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第13章

第7話 村の領域侵犯3

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 人間と犬小鬼の群れが遭遇してしまったらしいので、急いで駆け付けたら訳の分からない状況になっていた。
 犬小鬼2匹が俺とヴァルツ(+イツキ)に向けて、槍を構えるのは分かる。
 だがその後ろには、槍を持った犬小鬼2匹に守られる形で、2人の人間の子供と4匹の犬小鬼の子供がいた。
 しかも人間の子供2人は気丈にも犬小鬼の子供4匹を両手で抱え込んで、守るような位置にいる。
 ……えーと、これはアレか。
 俺達の方が襲撃者?
「……おいそこの子供2人。俺たちは村で雇われた冒険者だが、ちょっとどういうことなのか教えてくれんか?」
 目の前の犬小鬼2匹に警戒しつつも、子供らに尋ねてみた。
「ぼうけん、しゃ?」
 人間の子供2人が、恐る恐るといった感じで振り返った。
「コンバルド村のビゼット村長から依頼を受けた」
「嘘だ!お前みたいのが冒険者なわけがない!!」
 俺を見て、人間の子供のうちの小さい方が叫ぶ。まぁ疑われる要素はあると自覚はしてる。
「もうちょっと待ってりゃ人間の仲間が駆けつけてくる。とにかく、お前らはそこの犬小鬼に襲われているわけじゃねぇんだな?」
「違うよ!クルたちは友達だよ!!」
「だからやっつけたりしないで!」
 子供2人の答を聞いて、何はともあれ緊急性はなさそうだと胸をなでおろした。
 クルたちというのはおそらく犬小鬼のことを指していると思われる。
 2匹がこちらに槍を向けているのは、俺達を闖入者というか襲撃者と思っているからだ。
 子供に害をなさない存在なら、犬小鬼が相手とは言え別にどうこうするつもりはない。
 とりあえず構えた戦槌を腰に戻し、よっこらせとその場に腰を下ろす。
 いいのか?といった風にヴァルツが寄ってきたので、問題ないと意識を送りつつ軽く頭を撫でてやった。
「後で話を聞かせてもらうぞ」
 警戒モードを解いて腰の袋から煙草セットを取り出し、一服つけはじめると、犬小鬼や子供たちもほっとしたように肩の力を抜いた。

 その後、パイプに詰めた煙草が半分ほどに減ったあたりでユニとクランヴェルが姿をみせた。
「待たせたな……って、え?」
「犬小鬼と、子供?」
 現場を見た二人が驚いたように足を止め、かたや座り込んで煙草をふかしている俺と犬小鬼+子供たちを交互に見る。
「詳しいことはこれから聞くが、特に差し迫った問題はないらしい」
「いや、しかし、犬小鬼だぞ?」
 クランヴェルが信じられないと言った風に俺を見る。
「子供らが言うには友達なんだと。まぁこの際、犬小鬼であることは脇に置いとけ。
 そんなわけだからクランヴェル、剣を収めてまず座れ。ユニもだ。向こうが警戒していかん」
「……大丈夫なのか?(ですか?)」
「友達と言ってる相手を目の前で討伐するわけにもいかんだろ」
 俺が困ったような顔で答えると、ふたりも渋々といった感じで腰を下ろした。
 そして子供たちから話を聞き始めたのだが、緊張か怯えか、どうにも話が進まない。
 犬小鬼たちも手持ち無沙汰にしているし、犬小鬼の子供らに至っては飽きて勝手にじゃれ合い始める始末だ。
 仕方がないのでユニに頼んでディーセンから持ってきた壺を取り出してもらった。
「急がんでいいからコレ食いながら話せ」
 棒きれで壺の中身を掬い、1本は自分で、もう2本は子供らに差し出して見せる。
「なに?それ」
「水飴っつう甘いモンだ。蜂蜜みたいなもんか」
 子供2人が棒を受け取ると、恐る恐るといった感じでぺろりと舐めた。
「あまい!」
「おいしい!!」
 初めはびっくりしたようだが、すぐに笑顔になって棒の先をほおばった。
「ほれ、あっちの連中にも持ってってやれ」
 棒きれ6本に水飴をすくい、子供2人に差し出す。
 2人は頷いて棒を3本ずつ受け取ると、まだ俺達から距離を置いている犬小鬼たちの所に持っていった。
 その間にユニとクランヴェル、イツキにもそれぞれ水飴を配る。
 水飴を差し出された犬小鬼たちは、初め不審そうに匂いを嗅いでいたが、ぺろりとひと舐めするや棒きれを齧る勢いで水飴を食べ始めた。
 後はしばらく水飴パーティーよ。
 子供らと犬小鬼たちが先を争うように何度もお代わりを要求してきた。

