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第12章
第10話 廃教会の亡者退治3
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ホレス高司祭の読みで事情が変わったことを察した俺たちは、休憩を適度な所で切り上げて墓地の中心部へと向かった。
「先に言っておく。屍戦鬼や魔亡霊以上の強い亡者……例えば不死騎士や不死魔導師は、他の弱い亡者を支配下に置くことができる。
本体も強敵だが、大量に呼び寄せられる雑魚亡者も厄介だ。幾人かは雑魚の足止めに回ってもらうことになるだろう」
「了解。足止め面子は相手を見てから考えよう」
俺とクランヴェル、そしてドッズが先頭になって、後続を守りつつ墓地の中心地を目指す。
三度ほど骸骨の群れが前を塞いだが、一瞬で蹴散らした。
つーか今気づいたんだが、ホレス高司祭って鞭が得物なんだな。
革紐を編んだらしい鞭の先端に銀混じりの鉄製と思われる分銅がついている。あんなので一撃されたら、下手な鎧なら簡単にひしゃげそうだ。
「ディーゴさま、ホレスさま。前方にたくさんの骨が散らばってます!」
上空のユニから警告が入る。
「当たりだ。全員警戒しろ!大物が来るぞ!!」
ホレス高司祭の声に教会面子が散らばり、陣形を整える。
俺の方も戦槌から盾に持ち替え、盾の下部を踏みつけて爪を出す。
一同が見ている前で大量の骨が浮き上がり、互いに集まって形を成していく。
「結合巨骨か……。あ、今は手を出すなよ?あの状態の時に下手に近づくと、巻き込まれて一部にされるぞ」
「そうなんか。で、その結合巨骨ってのはナニモンだ?」
駆け出そうとした俺を制したホレス高司祭に尋ねる。
「見ての通り骸骨の集合体だ。何体もの骸骨が集まって一つの個体になる。魔法こそは使ってこないが周辺の亡者を支配下に置いて操ってくる。
強力な再生能力持ちでな、この面子では中心となる核を砕くのが現実的だろう」
「了解。で、その核ってのはどこにあるんだ?」
「胸か頭が一般的だ」
「……どっちも手が届きそうにねぇんだが?」
俺がホレス高司祭と言いあっている間に、無数の骨が徐々に形になっていくのだが、サイズがでかい。
四つ足の動物っぽい形になりそうだ、と予想はつくものの、足の長さの時点で俺の背丈を超えている。
「なんとかして転がすしかないな」
「なら前足を潰すか。ドッズとエインは右前足!イツキとクランヴェルは左前脚を潰せ!ミーチャとヴァルツとユニは雑魚の足止め!
俺は正面を引き受けるからホレス高司祭とラルゴーは頭を叩け!!」
それぞれが理解したように指示された位置につく。
その頃には相手の骨もほぼ形が出来上がり、巨大な狼というか犬のような形でこちらを見下ろしてきた。
……サイズが大幅に違うとはいえ、人骨を寄せ集めて犬の骨格造形なんてできるんだな。随分と器用なことで。
そんな埒もないことを考えながら、盾を両手に構える。
「―――――ッ!!」
声にならない雄叫びを上げて、骸骨巨犬が突進してきた。これを真っ向勝負で迎え撃つ。
腰を落として足を踏ん張り、前傾姿勢で衝撃に備える。
足音が間近に迫り盾への衝撃を覚悟した瞬間、頭上を風切り音が通り過ぎ派手に骨が砕ける音がした。
ホレス高司祭の先制か。
ならば、と、下げた左手に力を込めて一気に盾を振り上げる。砕ける骨の音と確かな手ごたえ。
雑魚骸骨に比べると数段硬度が上がっているが、骨同士の結合も強まっているようでこちらの方が砕きやすい。
足の止まったところにドッズやクランヴェルらが左右から前足に切りかかる。
ガシャ、ゴキッと破砕音が響き
「倒れるぞ!!」
ドッズの声と共に目の前に巨大な骨犬の頭が落ちてきた。
うむ、前足担当の2チームも攻撃が通らんということはなさそうだな。
「核を探して砕け!!」
ホレス高司祭の声が飛ぶ。
