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第10章
第15話 街を後にする前に2
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―――前回までのあらすじ――――
追放旅に出る前に、新物産を3つ(カワナガラス店1、領主2)こしらえることになった主人公。
とりあえず2つはなんとかなった。残るノルマはあと1つ。
―――――――――――――――
-1-
今日も一日、新物産のネタ思案の日。
今日のうちに試作まで終えれば理想だが、最悪はモノが決まればそれでいいと思っている。
今のところ領主様のところに行くのは3日後を予定しているからな。
……ああ、そうだ。事前にアポを取っとかなきゃいかんか。
新物産を2つ提案するとなると半日くらいは潰れそうだし、他にもいくつか確認というか聞きたいこともある。
散歩の途中にでも寄らせてもらおう。
というわけで、朝食を済ませるとさっそく街に繰り出すことにした。
上着をひっかけて商店街の方に足を向けると、春の大市を来週に控えていることもあっていつもより賑わっているような気がした。
考えてみれば大市の最中は街中の宿泊施設がパンクする。
目端の利く者は自宅の一室を臨時の宿泊施設として提供して小遣い稼ぎをするそうで、それに向けてスペース確保のために不用品を売りに出したりしている。
家の前に敷物を広げて品物を並べ、子供やおかみさんが店番をしているのがそうだ。
不用品の処分なので値段は総じて安いが、基本的に中古品ばかりなうえくたびれているのがほとんどで、店に並んでいる品物よりも質は落ちる。
だが『安かろう悪かろう』な品でも一定の需要はあるし、極々まれだが掘り出し物もある(という噂がある)ので意外と侮れない。ような気がする。
そんな感じで日常とは微妙に品揃えが異なる通りを歩いていると、一つの露店に目が留まった。
まぁ衣装箱とか古着とか食器セットといった日用品ばかりが売られている中で、ぽつんと鎧が置いてある露店があったら目立つわな。
露店に近づいて品揃えを見ると、鎧の他に長剣、鉄兜、鉄で補強された手袋とブーツという、まぁいわゆる冒険者の装備一揃えを売っているようだ。
あとは本が何冊か。
店番をしているのは10歳くらいの子供で、さっきから俺のことを口を半開きにして凝視している。
「ちょっと見せてもらっていいか?」
売っている装備類が欲しいわけではなかったが、置いてある本がちょっと気になったので露店の前にしゃがみ込んで声をかけてみた。
すると子供は我に返ったように何度も頷いてみせた。
装備の類はなかなかしっかりした作りのようだが、サイズ的に俺に合わないので軽く流す。
そもそも先月の頭に新しい装備を作ったばかりだし、売っている装備も別に魔法の品という訳でもなさそうだし。
次いで、並んでいる本の1冊を手に取って中身を確認すると、どうやらこれは魔物図鑑の写本らしい。
全体的に手垢で汚れ、幾つもの書き込みがある本は相当使い込んでいる印象を受けた。
「……なぁ、おじさん?は冒険者なのか?」
中身を確認している俺に店番の子供が声をかけてきたので、本から視線をあげて子供を見る。
「ああ、その通りだ。よく分かったな」
にかっと笑いながら子供に答えると、子供もつられて笑顔を浮かべた。
「だっておじさん強そうじゃん。冒険者ならランクはいくつなの?」
「実はまだランク5なんだよ。去年に冒険者を始めたばかりでな」
「ふぅん、俺のとーちゃんも冒険者だったんだぜ。ランクは……確か4とか言ってたな」
「そいつは中々すげぇな。というと、ここに並んでるのはとーちゃんのお古か?」
俺がそう尋ねると、子供はちょっと表情を曇らせた。
「うん……でもとーちゃん、冬に死んじゃったんだ。ハヤリヤマイ?っていうのでさ。
本当なら俺もかーちゃんも、とーちゃんの物を取っておきたかったけど、使えもしない物を置いといても、って」
「そうか、そいつは悪いこと聞いたな」
ランク4の冒険者でも流行り病であっさり死ぬのか。
そう言うのを聞いちまうとどうもな……魔物図鑑は持ってないし、値段次第でお布施代わりに買ってやるのもいいか。
割と昔に写された本っぽいが、書き込みが多いってことはそれだけ情報の修正がされているってことだ。全く使えないことはないだろう。
そんなことを考えて魔物図鑑を脇に置き、次の本に手を伸ばす。
これは……本というよりとーちゃんの冒険メモだな。周辺の街や村の規模や特徴とか、地域に生息する魔物や薬草などが少しクセのある文字で書かれている。
中身は少しばかり整理する必要があるが、俺がまだ行ったことのない土地のことも書かれているようだ。
ある意味、とーちゃん冒険者が培ったノウハウが詰まった一冊だな。
これもまた脇に置き、残りの1冊を手に取る。これもまた簡易な装丁の写本だな。紙の質もあまりいいとは言えない。
さてこれは何が書かれているんだ、と開いてみたが…………まっっったく読めやしねぇ。どこの言葉よ?
