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第12章
第6話 3教会の代表者
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翌朝、新たにパーティーに加わることになったクランヴェルを3教会巡りに送り出すと、残った俺らは黒虎亭の中庭を借りて装備の確認をすることにした。
武器は割とこまめに見るんだが、盾や鎧といった防具関係はどうしても確認頻度が落ちるのよね。
太陽の光の下で鎧の裏側までじっくり確認する。
金属板にあった幾分の歪みは叩いて直し、丁寧に汚れを拭っているとクランヴェルが戻ってきた。
「なんだ、ここにいたのか」
「おう戻ったか」
首だけ捻じってクランヴェルに答えると、その後ろに見知らぬ3人いることに気が付いた。色や形は違えど祭服っぽい服装と首から下げている聖印のようなアクセサリーで教会関係者か?とアタリをつける。
「そちらの方々は?」
道具類を手早く片付けて立ち上がる。クランヴェルだけなら座ったまま首だけ捻じって済ませるが、他の客がいるならそうはいかん。
流石に失礼だからな。
俺の問にクランヴェルは背筋を伸ばすとこう答えた。
「この街の天、現、冥各教会の代表の方々だ」
いきなり3教会の代表者がやってきた。
まぁいきなり討伐隊を差し向けられるよりは良かったが、お偉いさんが雁首揃えてやってくるあたりにどーも面倒ごとの匂いがする。
好奇心で悪魔を見に来たわけじゃなさそうだ。
ただ1名だけ、なんかキラキラした視線を向けてきているのは気のせいか。
「教会のお歴々がわざわざご足を運んでいただき、ご苦労様です。ディーセンの冒険者で名誉市民のディーゴと申します」
そう言って頭を下げると、3人は揃って意外といった表情を見せた。
「う、うむ。儂はこの街の天の教会で司教を務めておるブライラスという者だ」
一番年かさっぽい白髭の老人が頷いて名乗った。
「私は現の教会の高司祭のバイロンと申します」
次いで小太りの中年男性が名乗る。
「俺は冥の教会の高司祭のホレスだ」
最後はキラキラした目で俺を見ていた痩身の男性だ。
「ブライラス様にバイロン様にホレス様ですね。ただいま椅子を用意いたしますので、どうぞおかけください」
そう言って3人の隣に樹の精霊魔法でそれぞれの椅子を作り上げる。
ついでに円卓も作り、その反対側に俺、ユニ、イツキとクランヴェルの席も作る。
いつの間にか席を外していたユニが、人数分のコップを盆にのせて戻ってくると、それぞれの前に置く。
「お店で分けていただいた葡萄酒の水割りです」
そう言いつつ配り終えると、俺の隣、イツキの反対側に腰を下ろした。
教会のお偉いさん3人とクランヴェルも席に着き、準備は整った。
「さて、なんとなく想像はつきますが、お話があるようですので伺いましょうか」
俺が口火を切ると、3人は顔を見合わせたのちにブライアス司教が口を開いた。
「うむ。先ほどその助祭殿から話は聞いたが……にわかには信じられぬ内容だったのでな、こうして確認にきた。
単刀直入に訊ねるが、そなたたちは『悪魔』といわれる者たちだな?」
そういてじっとこちらを見つめてきた。
「ええ。俺は獣牙族、こちらのユニは淫魔族と魔界で呼ばれている悪魔です。ユニ」
「はい」
ブライアス司教の問いに頷いて答えつつユニに合図を送ると、ユニはその場で変身を解いてみせた。
「むぅ……」
ユニの頭の両脇から生える特徴のある角を見て、3人がわずかに表情を曇らせる。
「ディーセンの名誉市民であると聞いたが?」
「そうです。これがその短剣になります」
取り出した短剣をクランヴェル経由で差し出すと、3人は順番に手に取って短剣を確認する。
「確かに本物の名誉市民の証の短剣だ。これを賜った経緯を聞いても構わぬか?」
「構いませんよ。まぁ品名はぼかさせてもらいますが、要はディーセンの経済に大幅に貢献する特産品を幾つか提案したのが直接の原因ですね。
