上 下
140 / 227
第9章

第1話 装備変更1

しおりを挟む
―――まえがき――――――
新章に突入しました。
―――――――――――――


-1-
 毒を使う緑小鬼の一件がとりあえず片付いた翌日は、丸々1日を完全な休みにすることにした。
 いやもぅあちこち動き回ったし、イヤになるほど説明を繰り返したし、内容も内容だったしと色々疲れてね?何もする気が起きなかったのよ。
「今日はメシの支度だけしてくれたら、あとは自由にしていいぞ。俺の分は取っておいてくれたら勝手に食う」と皆に伝えたら、まだ温かさの残るベッドに潜り込んで2度寝3度寝を決めこんだ。
 冬場に温かい布団に潜り込むのって気持ちいいよね。
 ユニが俺の体調を心配して様子を見に来たが、単にだらけてるだけだからと放っておいてもらった。
 寝ては覚め、覚めては寝てを繰り返し、腹が減ったら食堂で勝手に自分の飯を食い、と、思い切り自堕落な1日を送ったせいで、翌日は完全に疲れも取れて大分すっきりした気分を取り戻せた。

 そして今日は何をするかといえば、いつも着ている鎧をもって防具屋に向かっている。
 以前世話になった革鎧や布鎧専門のドワンゴの店ではなく、冒険者仲間に聞いた金属鎧を扱っている店だ。
 今まではイツキと俺だけだったので、ぶっちゃけ守りは『当たらなければどうということもない』と、あまり気にしてなかったのだが、ユニという紙装甲の砲台が増えたせいで、敵の攻撃を引き付け、受け止める壁役というかタンク役が必要になった。
 まぁ装甲でいえばヴァルツも紙装甲なんだが、あいつは自分の身くらいは守れるからな。
 前回の緑小鬼戦とごろつき戦では状況が許したのでなんとかなったが、少し知恵の回る敵が複数でウチの弱点でもあるユニを狙いに来た場合を考えると、戦槌1振りで複数の敵の攻撃を捌きつつ足止めするのはどうしても不安が残る。達人ならばなんとかなろうが、まだまだ未熟な今の俺の技量ではね。
 ということで、戦術的にユニを守る人員が必要なわけだが、今のメンツ構成を考えると……俺しかいないんだよな。
 時々ヴァルツにユニの護衛をさせてはいるが、あれは半分が威嚇目的で、基本的に虎のヴァルツは戦闘スタイルが守りに向いていない。
 精霊のイツキについては言わずもがな。
 というわけで、もうちっと頑丈な鎧と使い勝手の良さそうな盾を見繕いに行くわけだ。

 そうして着いたのがクフードゥ防具店。
 石巨人亭の冒険者たちの話によると、金属鎧や盾を買うならこの店がお勧めらしい。
「こんちわ、邪魔するよ」
「いらっしゃいませ」
 扉を開けて店内に入ると、若い店員が出迎えてくれた。
「どのようなものをお探しですか?」
「鎧と盾を見繕いに来たんだが、ちょっと自由に見させてくれ。何かあったら呼ぶよ」
「かしこまりました。ごゆっくりご覧ください」
 店員はそう言って頭を下げると、俺から距離をとった。
 ……なんか武具を扱ってる店とは思えん丁寧な接客だな。まぁ雑な接客よりははるかに好感が持てるが。
 そう思いつつ、壁の端から順番に鎧を見ていった。
 ……やはり金属鎧のベースとなる物は鎖帷子がメインらしい。
 鎖帷子だけ、というものもあれば、鎖帷子に鉄板を取り付けた板金鎧もある。取り付けられた鉄板の量も様々で、胸の部分に1~2枚取り付けただけの簡易的なものもあれば、胸、腹、腕、背中とがっちり固めてある鎧もある。
鎖帷子を使わず鉄板だけを組み合わせて作った総身鎧も置いてあった。でもこんなの着て動けるのかよ、と、関節の可動部分を見てみたら、曲面にした鉄板とリベット止めを駆使して理解の追い付かない構造になっていた。職人さん、凄ぇ仕事してんな。

 これらの鎧を見ながら考えるに、敵の攻撃を引き受けるタンク役として防御力を重視するならば、鎖帷子に鉄板を取り付けたいわゆる板金鎧が最適だろう。
 強度でいえば総身鎧が最強なんだろうが、完全オーダーメイドになるし、値段だって大白金貨が数枚必要だし、そもそも徒歩の人間が着るものじゃないしと、いろいろ非現実的な選択だ。
 だが実際に板金鎧を触ってみて分かったが、動かしたときの音がかなりうるさい。
 鎖同士や鎖と鉄板が触れあって、じゃらじゃらがちゃがちゃと結構大きな音がする。
 冒険者をやってると、隠密行動ほどではないにしろ静かな行動を求められる場面も少なくないわけで、これは大きなデメリットだ。
 特にウチみたいな人数の少ないパーティーでは、待ち伏せや奇襲が必要となることが多いだろう。
 そんなときに、板金鎧みたいな大きな音はさせていられない。
(……やはり鎧は補強した革鎧か。あとでドワンゴ親方の店に行くようだな)
 頭の中でそう結論付けると、今度は盾のコーナーに移動した。

