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第13章
第1話 シタデラの休日
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今日は一日休みの日。
うん、シタデラには来たものの、到着早々のなんだかんだで未だにシタデラの街をまともに観光してないことに気付いたのよね。
そんなわけで、色々と面白そうなものを探してみようと、朝からぞろぞろと連れだって街に繰り出すことにした。
まず向かったのが青物市場。
ここは早めに訪れないと商品がすぐに売り切れるので、少しばかり遠くてもいの一番に訪問する必要がある。
探すのは例によってサツマイモ。
今は時期ではないが、手掛かりでもと尋ね回った結果「西からくる隊商の荷物に、それらしいものがたまに乗っているときがある」という話を聞くことができた。
あとは、ウィータの街の遺跡で拾ってきた種だが、3種類あるうちの2つはここでほぼ判明した。
一つは一般的な品よりサイズが2回りほど大きいものの、特徴からして胡桃しか考えられないと言われた。
まぁこれについては見た目の時点で予想はついてたが。
もう一つの大きな丸い種は、店主のおっちゃんが笑いながら籠の果物を指さしたことで判明した。
「近くの村で少しだけど作ってる奴がいるんだ。
傷がつきやすくて運ぶのが難しいから大した量は出回らないが、味はいいぞ」
そう説明された黄色というか橙色?の、卵型をした果物は前世でも見覚えがある。
どう見ても枇杷ですありがとうございます。こちらではロカートというらしい。
「時期的にはもうすぐ終いだが、その分よく熟してるから甘いぜ」
というセールストークに乗る形で、10個くらい入った籠を1つ買わせてもらった。
値段は1籠で銀貨7枚と結構な値がしたが、逆に言えばうまく実を付ければそれだけ金にもなるということだ。
それに、育てるにあたってあまり繊細な手入れも必要なかった……筈。まぁ収穫や味を求めるなら剪定や摘果が必要だと思うが、明らかに誰も手を入れてないような木に生ってた枇杷でもそこそこ食えた記憶がある。
……いや、甘柿と枇杷は小学校時代の通学路に生えてたもんでさ。
それ以上は聞くな。
「この果物?は初めて見るわね」
「私も初めて見ました」
「帝都でも見たことがないな」
俺にとっては懐かしい果物だが、イツキ、ユニ、クランヴェルは初見らしい。
「んじゃまぁ一つずつつまんでみるか。気に入ったなら買い足すぞ」
ということで、店の脇に避けて一つずつ手に取る。
「これは薄皮を手で剥いてかぶりつくんだ。真ん中にでかい種があるから気を付けろよ」
そう言って目の前で皮を剥いてかぶりついて見せる。うん、懐かしいこの甘さ。よく熟してんな。
「果汁が凄いですね」
「これは甘くて美味いな」
「へぇ、こういう味なんだ」
パクパクと半分くらいを食べた辺りで3人の手が止まる。うん、その先をどうやってきれいに食おうか、ってことだよな。
これについては答えは一つしかない。
「諦めろ。これは手をべったべたにしながら種も吐き出す、いわゆる下品な食い方しかできねーんだ」
所作が美しいと評判のどこかの茶人が、茶の席で枇杷を出された時に、枇杷だけは手を付けずに懐紙で包んで持ち帰った、なんて小話があるくらいだからな。
ナイフを使えば2つ割りにして種を取り出すこともできるが、皮を剥くときにどうしても手が果汁で汚れるのよ。
それでも皆が気に入ったようなので、さらに1籠を追加で買って青物屋を後にする。
次いで向かった肉市場では、ハムと腸詰をいくつか買い込む。
生肉についてはあまり変わり映えしなかったのでパス。
食肉については魚介や野菜果物と違って、東西の地域による差があまりないんだよな。もっと北や南に行けばまた変わってくるのだろうが。
ただハムや腸詰といった食肉加工品は、味付けや加工法とかで地域差があるので、食べ比べという意味で面白味があるんだがな。
その後は露店で適当に腹をなだめつつ、職人街へと向かう。