これはウチの領主様に確認してもらえれば裏付けは取れるはずです」
「なるほど。理解した」
ブライアス司教が頷いて短剣を返してきた。
それから教会の代表者3人から幾つもの質問を受けたが、内容はといえば予想通り、クランヴェルの言ったことの再確認に加えて、身上と思想調査だった。
こちらとしても別に隠したり誤魔化したりすることはほぼないので、質問に対し正直にサクサクと答えていく。
なんか就職で面接を受けてるみたいだよ。
教会側としては俺たちの言い分を100%信じているわけではないが、クランヴェルという帝都の天の大教会の助祭が監視役にいるためまず問題は起こるまいと考えている雰囲気に思えた。
やれやれ、なんとかなりそうだ、と内心で胸をなでおろしかけたときに、現の教会のバイロン高司祭がおや?と思うことを言いだした。
「お二方が人間に害をなすつもりがないことは我々としても十分理解しました。
それに加えて帝都の天の教会の助祭殿がついているなら、間違いが起こることもないでしょう。
しかし、もう一押しが欲しいところですな」
「もう一押し?」
「左様。お二方が人間に害をなす存在でないという、誰が見ても分かるような形でのなんらかの実績があれば、悪魔を亡ぼせと剣を向ける信徒たちも説得できるでしょう」
「ああ……まぁ、確かにそうかもしれませんね」
それを抑えるのがアンタらの仕事じゃね?もしかして大して人望ねーの?とは思ったが、一応話に筋は通っているので頷いて見せる。
向かってくる相手をいちいち捕まえて、こちらの事情を都度話して聞かせるのはさすがに非現実的だ。
「我々3教会の連名であなた方にある依頼をします。それを受けていただくなら、我々教会もあなた方の立場を考慮いたしましょう」
なるほど、交換条件か。ま、妥当といえば妥当だな。ただ言い方が少し嫌らしいのが少し引っかかる。
とはいえ、ここでそれをつついても話が先に進まない。
「内容にもよりますが、その依頼とやらを伺っても?」
「それについては俺が話そう」
そういって口を挟んできたのは、ホレス高司祭だ。
「この街の郊外になるが、打ち捨てられた古い教会と墓地がある。先月あたりからそこで動き回る亡者を見たという報告が届いている。それも結構な数らしい。
幸いその辺りは一般市民が好んで訪れるような場所ではないが、街のすぐ外を亡者がうろうろするのはよろしくない。
そこであんたらには、その亡者たちをなんとかしてもらいたい」
ふむ、廃教会に出没する不死者退治か。
不死者の相手をするのは初めてだが、別に変な依頼という訳でもなさそうだな。冒険者ならまぁ割とよくある依頼じゃないかと思う。
「承知しました。ただその依頼、冒険者の店の猫枕亭か冒険者ギルドを通してもらえませんか?こちらとしても、とっとと冒険者のランクを上げたい事情がありましてね、評価の対象にならない個人間の直接契約は遠慮させてもらっているんですよ」
報酬次第では直接契約をしないでもないですが……と言いかけたとき、ブライアス司教がそれを遮った。
「その必要はない」
どういうことだ?とブライアス司教を見ると、彼は含みのある笑みを浮かべた。
「さきほどバイロン高司祭がおっしゃったが、信徒たちの説得には目に見える形での実績が必要だ。我々から依頼するのではなく、そなたたちが現状を憂いて自発的に不死者の退治を申し出た、ということにすれば……一般の信徒たちにも分かりやすいのではないかな?」
自発的、というところを強調してブライアス司教が説明した。
「人の魂を扱う悪魔であれば不死者の扱いも手馴れていよう。討伐隊を送らないことと引き換えならば、そう悪い取引ではあるまい?」
……ほぅ、そうきやがったか。
つまり依頼はするけど金は出さねー、万が一俺らが不死者の討伐に失敗して妙なことになったら、責任を全部俺らにおっかぶせるつもり、ということか。
それに猫枕亭や冒険者ギルドを通せば依頼料が発生するし、記録にも残る。要はそれすら都合が悪いってわけか。
あと悪魔と死神をごっちゃにすんな。悪魔ったって不死者をまとめてなんとかできるわけじゃねーぞ。
