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4.ドジャース法務官の後悔
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(どうしよう、こんなはずじゃなかったのに。殿下の言ってた事は何から何まで嘘じゃないか!)
「おい、あいつが言ってたのはどういう意味だ」
(しかもなんで国璽が押してあるんだ? 殿下は婚約継続の為だって)
「ドジャース、貴様黙ってないで返事をしろ!」
(死罪か? まさか一族郎党とかって言われたらどうしよう。妹や弟まで?)
「ドジャース!!」
ーー 1ヶ月前 ーー
ドジャース法務官が陛下の執務室に書類を届け法務部へ戻っている途中、運悪くグレイソン王子が愛人達と歩いている所に遭遇した。
通路の端に避け頭を下げたドジャースにグレイソン王子が声をかけた。
「お前は確か法務部だったな」
「はい、左様でございます」
「ちょうど良かった。お前に仕事を頼みたい、俺の部屋に来い」
グレイソン王子は返事も聞かず愛人達を連れ自室に戻りはじめ、ドジャースは仕方なく後をついて行った。
部屋に入りソファにどっかりと腰を下ろしたグレイソン王子は愛人達を横に侍らせたまま話しはじめた。
「誰にも知られんように婚約破棄の書類を作って持ってこい。期限は1週間だ」
「こっ婚約破棄でございますか? そのような大切な書類を私の一存で作る事は。わっ、私は一介の法務官でして、そのような大切な書類は。法務大臣にお声をかけていた、いだだきませんと」
「本当に婚約破棄するわけではないからそんなに心配する必要はない。大臣に言うと大事になってしまう。
婚約破棄と言っても父上の許可をいただいているわけでもないしな」
「では・・何故・・その、そのような」
ドジャースは気の短いグレイソン王子が怒り出すのではないかとビクビクしながら聞いた。
「ちょっとした意思確認をしたいと思ってな」
「と、言いますと?」
「あいつは俺がこうやって令嬢と親しくしていても何も言ってこないから何を考えているのか全くわからんのだ。まさかとは思うが婚約破棄したいのか聞いてみようと思ってな」
「しょっ書類が必要とは、おも、思えませんが?」
「あいつの本音を聞き出すにはその位やらんと誤魔化されてしまう。あいつの意思を確認したら俺は余所見を止めるつもりだし、俺が書類を出したとしても陛下の許可がなければ紙屑と一緒なんだから気にせず作って持ってこい」
誰にも話すなバレたらクビだと何度も念押しされたドジャースは渋々頷き退席した。
(どうしよう。殿下の機嫌を損ねたら即クビだし、婚約破棄の書類なんて作ったのが陛下にバレたらやっぱりクビだし)
真っ青な顔でヨロヨロと法務部へ帰ったドジャースはその後仕事にならず、同僚の勧めで初めての早退を余儀なくされた。
その後呼び出されるたびに機嫌が悪くなっていくグレイソン王子に怯えたドジャースはとうとう書類を作成し王子に渡してしまった。
「あの、本当の本当に婚約破棄なんてなさいませんよね」
「しつこいぞ、確認だけだと言っただろうが!」
(どうか、何事も起こりませんように。弟や妹がいるから俺がクビになったら2人の授業料が)
その後グレイソン王子が尚書官を騙しこっそり国璽を押したなどとは知らないドジャースは、ルーナがグレイソン王子に呼び出されたあの日立会人までさせられるという最悪の状況に陥った。
ーーーーーーーーーー
「ドジャース、あいつの教育費が国庫から出ていないというのはどういうことだ?」
「こん、こんにゃ・・婚約時の取り決めで、王子妃教育に関わる費用は全て侯爵様が負担される事になっております。
たっ、但し王家有責の婚約破棄となった場合は王家より侯爵家に対し返済義務が生じます」
「そこまでして王子妃になりたかったのに婚約破棄されて哀れな方ですこと。もう少し真面な方ならお父様に頼んで縁談の一つくらい簡単に見つけて差し上げましたのに」
扇子で口元を隠し『おほほ』と声を上げて笑うイザベル。
「まあ、あいつは王子妃教育を途中でやめておるからな。大した金額ではあるまい」
「もしかしてお金がなくて教育続けられなかったとかですかしら。無理矢理王子妃になろうとしたのだってお金の為だったのかもしれませんわね。きっと侯爵家は領地経営を失敗したのですわ、我が家のお母様に教えを乞うべきでしたわね」
リディアは肩をすくめお茶菓子に手を伸ばした。
「あいつは慰謝料がどうとか言っていたな」
「ふっ不貞や婚約者としての態度に問題などがあった場合はかなりの金額の慰謝料が・・」
「だったら一杯慰謝料貰えますねー。だって学園にも行かないでふらふら遊んでいたんだしぃ。エミリー、慰謝料貰ったら新しいドレスが欲しいですぅ」
「よし、このまま陛下の元へ参るぞ。侯爵家やルーナがおかしな事を言い出さないうちに引導を渡してやる!
