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第12章
第9話 廃教会の亡者退治2
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-1-
そんな感じで始まった廃教会の大掃除……もとい、亡者退治だが、始まりは静かなものだった。
生い茂る雑草をイツキにどかしてもらいつつ、上空のユニの誘導に従って歩みを進めると、やがて3体の骸骨が視界に入った。
泥に汚れた革鎧らしきものの残骸を身につけてはいるが、防具の体をなしていない。
「まずは俺とヴァルツでいく。ちと試したいこともあるから、他は様子見で頼む」
3人にそう言い残して骸骨の所に向かう。
持っているのは盾ではなく戦槌だ。
20トエムくらいまで近づくと、骸骨もこちらを認識したらしく、こちらに向けてぎこちない動作で歩いてきた。
屍人に比べて動きが早いというが、それでも人間よりはやや遅い。おまけに3体とも手ぶらで武器も持っていない。
「まずは、ひとつ!」
一気に距離を詰め、大上段に振りかぶった戦槌を一気に振り下ろす。
ガシャゴシャン、という微妙に湿った音がして骸骨は文字通り『粉砕』された。
残り2体の骸骨が向かってきたので、下がって距離をとりつつ先ほどの手ごたえを思い返す。
長年土に埋まっていたせいか、骨もかなり脆くなっている気がする。
しぶといとは聞いていたが、弱点さえつけば緑小鬼や犬鬼以下の雑魚だろう。
これで平均よりやや上の強さというのが疑問に思える。
しかしなんだ、こりゃ全力を出す必要はねーな。
そう判断すると、ヴァルツに指示を飛ばす。
「本気を出す必要はねぇ。体力温存で手の抜き加減を覚えろ」
ヴァルツから承知した旨の思念が返ってくる。若干、苦笑い気味な雰囲気が混じっていたのは気のせいか。
その後は骸骨1体ずつを相手に幾つか試させてもらうことにした。
どの程度の勢いで殴れば骨が外れるのか、また、どの程度の力なら骨を砕くことができるのか。
止めを刺さなかった骸骨はどのくらいで復活するのか。
初めて戦う相手なうえに数も多いとすれば、どれだけ体力を使わずに相手を倒せるかの見極めが重要になってくる。
……まぁ、傍から見れば骸骨を相手に遊んでいるようにしか見えないのだろうが。
「ディーゴ!なにをやってる!さっさと倒してしまえ!!」
案の定、後ろのクランヴェルから注文がついた。
「少し黙ってろ!今は色々調べてる最中だ!」
掴みかかってきた骸骨を半身になって避けつつ、脛の骨を蹴飛ばす。
あっけなく骨が外れ、支えを失った骸骨は横倒しになりばらばらと骨が散らばった。
数秒経つと蹴飛ばした骨が戻ってきて、再び人間の形を取りぎこちない様子で立ち上がる。
……ふむ、こういう相手か。ならばもっと手は抜けるな。
2~3トエムくらいの丈夫な棒を作って、まとめて薙ぎ払うのも一つの手か?