いったいどういう説明をしやがった、と、クランヴェルを見れば、彼もブライアス司教の言葉に意外そうな顔をしている。
他の2人の高司祭に視線を移せば、ホレス高司祭の表情は読めないがバイロン高司祭は満足そうに頷いている。
ふむ、ホレス高司祭はともかくブライアス司教とバイロン高司祭は納得ずくか。
「なるほど、では我々が自発的に教会に奉仕する、という形をとれば、討伐隊の派遣はしない、という認識であってますかね?」
「うむ。まぁ結果次第で討伐隊のことは考えてやろう」
バイロン高司祭がそう答え、あとの2人も含みのありそうな笑みを浮かべる。
それに応えるように、俺もニィッと笑って見せた。
雰囲気的には「おぬしもワルよのう」「いえいえ、お代官様こそ」な絵面だが、実情としてはこっちが一方的にババを引く形だ。
しかも討伐隊を出さないという言質すら寄こさない。
ちょいとこっちを見下しすぎだわな。
俺は笑顔を顔に貼り付かせたまま、思い切り低くドスを効かせた声を紡いだ。
「……人が下手に出てりゃ調子に乗りやがって、司祭服を着たゴロツキどもがナニサマのつもりだ?」
言われた3人は一瞬ぽかんとした顔をして見せたが、意味を理解したのか急に表情が険しくなった。
「我々をゴロツキ呼ばわりするか!」
「おいディーゴ!!」
慌てて声を上げるクランヴェルを無視して、表情を改めると教会の3人を睨みつけた。
「テメェらは討伐隊という刃物ちらつかせてタダ働きさせようとしてくれてるがな、そいつは『痛い目に遭いたくなければ俺の言うことを聞け』っつーゴロツキと同じなんだよ」
「しかし討伐隊を送られて困るのはそっちではないのか?そのような態度ではこちらとしても」
「そこの助祭がなんて言ったか知らねぇが、巨大な勘違いしているようだから訂正してやる」
バイロン高司祭の反論を途中でぶった切り、3人を見下ろすように顎をあげて言葉を続ける。
「俺たちは別に『どうか見逃してください』と助命嘆願をしてるわけじゃねぇぞ。
そんじょそこらの野良悪魔と違って、俺は正式な市民権とちょいと特殊な肩書持ちだ。何も知らずに手を出すと後々面倒なことになるから注意しろよ、とあくまで『助言』のためにその助祭を行かせただけだ。そこんとこキッチリ理解しとけや。
それでもなおそっちが討伐隊を寄こすってんなら、俺らとしても『喜んで』相手してやるよ。なにせ悪魔と教会は天敵同士だからなぁ?」
そう言って自前の大きな牙を見せつけるように、凶悪な笑顔を浮かべて見せる。
「……よかろう。そちらがそういう態度なら我々としても考えがある。神の威光がどういうものか、思い知るといい。
クランヴェルと言ったか、貴様も覚悟しておくことだ」
ブライアス司教がそう吐き捨てて席を立つ。釣られる形でバイロン高司祭が続き、最後にホレス高司祭も席を立った。
「思い通りにならなくて残念だったな。用が済んだらさっさと消えてくれ」
ブライアス司教とバイロン高司祭は怒りの表情を浮かべ、ホレス高司祭はやれやれと言った感じで黒虎亭の中庭から出ていった。
まぁそうなると次に来るのはクランヴェルだわな。予想通り顔を真っ赤にして噛みついてきた。
「ディーゴ!いったいどういうつもりだ!!」
「……どういうつもりも、見ての通りだが?」
「そもそも3つの教会に喧嘩を売るなど、正気の沙汰じゃないぞ!」
「ならお前一人で今から廃教会に行って不死者を討伐してこい。賭けてもいいがあの連中、どれほど理想的な結果を出しても銅貨1枚払う気はねえし失敗して死んでも知らぬ存ぜぬを貫くだろうぜ」
「銭金の問題じゃないだろう!?」
「銭金の問題なんだよ。お前はともかく俺たちは教会の信徒でもなければ下部組織でもねぇし、ましてや奴隷でもねぇ。
人を動かすには相応の報酬を用意するのが当たり前だが、連中は暴力をちらつかせてタダ働きを迫ってきた。突っぱねるのは当然だろう。
ああいう手合いは一度でも要求を呑むと、その後も何だかんだ理由をつけて何度でもタダ働きを要求してくるぞ?