昨日ゲンバ爺さんから、シノム細工と蝋燭が特産品だと聞いたので見に行こうという訳だ。
所々で道を尋ねながら、シノム細工の職人が集まっているという一角につく。
ざっと見たところ日本の漆器に近い感じで、主に木製品にシノムを塗っているようだ。
ただ色数は日本に比べるとずっと少なく、無色と黒と赤の3種類しかない。
割合的には無色が3、黒が5、赤が2といったところか。
螺鈿の細工もモノによっては入っていたりするが、技術的なものか国民性か、日本で見たような精緻な模様とは違い、大きめの貝を貼り付けてそれ自体を模様としているようだ。
まぁこれもこれで見ごたえのある品なので、どちらが上とは一概には言えまい。
「シノム細工は高級品だと思っていたが、手ごろな値段の物もあるんだな」
木皿の1枚を手に取ってクランヴェルが呟く。
「色付きで磨き上げた品となると結構な値段になるが、そういった色なしだとそんなもんだぜ」
店番をしていた店主がそれに応える。
「それでもシノム細工には違いないからな、ただの木彫りの皿よりはずっと丈夫で長持ちするんだ」
「そうなのか」
「シノム細工は水にも油にも強いし、腐ってボロボロになることもねぇ。虫に食われることもねぇから家具や食器にうってつけよ」
「確かに食器に使うには良さそうだ」
頷くクランヴェルの隣で、俺も手ごろな値段の器を手に取ってみる。
……ふむ、ディーセンの辺りではシノム細工は見かけなかったな。
木皿の次は大体が金属皿で、貴族や資産家に人気なのは銀製だ。一部焼き物の器もあるが、数は多くない。
金属皿も悪くはないんだが、個人的にはこういった温かみを感じさせる木目調の器が好みだ。
屋敷で使っている食器も、いずれは銀製品をと考えていたが、シノム細工で統一するのもありかもしれんな。
……まぁ、荷物になるので今は買えないが。
その後も店主と幾つか話をして、礼代わりに気に入った色の小皿を数枚買わせてもらった。
旅が終わったらこの色を参考にして注文を出そう。
次は蝋燭を見に、職人街を移動する。
蝋燭を扱っている店では、蝋燭以外に油や灯心、火口といった照明関係の物も一緒に売っているようだ。
やはり蜜蝋の蝋燭が高いが、それ以上に高いものがあった。
「これは……何の蝋燭だ?」
「鯨ですね」
「鯨油の蝋燭だな」
呟く俺に、ユニとクランヴェルが同時に答えた。
「鯨の蝋燭は蜜蝋の蝋燭より匂いも少なくて明るいんです」
「教会でも重要な儀式のときしか使わないな」
「そうなんか」
二人の解説に頷いて、引き続き蝋燭コーナーを見て回る。
この街特産というシノムの実から作った蝋燭は、蜜蝋製よりも3割ほど安いようだ。
ただ見て回って思うのが、蝋燭は照明専用という立ち位置なのか、あまりバリエーションがない。
材料や太さに色々違いはあるものの、基本的に燭台に刺して使う、実用一点張りな棒状の蝋燭ばかりなんだよな。
もうちょっと遊び心を持ってもいいと思うぞ俺は。
それでもまぁ蝋燭や油はあればいろいろと使うので、シノム蝋燭を数本と獣脂を1瓶購入した。
その時に、カウンターの後ろになんか立派な箱に入った金属製?の物が飾ってあるのに気が付いた。
……アレ、オイルマッチやん。
値段は金貨2枚?ディーセンでの売値は半金貨数枚だぞ?どれだけ値段が跳ね上がってんだ。
半ばあきれ顔でそれを見ていると、視線に気づいたのか店主が得意顔で話しかけてきた。
「ああ、それはオイルマッチっていう使い捨ての着火の魔道具だよ。なんでも東のとある街で最近作られ始めたそうだ。
これは凄いぞ、こんな小さいのに子供でも簡単に着火の魔法が使えるからな。まぁその分ちょっと値は張るが、冒険者なら持ってて損はないと思うぞ?」
なんか所々間違ってるが、まぁこの世界の情報伝達の精度でいえばこんなもんか。
ただ気になる点があったのでそこは指摘させてもらう。
「ちょっと聞きたいんだが、それを持ち込んだ奴は確かに使い捨てと言ったのか?」
「そうだが……違うのか?」