そんなことを考えながらヴァルツを見ると、そっちは叩き落とした頭蓋骨に前足を乗せて何かを考えているようだった。
「ヴァルツ、どした?」
〈うむ、頭か腰の骨を砕けばいいと聞いたが、これが意外と難しくてだな……〉
……ああ、なるほど。
少し困ったようなヴァルツの答に、思いついて納得する。
土に埋まってて多少脆くなってるとはいえ、頭蓋骨も腰骨も基本的に結構丈夫だ。
それに形状的にも嚙み砕きやすいわけでもないし。
まぁ頑張ればできないことはないようだが、効率は良くなさそうだ。
「なら骨を外すことに専念してくれ。砕くのは俺がやろう」
〈頼もう〉
そう言ってヴァルツが前足をどけた頭蓋骨に、さくりと戦槌の穂先を突き刺す。
続いて俺が相手をしていたもう1体の骸骨にヴァルツが飛び掛かり、腰骨を弾き飛ばした。
崩れる骸骨には目もくれず、転がった腰骨を踏みつぶせば、とりあえず目の前の3体は終わった。
「待たせたな。今ので大体感覚は掴んだ。次からはサクサク行くぞ」
3人の所に戻り、亡者退治を再開する。
ユニが上空から索敵、イツキが地均し、俺とヴァルツとクランヴェルが攻撃という形で墓地の探索を続けていく。
遭遇するのは骸骨が8割、亡霊と鬼火が1割ずつで、稀に食屍鬼と言ったところか。
今のところそれ以外には出くわしていない。
鈍足ぞろいの亡者の中で食屍鬼だけは動きが早いので、他の亡者の動きに慣れきっていると少し戸惑うが、それでも対処できないほどではない。
むしろ厄介なのは鬼火と亡霊だ。
空を飛んでいて目立つせいか、こいつらはユニに向かっていくことが多い。
飛行速度はユニの方が早いので追いつかれることはないが、精霊筒を温存しておきたい都合上ユニは鬼火や亡霊に手を出せない。
魔法も極力温存したいので、結果的に地上に降りてクランヴェルに任せるか、聖水を振りかけた俺の武器で対処するしかない。
ここら辺は何とか考えんといかんかな、と思いつつ、2時間程度で一度引き上げることにした。
-2-
「おう、戻ったか」
「「「お疲れ様です」」」
急ごしらえの拠点に戻ると、ホレス高司祭他4人が待っていた。
「どんな具合だった?」
早速ホレス高司祭が尋ねてきたので、武器を外しながら答える。
「鬼火と亡霊が1割ずつ、残りは骸骨だな。あと食屍鬼が3匹ほど」
「ふむ、やはりそんな割合か。屍戦鬼や魔亡霊はいなかった、と」
「はい。上から見た感じでは見つかりませんでした」
「なるほどな、なら数にだけ注意すればいいか」
ホレス高司祭が頷いたのを見て、疑問に思ったことを尋ねてみた。
「ただ、数がかなり少なかった。骸骨だけでも30は倒してない筈だ。もっとわらわらいるもんかと思ったが」
「そうなのか?……まぁ日中は亡者の活動も鈍いから、ないわけではないが……ま、俺らも実際に見てみよう」
ホレス高司祭がそう言って立ち上がると、教会4人組も続いて立ち上がった。
「じゃあ俺たちも出てくる。休憩中はなにも寄ってこなかったが、一応見張りは立てておいた方がいい」
「了解。気を付けてな」
ホレス高司祭一行を見送ると、銘々がよっこらせと腰を下ろした。
これからしばしの休憩だが、ちょっとやることがある。
「ユニ、持ってきた食糧を使って軽めのスープでも作ってくれ。教会面子も含めて1人一杯ずつくらいでいい」
「わかりました」
イツキとヴァルツは周囲の警戒な。まぁ休みながら、何か寄ってきたら知らせてくれりゃいい」
「おっけ」
「がる」
「私は何をする?」
「クランヴェルはちょっと俺を手伝え。追加で作るもんがある」
「なにを作るんだ?」
「武器っつーか装備をちょっとな。まぁ大したもんじゃねぇよ」
クランヴェルにそう答えると、ちょいちょいと魔法を使って思いついたものを作ることにした。
1つはユニ用の武器。さすがに鬼火ごときでイチイチ俺やクランヴェルを頼るのは効率が悪い。精霊筒はあるが、もうちっと気軽に使える武器があったほうがいいだろう。