そしてこちらがもう駄目だと音を上げて断れば、今度はそれを逆恨みして敵に回る。
散々こき使われた挙句に結局敵に回るなら、初めからずぱっと切り捨てて敵対した方がマシだ。
それとも、都合のいい駒としてずっとこき使われ続けるか?俺は御免こうむるね」
「それでも幾度かでも要求をのめば、それを考慮してくれる可能性だってあるだろう?」
「断言するがそれはない。その辺りを考慮してくれるような優しい人間なら、初めからタダ働きを強要してきたりはしねぇよ」
クランヴェルの反論をそう切り捨てると、椅子から立ち上がって大きく伸びをした。
まぁ正直に言えば、今回の喧嘩販売はちょっとやっちまったかなという気がしないでもない。なにせ相手が大きすぎる。
とはいえ、相手が無理無体を言ってきた以上は、遅かれ早かれ関係は破綻する。
「この街にはしばらく滞在するつもりでいたが、場合によっちゃ夜逃げ同然に逃げ出すかもしれん。一応準備はしておいてくれ」
イツキとユニにそういうと、脇に置きっぱなしだった鎧の手入れを再開した。
予防線なり対応策なりを考えにゃならんか……。
――――あとがき――――
これで今年の更新は終わりとなります。
次回は来年1月3日の更新を予定しております。
今年1年どうもありがとうございました。
皆様の感想やブクマのおかげでここまで書き続けることができました。
来年も引き続きよろしくお願いいたします。
――――――――――――
翌朝、新たにパーティーに加わることになったクランヴェルを3教会巡りに送り出すと、残った俺らは黒虎亭の中庭を借りて装備の確認をすることにした。
武器は割とこまめに見るんだが、盾や鎧といった防具関係はどうしても確認頻度が落ちるのよね。
太陽の光の下で鎧の裏側までじっくり確認する。
金属板にあった幾分の歪みは叩いて直し、丁寧に汚れを拭っているとクランヴェルが戻ってきた。
「なんだ、ここにいたのか」
「おう戻ったか」
首だけ捻じってクランヴェルに答えると、その後ろに見知らぬ3人いることに気が付いた。色や形は違えど祭服っぽい服装と首から下げている聖印のようなアクセサリーで教会関係者か?とアタリをつける。
「そちらの方々は?」
道具類を手早く片付けて立ち上がる。クランヴェルだけなら座ったまま首だけ捻じって済ませるが、他の客がいるならそうはいかん。
流石に失礼だからな。
俺の問にクランヴェルは背筋を伸ばすとこう答えた。
「この街の天、現、冥各教会の代表の方々だ」
いきなり3教会の代表者がやってきた。
まぁいきなり討伐隊を差し向けられるよりは良かったが、お偉いさんが雁首揃えてやってくるあたりにどーも面倒ごとの匂いがする。
好奇心で悪魔を見に来たわけじゃなさそうだ。
ただ1名だけ、なんかキラキラした視線を向けてきているのは気のせいか。
「教会のお歴々がわざわざご足を運んでいただき、ご苦労様です。ディーセンの冒険者で名誉市民のディーゴと申します」
そう言って頭を下げると、3人は揃って意外といった表情を見せた。
「う、うむ。儂はこの街の天の教会で司教を務めておるブライラスという者だ」
一番年かさっぽい白髭の老人が頷いて名乗った。
「私は現の教会の高司祭のバイロンと申します」
次いで小太りの中年男性が名乗る。
「俺は冥の教会の高司祭のホレスだ」
最後はキラキラした目で俺を見ていた痩身の男性だ。
「ブライラス様にバイロン様にホレス様ですね。ただいま椅子を用意いたしますので、どうぞおかけください」
そう言って3人の隣に樹の精霊魔法でそれぞれの椅子を作り上げる。
ついでに円卓も作り、その反対側に俺、ユニ、イツキとクランヴェルの席も作る。
いつの間にか席を外していたユニが、人数分のコップを盆にのせて戻ってくると、それぞれの前に置く。
「お店で分けていただいた葡萄酒の水割りです」
そう言いつつ配り終えると、俺の隣、イツキの反対側に腰を下ろした。
教会のお偉いさん3人とクランヴェルも席に着き、準備は整った。
「さて、なんとなく想像はつきますが、お話があるようですので伺いましょうか」
