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第11章
第11話 遺跡調査1
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-1-
7番の集落からの依頼で花摘みをした翌日は、例によって休みと決め込んだ。
ウィータの街の中をふらふらと観光するなかでうっかり倉庫街に迷い込んだりもしたが、倉庫街には結構な数の猫が棲みついていて、なかなかに和めたので良しとしよう。
しかもこの時期は子育てシーズンなので、手のひらサイズの毛玉もそこそこいたのは運がよかった。
ちっちゃい毛玉がよちよちぽてぽてと動き回る様は、下手な精神系魔法より破壊力があると思う。
特にユニは人懐こい猫たちに囲まれて、撫でろ遊べ何かくれと催促の嵐で嬉しいような困ったような、そんな顔をしていた。
俺とヴァルツ?警戒されて一匹も寄ってこなかったよ。ただ遠くから眺めるだけ。
イツキに至っては猫はあまり好きじゃないそうで、倉庫街にいる間は俺の中でずっとふて寝をしていた。
猫は木の幹で爪を研ぐから嫌なんだとさ。
そんな感じで英気を養った翌日は、また依頼板の前で適当な依頼を探す。
今回選んだのは、遺跡の調査団の護衛依頼。
この街の魔術師ギルドが依頼元で、近年見つかった古代王国期の遺跡の調査を行うために同行する護衛を探しているそうだ。
ただ遺跡そのものは発見した別の冒険者によって既に探索が済んでおり、今回は学術目的の調査になる。
遺跡を守る魔物との戦いはおそらくないと思うが、代わりに金銀財宝も期待できないというローリスクローリターンの依頼だ。
依頼期間が往復の移動を含めて2週間と長い上に、報酬も決して高いとは言えない。
一般的な冒険者からすればあまり旨味のない依頼だが……俺がこういうの好きなのよね。
科学技術の最先端もそうだが、古代文明というのもまたロマンがあって心惹かれるものなんだよ。
亭主のマルコ剥ぎ取った依頼書を見せて幾つか話を聞くと、依頼元である魔術師ギルドへと足を向けた。
魔術師ギルドの受付で用件を話し、依頼人を呼び出してもらうと、姿を見せたのは50をいくらか過ぎたくらいの白髪交じりの教授然とした男性だった。
「依頼を受けてくれるというのは君たちかね?」
若干不安の混じった顔で尋ねてきたので、若干丁寧に答えることにした。
「まだ本決まり、という訳ではありませんが、幾つか話を聞かせていただければと」
この顔がそんな丁寧な口調で話すのが意外だったのか、ちょっと驚いたような顔をした相手は気を取り直して頷くと、こちらを誘う仕草をした。
「ふむ、それもそうだな。では場所を変えようか」
そうして案内された別室で、相手の男性と俺、ユニ、イツキが席に着く。
「まずは自己紹介からさせてもらおう。私はアーケオル。このギルドで主に古代王国期の遺跡について研究をしておる」
「アーケオルさんですね。では私どもですが、私はディーゴ、こちらはユニ、それと樹精のイツキに使い魔のヴァルツになります。これが私とユニの冒険者手帳です」
「拝見しよう」
俺が差し出した冒険者手帳をアーケオル氏が手に取り、中を確認する。
「ほぅ、ディーゴ殿もユニ殿もディーセンの冒険者か。しかもディーゴ殿は名誉市民で精霊憑き、と。なかなか変わった来歴をお持ちだ」
「こんなナリしてるもんですから、平穏無事な生き方とはなかなか縁がなくてですね」
そう言って笑うと、アーケオル氏もつられて笑顔を見せた。
「なるほど、確かにその姿では納得だ。ウィータには依頼か何かで来られたのかな?」
「依頼と言いますか、見識を広めるのと修行を兼ねた旅の途中ですね。一応ハルバを目指すつもりではいますが、途中で依頼を受けながらのぷらぷら旅です」
「それは羨ましい。私も時間と予算が許すなら、あちこちの遺跡を巡ってみたいものだ」
アーケオル氏はそう言って穏やかに微笑んだ。
「では、依頼について幾つかお聞きしたいのですが」
「ああ、いいとも」
そうして聞いた話をまとめると以下のようになる。
1、目的地の遺跡はこの街から南西に3日ほどの荒野にある。
2、遺跡そのものは2年前に他の冒険者により探索済。