「俺も同じものを持っているが、それは使い捨てなんかじゃなくて、油さえ補給すればいくらでも使える物だぞ?」
「ちょっと待てそれ詳しく教えてくれ」
やはりというか店主が食いついてきたので、自分のオイルマッチを取り出して説明する。
そりゃ自分が絡む品物が変な売られ方してたら訂正したくもなるぜ。
使い方や注意点を説明しながら店主の話を聞くと、これはディーセンから直接仕入れたのではなく、知り合いの商人が持ち込んできたものだと分かった。箱はここの店主が自分で用意したそうだ。
で、持ち込んだその商人も他の誰かから購入したらしい。
……そうだな、転売を重ねれば取説が紛失するのはよくあることだよな。
取説に代わる何か別の方法を考えたほうがいいのかもしれん。
話をする中で、見本として手持ちの精製油を1瓶売ってやることにしたら、さっき購入したシノム蝋燭他が無料になったうえに材料の違う蝋燭5本セットまで貰っちまったよ。
そこまで高い品物じゃねぇんだけどな。
後は適度に街の中をぶらぶらと散策し、最後に冷たいエールを目当てに猫枕亭に立ち寄ると、ゲンバ爺さんがエールと一緒に手紙を持ってきた。
「お前さんらに千客万来だぜ。
まずはこの手紙、詳しい中身は手紙に書いてあるが、要は領主様からの召喚状だ。すっかり気に入られたようだな。
あともう二つ言伝がある。一つは冥の教会のホレス高司祭からで、滞在中ヒマな時に教会まで来てほしいってよ」
そこでゲンバ爺さんは声を落とした。
「差し支えなければ魔界や他の悪魔について話を聞きてぇそうだ。教会と悪魔は対立しちゃいるが、今までに討伐された個々の悪魔についての記録はあっても、魔界をはじめとする全体的なコトに関する記録や資料はほとんどねぇって話だ。
その辺りの知識を補いてぇってのが目的だろうな。
もう一つはまぁそのなんだ、恐らくロクな話じゃねぇ。初見の中年男が『この店にくる悪魔』という呼び方で来た上に用件も話しゃしねぇ。
断ったんだが明日も来るだろうし、放っておけば宿まで押しかけかねん。
面倒くせぇだろうが話だけ聞いてすっぱり断ってくれ」
……なんだその最後の酒が不味くなるような言伝は。
今日は一日休みの日。
うん、シタデラには来たものの、到着早々のなんだかんだで未だにシタデラの街をまともに観光してないことに気付いたのよね。
そんなわけで、色々と面白そうなものを探してみようと、朝からぞろぞろと連れだって街に繰り出すことにした。
まず向かったのが青物市場。
ここは早めに訪れないと商品がすぐに売り切れるので、少しばかり遠くてもいの一番に訪問する必要がある。
探すのは例によってサツマイモ。
今は時期ではないが、手掛かりでもと尋ね回った結果「西からくる隊商の荷物に、それらしいものがたまに乗っているときがある」という話を聞くことができた。
あとは、ウィータの街の遺跡で拾ってきた種だが、3種類あるうちの2つはここでほぼ判明した。
一つは一般的な品よりサイズが2回りほど大きいものの、特徴からして胡桃しか考えられないと言われた。
まぁこれについては見た目の時点で予想はついてたが。
もう一つの大きな丸い種は、店主のおっちゃんが笑いながら籠の果物を指さしたことで判明した。
「近くの村で少しだけど作ってる奴がいるんだ。
傷がつきやすくて運ぶのが難しいから大した量は出回らないが、味はいいぞ」
そう説明された黄色というか橙色?の、卵型をした果物は前世でも見覚えがある。
どう見ても枇杷ですありがとうございます。こちらではロカートというらしい。
「時期的にはもうすぐ終いだが、その分よく熟してるから甘いぜ」
というセールストークに乗る形で、10個くらい入った籠を1つ買わせてもらった。
値段は1籠で銀貨7枚と結構な値がしたが、逆に言えばうまく実を付ければそれだけ金にもなるということだ。
それに、育てるにあたってあまり繊細な手入れも必要なかった……筈。まぁ収穫や味を求めるなら剪定や摘果が必要だと思うが、明らかに誰も手を入れてないような木に生ってた枇杷でもそこそこ食えた記憶がある。
……いや、甘柿と枇杷は小学校時代の通学路に生えてたもんでさ。