「なぁ、この本についてとーちゃん何か言ってなかったか?」
子供に本を見せながら尋ねる。
「その本?それはとーちゃんの遺品を整理してるときに出てきたんだ。だから俺もかーちゃんも何も知らないんだ。俺は少し読み書きができるけどその本は読めなかったし、かーちゃんはもとから文字が読めないんだ」
「そうなんか。ちなみにとーちゃんはどんな冒険者だった?」
「どんなって、普通の冒険者だと思うけど?あ、でも魔法が少し使えるって」
「へぇ、どんな魔法か分かるか?」
「よくわかんないけど、とーちゃんが棒とか石ころで囲った中に食べ物を入れておくと長持ちする、ってかーちゃんが良くとーちゃんに頼んでた」
棒とか石ころで囲った中の食べ物が長持ち?……保存の結界的なものか?
「その時にとーちゃんが使った棒とか石ころってあるか?」
「うん、あるよ。でもこれは何か買ってくれた人じゃないと見せちゃダメ、ってかーちゃんに言われてんだ」
「ならこの2冊(魔物図鑑ととーちゃんメモ)を買おう。幾らだ?」
「魔物図鑑は半金貨1枚で、とーちゃんメモは銀貨1枚だよ」
安っす。
魔物図鑑なんて以前古本屋で見たときは金貨単位の値段だったぞ。
……でもまぁ、雑な装丁の薄汚れた写本で写された時期も古く、おまけに所有者の書き込みまみれときては、図鑑とはいえ古本屋でも買い取って貰えんだろう。
とーちゃんメモに至っては本として認識してもらえるかも怪しいし。
それを考えると安値でも買ってもらえるだけで御の字なのか?
「じゃあこれが本2冊の代金な」
財布から半金貨と銀貨を1枚ずつ出して子供に渡す。
「ありがとう!じゃあこれが、とーちゃんが使ってた棒と石ころ」
礼を言って子供が出してきた物を見る……が、明らかにただの棒や石ころじゃない。
文字や記号?が書かれたり刻んであったり、なにかの毛が結び付けられたりしている。それに石ころ呼ばわりしているが、しれっと術晶石も混じってるし他の石もそこらの石とは違うっぽい。
……こりゃ結界道具の類な可能性が高そうだ。
しかもこの書かれている記号、さっきの本の中で見かけた気がする。
そう思い直して本を見直してみると、確かに石に書かれた記号が本にも載っている。
……おいおい、もしかしてこの本、結界?の魔法書か?
