融資と支援をもぎ取ってきた国王・王弟・重鎮達。
『毎回適当な理由を考えるのも面倒じゃな。黙って金だけを吐き出させる方法はないものかのう』
『ルーナは一人っ子。ルーナを王子と結婚させて俺の次男を養子にやればウォルデン侯爵家は丸々俺達のものになる』
『マッケナの首を縦に振らせることができるのですか?』
『あいつはまだ俺の事を友だと思ってる。安心させて酒に酔わせて・・サインさせてしまえば文句を言ってもどうにもならんだろ?』
『あの戦いにマッケナが出ておれば間違いなく我が国が勝っておったはず』
『前ウォルデン侯爵が頑なに戦争反対を訴えたせいで有力貴族が不参加になりました。負けた責任を取らせるには丁度良いですな』
そうして7歳のルーナと王子の婚約が成立した。
「この、この、大戯けが!! 我が国は終いじゃ。これ程の間抜けとは思おておらなんだわ!」
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