3、遺跡の規模はそれほど大きくなく、調査期間は1週間を予定。
4、調査に向かうのはアーケオル氏を含めた5人。いずれも多少の魔法は使えるが戦闘経験は皆無。
5、万が一財宝の類が発見された際は、所有権は魔術師ギルドにあるものとする。ただし内容に応じて割増の報酬を支払う。
6、依頼期間中の食糧などの必要経費は依頼人持ち。
5の内容が人によっては不満が出るかもしれないが……とアーケオル氏はやや言いにくそうに提案してきたが、俺としては特に異存はないので素直に了承した。
「遺跡の情報はそちらが出どころ、実際に調査を行うのもそちら。私たちはただ後をついていって魔物がいれば退治するだけ。
初めて訪れる遺跡ならともかく、探索済の危険度の低い遺跡で宝が見つかったらそれを寄こせと要求するのはちょっと虫が良すぎかと。
それに調査が目的なら、遺跡で見つかった品も調査対象になるのは当然だと思いますよ」
俺が笑いながら説明すると、アーケオル氏は感心したような表情を浮かべて頭を下げた。
「君が理解のある人物で良かったよ。遺跡調査となるとその辺りで揉めることが多くてね……。もっとも、探索済の遺跡で財宝が新たに見つかることなんて滅多にないのだが」
「まぁ冒険者側の気持ちも分からんこともないです。遺跡調査というと、どうしても一攫千金の夢を見ちまうもんですよ。あやふやな知識しかない素人だと特にね」
「……というと、君たちは過去にも遺跡の調査を手伝ったことが?」
「いえ、実際に手伝ったことはないですけど、その手の話は割と聞いたことがあるもんで」
「なるほど。……では、一応条件のすり合わせは済んだと思うが、依頼を受けていただけるかな?」
アーケオル氏がそう言って期待するような目でこちらを見た。
「ええ。条件に特に不満はないです。こちらこそよろしくお願いします」
そう言って右手を差し出すと、アーケオル氏が頷いて、しっかりとその手を握り返した。
-2-
翌朝、街の南門の前でアーケオル氏の一団と合流し、自己紹介が行われた。
団長のアーケオル氏を始めとし、副団長のオドリオ(40代男性)、記録係のアイヴィー(30代女性)、作業員1のエイベン(20代男性)、作業員2のロイド(20代男性)という陣営でこれに荷車を引く2頭のロバが加わる。
ロバが例によって俺とヴァルツに怯えるので、リンゴの水飴漬けで懐柔して手懐けてからの出発となった。
街を出て2日くらいは麦畑の中を行くので、緊張感も何もない気楽な道行きだ。
歩くだけでは退屈なので、自然と口数も多くなる。
聞けばこの5人は全員同じ部署で、アーケオル氏をトップに近隣の遺跡の調査を行っているそうだ。
ただ調査内容は現代日本とは大きく異なり、遺跡の測量と地図作成がメインで発掘作業はほとんど行わないらしい。
また遺跡の中に残っている遺物も、価値がありそうな物だけ回収してそれ以外は手を付けずにそのまま捨ておくのだという。
理由を尋ねると、この世界ならではの理由が返ってきた。
遺跡などは放置しておくと魔物や野盗の棲み処・拠点となるケースが多い。
また、軍や冒険者の集団が軍事行動をとる場合は、遺跡を拠点にすることもある。
そういったときの為に、遺跡の構造を把握しておく必要があるそうだ。
こちらの管理の手が届きにくいところで、かつ敵対勢力の拠点とされやすそうな所だと、遺跡の破壊を命じられることもあるとか。
考古学的な調査を行うときがあるが、そういうのは大規模な研究施設や工房跡が見つかったときに限られるらしい。
……なるほど、こちらの世界の遺跡調査ってのは、考古学的な面よりも地形調査的な面が強くてかなり実利重視気味なのね。
「ディーゴ君の故郷では違ったのかね?」
俺の表情か雰囲気から察したか、アーケオル氏が尋ねてきた。
「ええ。私の故郷ではもっとこう……古代の人間の生活とか文化とか、そういった方面を調べることに注力してましたね」
「古代人の生活や文化か……そういう事を調べるのも面白そうだな。古代人が実際にどのような暮らしをしていたか、などは確かに興味をそそる」
俺の答にアーケオル氏が頷いて見せる。
「でも、古代人の日常生活を知ったからって、何か意味があるのでしょうか?」
口を挟んできたのは確か……エイベンだったか?20代の若者でヒラの作業員として加わっている。