「この本と棒とか石ころだが、合わせて買うならいくらになる?」
「本の方は半金貨1枚で、棒と石ころの方は半金貨5枚。だから合わせるとえーと……半金貨6枚だよ」
……やはりというか、とんでもない値段だった。
『知らない魔法書が安値で買えたぜヒャッホゥ』なんて言えないレベルの値段だよ。
その値で買ったら逆にこっちが罪の意識を感じるわ。
「ならこの2つも買わせてもらうとして、他にとーちゃんの持ってたモンで売りたいものとかあるか?」
こんな品があるなら他の品も見ておきたい。狙え2匹目の柳泥鰌。
「あと?あとは……とーちゃんの使ってたナイフがあるよ」
そう言って子供が出してきたナイフを受け取る。革製の鞘から抜いて刀身を見たのち、鞘に戻して子供に返した。
「……それは売らずに取っとけ。それは銀混じりの結構いい値段がするナイフだ。持ってて邪魔になるもんじゃなし、売るにしてもよほど切羽詰まって、何日もロクに飯を食ってないってときに、ちゃんとした店にかーちゃんと一緒に持ち込んで買ってもらえ。最低でも金貨で買ってくれる」
「そんなに!?」
「ああ。それとそのナイフな、あまり他人には見せびらかすな。お前さんみたいな子供が持っていると知られたら、殴られて取り上げられるぞ」
「わかった。気をつける」
「他には何かあるか?」
「ううん。これで全部だよ」
そっか、さすがに2匹目の泥鰌はいないか。
「じゃあ、追加でこの本と棒と石ころのセットを買わせてもらうが、代金はこれな」
そう言って金貨を6枚手渡した。
「おじさん、間違ってるよ。金貨じゃなくて半金貨で6枚だよ」
「それでいいんだよ。この本と棒と石ころはな、恐らくだがとーちゃんが使ってた魔法の魔法書と道具だ。間違っても半金貨程度で売り買いできるモノじゃねぇんだ」
「でも、いいの?」
「構わねぇよ。俺にとってはそれだけの価値がある(と思う)。心配ならかーちゃんを呼んでくれ。説明すっから」
「ごめん、かーちゃんは働きに出てていないんだ」
「そうなんか。じゃあかーちゃんに『取引に不満があるなら木の葉通りの5番地、ディーゴの家まで来てくれ』と伝えてくれるか?」
「わかった。木の葉通り5番地のディーゴの家だね?」
「おう。日中はいないことが多いが、家の者に話はしておく。あと、来るなら来月の4日までに来てくれ。それ以降は長い旅に出る予定で、当分戻ってこないからよ」
子供が頷いたのを見ると、かーちゃんの名前を聞いて露店を離れた。
さて、新物産のネタを考えるつもりが思わぬ買い物をしちまった。
俺の予想ではこの本は結界魔法の魔法書と見るが、確かなことは分からんので魔術師ギルドに持ち込んでみることにした。
これが魔法とは関係ない一般的なただの書物なら大損もいいとこだったが、幸い予想は当たっていた。
「古代文明期に存在した魔法の一つ、結界魔法の魔法書の写しですね。もっとも、完全版ではなくて一部の物を抜粋して書かれているようですが」
本を鑑定した魔術師ギルドの職員によると、そう前置きしたうえで同じく持参した棒や石ころも結界魔法で使用される道具だと答えてくれた。
ちなみに結界魔法とは、呪文字を書いたり刻んだりした呪物を多角形状に配置することで、魔法的な壁を作ったりその内側にある物(生物・非生物を問わず)になにかしらの影響を与えたりする魔法だそうだ。
古代文明期に一般的だった学術魔法に比べると使い方に癖があるので使い手は限られ、それに比例する資料の少なさで研究もあまり進んでいない分野だが、南方の少数民族の間では僅かながらに伝承されているらしい。
「恐らくはその伝承内容が本になり、それをさらに書き写したものではないでしょうか」
と、鑑定した人は予想していた。
買い取りますか?と聞かれたので自分で使ってみたいと断ったが、問題はこの書かれている文字の解読方法だ。
なんか辞書みたいなものはないか?と尋ねたところ、『ゲビエット』という民族の言語なのでその辞書を探してみるか、翻訳または解読の魔道具を探してみるといい、と言われた。
辞書の方は見つけるのが難しいかも知れないが、翻訳や解読の魔道具なら大きな街に行けば売っているかもしれないとのことだった。
なお翻訳と解読の魔道具の違いは、翻訳は未知の言語でも聞き・話し・読みができるのに対し解読は読みしかできないそうだ。
まぁ魔法書を読む分には解読の魔道具で十分か。
追放旅での目的が増えたな。
そんなことを考えながら魔術師ギルドを後にしてはたと気付いた。
……って、不味いよまだ新物産のネタが思いついてないじゃん。
―――あとがき――――
前回書きそびれましたが、これからしばらく日常回が続きます。
実際に街を出るのは、あと6~8話くらい後になりそうです。