それ以上は聞くな。
「この果物?は初めて見るわね」
「私も初めて見ました」
「帝都でも見たことがないな」
俺にとっては懐かしい果物だが、イツキ、ユニ、クランヴェルは初見らしい。
「んじゃまぁ一つずつつまんでみるか。気に入ったなら買い足すぞ」
ということで、店の脇に避けて一つずつ手に取る。
「これは薄皮を手で剥いてかぶりつくんだ。真ん中にでかい種があるから気を付けろよ」
そう言って目の前で皮を剥いてかぶりついて見せる。うん、懐かしいこの甘さ。よく熟してんな。
「果汁が凄いですね」
「これは甘くて美味いな」
「へぇ、こういう味なんだ」
パクパクと半分くらいを食べた辺りで3人の手が止まる。うん、その先をどうやってきれいに食おうか、ってことだよな。
これについては答えは一つしかない。
「諦めろ。これは手をべったべたにしながら種も吐き出す、いわゆる下品な食い方しかできねーんだ」
所作が美しいと評判のどこかの茶人が、茶の席で枇杷を出された時に、枇杷だけは手を付けずに懐紙で包んで持ち帰った、なんて小話があるくらいだからな。
ナイフを使えば2つ割りにして種を取り出すこともできるが、皮を剥くときにどうしても手が果汁で汚れるのよ。
それでも皆が気に入ったようなので、さらに1籠を追加で買って青物屋を後にする。
次いで向かった肉市場では、ハムと腸詰をいくつか買い込む。
生肉についてはあまり変わり映えしなかったのでパス。
食肉については魚介や野菜果物と違って、東西の地域による差があまりないんだよな。もっと北や南に行けばまた変わってくるのだろうが。
ただハムや腸詰といった食肉加工品は、味付けや加工法とかで地域差があるので、食べ比べという意味で面白味があるんだがな。
その後は露店で適当に腹をなだめつつ、職人街へと向かう。
昨日ゲンバ爺さんから、シノム細工と蝋燭が特産品だと聞いたので見に行こうという訳だ。
所々で道を尋ねながら、シノム細工の職人が集まっているという一角につく。
ざっと見たところ日本の漆器に近い感じで、主に木製品にシノムを塗っているようだ。
ただ色数は日本に比べるとずっと少なく、無色と黒と赤の3種類しかない。
割合的には無色が3、黒が5、赤が2といったところか。
螺鈿の細工もモノによっては入っていたりするが、技術的なものか国民性か、日本で見たような精緻な模様とは違い、大きめの貝を貼り付けてそれ自体を模様としているようだ。
まぁこれもこれで見ごたえのある品なので、どちらが上とは一概には言えまい。
「シノム細工は高級品だと思っていたが、手ごろな値段の物もあるんだな」
木皿の1枚を手に取ってクランヴェルが呟く。
「色付きで磨き上げた品となると結構な値段になるが、そういった色なしだとそんなもんだぜ」
店番をしていた店主がそれに応える。
「それでもシノム細工には違いないからな、ただの木彫りの皿よりはずっと丈夫で長持ちするんだ」
「そうなのか」
「シノム細工は水にも油にも強いし、腐ってボロボロになることもねぇ。虫に食われることもねぇから家具や食器にうってつけよ」
「確かに食器に使うには良さそうだ」
頷くクランヴェルの隣で、俺も手ごろな値段の器を手に取ってみる。
……ふむ、ディーセンの辺りではシノム細工は見かけなかったな。
木皿の次は大体が金属皿で、貴族や資産家に人気なのは銀製だ。一部焼き物の器もあるが、数は多くない。
金属皿も悪くはないんだが、個人的にはこういった温かみを感じさせる木目調の器が好みだ。
屋敷で使っている食器も、いずれは銀製品をと考えていたが、シノム細工で統一するのもありかもしれんな。
……まぁ、荷物になるので今は買えないが。
その後も店主と幾つか話をして、礼代わりに気に入った色の小皿を数枚買わせてもらった。
旅が終わったらこの色を参考にして注文を出そう。
次は蝋燭を見に、職人街を移動する。
蝋燭を扱っている店では、蝋燭以外に油や灯心、火口といった照明関係の物も一緒に売っているようだ。
やはり蜜蝋の蝋燭が高いが、それ以上に高いものがあった。