てなわけで、樹の魔法を使ってY字の棒を作り出し、そこに目の粗い布を貼り付ける。まぁ、非力なユニでも振り回せる、少し大きめのハエタタキみたいなもんだ。
布の部分を聖水で濡らせば、繰り返し使える対鬼火用に武器になるはずだ。
2つめは俺とクランヴェルが使う、軽アイゼンのような後付け式のスパイク。俺の靴は鉄板仕込みだが、靴底がまっ平らでね。小さくともトゲがついていれば骨を踏み砕くのも少しは楽になるだろうと思ったわけだ。
土魔法を使って石製の4本爪のスパイクを作り、革紐で靴底に括り付ければ完成だ。
3つめと言えるかは疑問だが、最後は俺の戦槌の槌の部分に手拭いをぐるぐると巻きつける。ここも聖水で濡らせば、俺でも魔法を使わずに鬼火や亡霊を相手にできる。
武器に直接聖水を振りかけたんじゃ効率が悪くていけねぇ。骸骨や屍食鬼を相手にするときは、尖っている烏口を使えばいい。
「特に問題はないか?」
スパイクを靴に括り付けて歩き回っているクランヴェルに声をかける。
「ああ、歩き回るのに特に問題はない。あとは実際に使ってみてだな」
「気になることがあったら言ってくれ。都度修正する」
「分かった」
ユニのハエタタキならぬ鬼火叩きはまぁ、問題なかろう。
やることをやって、ユニが作ってくれたスープをちびちびとやりながら待っていると、やがて教会面子が戻ってきた。
それぞれの表情を見るに苦戦はしなかったものと思われる。
「お疲れさん。温かいスープがあるから一息入れてくれ」
「お、すまんな」
ホレス高司祭が顔をほころばせると、ユニからカップを受け取って腰を下ろした。
残りの4人もそれぞれカップを受け取って腰を下ろす。
「あ、これ美味しい」
猫獣人のミーチャがカップに口をつけて呟いた。
「温かいスープが染みますな」
初老の域に差し掛かるラルゴーがほぅとため息をつく。
「こういう場所では普通は携帯食ですが、温かいスープは嬉しいですね」
鎖帷子のエインが笑顔を浮かべる。
「初めて食べる味じゃが、これは美味いのぅ」
ドワーフのドッズが目を細めた。
「香辛料の使い方が独特だな。……もしかしてこれは?」
「はい。魔界風の味付けです。材料は市場で買った物を使いました」
ホレス高司祭の疑問にユニが答えた。
「なかなか食う機会はないだろ?」
「そうだな。初めて食べたがこれもこれで美味い」
全員がスープを飲みほしたのを見て、ホレス高司祭に声をかけた。
「で、専門家から見て今回はどうよ?このまま墓地全域を掃討する感じか?」
「いや、どうも事情が変わったようだ。徘徊している亡者だが、聞いていたのより明らかに弱い上に数が日中であることを差し引いても少なすぎる」
「……というと?」
「まず戦ってみた亡者の強さだが、あのレベルは平均をやや下回る。この時点ですでに話が違うのだが、まぁ相手の強さなんてものは戦った当人次第でどうとでも補正されるからこれはそれほど大きな問題ではない。気になったのはその数だ。
ディーゴたちが散々暴れたにもかかわらず、俺達が出ても亡者の数は少ないままだった。
死霊術師がいるならば何らかの対応をとってくるはずだが、それがないってことは、死霊術師は存在しない可能性が高い。
そうなると、先ほど言った亡者の強さと合わせて、これは自然発生の亡者と想定した方がしっくりくる」
「しかし、自然発生では2桁が精々とかいってなかったか?」
前に聞いた話を思い出しながら尋ねる。
「まぁ確かにそうなんだが、前例がないこともない。稀なケースではあるがな。
そして都合の悪いことに、大量にいるはずの亡者が予想よりはるかに少ない場合、厄介なものが生まれているか、生まれかけていると見ていいだろう」
「厄介なものが……生まれる?亡者は死者が動き出すだけじゃねーのか?」
イキモノみたいに進化とか成長とかするのか?死んでるのに?