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追放旅に出る前に、新物産を3つ(カワナガラス店1、領主2)こしらえることになった主人公。
とりあえず2つはなんとかなった。残るノルマはあと1つ。
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-1-
今日も一日、新物産のネタ思案の日。
今日のうちに試作まで終えれば理想だが、最悪はモノが決まればそれでいいと思っている。
今のところ領主様のところに行くのは3日後を予定しているからな。
……ああ、そうだ。事前にアポを取っとかなきゃいかんか。
新物産を2つ提案するとなると半日くらいは潰れそうだし、他にもいくつか確認というか聞きたいこともある。
散歩の途中にでも寄らせてもらおう。
というわけで、朝食を済ませるとさっそく街に繰り出すことにした。
上着をひっかけて商店街の方に足を向けると、春の大市を来週に控えていることもあっていつもより賑わっているような気がした。
考えてみれば大市の最中は街中の宿泊施設がパンクする。
目端の利く者は自宅の一室を臨時の宿泊施設として提供して小遣い稼ぎをするそうで、それに向けてスペース確保のために不用品を売りに出したりしている。
家の前に敷物を広げて品物を並べ、子供やおかみさんが店番をしているのがそうだ。
不用品の処分なので値段は総じて安いが、基本的に中古品ばかりなうえくたびれているのがほとんどで、店に並んでいる品物よりも質は落ちる。
だが『安かろう悪かろう』な品でも一定の需要はあるし、極々まれだが掘り出し物もある(という噂がある)ので意外と侮れない。ような気がする。
そんな感じで日常とは微妙に品揃えが異なる通りを歩いていると、一つの露店に目が留まった。
まぁ衣装箱とか古着とか食器セットといった日用品ばかりが売られている中で、ぽつんと鎧が置いてある露店があったら目立つわな。
露店に近づいて品揃えを見ると、鎧の他に長剣、鉄兜、鉄で補強された手袋とブーツという、まぁいわゆる冒険者の装備一揃えを売っているようだ。
あとは本が何冊か。
店番をしているのは10歳くらいの子供で、さっきから俺のことを口を半開きにして凝視している。
「ちょっと見せてもらっていいか?」
売っている装備類が欲しいわけではなかったが、置いてある本がちょっと気になったので露店の前にしゃがみ込んで声をかけてみた。
すると子供は我に返ったように何度も頷いてみせた。
装備の類はなかなかしっかりした作りのようだが、サイズ的に俺に合わないので軽く流す。
そもそも先月の頭に新しい装備を作ったばかりだし、売っている装備も別に魔法の品という訳でもなさそうだし。
次いで、並んでいる本の1冊を手に取って中身を確認すると、どうやらこれは魔物図鑑の写本らしい。
全体的に手垢で汚れ、幾つもの書き込みがある本は相当使い込んでいる印象を受けた。
「……なぁ、おじさん?は冒険者なのか?」
中身を確認している俺に店番の子供が声をかけてきたので、本から視線をあげて子供を見る。
「ああ、その通りだ。よく分かったな」
にかっと笑いながら子供に答えると、子供もつられて笑顔を浮かべた。
「だっておじさん強そうじゃん。冒険者ならランクはいくつなの?」
「実はまだランク5なんだよ。去年に冒険者を始めたばかりでな」
「ふぅん、俺のとーちゃんも冒険者だったんだぜ。ランクは……確か4とか言ってたな」
「そいつは中々すげぇな。というと、ここに並んでるのはとーちゃんのお古か?」
俺がそう尋ねると、子供はちょっと表情を曇らせた。
「うん……でもとーちゃん、冬に死んじゃったんだ。ハヤリヤマイ?っていうのでさ。
本当なら俺もかーちゃんも、とーちゃんの物を取っておきたかったけど、使えもしない物を置いといても、って」
「そうか、そいつは悪いこと聞いたな」
ランク4の冒険者でも流行り病であっさり死ぬのか。
そう言うのを聞いちまうとどうもな……魔物図鑑は持ってないし、値段次第でお布施代わりに買ってやるのもいいか。
割と昔に写された本っぽいが、書き込みが多いってことはそれだけ情報の修正がされているってことだ。全く使えないことはないだろう。
そんなことを考えて魔物図鑑を脇に置き、次の本に手を伸ばす。
これは……本というよりとーちゃんの冒険メモだな。周辺の街や村の規模や特徴とか、地域に生息する魔物や薬草などが少しクセのある文字で書かれている。
中身は少しばかり整理する必要があるが、俺がまだ行ったことのない土地のことも書かれているようだ。
ある意味、とーちゃん冒険者が培ったノウハウが詰まった一冊だな。
これもまた脇に置き、残りの1冊を手に取る。これもまた簡易な装丁の写本だな。紙の質もあまりいいとは言えない。
さてこれは何が書かれているんだ、と開いてみたが…………まっっったく読めやしねぇ。どこの言葉よ?