俺が口火を切ると、3人は顔を見合わせたのちにブライアス司教が口を開いた。
「うむ。先ほどその助祭殿から話は聞いたが……にわかには信じられぬ内容だったのでな、こうして確認にきた。
単刀直入に訊ねるが、そなたたちは『悪魔』といわれる者たちだな?」
そういてじっとこちらを見つめてきた。
「ええ。俺は獣牙族、こちらのユニは淫魔族と魔界で呼ばれている悪魔です。ユニ」
「はい」
ブライアス司教の問いに頷いて答えつつユニに合図を送ると、ユニはその場で変身を解いてみせた。
「むぅ……」
ユニの頭の両脇から生える特徴のある角を見て、3人がわずかに表情を曇らせる。
「ディーセンの名誉市民であると聞いたが?」
「そうです。これがその短剣になります」
取り出した短剣をクランヴェル経由で差し出すと、3人は順番に手に取って短剣を確認する。
「確かに本物の名誉市民の証の短剣だ。これを賜った経緯を聞いても構わぬか?」
「構いませんよ。まぁ品名はぼかさせてもらいますが、要はディーセンの経済に大幅に貢献する特産品を幾つか提案したのが直接の原因ですね。
これはウチの領主様に確認してもらえれば裏付けは取れるはずです」
「なるほど。理解した」
ブライアス司教が頷いて短剣を返してきた。
それから教会の代表者3人から幾つもの質問を受けたが、内容はといえば予想通り、クランヴェルの言ったことの再確認に加えて、身上と思想調査だった。
こちらとしても別に隠したり誤魔化したりすることはほぼないので、質問に対し正直にサクサクと答えていく。
なんか就職で面接を受けてるみたいだよ。
教会側としては俺たちの言い分を100%信じているわけではないが、クランヴェルという帝都の天の大教会の助祭が監視役にいるためまず問題は起こるまいと考えている雰囲気に思えた。
やれやれ、なんとかなりそうだ、と内心で胸をなでおろしかけたときに、現の教会のバイロン高司祭がおや?と思うことを言いだした。
「お二方が人間に害をなすつもりがないことは我々としても十分理解しました。
それに加えて帝都の天の教会の助祭殿がついているなら、間違いが起こることもないでしょう。
しかし、もう一押しが欲しいところですな」
「もう一押し?」
「左様。お二方が人間に害をなす存在でないという、誰が見ても分かるような形でのなんらかの実績があれば、悪魔を亡ぼせと剣を向ける信徒たちも説得できるでしょう」
「ああ……まぁ、確かにそうかもしれませんね」
それを抑えるのがアンタらの仕事じゃね?もしかして大して人望ねーの?とは思ったが、一応話に筋は通っているので頷いて見せる。
向かってくる相手をいちいち捕まえて、こちらの事情を都度話して聞かせるのはさすがに非現実的だ。
「我々3教会の連名であなた方にある依頼をします。それを受けていただくなら、我々教会もあなた方の立場を考慮いたしましょう」
なるほど、交換条件か。ま、妥当といえば妥当だな。ただ言い方が少し嫌らしいのが少し引っかかる。
とはいえ、ここでそれをつついても話が先に進まない。
「内容にもよりますが、その依頼とやらを伺っても?」
「それについては俺が話そう」
そういって口を挟んできたのは、ホレス高司祭だ。
「この街の郊外になるが、打ち捨てられた古い教会と墓地がある。先月あたりからそこで動き回る亡者を見たという報告が届いている。それも結構な数らしい。
幸いその辺りは一般市民が好んで訪れるような場所ではないが、街のすぐ外を亡者がうろうろするのはよろしくない。
そこであんたらには、その亡者たちをなんとかしてもらいたい」
ふむ、廃教会に出没する不死者退治か。
不死者の相手をするのは初めてだが、別に変な依頼という訳でもなさそうだな。冒険者ならまぁ割とよくある依頼じゃないかと思う。
「承知しました。ただその依頼、冒険者の店の猫枕亭か冒険者ギルドを通してもらえませんか?こちらとしても、とっとと冒険者のランクを上げたい事情がありましてね、評価の対象にならない個人間の直接契約は遠慮させてもらっているんですよ」
報酬次第では直接契約をしないでもないですが……と言いかけたとき、ブライアス司教がそれを遮った。