「動く亡者はわずかではあるが周辺に瘴気をまき散らし、濃度の高い瘴気は亡者を変質させる。
亡者の数が増えれば瘴気の濃度は上がり、その結果、さらに強い亡者が出来上がるという寸法だ。
そして強い亡者ができる時は、周辺の弱い亡者をとりこんで血肉にする。
亡者の数が少ないのは、恐らく生まれかけかすでに生まれた何かにとりこまれたせいだろう」
「……ってーと、雑魚を無視してでも早めに動いた方がいいってことか」
「そうなる」
「目指すのは廃教会か?」
「いや、まずは墓地の中心地を目指す。そこが一番瘴気が溜まりやすい。そこがハズレなら廃教会だ」
「了解。ならそっちが一息付け次第全員で出張ろう。俺らの方はいつでも出られる」
「よし。お前らも聞いたな?武具の確認とポーション、聖水の補充を済ませたら全員で出るぞ」
「「「「わかりました(了解じゃ)」」」」
ホレス高司祭の言葉に教会の4人が頷いてみせた。
そんな感じで始まった廃教会の大掃除……もとい、亡者退治だが、始まりは静かなものだった。
生い茂る雑草をイツキにどかしてもらいつつ、上空のユニの誘導に従って歩みを進めると、やがて3体の骸骨が視界に入った。
泥に汚れた革鎧らしきものの残骸を身につけてはいるが、防具の体をなしていない。
「まずは俺とヴァルツでいく。ちと試したいこともあるから、他は様子見で頼む」
3人にそう言い残して骸骨の所に向かう。
持っているのは盾ではなく戦槌だ。
20トエムくらいまで近づくと、骸骨もこちらを認識したらしく、こちらに向けてぎこちない動作で歩いてきた。
屍人に比べて動きが早いというが、それでも人間よりはやや遅い。おまけに3体とも手ぶらで武器も持っていない。
「まずは、ひとつ!」
一気に距離を詰め、大上段に振りかぶった戦槌を一気に振り下ろす。
ガシャゴシャン、という微妙に湿った音がして骸骨は文字通り『粉砕』された。
残り2体の骸骨が向かってきたので、下がって距離をとりつつ先ほどの手ごたえを思い返す。
長年土に埋まっていたせいか、骨もかなり脆くなっている気がする。
しぶといとは聞いていたが、弱点さえつけば緑小鬼や犬鬼以下の雑魚だろう。
これで平均よりやや上の強さというのが疑問に思える。
しかしなんだ、こりゃ全力を出す必要はねーな。
そう判断すると、ヴァルツに指示を飛ばす。
「本気を出す必要はねぇ。体力温存で手の抜き加減を覚えろ」
ヴァルツから承知した旨の思念が返ってくる。若干、苦笑い気味な雰囲気が混じっていたのは気のせいか。
その後は骸骨1体ずつを相手に幾つか試させてもらうことにした。
どの程度の勢いで殴れば骨が外れるのか、また、どの程度の力なら骨を砕くことができるのか。
止めを刺さなかった骸骨はどのくらいで復活するのか。
初めて戦う相手なうえに数も多いとすれば、どれだけ体力を使わずに相手を倒せるかの見極めが重要になってくる。
……まぁ、傍から見れば骸骨を相手に遊んでいるようにしか見えないのだろうが。
「ディーゴ!なにをやってる!さっさと倒してしまえ!!」
案の定、後ろのクランヴェルから注文がついた。
「少し黙ってろ!今は色々調べてる最中だ!」
掴みかかってきた骸骨を半身になって避けつつ、脛の骨を蹴飛ばす。
あっけなく骨が外れ、支えを失った骸骨は横倒しになりばらばらと骨が散らばった。
数秒経つと蹴飛ばした骨が戻ってきて、再び人間の形を取りぎこちない様子で立ち上がる。
……ふむ、こういう相手か。ならばもっと手は抜けるな。
2~3トエムくらいの丈夫な棒を作って、まとめて薙ぎ払うのも一つの手か?