「なぁ、この本についてとーちゃん何か言ってなかったか?」
子供に本を見せながら尋ねる。
「その本?それはとーちゃんの遺品を整理してるときに出てきたんだ。だから俺もかーちゃんも何も知らないんだ。俺は少し読み書きができるけどその本は読めなかったし、かーちゃんはもとから文字が読めないんだ」
「そうなんか。ちなみにとーちゃんはどんな冒険者だった?」
「どんなって、普通の冒険者だと思うけど?あ、でも魔法が少し使えるって」
「へぇ、どんな魔法か分かるか?」
「よくわかんないけど、とーちゃんが棒とか石ころで囲った中に食べ物を入れておくと長持ちする、ってかーちゃんが良くとーちゃんに頼んでた」
棒とか石ころで囲った中の食べ物が長持ち?……保存の結界的なものか?
「その時にとーちゃんが使った棒とか石ころってあるか?」
「うん、あるよ。でもこれは何か買ってくれた人じゃないと見せちゃダメ、ってかーちゃんに言われてんだ」
「ならこの2冊(魔物図鑑ととーちゃんメモ)を買おう。幾らだ?」
「魔物図鑑は半金貨1枚で、とーちゃんメモは銀貨1枚だよ」
安っす。
魔物図鑑なんて以前古本屋で見たときは金貨単位の値段だったぞ。
……でもまぁ、雑な装丁の薄汚れた写本で写された時期も古く、おまけに所有者の書き込みまみれときては、図鑑とはいえ古本屋でも買い取って貰えんだろう。
とーちゃんメモに至っては本として認識してもらえるかも怪しいし。
それを考えると安値でも買ってもらえるだけで御の字なのか?
「じゃあこれが本2冊の代金な」
財布から半金貨と銀貨を1枚ずつ出して子供に渡す。
「ありがとう!じゃあこれが、とーちゃんが使ってた棒と石ころ」
礼を言って子供が出してきた物を見る……が、明らかにただの棒や石ころじゃない。
文字や記号?が書かれたり刻んであったり、なにかの毛が結び付けられたりしている。それに石ころ呼ばわりしているが、しれっと術晶石も混じってるし他の石もそこらの石とは違うっぽい。
……こりゃ結界道具の類な可能性が高そうだ。
しかもこの書かれている記号、さっきの本の中で見かけた気がする。
そう思い直して本を見直してみると、確かに石に書かれた記号が本にも載っている。
……おいおい、もしかしてこの本、結界?の魔法書か?
