脳・ぷろぶれむ

天道虫

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(Ⅷ)射撃、そして平和

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「この夢を実現するためには、まず知名度を上げなければ話にならない。それも、全日本国民が存在を知るレベルでだ。そのためにこの『脳・ぷろぶれむ』なんていう謎解き団体を作ったんだ。明里の提案だったが、本当にいい案を提示してくれた。」

「私はまんまと利用されてたんですね。」

 明里は天井を見上げながらそう呟いた。

「でも、記憶の戻ったお前にはこれから一人の正規メンバーとして活躍して欲しい。」

「もちろん頑張りますよ。憧れの赤城さんに期待されてるんですから。」

「じゃあ今後の方針だが、まずは脳ぷろを化けの皮にしてコツコツ知名度を上げていこうと思う。つまり、俺を含め三人で謎解き団体としての活動を行うんだ。まずは町単位、有名になっったら県単位、地方単位というように、だんだん活動範囲を広げていきたい。」

「町単位はまだ分かるけど、県外からの依頼はどうするの? 毎度現場に行ってたら効率が悪いわ。」

 カーバンクルが疑問を口にする。実を言うと俺もそこまで考えていない。三人だと実際の行動範囲には限界がある。かと言って人数を増やすのは愚行だ。大きなことを成し遂げるには、三人がベストだと俺の中の辞書に書いてある。

「現場に行けない距離の場合は……お前なんとかできないか? 凄腕ハッカーなんだろ? 遠隔操作で解決に導いてくれ。」

 さすがに無茶ぶりか?

「それはいくらなんでも丸投げ過ぎるわよ。ハッカーなんて直接人の行動を操作したりできないんだから、かなり簡単な謎以外は無理ね。」

「なら殺し屋さんたちに頼めばいいんじゃないですか? ほら、虎とかグレイとか。」

「虎なら私が頼めばやってくれると思うわ。蓮の凄さも話したし。グレイもなんとかなるでしょう。もう実質傘下みたいなものよ。」

「よし、じゃあそういうことで。明日から頑張ろう。今日はなんとなく疲れたから解散。」

「えっ、解散!? まだ四時半よ。」

「そうですよ。壮大な夢に向かって頑張る赤城さん格好いいのに。」

「頑張ってる奴はいくらでもいるぞ明里。人は常に何かに対して頑張ってるんだ。ニートだってゲームやネットサーフィンに力を入れてる。」

「赤城さんのそういうとこ面倒くさいです。」

 へ、へえ、言ってくれるじゃないか明里くん。先輩ちょっと傷ついたよ? 最近傷つくことが多いけど何でかな?

「とりあえずありがとな、二人とも。俺の夢に付き合わせちまった。」

「私は何でもするって約束しちゃったから。本当なら絶望的に子供みたいな夢を見てるあなたとこれ以上関わりたくないところだけどね。」

「私は昔から完璧超人の赤城さんが格好よくて憧れてたので、役に立てるだけで嬉しいです。」

 明里、ありがとう。お前のおかげでプラマイゼロになったよ。もう片方の発言さえなければただの幸福で終わったというのに。

「なんか喜びと悲しみの狭間にいる気分だ。」

 俺は下を向いて帰路についた。


 次の日、


「あれ? 一宮さん何してるの?」

 カーバンクルが部室に入ってくるなり明里の異変を指摘した。

「ライフルの整備です。放置してたら劣化が早くなるんですよ。」

「いやそうじゃなくて、何でライフル持ってるのよ。銃刀法違反じゃないの?」

「うーん……まあ、セーフじゃないですか?」

「どことなく蓮に似てるわね……MAKEの人って皆こんなに適当なの?」

 説明してなかったから驚くのは無理もない。明里はMAKEで射撃の成績がずば抜けて優秀だった。俺でさえも勝てないだろう。その精密過ぎる弾道は言わずもがなだが、さらにその性格に異を唱えるような隠密能力が付いている。

「明里、試しにあれ撃ってみろよ。それでカーバンクルも納得だろうよ。」

 そう言って俺が指差したのは窓の外に小さく見える自動販売機の隣に設置されているゴミ箱。視覚で捉えられている大きさは米粒未満だ。

「あのゴミ箱のフタに当てたら大したものだ。お前ならできるだろうけど。」

「ちょっと! 銃声で騒ぎになるわ。」

「大丈夫だ。オーダーメイドの高性能サイレンサーがある。」

「何で高校生がそんなの持ってるのよ。」

 明里は特にライフルを固定することもせず、立ったまま構えた。スコープを通して標的を見るその時だけは、一宮明里という人間の気配が消えた。静寂、その言葉が似合うようなシチュエーションが完成し、風の音が妙に大きく聞こえる。

 風の音がうるさいなら静寂じゃないじゃないか、とツッコむのはナンセンスだ。静かに見守ろう。

「鋭い目ね。本物ってこういうのを言うのかしら。」

「MAKEで教育を受けたんだ。化物以外は輩出されない。」

 カチッと音が鳴った。それはあまりにも軽い音で、まさか発砲したとは思えないほど弱い音だった。これがサイレンサーの上位互換の効力か。

 銃口から飛び出た小さな鉄塊は空中を真っ直ぐに進み、1㎞ほど先にあるゴミ箱のフタを吹き飛ばした。

「本当に当たった。」

「どうですか? 私もなかなか凄いんですよ。」

 満面の笑み。先ほどの無機質な表情からは想像できないほどの変化だ。二重人格といっても過言ではない。

「こういうことだ。明里は決して足手まといなんかじゃない。厳選されたエリートだ。俺と凄腕スナイパー、そして天才ハッカーがいれば何でもできそうなもんだろ?」

「最初から足手まといとは思ってないわ。お茶目な女の子くらいに考えてたけど。」

「バンクル先輩、遠回しに攻撃するタイプですか?」

「いやそんなことないわよ。あっ、そうだ。」

「どうした?」

「貴方たちには名前を教えてもいいかなって……ほら、これから一緒に頑張っていくんだし。」

 おお! 願ってもない話だ。名前を知られていない天才ハッカー、幻獣カーバンクルの名前が聞けるのか!

「ぜひ、教えてくれ!」

「私も気になります!」

「私は神崎理美かんざきりみよ。好きに呼んでいいわ。」

「可愛い名前ですね! 羨ましいです!」

「あら、あなたも相当可愛い名前だと思うわよ。」

 平和、この二文字は実に素晴らしい。今の状況にピッタリだ。麻雀で言えばピンフか。いや今そんなことはどうでもいい。大事なのは、この状態がいつまでも続いて欲しいってこと。

 これまではこんな感情無かったはずなのに。こうやって皆で仲良くお喋りするのが凄く楽しい。まだ感情は死んでなかったみたいだ。

 でも、平和が続くのは今だけだろうな。
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