 こちらの盾も色々な種類が揃っている。30セメトほどの小さい盾から1トエムもある大きな盾まであり、材質も木や革や金属やらと種類がある。
 見た感じでは、中型以上の盾のベースは木製で、その上に皮革だの鉄板を貼って強度を上げているようだ。
 形も、丸型から逆涙滴型、長方形、ひし形や楕円形の盾もあったが、基本的な構造は一緒らしかった。

 ただ残念ながら、鎧と違って盾についての知識はあまりないんだよな。ゲームの中でも、鎧に比べると盾はわりとおおざっぱな扱いだったし。
 こういう場合は店員に聞いた方が手っ取り早い、ということで、隅に立っていた店員を手招きで呼んでみた。
「何かございましたか?」
「ああ、盾を探しているんだが……盾については素人でね。一般的にどんなのが使いやすいのかな?」
 寄ってきた店員に訊いてみると、店員はこちらを見たうえで答えてくれた。
「戦い方や、パーティー内での役割によって変わってきますが……お客様のような中堅の冒険者の方によく売れているのが、甲虫系の魔物の外殻や爬虫類系の魔物の鱗皮を貼り付けた丸盾ですね。鉄貼りの盾に比べると若干強度は落ちますが、一般の革貼りの盾より丈夫ですし鉄貼りの盾よりも軽いので、結構お勧めですよ」
 そう言って店員が、直径5~60セメトほどの丸盾を持ってきた。これは何かの虫系の魔物の外殻を貼り付けてある。
「外殻を貼り付けたものと鱗皮を貼り付けたものでは何が変わってくるんだ?」
「外殻を使った盾は固さと軽さに優れ、防御の点では鱗皮よりも上になります。ただし、固い反面脆くもあるので耐久性ではやや劣りますね。万全を保ちたいなら、割れた部分の交換といった定期的な手入れが必要です。あと、炎に炙られると貼り付けてある外殻の強度が落ちるという弱点もあります。
 鱗皮を使った盾はその反対ですね。外殻に比べれば幾分炎にも強いですし耐久性もあります。攻撃を受け止めた際の衝撃もある程度吸収しますので、戦闘時の負担が少ないという利点があります。
 ただ、固さでは外殻に劣りますので、強力な矢とか刺突武器は貫通してしまう恐れがありますし、外殻に比べれば幾分重くなっているのも欠点といえば欠点ですね」
「なるほど、一長一短でケースバイケースってところか」
「はい。後は、かなり値が張るうえに今だけの商品になりますが、盾に鉄蜥蜴の皮を使うこともできます。
 武器による攻撃がほとんど効かないと言われる鉄蜥蜴の鱗皮を貼り付けたもので、攻撃を弾き返す固さと衝撃を吸収するしなやかさを併せ持った1級品ですよ。
 鉄貼りの盾よりも丈夫で軽いので取り回しも良くなっておりますが、その分お値段もこの大きさで大白金貨20枚と高額になってしまいます」
「それはかなり心惹かれるが、予算的に無理だな」
 店員の勧めに苦笑して返す。さすがに盾1枚に貯金の半分を突っ込む気にはなれんわ。
 毎月の生活が黒字ならまだしも、絶賛赤字進行中だし。