前足担当の2チームは左右からあばら骨を砕いて胴体の中を調べ、俺とホレス高司祭は頭の骨をひたすら砕いて核らしきものを探す。
が、それも長くは続かない。
骨犬は鬱陶しそうに頭を大きく振ると、再び立ち上がろうと試みる。
砕かれた筈の両前足と頭蓋骨に周囲から新たな骨が集まり、再び前のような形をとる。
再生早ぇな。
砕かれた箇所を完全に再生させた骨犬が突如後ろ足で立ち上がり、振り上げた両足を地面に叩きつけた。
叩きつけられた前足は誰かを狙った物ではなく、地面が大きく揺れたわけでもない。
何を狙った?と思ったが、答えはすぐにもたらされた。
「気を付けてください!増援が出ました!!」
上空からユニが警告の声を上げる。
「内容と数は!?」
「屍戦鬼2魔亡霊1!食屍鬼3と骸骨がおよそ10!!鬼火と亡霊はこっちで対処します!」
「前足組は魔亡霊と屍戦鬼を最優先で片付けろ!食屍鬼はヴァルツだ!ミーチャは骸骨の相手とヴァルツのフォロー!」
後ろからホレス高司祭の指示が飛ぶ。呼ばれなかった俺は引き続き骨犬の相手か。
そう判断すると、骨犬の真下に駆けこんで盾を横に大きく薙ぎ払う。
とにかくこのでかい骨犬を暴れさせると面倒だ。しつこいくらいに前足を繰り返し砕いて動きを封じたほうがいい。
「核の位置は分かったか!?」
「胴の中には見当たらんかった!おそらく頭の中じゃ!!」
ドッズの答に思わず顔をしかめる。
胴の中なら足を砕くついでに手も出せそうだが、頭の中となるとそうはいかん。
先ほど殴った感じからして、頭の中に核があるとすればかなり奥の方だ。
さてどう料理する?
そんなことを考えながら盾を振るい続ける。砕いては再生され、再生されてはまた砕く。
「増援、来ます!!食屍鬼2、骸骨およそ20!」
再びユニの警告が飛ぶ。
「屍戦鬼と魔亡霊は!?」
「今回の増援の中にはゼロです!」
「さっきの屍戦鬼が1体残ってる!」
クランヴェルが割って入ってきた。
「ディーゴ!ミーチャとヴァルツが手いっぱいだ!援護に回るぞ!!」
「任せた!クランヴェルはなんとか屍戦鬼を片付けろ!!」
「私が手伝います!」
ホレス高司祭が骨犬から外れ、右前足担当のエインがクランヴェルに加勢に走る。
……参ったな、思ってた以上に敵の増援が厄介だ。
戦力が分散されるせいで骨犬への火力がどうしても足りない。
現在は俺とドッズ、イツキとラルゴーの4人で骨犬に当たっているが、イツキとラルゴーはユニのフォローにも回っているので専念できているのは実質2人だけだ。
これではいつまでたっても再生能力のある骨犬にトドメはさせない。
骨犬の攻撃を盾でいなし、反撃を加えながら思考を巡らせる。
とにかく一時的でもこちらの戦力を骨犬に集中したい。
つーと、相手の戦力を分断させるしかないわな。
戦術と人員配置をもう一度練り直す……のだが、そっちに意識を割きすぎたらしい。
ユニの悲鳴のような警告に気付くと同時に体の中を例えようもなく不快で冷たいものが通り過ぎた。
「は、がっ!」
周囲の包囲を抜けてきた亡霊の一撃を食らったらしい。
全身の毛が逆立ち、力が抜ける。崩れ落ちそうになる膝を立て直そうと力を込めた瞬間、左半身にすさまじい衝撃を食らって吹き飛ばされた。
悲鳴が聞こえた気がするが良くわからん。
ごろごろと地べたを転がった末に、回る視界と痛む半身を押してなんとか立ち上がる。
亡霊の攻撃で力が抜けたところに骨犬の強烈な一撃を食らったらしい。つーか凶悪すぎるだろそのコンボ。
幸い、鎧のおかげで大きな傷はなく、骨も折れていない。単純に打撲で痛いだけだ。
「ディーゴ!無事か!?」
「問題ねぇ!それより作戦変えるぞ!みんな聞け!!」
盾がどこかに行ってしまったので腰の戦槌を外しつつ叫ぶ。
「まずはホレスとイツキで雑魚を一掃!強力なのをぶちかませ!!その後俺が土壁を作る!ミーチャとラルゴーは内側に避魔の領域を展開!領域内に俺らと骨犬を閉じ込めろ!