そんなことを考えながらヴァルツを見ると、そっちは叩き落とした頭蓋骨に前足を乗せて何かを考えているようだった。
「ヴァルツ、どした?」
〈うむ、頭か腰の骨を砕けばいいと聞いたが、これが意外と難しくてだな……〉
……ああ、なるほど。
少し困ったようなヴァルツの答に、思いついて納得する。
土に埋まってて多少脆くなってるとはいえ、頭蓋骨も腰骨も基本的に結構丈夫だ。
それに形状的にも嚙み砕きやすいわけでもないし。
まぁ頑張ればできないことはないようだが、効率は良くなさそうだ。
「なら骨を外すことに専念してくれ。砕くのは俺がやろう」
〈頼もう〉
そう言ってヴァルツが前足をどけた頭蓋骨に、さくりと戦槌の穂先を突き刺す。
続いて俺が相手をしていたもう1体の骸骨にヴァルツが飛び掛かり、腰骨を弾き飛ばした。
崩れる骸骨には目もくれず、転がった腰骨を踏みつぶせば、とりあえず目の前の3体は終わった。
「待たせたな。今ので大体感覚は掴んだ。次からはサクサク行くぞ」
3人の所に戻り、亡者退治を再開する。
ユニが上空から索敵、イツキが地均し、俺とヴァルツとクランヴェルが攻撃という形で墓地の探索を続けていく。
遭遇するのは骸骨が8割、亡霊と鬼火が1割ずつで、稀に食屍鬼と言ったところか。
今のところそれ以外には出くわしていない。
鈍足ぞろいの亡者の中で食屍鬼だけは動きが早いので、他の亡者の動きに慣れきっていると少し戸惑うが、それでも対処できないほどではない。
むしろ厄介なのは鬼火と亡霊だ。
空を飛んでいて目立つせいか、こいつらはユニに向かっていくことが多い。
飛行速度はユニの方が早いので追いつかれることはないが、精霊筒を温存しておきたい都合上ユニは鬼火や亡霊に手を出せない。
魔法も極力温存したいので、結果的に地上に降りてクランヴェルに任せるか、聖水を振りかけた俺の武器で対処するしかない。
ここら辺は何とか考えんといかんかな、と思いつつ、2時間程度で一度引き上げることにした。
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「おう、戻ったか」
「「「お疲れ様です」」」
急ごしらえの拠点に戻ると、ホレス高司祭他4人が待っていた。
「どんな具合だった?」
早速ホレス高司祭が尋ねてきたので、武器を外しながら答える。
「鬼火と亡霊が1割ずつ、残りは骸骨だな。あと食屍鬼が3匹ほど」
「ふむ、やはりそんな割合か。屍戦鬼や魔亡霊はいなかった、と」
「はい。上から見た感じでは見つかりませんでした」
「なるほどな、なら数にだけ注意すればいいか」
ホレス高司祭が頷いたのを見て、疑問に思ったことを尋ねてみた。
「ただ、数がかなり少なかった。骸骨だけでも30は倒してない筈だ。もっとわらわらいるもんかと思ったが」
「そうなのか?……まぁ日中は亡者の活動も鈍いから、ないわけではないが……ま、俺らも実際に見てみよう」
ホレス高司祭がそう言って立ち上がると、教会4人組も続いて立ち上がった。
「じゃあ俺たちも出てくる。休憩中はなにも寄ってこなかったが、一応見張りは立てておいた方がいい」
「了解。気を付けてな」
ホレス高司祭一行を見送ると、銘々がよっこらせと腰を下ろした。
これからしばしの休憩だが、ちょっとやることがある。
「ユニ、持ってきた食糧を使って軽めのスープでも作ってくれ。教会面子も含めて1人一杯ずつくらいでいい」
「わかりました」
イツキとヴァルツは周囲の警戒な。まぁ休みながら、何か寄ってきたら知らせてくれりゃいい」
「おっけ」
「がる」
「私は何をする?」
「クランヴェルはちょっと俺を手伝え。追加で作るもんがある」
「なにを作るんだ?」
「武器っつーか装備をちょっとな。まぁ大したもんじゃねぇよ」
クランヴェルにそう答えると、ちょいちょいと魔法を使って思いついたものを作ることにした。
1つはユニ用の武器。さすがに鬼火ごときでイチイチ俺やクランヴェルを頼るのは効率が悪い。精霊筒はあるが、もうちっと気軽に使える武器があったほうがいいだろう。
てなわけで、樹の魔法を使ってY字の棒を作り出し、そこに目の粗い布を貼り付ける。まぁ、非力なユニでも振り回せる、少し大きめのハエタタキみたいなもんだ。
布の部分を聖水で濡らせば、繰り返し使える対鬼火用に武器になるはずだ。
2つめは俺とクランヴェルが使う、軽アイゼンのような後付け式のスパイク。俺の靴は鉄板仕込みだが、靴底がまっ平らでね。小さくともトゲがついていれば骨を踏み砕くのも少しは楽になるだろうと思ったわけだ。