 というか、こうして平和に水飴を配っていて気付いたのだが、犬小鬼の子供ってふわふわもふもふで結構可愛いのな。
 大人になると割と顔つきが険しくなるんだが、それでも遠慮がちに棒を差し出してきて水飴のお代わりを要求してくる様はそれなりに愛嬌がある。

 ひとしきり水飴を食べまくって満足したのか、場の空気もほぐれてきたので、子供たちへの事情聴取を再開する。
 だいぶ分かりやすくなった話をまとめると、以下のようになった。

 人間の子供二人は今回の依頼主であるコンバルド村の西にあるサグワド村の住人で、兄弟とのこと。
 森の中で罠にかかっていた犬小鬼の子供を助けたのがきっかけで、時々遊ぶようになった。
 大人の犬小鬼は子供の犬小鬼たちの保護者みたいなもので、今まで害を加えられたことはなく、むしろ野生動物から助けてもらったりした。
 クルと呼ばれる犬小鬼以外の面子は毎回入れ替わるので、多分犬小鬼の村のほとんどがこのことを知っていると思われる。
 逆に人間側は両親にも言っていないので、兄弟二人しかこのことを知らない。

「犬小鬼と人間がねぇ……話を聞いただけじゃ信じられんところだが、こうして実際に目にすれば信じないわけにはいかんわな」
 俺の膝の上と隣に臥せるヴァルツを行ったり来たりしてる犬小鬼の子供たちを、代わるがわるもねもねしながら呟く。
 ちなみに懐かれているのは俺とヴァルツだけで、イツキ、ユニ、クランヴェルに犬小鬼の子供たちは寄り付く気配もない。
 まぁイツキは森の木々と何かを話している?みたいだし、クランヴェルはカールに見守られつつ頭抱えてるし。
 ユニだけは羨ましそうな目でこっちを見ているが、これはケモ男な見た目の俺だからこその状況だから諦めろ。
 犬小鬼の子供らにとっては、見た目ほぼ人間なユニたちよりも、虎顔でケモ男な俺のほうが親近感があるらしい。
「おっちゃんたちはなんでここに来たんだ?」
「まさか、クルたちを退治しに来たの?」
 少し考え事をしていると、今度は人間の子供らに質問された。
「いや、まだそこまではっきりした話にはなってねぇ」
 子供らにそう答えると、コンバルド村の村長ビゼットから受けた依頼の内容を説明した。
「……まぁつまり、村同士の取り決めを無視して勝手に色々採ってる輩を探してくれってことなんだが、この雰囲気からするとここの犬小鬼たちが犯人らしいな」
 そう言うと子供らはしまった、という顔をした。
 犬小鬼たちに伝え忘れたか、そこまで頭が回っていなかったか、まぁそんなところだろう。
「じゃあ、やっぱりクルたちを?」
「そう話の先を急ぐな。幸いまだ血が流れたわけじゃねぇ。話の持っていき方次第では、平和に解決することも可能だろうよ」
「いやしかしディーゴ、相手は犬小鬼……」
 動揺から立ち直ったクランヴェルが口を挟んできた。
 確かに人間の冒険者としてはクランヴェルの考えの方が一般的なのだろう。しかし、だ。
「お前はこれを手にかけることができるのか?」
 そう言って膝の上の犬小鬼の子供を指さす。
 俺が散々撫でくり倒したせいか、警戒感はすっかり消え失せ、膝に顎を乗せてとろんとした顔をしている。
 まさに安心しきった子犬だよ。
 犬好きにこれを殺せというのはさすがに無理だろ。
「う……」
 イツキやユニに視線を移せば、イツキは困ったような苦笑いを浮かべ、ユニはさっと視線を逸らす。
「しかし、平和に解決するというなら話し合いが必要だと思うが、犬小鬼に話が通じるのか?」
「それが問題なんだよな」
 気を取り直したクランヴェルの指摘に、腕を組んで考え込む。
「クルだったら、なんとなくだけど俺たちの言葉も分かるよ?」
「僕らもぼんやりとだけどクルたちの言葉分かるし」
 ここで子供2人から思わぬ助け舟が入った。考えてみれば、一緒に遊んでるんだからなんとなくでも意思の疎通はできるか。
 しかし子供を挟んで大人のやり取りをするのもな……。
 なんとなく、とか、ぼんやり、では交渉はちょっと難しかろう。
 だが、これをとっかかりにはできるかもしれん。
「じゃあクルたちに尋ねてほしいんだが、彼らの群れの中に魔法使いはいるか確認してくれ」
「うん、いいよ」
 年かさの方の子供が、槍を抱えて暇そうにしている大人の犬小鬼に身振り手振りを加えながら何かを尋ねた。
 尋ねられた犬小鬼は頷いてそれに答える。
 お互いに身振り手振りを交えながら話をした結果……
「2人いるって。一人は火が使えて、もう一人は石が動かせるんだって」
「そうか。助かったぜ」
 精霊魔法が使えるならば、念話による意思疎通ができる。
 その犬小鬼の魔法使いを介せば、あの犬鬼とも話し合いが可能だろう。
 それが分かれば次の予定も立てられる。