次にイツキと俺で骨犬を抑える!残りは全員骨犬にかかれ!!
ユニは領域内に避難!骨犬の頭に全弾連射で叩き込め!!一気に決めるぞ!!」
「「「応!!」」」
それぞれから了解の返事が返ってきて、まずはホレス高司祭とイツキの強力な範囲魔法が骸骨や鬼火、亡霊を一掃した。
直後に俺の土魔法で骨犬を中心に自分たちを含めた円形の土壁を作成。これで骸骨や屍食鬼は入ってこれなくなった。
更にミーチャとラルゴーが避魔の領域を展開し、鬼火と亡霊の侵入を防ぐ。
「イツキ!前足を縛れ!!」
「たいしてもたないわよ?」
「20、いや10秒もてばいい!」
「了解!」
イツキが骨犬の前足に蔓草を絡めて少しの時間を稼ぐ。
その間に強度を上げた石壁を2枚、骨犬の左右に展開する。
垂直ではなく斜めに展開された石壁は重力に従って倒れ込み、左右から骨犬を押しつぶした。
「今だ!ユニ、全弾斉射!!」
「はい!」
ユニの返事と共に20発を超える岩の精霊弾が連続して骨犬の頭蓋骨を穿つ。
ドッズの戦斧、クランヴェルの長剣、エインの槌鉾がさらに骨犬の傷口を広げる。
無論骨犬も一方的にやられているわけではない。
ぶるりと頭を震わせると、今度は避魔の領域内に増援が現れた。屍戦鬼1、魔亡霊2、屍食鬼4に骸骨が10以上に加えて、鬼火と亡霊も4体ずつ姿を見せる。
「ホレス!イツキ!でかいのもう一発!味方を巻き込むなよ!!」
「心配無用!だがこれが最後だ!!」
ホレス高司祭の魔法で骸骨、鬼火、亡霊が一掃される。屍食鬼4はイツキが止めを刺し、屍戦鬼はヴァルツが仕留めた。
「もっかい死んどけ!!」
俺とラルゴーが魔法を飛ばして魔亡霊2体を消滅させる。
あっという間に増援を片付けたが、魔力はもう心もとない。
次の増援が出る前に、と戦槌を手に駆けだそうとした矢先、クランヴェルの声が響いた。
「核を砕いたぞ!!」
その声と共に骨犬の巨大な体が崩れていく。
骨犬を構成していた無数の人骨同士の結束が亡くなり、数瞬後には辺り一面に散らばった動かぬ骨が残った。
「一応これで……終わり、か?」
再び骨が動き出さないのを確認して、誰とはなしに尋ねる。
「核を砕いたのならそうだろうな。クランヴェル、核はなんだった?」
ホレス高司祭がクランヴェルに尋ねる。
「ちょっと待ってください。ええと……これです」
クランヴェルが骨の中に手を突っ込み、取り出したのは犬のものと思われる頭蓋骨だった。
ただ、その頭蓋骨には太い釘が何本も刺さっていたのが異様だったが。
「ああ、なるほど。そういう訳か」
それを見たホレス高司祭が納得したように頷いた。
「やれやれ、本当に困ったものですね」
「どこにも阿呆はおるのぅ」
クランヴェルを含めた教会組は、釘の刺さった頭蓋骨を見て納得したようだが、ちょっと俺らにも説明してくれんか?