「それが直接何らかの利益には結びつかないだろうな。だが、古代人の生活を知ることで新たな研究の課題が見つかることもあるだろう。
学問というものはそれぞれの分野が一見独立しているように見えて、実のところはお互いにあれこれと影響しあっているものだ」
エイベンの問いにアーケオル氏が諭すように答える。
「それにまぁ、単純に好奇心というのもあるでしょう。人は基本、知りたがりなイキモノですからね。
例えば、古代人が食べていた料理なんてのはそれだけで興味がわきませんか?」
俺の補足に何人かが「ああ……」と納得したような表情を見せる。
「……ふっふ。人は基本、知りたがりなイキモノ、か。確かにそうかもしれんな」
そんな中、アーケオル氏だけが満足そうな笑みを浮かべていた。
そんな感じの和気藹々とした雰囲気で旅は続く。
護衛依頼なので本来ならば食事は別にすべきだが、依頼人のアーケオル氏の意向で道中の食事も同じものを食べている。
宿に泊まれば食事の後に干し肉や酢漬け野菜を肴にエールをやりつつ、遺跡談議に花を咲かせる。
日中の話から、俺が遺跡関係に興味があって造詣も深そうだと予想したアーケオル氏が誘ってきたせいだ。
俺としては造詣が深いとは思っていないが、現代日本における遺跡調査への考え方がアーケオル氏たちにとっては目新しいらしい。
乞われる形で現代日本の知識をこちらの世界風にアレンジして話すのだが、実はこれはこれでちょっと苦労していたりする。
確かに現代日本における遺跡発掘の手法や考え方はこちらの世界では目新しいのかもしれないが、俺も専門家という訳じゃないんでね。
まぁ幼少期にそういった遺跡・遺物に触れる機会が多く、なんとなくの興味を持って個人でアレコレ本を読み漁った程度なのよ。
そんな過去のやや曖昧な知識を記憶の底からひっぱりだし、相応に独自の解釈を加えながらアーケオル氏たちの質問に答えていった。
ただ流石に人類の起源にまで話が及びそうになった時は、よく分かっていないと話をごまかした。
なにせ神が実在するこの世界、創世神話が現実のものと信じられているところに、地球で言われている進化論をぶち上げるわけにもいかんでしょ。
7番の集落からの依頼で花摘みをした翌日は、例によって休みと決め込んだ。
ウィータの街の中をふらふらと観光するなかでうっかり倉庫街に迷い込んだりもしたが、倉庫街には結構な数の猫が棲みついていて、なかなかに和めたので良しとしよう。
しかもこの時期は子育てシーズンなので、手のひらサイズの毛玉もそこそこいたのは運がよかった。
ちっちゃい毛玉がよちよちぽてぽてと動き回る様は、下手な精神系魔法より破壊力があると思う。
特にユニは人懐こい猫たちに囲まれて、撫でろ遊べ何かくれと催促の嵐で嬉しいような困ったような、そんな顔をしていた。
俺とヴァルツ?警戒されて一匹も寄ってこなかったよ。ただ遠くから眺めるだけ。
イツキに至っては猫はあまり好きじゃないそうで、倉庫街にいる間は俺の中でずっとふて寝をしていた。
猫は木の幹で爪を研ぐから嫌なんだとさ。
そんな感じで英気を養った翌日は、また依頼板の前で適当な依頼を探す。
今回選んだのは、遺跡の調査団の護衛依頼。
この街の魔術師ギルドが依頼元で、近年見つかった古代王国期の遺跡の調査を行うために同行する護衛を探しているそうだ。
ただ遺跡そのものは発見した別の冒険者によって既に探索が済んでおり、今回は学術目的の調査になる。
遺跡を守る魔物との戦いはおそらくないと思うが、代わりに金銀財宝も期待できないというローリスクローリターンの依頼だ。
依頼期間が往復の移動を含めて2週間と長い上に、報酬も決して高いとは言えない。
一般的な冒険者からすればあまり旨味のない依頼だが……俺がこういうの好きなのよね。
科学技術の最先端もそうだが、古代文明というのもまたロマンがあって心惹かれるものなんだよ。
亭主のマルコ剥ぎ取った依頼書を見せて幾つか話を聞くと、依頼元である魔術師ギルドへと足を向けた。
魔術師ギルドの受付で用件を話し、依頼人を呼び出してもらうと、姿を見せたのは50をいくらか過ぎたくらいの白髪交じりの教授然とした男性だった。
「依頼を受けてくれるというのは君たちかね?」