「その必要はない」
どういうことだ?とブライアス司教を見ると、彼は含みのある笑みを浮かべた。
「さきほどバイロン高司祭がおっしゃったが、信徒たちの説得には目に見える形での実績が必要だ。我々から依頼するのではなく、そなたたちが現状を憂いて自発的に不死者の退治を申し出た、ということにすれば……一般の信徒たちにも分かりやすいのではないかな?」
自発的、というところを強調してブライアス司教が説明した。
「人の魂を扱う悪魔であれば不死者の扱いも手馴れていよう。討伐隊を送らないことと引き換えならば、そう悪い取引ではあるまい?」
……ほぅ、そうきやがったか。
つまり依頼はするけど金は出さねー、万が一俺らが不死者の討伐に失敗して妙なことになったら、責任を全部俺らにおっかぶせるつもり、ということか。
それに猫枕亭や冒険者ギルドを通せば依頼料が発生するし、記録にも残る。要はそれすら都合が悪いってわけか。
あと悪魔と死神をごっちゃにすんな。悪魔ったって不死者をまとめてなんとかできるわけじゃねーぞ。
いったいどういう説明をしやがった、と、クランヴェルを見れば、彼もブライアス司教の言葉に意外そうな顔をしている。
他の2人の高司祭に視線を移せば、ホレス高司祭の表情は読めないがバイロン高司祭は満足そうに頷いている。
ふむ、ホレス高司祭はともかくブライアス司教とバイロン高司祭は納得ずくか。
「なるほど、では我々が自発的に教会に奉仕する、という形をとれば、討伐隊の派遣はしない、という認識であってますかね?」
「うむ。まぁ結果次第で討伐隊のことは考えてやろう」
バイロン高司祭がそう答え、あとの2人も含みのありそうな笑みを浮かべる。
それに応えるように、俺もニィッと笑って見せた。
雰囲気的には「おぬしもワルよのう」「いえいえ、お代官様こそ」な絵面だが、実情としてはこっちが一方的にババを引く形だ。
しかも討伐隊を出さないという言質すら寄こさない。
ちょいとこっちを見下しすぎだわな。
俺は笑顔を顔に貼り付かせたまま、思い切り低くドスを効かせた声を紡いだ。
「……人が下手に出てりゃ調子に乗りやがって、司祭服を着たゴロツキどもがナニサマのつもりだ?」
言われた3人は一瞬ぽかんとした顔をして見せたが、意味を理解したのか急に表情が険しくなった。
「我々をゴロツキ呼ばわりするか!」
「おいディーゴ!!」
慌てて声を上げるクランヴェルを無視して、表情を改めると教会の3人を睨みつけた。
「テメェらは討伐隊という刃物ちらつかせてタダ働きさせようとしてくれてるがな、そいつは『痛い目に遭いたくなければ俺の言うことを聞け』っつーゴロツキと同じなんだよ」
「しかし討伐隊を送られて困るのはそっちではないのか?そのような態度ではこちらとしても」
「そこの助祭がなんて言ったか知らねぇが、巨大な勘違いしているようだから訂正してやる」
バイロン高司祭の反論を途中でぶった切り、3人を見下ろすように顎をあげて言葉を続ける。
「俺たちは別に『どうか見逃してください』と助命嘆願をしてるわけじゃねぇぞ。
そんじょそこらの野良悪魔と違って、俺は正式な市民権とちょいと特殊な肩書持ちだ。何も知らずに手を出すと後々面倒なことになるから注意しろよ、とあくまで『助言』のためにその助祭を行かせただけだ。そこんとこキッチリ理解しとけや。
それでもなおそっちが討伐隊を寄こすってんなら、俺らとしても『喜んで』相手してやるよ。なにせ悪魔と教会は天敵同士だからなぁ?」
そう言って自前の大きな牙を見せつけるように、凶悪な笑顔を浮かべて見せる。
「……よかろう。そちらがそういう態度なら我々としても考えがある。神の威光がどういうものか、思い知るといい。
クランヴェルと言ったか、貴様も覚悟しておくことだ」
ブライアス司教がそう吐き捨てて席を立つ。釣られる形でバイロン高司祭が続き、最後にホレス高司祭も席を立った。
「思い通りにならなくて残念だったな。用が済んだらさっさと消えてくれ」