「どういうことだ?」
「ここで呪いの儀式をやった馬鹿がいる、ということだ。
生贄となる動物を散々痛めつけてから残虐に殺し、切り落とした頭と取り出した心臓を邪神に捧げることで憎い誰かを呪うことができる。
まぁ巷でよく言われる『おまじない』の一種だな」
「墓地みたいに死が比較的近いところで行うほど効果がある、と言われているわ。まぁ効果のほどは未知数だけど」
「本気で行う奴は滅多にいないんだが、肝試し感覚でこれをやる連中もいるんだ」
教会の面子がそれぞれ説明してくれたので納得する。
「大抵は生贄の動物が残虐に殺されるだけで終わるんだが、今回これをやった奴は相応の素質があったのかもしれんな。
ただ、憎む相手に向かうべき犬の恨みがここにとどまり、それが呼び水になって瘴気を集め、ここに眠る死者を起こしたのだろう」
「……まぁそれは分かったが、そんなきっかけでこんな骨犬みたいのが生まれるのか?」
俺からすると、心霊スポットで丑の刻参りをしたら洒落にならない悪霊が出ました、みたいな感覚なんだが。
「今回はレアケースだ。とはいえ、小規模なのは今までも起こっていたかもしれん。放置された墓地というのは瘴気が溜まりやすいからな」
「そうなんかい。ったく、人騒がせな……」
そう言って大きくため息をつくと、ホレス高司祭に尋ねた。
「一応これで亡者退治は終わりと思うが……廃教会はどうする?」
「そうだな、どうせなら見ていこう。何もないとは思うが念のためだ」
「了解。だがその前に一息つかせてくれ。さすがにちと疲れたわ」
「同感だ」
顔を見合わせて笑いあうと、用意したままの拠点へと足を向けた。
ホレス高司祭の読みで事情が変わったことを察した俺たちは、休憩を適度な所で切り上げて墓地の中心部へと向かった。
「先に言っておく。屍戦鬼や魔亡霊以上の強い亡者……例えば不死騎士や不死魔導師は、他の弱い亡者を支配下に置くことができる。
本体も強敵だが、大量に呼び寄せられる雑魚亡者も厄介だ。幾人かは雑魚の足止めに回ってもらうことになるだろう」
「了解。足止め面子は相手を見てから考えよう」
俺とクランヴェル、そしてドッズが先頭になって、後続を守りつつ墓地の中心地を目指す。
三度ほど骸骨の群れが前を塞いだが、一瞬で蹴散らした。
つーか今気づいたんだが、ホレス高司祭って鞭が得物なんだな。
革紐を編んだらしい鞭の先端に銀混じりの鉄製と思われる分銅がついている。あんなので一撃されたら、下手な鎧なら簡単にひしゃげそうだ。
「ディーゴさま、ホレスさま。前方にたくさんの骨が散らばってます!」
上空のユニから警告が入る。
「当たりだ。全員警戒しろ!大物が来るぞ!!」
ホレス高司祭の声に教会面子が散らばり、陣形を整える。
俺の方も戦槌から盾に持ち替え、盾の下部を踏みつけて爪を出す。
一同が見ている前で大量の骨が浮き上がり、互いに集まって形を成していく。
「結合巨骨か……。あ、今は手を出すなよ?あの状態の時に下手に近づくと、巻き込まれて一部にされるぞ」
「そうなんか。で、その結合巨骨ってのはナニモンだ?」
駆け出そうとした俺を制したホレス高司祭に尋ねる。
「見ての通り骸骨の集合体だ。何体もの骸骨が集まって一つの個体になる。魔法こそは使ってこないが周辺の亡者を支配下に置いて操ってくる。
強力な再生能力持ちでな、この面子では中心となる核を砕くのが現実的だろう」
「了解。で、その核ってのはどこにあるんだ?」
「胸か頭が一般的だ」
「……どっちも手が届きそうにねぇんだが?」
俺がホレス高司祭と言いあっている間に、無数の骨が徐々に形になっていくのだが、サイズがでかい。
四つ足の動物っぽい形になりそうだ、と予想はつくものの、足の長さの時点で俺の背丈を超えている。
「なんとかして転がすしかないな」
「なら前足を潰すか。ドッズとエインは右前足!イツキとクランヴェルは左前脚を潰せ!ミーチャとヴァルツとユニは雑魚の足止め!