 ここでイツキ、ユニ、クランヴェルを集めて相談を開始した。
「まぁ今までのやり取りからなんとなく想像はつくと思うが、一度あのボスと話をしてみようと思う」
「ああ。討伐しないのであれば話をする必要はあるな。でもどうやって?」
「彼らについて村に連れて行ってもらう」
「……正気か?」
「無論。
 幸い、犬小鬼に魔法使いがいるらしいからそいつを通してボスとの会話は可能だ。
 そして今のところ思いつく平和な解決策としては2つ。
 あの群れに他所に行ってもらうか、人間の領域に手を出さんように頼むかだ。
 どちらにせよ、こちらの頼みを聞いてもらうからにはこっちから足を運んだ方がいい」
「確かに、呼びつけたところで素直に出てくるとは思えないわね」
「でも、危険ではないですか?」
「そのための彼らだ」
 ユニの危惧に、犬小鬼の子供らを指さしながら答える。
「俺らだけなら攻撃もされようが、彼らと一緒なら少なくとも話のとっかかりくらいはできるはずだ。
 こちらに害意がないことを見せて、なんとか穏便に話に持っていきたい。まぁ武器を預けるくらいはしなきゃならんだろうな」
「犬小鬼の群れに入るのに武器を手放すのか?」
「今回は武力をちらつかせてする話じゃねぇ。あとな、今は相手が犬小鬼という前提を捨てろ。クランヴェルもあの群れとボスを見ただろう?
 あれを犬小鬼の範疇にくくるのは、そっちの方が危険だ」
 俺はそこで一度言葉を切る。
「まぁクランヴェルが心配するリスクは確かにあるが、その時はその時でなんとかするさ。
 俺とヴァルツとカールが暴れりゃ、全員が逃げ出す隙くらいはできるはずだ」
 麻痺毒をばらまくチートアイテムな、骸竜の牙笛もあるしな。
 流石に俺だって勝算のないリスクを負う気はねぇよ。
 それを聞いたクランヴェルが、不承不承ながら頷くのを見て子供たちを呼び寄せた。

「彼らの村に俺らが入ることは可能か、聞いてみてくれ。群れのボスと話がしたい」
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