ドジャース、お前も来い」
(終わった・・ごめんな、兄ちゃん無職になる。それどころか牢に入れられて二度と家に帰れないかも。お前達にお咎めがいかないよう一生懸命お願いするから許してくれ)
意気揚々と立ち上がったグレイソン王子は不貞の証拠と共に歩き出した。トボトボと後ろをついて行くドジャース法務官は家族に影響がいかずなるべく苦しまずに最後を迎えられるよう必死に祈っていた。
「おい、あいつが言ってたのはどういう意味だ」
(しかもなんで国璽が押してあるんだ? 殿下は婚約継続の為だって)
「ドジャース、貴様黙ってないで返事をしろ!」
(死罪か? まさか一族郎党とかって言われたらどうしよう。妹や弟まで?)
「ドジャース!!」
ーー 1ヶ月前 ーー
ドジャース法務官が陛下の執務室に書類を届け法務部へ戻っている途中、運悪くグレイソン王子が愛人達と歩いている所に遭遇した。
通路の端に避け頭を下げたドジャースにグレイソン王子が声をかけた。
「お前は確か法務部だったな」
「はい、左様でございます」
「ちょうど良かった。お前に仕事を頼みたい、俺の部屋に来い」
グレイソン王子は返事も聞かず愛人達を連れ自室に戻りはじめ、ドジャースは仕方なく後をついて行った。
部屋に入りソファにどっかりと腰を下ろしたグレイソン王子は愛人達を横に侍らせたまま話しはじめた。
「誰にも知られんように婚約破棄の書類を作って持ってこい。期限は1週間だ」
「こっ婚約破棄でございますか? そのような大切な書類を私の一存で作る事は。わっ、私は一介の法務官でして、そのような大切な書類は。法務大臣にお声をかけていた、いだだきませんと」
「本当に婚約破棄するわけではないからそんなに心配する必要はない。大臣に言うと大事になってしまう。
婚約破棄と言っても父上の許可をいただいているわけでもないしな」
「では・・何故・・その、そのような」
ドジャースは気の短いグレイソン王子が怒り出すのではないかとビクビクしながら聞いた。
「ちょっとした意思確認をしたいと思ってな」
「と、言いますと?」
「あいつは俺がこうやって令嬢と親しくしていても何も言ってこないから何を考えているのか全くわからんのだ。まさかとは思うが婚約破棄したいのか聞いてみようと思ってな」
「しょっ書類が必要とは、おも、思えませんが?」
「あいつの本音を聞き出すにはその位やらんと誤魔化されてしまう。あいつの意思を確認したら俺は余所見を止めるつもりだし、俺が書類を出したとしても陛下の許可がなければ紙屑と一緒なんだから気にせず作って持ってこい」
誰にも話すなバレたらクビだと何度も念押しされたドジャースは渋々頷き退席した。
(どうしよう。殿下の機嫌を損ねたら即クビだし、婚約破棄の書類なんて作ったのが陛下にバレたらやっぱりクビだし)
真っ青な顔でヨロヨロと法務部へ帰ったドジャースはその後仕事にならず、同僚の勧めで初めての早退を余儀なくされた。
その後呼び出されるたびに機嫌が悪くなっていくグレイソン王子に怯えたドジャースはとうとう書類を作成し王子に渡してしまった。
「あの、本当の本当に婚約破棄なんてなさいませんよね」
「しつこいぞ、確認だけだと言っただろうが!」
(どうか、何事も起こりませんように。弟や妹がいるから俺がクビになったら2人の授業料が)
その後グレイソン王子が尚書官を騙しこっそり国璽を押したなどとは知らないドジャースは、ルーナがグレイソン王子に呼び出されたあの日立会人までさせられるという最悪の状況に陥った。
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「ドジャース、あいつの教育費が国庫から出ていないというのはどういうことだ?」
「こん、こんにゃ・・婚約時の取り決めで、王子妃教育に関わる費用は全て侯爵様が負担される事になっております。
たっ、但し王家有責の婚約破棄となった場合は王家より侯爵家に対し返済義務が生じます」
「そこまでして王子妃になりたかったのに婚約破棄されて哀れな方ですこと。もう少し真面な方ならお父様に頼んで縁談の一つくらい簡単に見つけて差し上げましたのに」
扇子で口元を隠し『おほほ』と声を上げて笑うイザベル。
「まあ、あいつは王子妃教育を途中でやめておるからな。大した金額ではあるまい」
「もしかしてお金がなくて教育続けられなかったとかですかしら。無理矢理王子妃になろうとしたのだってお金の為だったのかもしれませんわね。きっと侯爵家は領地経営を失敗したのですわ、我が家のお母様に教えを乞うべきでしたわね」
リディアは肩をすくめお茶菓子に手を伸ばした。
「あいつは慰謝料がどうとか言っていたな」
「ふっ不貞や婚約者としての態度に問題などがあった場合はかなりの金額の慰謝料が・・」
「だったら一杯慰謝料貰えますねー。だって学園にも行かないでふらふら遊んでいたんだしぃ。エミリー、慰謝料貰ったら新しいドレスが欲しいですぅ」
「よし、このまま陛下の元へ参るぞ。侯爵家やルーナがおかしな事を言い出さないうちに引導を渡してやる!
ドジャース、お前も来い」
(終わった・・ごめんな、兄ちゃん無職になる。それどころか牢に入れられて二度と家に帰れないかも。お前達にお咎めがいかないよう一生懸命お願いするから許してくれ)
意気揚々と立ち上がったグレイソン王子は不貞の証拠と共に歩き出した。トボトボと後ろをついて行くドジャース法務官は家族に影響がいかずなるべく苦しまずに最後を迎えられるよう必死に祈っていた。
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