俺は正面を引き受けるからホレス高司祭とラルゴーは頭を叩け!!」
それぞれが理解したように指示された位置につく。
その頃には相手の骨もほぼ形が出来上がり、巨大な狼というか犬のような形でこちらを見下ろしてきた。
……サイズが大幅に違うとはいえ、人骨を寄せ集めて犬の骨格造形なんてできるんだな。随分と器用なことで。
そんな埒もないことを考えながら、盾を両手に構える。
「―――――ッ!!」
声にならない雄叫びを上げて、骸骨巨犬が突進してきた。これを真っ向勝負で迎え撃つ。
腰を落として足を踏ん張り、前傾姿勢で衝撃に備える。
足音が間近に迫り盾への衝撃を覚悟した瞬間、頭上を風切り音が通り過ぎ派手に骨が砕ける音がした。
ホレス高司祭の先制か。
ならば、と、下げた左手に力を込めて一気に盾を振り上げる。砕ける骨の音と確かな手ごたえ。
雑魚骸骨に比べると数段硬度が上がっているが、骨同士の結合も強まっているようでこちらの方が砕きやすい。
足の止まったところにドッズやクランヴェルらが左右から前足に切りかかる。
ガシャ、ゴキッと破砕音が響き
「倒れるぞ!!」
ドッズの声と共に目の前に巨大な骨犬の頭が落ちてきた。
うむ、前足担当の2チームも攻撃が通らんということはなさそうだな。
「核を探して砕け!!」
ホレス高司祭の声が飛ぶ。
前足担当の2チームは左右からあばら骨を砕いて胴体の中を調べ、俺とホレス高司祭は頭の骨をひたすら砕いて核らしきものを探す。
が、それも長くは続かない。
骨犬は鬱陶しそうに頭を大きく振ると、再び立ち上がろうと試みる。
砕かれた筈の両前足と頭蓋骨に周囲から新たな骨が集まり、再び前のような形をとる。
再生早ぇな。
砕かれた箇所を完全に再生させた骨犬が突如後ろ足で立ち上がり、振り上げた両足を地面に叩きつけた。
叩きつけられた前足は誰かを狙った物ではなく、地面が大きく揺れたわけでもない。
何を狙った?と思ったが、答えはすぐにもたらされた。
「気を付けてください!増援が出ました!!」
上空からユニが警告の声を上げる。
「内容と数は!?」
「屍戦鬼2魔亡霊1!食屍鬼3と骸骨がおよそ10!!鬼火と亡霊はこっちで対処します!」
「前足組は魔亡霊と屍戦鬼を最優先で片付けろ!食屍鬼はヴァルツだ!ミーチャは骸骨の相手とヴァルツのフォロー!」
後ろからホレス高司祭の指示が飛ぶ。呼ばれなかった俺は引き続き骨犬の相手か。
そう判断すると、骨犬の真下に駆けこんで盾を横に大きく薙ぎ払う。
とにかくこのでかい骨犬を暴れさせると面倒だ。しつこいくらいに前足を繰り返し砕いて動きを封じたほうがいい。
「核の位置は分かったか!?」
「胴の中には見当たらんかった!おそらく頭の中じゃ!!」
ドッズの答に思わず顔をしかめる。
胴の中なら足を砕くついでに手も出せそうだが、頭の中となるとそうはいかん。
先ほど殴った感じからして、頭の中に核があるとすればかなり奥の方だ。
さてどう料理する?