若干不安の混じった顔で尋ねてきたので、若干丁寧に答えることにした。
「まだ本決まり、という訳ではありませんが、幾つか話を聞かせていただければと」
この顔がそんな丁寧な口調で話すのが意外だったのか、ちょっと驚いたような顔をした相手は気を取り直して頷くと、こちらを誘う仕草をした。
「ふむ、それもそうだな。では場所を変えようか」
そうして案内された別室で、相手の男性と俺、ユニ、イツキが席に着く。
「まずは自己紹介からさせてもらおう。私はアーケオル。このギルドで主に古代王国期の遺跡について研究をしておる」
「アーケオルさんですね。では私どもですが、私はディーゴ、こちらはユニ、それと樹精のイツキに使い魔のヴァルツになります。これが私とユニの冒険者手帳です」
「拝見しよう」
俺が差し出した冒険者手帳をアーケオル氏が手に取り、中を確認する。
「ほぅ、ディーゴ殿もユニ殿もディーセンの冒険者か。しかもディーゴ殿は名誉市民で精霊憑き、と。なかなか変わった来歴をお持ちだ」
「こんなナリしてるもんですから、平穏無事な生き方とはなかなか縁がなくてですね」
そう言って笑うと、アーケオル氏もつられて笑顔を見せた。
「なるほど、確かにその姿では納得だ。ウィータには依頼か何かで来られたのかな?」
「依頼と言いますか、見識を広めるのと修行を兼ねた旅の途中ですね。一応ハルバを目指すつもりではいますが、途中で依頼を受けながらのぷらぷら旅です」
「それは羨ましい。私も時間と予算が許すなら、あちこちの遺跡を巡ってみたいものだ」
アーケオル氏はそう言って穏やかに微笑んだ。
「では、依頼について幾つかお聞きしたいのですが」
「ああ、いいとも」
そうして聞いた話をまとめると以下のようになる。
1、目的地の遺跡はこの街から南西に3日ほどの荒野にある。
2、遺跡そのものは2年前に他の冒険者により探索済。
3、遺跡の規模はそれほど大きくなく、調査期間は1週間を予定。
4、調査に向かうのはアーケオル氏を含めた5人。いずれも多少の魔法は使えるが戦闘経験は皆無。
5、万が一財宝の類が発見された際は、所有権は魔術師ギルドにあるものとする。ただし内容に応じて割増の報酬を支払う。
6、依頼期間中の食糧などの必要経費は依頼人持ち。
5の内容が人によっては不満が出るかもしれないが……とアーケオル氏はやや言いにくそうに提案してきたが、俺としては特に異存はないので素直に了承した。
「遺跡の情報はそちらが出どころ、実際に調査を行うのもそちら。私たちはただ後をついていって魔物がいれば退治するだけ。
初めて訪れる遺跡ならともかく、探索済の危険度の低い遺跡で宝が見つかったらそれを寄こせと要求するのはちょっと虫が良すぎかと。
それに調査が目的なら、遺跡で見つかった品も調査対象になるのは当然だと思いますよ」
俺が笑いながら説明すると、アーケオル氏は感心したような表情を浮かべて頭を下げた。
「君が理解のある人物で良かったよ。遺跡調査となるとその辺りで揉めることが多くてね……。もっとも、探索済の遺跡で財宝が新たに見つかることなんて滅多にないのだが」
「まぁ冒険者側の気持ちも分からんこともないです。遺跡調査というと、どうしても一攫千金の夢を見ちまうもんですよ。あやふやな知識しかない素人だと特にね」
「……というと、君たちは過去にも遺跡の調査を手伝ったことが?」
「いえ、実際に手伝ったことはないですけど、その手の話は割と聞いたことがあるもんで」
「なるほど。……では、一応条件のすり合わせは済んだと思うが、依頼を受けていただけるかな?」
アーケオル氏がそう言って期待するような目でこちらを見た。
「ええ。条件に特に不満はないです。こちらこそよろしくお願いします」
そう言って右手を差し出すと、アーケオル氏が頷いて、しっかりとその手を握り返した。
-2-
翌朝、街の南門の前でアーケオル氏の一団と合流し、自己紹介が行われた。
団長のアーケオル氏を始めとし、副団長のオドリオ(40代男性)、記録係のアイヴィー(30代女性)、作業員1のエイベン(20代男性)、作業員2のロイド(20代男性)という陣営でこれに荷車を引く2頭のロバが加わる。
ロバが例によって俺とヴァルツに怯えるので、リンゴの水飴漬けで懐柔して手懐けてからの出発となった。