「ふむ、材料については大体わかった。……でもその丸盾の大きさだと個人戦用に見えるんだが、違うかい?」
「そうですね、あくまで自分一人が、相手と切り結ぶときに使う盾ですね」
「そういうんじゃなくて、複数の相手の攻撃を一手に引き受けて捌きたい、後ろに攻撃を抜けさせないような戦いがしたいんだが」
「ああなるほど。そういう役割でしたら、もっと大きくて丈夫な盾の方がいいですね。ならこちらの長方形の長盾などはいかがでしょう?」
 と、店員が次に出してきたのが、縦1トエム幅50セメトほどの、緩く湾曲した鉄貼りの四角い盾だった。
「木をベースに革を貼り、その上にさらに薄い鉄板を貼り付けた、一般的な重戦士の盾ですね。盾の縁も鉄枠で補強してありますので、かなり丈夫ですよ」
「ちょっと持ってみてもいいかな?」
「ええどうぞ」
 店員に断って、長盾を装備してみる。これはベルトで肘を固定して、握りを掴む形なんだな。盾そのものとしてもかなり丈夫そうだ。
 盾を装備した状態でいろいろ動かしてみたが、あまり大きな動きは出来ない。まぁ盾そのものがでかいから、それほど動かさなくても攻撃は防げるが。
 あと、盾を支えるのが腕一本の頑張りにかかってくるので、重さには少し余裕を持たせた方が良さそうだ。
「ふむ、もうちっと大きい方がいいかな。少し屈めば俺の全身が隠れるくらいの大きさがいい」
「そうなりますと、どうしても特注になりますし、重量も増しますが」
「まぁ仕方ないやね、このガタイじゃ。でも重さは今のこれくらいがいいな。貼り付ける鉄板を薄くしても構わんから、なんとかならんかな?」
「……鉄板を薄くしていいのでしたら、大丈夫だと思います」
少し考えた店員が頷いてみせた。
「じゃあ注文を頼めるかい?」
「かしこまりました。ではこちらへどうぞ」
 店員に促され、場所を移動して細かい注文を詰めることにした。
 参考にするのは、機動隊なんかが昔使ってた、ジュラルミン製の大きな盾。
 でもジュラルミンなんてものはないので、普通に木板+厚手の革+薄い鉄板で作ってもらうことにした。
 強度でいうなら総鉄製とかミスリル製という選択肢もあるんだが、さすがに総鉄製の大盾なんか重すぎて使えんし、ミスリル製なんて幾らするんだか。
 大まかな寸法を測り、盾の構造を決める。ベースとなる木の部分は、細い幅の木板をタテヨコに組み合わせる二層構造が一般的だそうだ。
「ベースの木の部分は厚い一枚板じゃいかんのか?そっちの方が丈夫そうな気がするんだが」
「一枚板というのは結構衝撃に弱いんですよ。強い力がかかると木目に沿って割れることが多々あるんです。ですから、木目を違えて二枚重ねにすることで割れにくくなり結果的に丈夫になるんです」
「なるほど」
 言われてみれば木には木目というのがあったな。なら店員に従うのが賢明か。
 そしてさらに続けて色々と詰めていく。
 固定方法は肘のベルトと握りの2点保持に加えて、盾の上部と下部にもそれぞれ握りというか取っ手を追加して、両手でも盾を保持できるよう改良してもらった。敵の数が多かったり、攻撃が強い場合は両手保持の方がいいからね。
 ついでに盾の下部の縁に爪のような刃物を追加してもらった。
 普段は盾の内側に収納しておいて、必要に応じて足で踏みつけてスライド式に爪が出せるような構造を頼んだ。
「ご注文は承りました。今の工房の状況ですと、10日を見ていただければお引き渡しできると思います」
「わかった。じゃあそれはよろしく頼むよ」
 注文書を書き終えた店員にそう頷いて見せると、もう一つの用件を切り出した。
「盾はそれでいいとして、今度は篭手を見せてもらいたいんだが」


―――まえがき――――――
次回以降の更新は通常に戻り1月11日の予定です。
―――――――――――――
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

私のスローライフはどこに消えた??  神様に異世界に勝手に連れて来られてたけど途中攫われてからがめんどくさっ!

魔悠璃
ファンタジー
タイトル変更しました。 なんか旅のお供が増え・・・。 一人でゆっくりと若返った身体で楽しく暮らそうとしていたのに・・・。 どんどん違う方向へ行っている主人公ユキヤ。 R県R市のR大学病院の個室 ベットの年配の女性はたくさんの管に繋がれて酸素吸入もされている。 ピッピッとなるのは機械音とすすり泣く声 私:[苦しい・・・息が出来ない・・・] 息子A「おふくろ頑張れ・・・」 息子B「おばあちゃん・・・」 息子B嫁「おばあちゃん・・お義母さんっ・・・」 孫3人「いやだぁ~」「おばぁ☆☆☆彡っぐ・・・」「おばあちゃ~ん泣」 ピーーーーー 医師「午後14時23分ご臨終です。」 私:[これでやっと楽になれる・・・。] 私:桐原悠稀椰64歳の生涯が終わってゆっくりと永遠の眠りにつけるはず?だったのに・・・!! なぜか異世界の女神様に召喚されたのに、 なぜか攫われて・・・ 色々な面倒に巻き込まれたり、巻き込んだり 事の発端は・・・お前だ!駄女神めぇ~!!!! R15は保険です。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル
ファンタジー
——1つの星に1つの世界、1つの宙《そら》に無数の冒険—— 帰り道に拾った蒼い石がなんか光りだして、なんか異世界に飛ばされた…。 しかもその石、喋るし、消えるし、食べるしでもう意味わからん! そんな俺の気持ちなどおかまいなしに、突然黒いドラゴンが襲ってきて—— 不思議な力を持った宝石たちを巡る、異世界『転移』物語! 星の命運を掛けた壮大なSFファンタジー!

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

喰らう度強くなるボクと姉属性の女神様と異世界と。〜食べた者のスキルを奪うボクが異世界で自由気ままに冒険する!!〜

田所浩一郎
ファンタジー
中学でいじめられていた少年冥矢は女神のミスによりできた空間の歪みに巻き込まれ命を落としてしまう。 謝罪代わりに与えられたスキル、《喰らう者》は食べた存在のスキルを使い更にレベルアップすることのできるチートスキルだった! 異世界に転生させてもらうはずだったがなんと女神様もついてくる事態に!?  地球にはない自然や生き物に魔物。それにまだ見ぬ珍味達。 冥矢は心を踊らせ好奇心を満たす冒険へと出るのだった。これからずっと側に居ることを約束した女神様と共に……

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...