「この本と棒とか石ころだが、合わせて買うならいくらになる?」
「本の方は半金貨1枚で、棒と石ころの方は半金貨5枚。だから合わせるとえーと……半金貨6枚だよ」
……やはりというか、とんでもない値段だった。
『知らない魔法書が安値で買えたぜヒャッホゥ』なんて言えないレベルの値段だよ。
その値で買ったら逆にこっちが罪の意識を感じるわ。
「ならこの2つも買わせてもらうとして、他にとーちゃんの持ってたモンで売りたいものとかあるか?」
こんな品があるなら他の品も見ておきたい。狙え2匹目の柳泥鰌。
「あと?あとは……とーちゃんの使ってたナイフがあるよ」
そう言って子供が出してきたナイフを受け取る。革製の鞘から抜いて刀身を見たのち、鞘に戻して子供に返した。
「……それは売らずに取っとけ。それは銀混じりの結構いい値段がするナイフだ。持ってて邪魔になるもんじゃなし、売るにしてもよほど切羽詰まって、何日もロクに飯を食ってないってときに、ちゃんとした店にかーちゃんと一緒に持ち込んで買ってもらえ。最低でも金貨で買ってくれる」
「そんなに!?」
「ああ。それとそのナイフな、あまり他人には見せびらかすな。お前さんみたいな子供が持っていると知られたら、殴られて取り上げられるぞ」
「わかった。気をつける」
「他には何かあるか?」
「ううん。これで全部だよ」
そっか、さすがに2匹目の泥鰌はいないか。
「じゃあ、追加でこの本と棒と石ころのセットを買わせてもらうが、代金はこれな」
そう言って金貨を6枚手渡した。
「おじさん、間違ってるよ。金貨じゃなくて半金貨で6枚だよ」
「それでいいんだよ。この本と棒と石ころはな、恐らくだがとーちゃんが使ってた魔法の魔法書と道具だ。間違っても半金貨程度で売り買いできるモノじゃねぇんだ」
「でも、いいの?」
「構わねぇよ。俺にとってはそれだけの価値がある(と思う)。心配ならかーちゃんを呼んでくれ。説明すっから」
「ごめん、かーちゃんは働きに出てていないんだ」
「そうなんか。じゃあかーちゃんに『取引に不満があるなら木の葉通りの5番地、ディーゴの家まで来てくれ』と伝えてくれるか?」
「わかった。木の葉通り5番地のディーゴの家だね?」
「おう。日中はいないことが多いが、家の者に話はしておく。あと、来るなら来月の4日までに来てくれ。それ以降は長い旅に出る予定で、当分戻ってこないからよ」
子供が頷いたのを見ると、かーちゃんの名前を聞いて露店を離れた。
さて、新物産のネタを考えるつもりが思わぬ買い物をしちまった。
俺の予想ではこの本は結界魔法の魔法書と見るが、確かなことは分からんので魔術師ギルドに持ち込んでみることにした。
これが魔法とは関係ない一般的なただの書物なら大損もいいとこだったが、幸い予想は当たっていた。
「古代文明期に存在した魔法の一つ、結界魔法の魔法書の写しですね。もっとも、完全版ではなくて一部の物を抜粋して書かれているようですが」
本を鑑定した魔術師ギルドの職員によると、そう前置きしたうえで同じく持参した棒や石ころも結界魔法で使用される道具だと答えてくれた。
ちなみに結界魔法とは、呪文字を書いたり刻んだりした呪物を多角形状に配置することで、魔法的な壁を作ったりその内側にある物(生物・非生物を問わず)になにかしらの影響を与えたりする魔法だそうだ。
古代文明期に一般的だった学術魔法に比べると使い方に癖があるので使い手は限られ、それに比例する資料の少なさで研究もあまり進んでいない分野だが、南方の少数民族の間では僅かながらに伝承されているらしい。
「恐らくはその伝承内容が本になり、それをさらに書き写したものではないでしょうか」
と、鑑定した人は予想していた。
買い取りますか?と聞かれたので自分で使ってみたいと断ったが、問題はこの書かれている文字の解読方法だ。
なんか辞書みたいなものはないか?と尋ねたところ、『ゲビエット』という民族の言語なのでその辞書を探してみるか、翻訳または解読の魔道具を探してみるといい、と言われた。
辞書の方は見つけるのが難しいかも知れないが、翻訳や解読の魔道具なら大きな街に行けば売っているかもしれないとのことだった。
なお翻訳と解読の魔道具の違いは、翻訳は未知の言語でも聞き・話し・読みができるのに対し解読は読みしかできないそうだ。
まぁ魔法書を読む分には解読の魔道具で十分か。
追放旅での目的が増えたな。
そんなことを考えながら魔術師ギルドを後にしてはたと気付いた。
……って、不味いよまだ新物産のネタが思いついてないじゃん。
―――あとがき――――
前回書きそびれましたが、これからしばらく日常回が続きます。
実際に街を出るのは、あと6~8話くらい後になりそうです。
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