「これは……何の蝋燭だ?」
「鯨ですね」
「鯨油の蝋燭だな」
呟く俺に、ユニとクランヴェルが同時に答えた。
「鯨の蝋燭は蜜蝋の蝋燭より匂いも少なくて明るいんです」
「教会でも重要な儀式のときしか使わないな」
「そうなんか」
二人の解説に頷いて、引き続き蝋燭コーナーを見て回る。
この街特産というシノムの実から作った蝋燭は、蜜蝋製よりも3割ほど安いようだ。
ただ見て回って思うのが、蝋燭は照明専用という立ち位置なのか、あまりバリエーションがない。
材料や太さに色々違いはあるものの、基本的に燭台に刺して使う、実用一点張りな棒状の蝋燭ばかりなんだよな。
もうちょっと遊び心を持ってもいいと思うぞ俺は。
それでもまぁ蝋燭や油はあればいろいろと使うので、シノム蝋燭を数本と獣脂を1瓶購入した。
その時に、カウンターの後ろになんか立派な箱に入った金属製?の物が飾ってあるのに気が付いた。
……アレ、オイルマッチやん。
値段は金貨2枚?ディーセンでの売値は半金貨数枚だぞ?どれだけ値段が跳ね上がってんだ。
半ばあきれ顔でそれを見ていると、視線に気づいたのか店主が得意顔で話しかけてきた。
「ああ、それはオイルマッチっていう使い捨ての着火の魔道具だよ。なんでも東のとある街で最近作られ始めたそうだ。
これは凄いぞ、こんな小さいのに子供でも簡単に着火の魔法が使えるからな。まぁその分ちょっと値は張るが、冒険者なら持ってて損はないと思うぞ?」
なんか所々間違ってるが、まぁこの世界の情報伝達の精度でいえばこんなもんか。
ただ気になる点があったのでそこは指摘させてもらう。
「ちょっと聞きたいんだが、それを持ち込んだ奴は確かに使い捨てと言ったのか?」
「そうだが……違うのか?」
「俺も同じものを持っているが、それは使い捨てなんかじゃなくて、油さえ補給すればいくらでも使える物だぞ?」
「ちょっと待てそれ詳しく教えてくれ」
やはりというか店主が食いついてきたので、自分のオイルマッチを取り出して説明する。
そりゃ自分が絡む品物が変な売られ方してたら訂正したくもなるぜ。
使い方や注意点を説明しながら店主の話を聞くと、これはディーセンから直接仕入れたのではなく、知り合いの商人が持ち込んできたものだと分かった。箱はここの店主が自分で用意したそうだ。
で、持ち込んだその商人も他の誰かから購入したらしい。
……そうだな、転売を重ねれば取説が紛失するのはよくあることだよな。
取説に代わる何か別の方法を考えたほうがいいのかもしれん。
話をする中で、見本として手持ちの精製油を1瓶売ってやることにしたら、さっき購入したシノム蝋燭他が無料になったうえに材料の違う蝋燭5本セットまで貰っちまったよ。
そこまで高い品物じゃねぇんだけどな。
後は適度に街の中をぶらぶらと散策し、最後に冷たいエールを目当てに猫枕亭に立ち寄ると、ゲンバ爺さんがエールと一緒に手紙を持ってきた。
「お前さんらに千客万来だぜ。
まずはこの手紙、詳しい中身は手紙に書いてあるが、要は領主様からの召喚状だ。すっかり気に入られたようだな。
あともう二つ言伝がある。一つは冥の教会のホレス高司祭からで、滞在中ヒマな時に教会まで来てほしいってよ」
そこでゲンバ爺さんは声を落とした。
「差し支えなければ魔界や他の悪魔について話を聞きてぇそうだ。教会と悪魔は対立しちゃいるが、今までに討伐された個々の悪魔についての記録はあっても、魔界をはじめとする全体的なコトに関する記録や資料はほとんどねぇって話だ。
その辺りの知識を補いてぇってのが目的だろうな。
もう一つはまぁそのなんだ、恐らくロクな話じゃねぇ。初見の中年男が『この店にくる悪魔』という呼び方で来た上に用件も話しゃしねぇ。
断ったんだが明日も来るだろうし、放っておけば宿まで押しかけかねん。
面倒くせぇだろうが話だけ聞いてすっぱり断ってくれ」
……なんだその最後の酒が不味くなるような言伝は。
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