街を出て2日くらいは麦畑の中を行くので、緊張感も何もない気楽な道行きだ。
歩くだけでは退屈なので、自然と口数も多くなる。
聞けばこの5人は全員同じ部署で、アーケオル氏をトップに近隣の遺跡の調査を行っているそうだ。
ただ調査内容は現代日本とは大きく異なり、遺跡の測量と地図作成がメインで発掘作業はほとんど行わないらしい。
また遺跡の中に残っている遺物も、価値がありそうな物だけ回収してそれ以外は手を付けずにそのまま捨ておくのだという。
理由を尋ねると、この世界ならではの理由が返ってきた。
遺跡などは放置しておくと魔物や野盗の棲み処・拠点となるケースが多い。
また、軍や冒険者の集団が軍事行動をとる場合は、遺跡を拠点にすることもある。
そういったときの為に、遺跡の構造を把握しておく必要があるそうだ。
こちらの管理の手が届きにくいところで、かつ敵対勢力の拠点とされやすそうな所だと、遺跡の破壊を命じられることもあるとか。
考古学的な調査を行うときがあるが、そういうのは大規模な研究施設や工房跡が見つかったときに限られるらしい。
……なるほど、こちらの世界の遺跡調査ってのは、考古学的な面よりも地形調査的な面が強くてかなり実利重視気味なのね。
「ディーゴ君の故郷では違ったのかね?」
俺の表情か雰囲気から察したか、アーケオル氏が尋ねてきた。
「ええ。私の故郷ではもっとこう……古代の人間の生活とか文化とか、そういった方面を調べることに注力してましたね」
「古代人の生活や文化か……そういう事を調べるのも面白そうだな。古代人が実際にどのような暮らしをしていたか、などは確かに興味をそそる」
俺の答にアーケオル氏が頷いて見せる。
「でも、古代人の日常生活を知ったからって、何か意味があるのでしょうか?」
口を挟んできたのは確か……エイベンだったか?20代の若者でヒラの作業員として加わっている。
「それが直接何らかの利益には結びつかないだろうな。だが、古代人の生活を知ることで新たな研究の課題が見つかることもあるだろう。
学問というものはそれぞれの分野が一見独立しているように見えて、実のところはお互いにあれこれと影響しあっているものだ」
エイベンの問いにアーケオル氏が諭すように答える。
「それにまぁ、単純に好奇心というのもあるでしょう。人は基本、知りたがりなイキモノですからね。
例えば、古代人が食べていた料理なんてのはそれだけで興味がわきませんか?」
俺の補足に何人かが「ああ……」と納得したような表情を見せる。
「……ふっふ。人は基本、知りたがりなイキモノ、か。確かにそうかもしれんな」
そんな中、アーケオル氏だけが満足そうな笑みを浮かべていた。
そんな感じの和気藹々とした雰囲気で旅は続く。
護衛依頼なので本来ならば食事は別にすべきだが、依頼人のアーケオル氏の意向で道中の食事も同じものを食べている。
宿に泊まれば食事の後に干し肉や酢漬け野菜を肴にエールをやりつつ、遺跡談議に花を咲かせる。
日中の話から、俺が遺跡関係に興味があって造詣も深そうだと予想したアーケオル氏が誘ってきたせいだ。
俺としては造詣が深いとは思っていないが、現代日本における遺跡調査への考え方がアーケオル氏たちにとっては目新しいらしい。
乞われる形で現代日本の知識をこちらの世界風にアレンジして話すのだが、実はこれはこれでちょっと苦労していたりする。
確かに現代日本における遺跡発掘の手法や考え方はこちらの世界では目新しいのかもしれないが、俺も専門家という訳じゃないんでね。
まぁ幼少期にそういった遺跡・遺物に触れる機会が多く、なんとなくの興味を持って個人でアレコレ本を読み漁った程度なのよ。
そんな過去のやや曖昧な知識を記憶の底からひっぱりだし、相応に独自の解釈を加えながらアーケオル氏たちの質問に答えていった。
ただ流石に人類の起源にまで話が及びそうになった時は、よく分かっていないと話をごまかした。
なにせ神が実在するこの世界、創世神話が現実のものと信じられているところに、地球で言われている進化論をぶち上げるわけにもいかんでしょ。
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