そんなことを考えながら盾を振るい続ける。砕いては再生され、再生されてはまた砕く。
「増援、来ます!!食屍鬼2、骸骨およそ20!」
再びユニの警告が飛ぶ。
「屍戦鬼と魔亡霊は!?」
「今回の増援の中にはゼロです!」
「さっきの屍戦鬼が1体残ってる!」
クランヴェルが割って入ってきた。
「ディーゴ!ミーチャとヴァルツが手いっぱいだ!援護に回るぞ!!」
「任せた!クランヴェルはなんとか屍戦鬼を片付けろ!!」
「私が手伝います!」
ホレス高司祭が骨犬から外れ、右前足担当のエインがクランヴェルに加勢に走る。
……参ったな、思ってた以上に敵の増援が厄介だ。
戦力が分散されるせいで骨犬への火力がどうしても足りない。
現在は俺とドッズ、イツキとラルゴーの4人で骨犬に当たっているが、イツキとラルゴーはユニのフォローにも回っているので専念できているのは実質2人だけだ。
これではいつまでたっても再生能力のある骨犬にトドメはさせない。
骨犬の攻撃を盾でいなし、反撃を加えながら思考を巡らせる。
とにかく一時的でもこちらの戦力を骨犬に集中したい。
つーと、相手の戦力を分断させるしかないわな。
戦術と人員配置をもう一度練り直す……のだが、そっちに意識を割きすぎたらしい。
ユニの悲鳴のような警告に気付くと同時に体の中を例えようもなく不快で冷たいものが通り過ぎた。
「は、がっ!」
周囲の包囲を抜けてきた亡霊の一撃を食らったらしい。
全身の毛が逆立ち、力が抜ける。崩れ落ちそうになる膝を立て直そうと力を込めた瞬間、左半身にすさまじい衝撃を食らって吹き飛ばされた。
悲鳴が聞こえた気がするが良くわからん。
ごろごろと地べたを転がった末に、回る視界と痛む半身を押してなんとか立ち上がる。
亡霊の攻撃で力が抜けたところに骨犬の強烈な一撃を食らったらしい。つーか凶悪すぎるだろそのコンボ。
幸い、鎧のおかげで大きな傷はなく、骨も折れていない。単純に打撲で痛いだけだ。
「ディーゴ!無事か!?」
「問題ねぇ!それより作戦変えるぞ!みんな聞け!!」
盾がどこかに行ってしまったので腰の戦槌を外しつつ叫ぶ。
「まずはホレスとイツキで雑魚を一掃!強力なのをぶちかませ!!その後俺が土壁を作る!ミーチャとラルゴーは内側に避魔の領域を展開!領域内に俺らと骨犬を閉じ込めろ!
次にイツキと俺で骨犬を抑える!残りは全員骨犬にかかれ!!