ブライアス司教とバイロン高司祭は怒りの表情を浮かべ、ホレス高司祭はやれやれと言った感じで黒虎亭の中庭から出ていった。
まぁそうなると次に来るのはクランヴェルだわな。予想通り顔を真っ赤にして噛みついてきた。
「ディーゴ!いったいどういうつもりだ!!」
「……どういうつもりも、見ての通りだが?」
「そもそも3つの教会に喧嘩を売るなど、正気の沙汰じゃないぞ!」
「ならお前一人で今から廃教会に行って不死者を討伐してこい。賭けてもいいがあの連中、どれほど理想的な結果を出しても銅貨1枚払う気はねえし失敗して死んでも知らぬ存ぜぬを貫くだろうぜ」
「銭金の問題じゃないだろう!?」
「銭金の問題なんだよ。お前はともかく俺たちは教会の信徒でもなければ下部組織でもねぇし、ましてや奴隷でもねぇ。
人を動かすには相応の報酬を用意するのが当たり前だが、連中は暴力をちらつかせてタダ働きを迫ってきた。突っぱねるのは当然だろう。
ああいう手合いは一度でも要求を呑むと、その後も何だかんだ理由をつけて何度でもタダ働きを要求してくるぞ?
そしてこちらがもう駄目だと音を上げて断れば、今度はそれを逆恨みして敵に回る。
散々こき使われた挙句に結局敵に回るなら、初めからずぱっと切り捨てて敵対した方がマシだ。
それとも、都合のいい駒としてずっとこき使われ続けるか?俺は御免こうむるね」
「それでも幾度かでも要求をのめば、それを考慮してくれる可能性だってあるだろう?」
「断言するがそれはない。その辺りを考慮してくれるような優しい人間なら、初めからタダ働きを強要してきたりはしねぇよ」
クランヴェルの反論をそう切り捨てると、椅子から立ち上がって大きく伸びをした。
まぁ正直に言えば、今回の喧嘩販売はちょっとやっちまったかなという気がしないでもない。なにせ相手が大きすぎる。
とはいえ、相手が無理無体を言ってきた以上は、遅かれ早かれ関係は破綻する。
「この街にはしばらく滞在するつもりでいたが、場合によっちゃ夜逃げ同然に逃げ出すかもしれん。一応準備はしておいてくれ」
イツキとユニにそういうと、脇に置きっぱなしだった鎧の手入れを再開した。
予防線なり対応策なりを考えにゃならんか……。
――――あとがき――――
これで今年の更新は終わりとなります。
次回は来年1月3日の更新を予定しております。
今年1年どうもありがとうございました。
皆様の感想やブクマのおかげでここまで書き続けることができました。
来年も引き続きよろしくお願いいたします。
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地球にはない自然や生き物に魔物。それにまだ見ぬ珍味達。
冥矢は心を踊らせ好奇心を満たす冒険へと出るのだった。これからずっと側に居ることを約束した女神様と共に……
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~
m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。
書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。
【第七部開始】
召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。
一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。
だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった!
突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか!
魔物に襲われた主人公の運命やいかに!
※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。
※カクヨムにて先行公開中
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