土魔法を使って石製の4本爪のスパイクを作り、革紐で靴底に括り付ければ完成だ。
3つめと言えるかは疑問だが、最後は俺の戦槌の槌の部分に手拭いをぐるぐると巻きつける。ここも聖水で濡らせば、俺でも魔法を使わずに鬼火や亡霊を相手にできる。
武器に直接聖水を振りかけたんじゃ効率が悪くていけねぇ。骸骨や屍食鬼を相手にするときは、尖っている烏口を使えばいい。
「特に問題はないか?」
スパイクを靴に括り付けて歩き回っているクランヴェルに声をかける。
「ああ、歩き回るのに特に問題はない。あとは実際に使ってみてだな」
「気になることがあったら言ってくれ。都度修正する」
「分かった」
ユニのハエタタキならぬ鬼火叩きはまぁ、問題なかろう。
やることをやって、ユニが作ってくれたスープをちびちびとやりながら待っていると、やがて教会面子が戻ってきた。
それぞれの表情を見るに苦戦はしなかったものと思われる。
「お疲れさん。温かいスープがあるから一息入れてくれ」
「お、すまんな」
ホレス高司祭が顔をほころばせると、ユニからカップを受け取って腰を下ろした。
残りの4人もそれぞれカップを受け取って腰を下ろす。
「あ、これ美味しい」
猫獣人のミーチャがカップに口をつけて呟いた。
「温かいスープが染みますな」
初老の域に差し掛かるラルゴーがほぅとため息をつく。
「こういう場所では普通は携帯食ですが、温かいスープは嬉しいですね」
鎖帷子のエインが笑顔を浮かべる。
「初めて食べる味じゃが、これは美味いのぅ」
ドワーフのドッズが目を細めた。
「香辛料の使い方が独特だな。……もしかしてこれは?」
「はい。魔界風の味付けです。材料は市場で買った物を使いました」
ホレス高司祭の疑問にユニが答えた。
「なかなか食う機会はないだろ?」
「そうだな。初めて食べたがこれもこれで美味い」
全員がスープを飲みほしたのを見て、ホレス高司祭に声をかけた。
「で、専門家から見て今回はどうよ?このまま墓地全域を掃討する感じか?」
「いや、どうも事情が変わったようだ。徘徊している亡者だが、聞いていたのより明らかに弱い上に数が日中であることを差し引いても少なすぎる」
「……というと?」
「まず戦ってみた亡者の強さだが、あのレベルは平均をやや下回る。この時点ですでに話が違うのだが、まぁ相手の強さなんてものは戦った当人次第でどうとでも補正されるからこれはそれほど大きな問題ではない。気になったのはその数だ。
ディーゴたちが散々暴れたにもかかわらず、俺達が出ても亡者の数は少ないままだった。
死霊術師がいるならば何らかの対応をとってくるはずだが、それがないってことは、死霊術師は存在しない可能性が高い。
そうなると、先ほど言った亡者の強さと合わせて、これは自然発生の亡者と想定した方がしっくりくる」
「しかし、自然発生では2桁が精々とかいってなかったか?」
前に聞いた話を思い出しながら尋ねる。
「まぁ確かにそうなんだが、前例がないこともない。稀なケースではあるがな。
そして都合の悪いことに、大量にいるはずの亡者が予想よりはるかに少ない場合、厄介なものが生まれているか、生まれかけていると見ていいだろう」
「厄介なものが……生まれる?亡者は死者が動き出すだけじゃねーのか?」
イキモノみたいに進化とか成長とかするのか?死んでるのに?
「動く亡者はわずかではあるが周辺に瘴気をまき散らし、濃度の高い瘴気は亡者を変質させる。
亡者の数が増えれば瘴気の濃度は上がり、その結果、さらに強い亡者が出来上がるという寸法だ。
そして強い亡者ができる時は、周辺の弱い亡者をとりこんで血肉にする。
亡者の数が少ないのは、恐らく生まれかけかすでに生まれた何かにとりこまれたせいだろう」
「……ってーと、雑魚を無視してでも早めに動いた方がいいってことか」
「そうなる」
「目指すのは廃教会か?」
「いや、まずは墓地の中心地を目指す。そこが一番瘴気が溜まりやすい。そこがハズレなら廃教会だ」
「了解。ならそっちが一息付け次第全員で出張ろう。俺らの方はいつでも出られる」
「よし。お前らも聞いたな?武具の確認とポーション、聖水の補充を済ませたら全員で出るぞ」
「「「「わかりました(了解じゃ)」」」」
ホレス高司祭の言葉に教会の4人が頷いてみせた。
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