ユニは領域内に避難!骨犬の頭に全弾連射で叩き込め!!一気に決めるぞ!!」
「「「応!!」」」
それぞれから了解の返事が返ってきて、まずはホレス高司祭とイツキの強力な範囲魔法が骸骨や鬼火、亡霊を一掃した。
直後に俺の土魔法で骨犬を中心に自分たちを含めた円形の土壁を作成。これで骸骨や屍食鬼は入ってこれなくなった。
更にミーチャとラルゴーが避魔の領域を展開し、鬼火と亡霊の侵入を防ぐ。
「イツキ!前足を縛れ!!」
「たいしてもたないわよ?」
「20、いや10秒もてばいい!」
「了解!」
イツキが骨犬の前足に蔓草を絡めて少しの時間を稼ぐ。
その間に強度を上げた石壁を2枚、骨犬の左右に展開する。
垂直ではなく斜めに展開された石壁は重力に従って倒れ込み、左右から骨犬を押しつぶした。
「今だ!ユニ、全弾斉射!!」
「はい!」
ユニの返事と共に20発を超える岩の精霊弾が連続して骨犬の頭蓋骨を穿つ。
ドッズの戦斧、クランヴェルの長剣、エインの槌鉾がさらに骨犬の傷口を広げる。
無論骨犬も一方的にやられているわけではない。
ぶるりと頭を震わせると、今度は避魔の領域内に増援が現れた。屍戦鬼1、魔亡霊2、屍食鬼4に骸骨が10以上に加えて、鬼火と亡霊も4体ずつ姿を見せる。
「ホレス!イツキ!でかいのもう一発!味方を巻き込むなよ!!」
「心配無用!だがこれが最後だ!!」
ホレス高司祭の魔法で骸骨、鬼火、亡霊が一掃される。屍食鬼4はイツキが止めを刺し、屍戦鬼はヴァルツが仕留めた。
「もっかい死んどけ!!」
俺とラルゴーが魔法を飛ばして魔亡霊2体を消滅させる。
あっという間に増援を片付けたが、魔力はもう心もとない。
次の増援が出る前に、と戦槌を手に駆けだそうとした矢先、クランヴェルの声が響いた。
「核を砕いたぞ!!」
その声と共に骨犬の巨大な体が崩れていく。
骨犬を構成していた無数の人骨同士の結束が亡くなり、数瞬後には辺り一面に散らばった動かぬ骨が残った。
「一応これで……終わり、か?」
再び骨が動き出さないのを確認して、誰とはなしに尋ねる。
「核を砕いたのならそうだろうな。クランヴェル、核はなんだった?」
ホレス高司祭がクランヴェルに尋ねる。
「ちょっと待ってください。ええと……これです」
クランヴェルが骨の中に手を突っ込み、取り出したのは犬のものと思われる頭蓋骨だった。
ただ、その頭蓋骨には太い釘が何本も刺さっていたのが異様だったが。
「ああ、なるほど。そういう訳か」
それを見たホレス高司祭が納得したように頷いた。
「やれやれ、本当に困ったものですね」
「どこにも阿呆はおるのぅ」
クランヴェルを含めた教会組は、釘の刺さった頭蓋骨を見て納得したようだが、ちょっと俺らにも説明してくれんか?
「どういうことだ?」
「ここで呪いの儀式をやった馬鹿がいる、ということだ。
生贄となる動物を散々痛めつけてから残虐に殺し、切り落とした頭と取り出した心臓を邪神に捧げることで憎い誰かを呪うことができる。
まぁ巷でよく言われる『おまじない』の一種だな」
「墓地みたいに死が比較的近いところで行うほど効果がある、と言われているわ。まぁ効果のほどは未知数だけど」
「本気で行う奴は滅多にいないんだが、肝試し感覚でこれをやる連中もいるんだ」
教会の面子がそれぞれ説明してくれたので納得する。
「大抵は生贄の動物が残虐に殺されるだけで終わるんだが、今回これをやった奴は相応の素質があったのかもしれんな。
ただ、憎む相手に向かうべき犬の恨みがここにとどまり、それが呼び水になって瘴気を集め、ここに眠る死者を起こしたのだろう」
「……まぁそれは分かったが、そんなきっかけでこんな骨犬みたいのが生まれるのか?」
俺からすると、心霊スポットで丑の刻参りをしたら洒落にならない悪霊が出ました、みたいな感覚なんだが。
「今回はレアケースだ。とはいえ、小規模なのは今までも起こっていたかもしれん。放置された墓地というのは瘴気が溜まりやすいからな」
「そうなんかい。ったく、人騒がせな……」
そう言って大きくため息をつくと、ホレス高司祭に尋ねた。
「一応これで亡者退治は終わりと思うが……廃教会はどうする?」
「そうだな、どうせなら見ていこう。何もないとは思うが念のためだ」
「了解。だがその前に一息つかせてくれ。さすがにちと疲れたわ」
「同感だ」
顔を見合わせて笑いあうと、用意したままの拠点へと足を向けた。
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不思議な力を持った宝石たちを巡る、異世界『転移』物語!
星の命運を掛けた壮大なSFファンタジー!
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
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