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第6章

第13話 ディーセン街中行脚2

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―――前回のあらすじ―――
予定の期日から大幅に遅れてディーセンに戻ってきたディーゴ。
とりあえず帰着の報告を領主と石巨人亭の亭主には済ませたが、まだまだ回るところは残っている。
―――――――――――――

-1-
 次に向かったのが会員制カジノのトバイ氏のところ。
 1ヶ月程度の約束だったのが大幅に遅れたので、顔を出すのがちと後ろめたいが、報告しないわけにはいかないので。
 いつもの倉庫の所でトバイ氏に取次ぎを頼むと、面会の許可が出たので執務室へと向かった。

「遅い」
 俺の顔を見たトバイ氏は、ちょっと不機嫌そうな顔でのたまった。
「申し訳ありません」
 仕方ないので素直に頭を下げる。
「道中でトラブルがあったとは手紙で読んだが、これほど遅れるとはいったい何があった?」
「帰りの道程を短縮しようと森の中を進んでいたら、殺気立った蜥蜴人の群れと出くわしまして」
 そう前置きすると、領主や石巨人亭のオヤジさんに話した内容を繰り返した。
「……はぁ、それで蜥蜴人どもが安心して暮らせる場所まで送っていったのか」
 トバイ氏はそういうと、何とも言えないため息をついた。
「明日のアテさえなく彷徨う旅の辛さは、俺も身に染みてますんでね」
「まぁ事情は分かった。しかし聞いた内容だと、お前さん、蜥蜴人と友好的な関係を築いたようだな?」
「まぁそうですけど」
「蜥蜴人は優秀な戦士と聞く。どうだ?一人くらい呼び寄せられないか?」
「無理でしょう」
「即答しやがったな?なぜだ?」
「今は群れの数が半減してますからね、当面は数の回復に専念するでしょうし、ぶっちゃけ今のあの群れに強い戦士はいませんよ?それに、一番強い戦士はまず群れを率いるリーダーになりますから」
「そうなのか。ちっ、蜥蜴人が加わるとなりゃ、いい話題になりそうだったのによ」
 商魂たくましいこって。でも俺はあの一族にはあの場所で竜の化石を守っていてもらいたいのよ。
「じゃあまぁこの話はこれで終わるとして……次はお前さんの試合の日程だ。当分この街にいるんだろう?というか、しばらくは遠出するな」
「いやまぁ俺も色々用事が溜まっちまったんで、しばらくは街にいるつもりですけど……具体的にはどれほど?」
「年内はこの街にいろ。年越しの大試合が終わったら自由にしていい」
 つーと今日が確か11月の17日だから、大体1ヶ月半はこの街に引きこもり、冒険者稼業も休みというわけか。
 まぁ貯金もあるし、試合に出れば給料も出るしなんとかなるかな?
「で、お前さんの次の試合だが、さっそく今週末には出てもらうぞ」
「了解です。相手はクレアで良かったんですよね?」
「そうだ。あいつも試合を先延ばしにされてちょいとイラついてる。ま、気を付けるんだな」
「わかりました」
「それとその3週間後の12の月の13日にも試合に出てもらうからそのつもりでな。相手はフォンフォンだ」
「そんな間を空けていいんですか?」
 もっと予定を詰められるかと思ったが。
「あまり間を詰めると話題性が減る。お前さんはたまに出るくらいでちょうどいいんだ」
「なるほど」
「俺の話はそんなところだ。何か聞くことはあるか?」
「大分間が空いちまったんで、ブルさんにも帰ってきたと挨拶しときたいんですけど」
「そうか、あいつなら剣闘士の寮で稽古してるはずだ。行ってみるといい」
「わかりました。ありがとうございます。じゃあ行ってみます」
「おう。くどいようだが次の試合は5日後の22日だからな、余計な揉め事に首突っ込むんじゃねぇぞ」
 トバイ氏の言葉に苦笑して頷くと、執務室を後にした。

 その足で剣闘士たちの寮に向かう。
 門を開けて中に入ると、数人の剣闘士たちがそれぞれに相手を決めて打ち合いの稽古をしていた。
 ブルさんも一緒に稽古をしているが……女性の中に半牛鬼人ミノタウロスが混じると異質感はんぱねぇな。
 相手をしているのは……名前忘れた。曲剣を使う女性だ。
 流れるような動きをしながら、素早く、鋭くブルさんに打ち込んでいる。
 ブルさんも仕事でも使っている両手使いの戦斧を軽々と振り回している。
 そんな様子を眺めていると、教官のベネデッタがこちらに気が付いた。
「ディーゴじゃないか!久しぶりだな」
「ども」
 手をあげてそれに答え、ベネデッタの所に歩み寄る。
 ブルさんや剣闘士たちも手を止めて集まってきた。
「しばらく姿を見せなかったが、どこ行ってたんだ?」
 ベネデッタの質問に、ここでもざっくりと経緯を説明する俺。
「……へぇ、蜥蜴人と一緒だったのかい。一度やりあってみたいもんだな」
 ボニーが舌なめずりしながら呟く。
「トバイ氏がそんなこと言ってたけど、現実問題無理だな。それに残念だが今のあの群れに、強い戦士はいないよ。前は勇者といわれる戦士も居たそうだけど、赤大鬼の群れにやられちまったからね」
「そうなのか。そいつは残念だ」
「で、ディーゴは今日はどうしたんだ?」
「いや、ブルさんと皆に帰ってきたぞという報告にね。もう済んだけど。あと、長々待たせちまったクレアに一言詫びとこうかと」
「そうかい。じゃあクレアの方には言っとくよ。今は出かけてていないけどね」
「そのようだな」
「ちなみにクレアだが、試合が延びてるせいで機嫌が悪ぃ。試合はいつになるんだ?」
「5日後の22日とトバイ氏から聞いた」
「分かった。それも伝えとくよ」
「すまんね」
「ああディーゴ、これは忠告というかアドバイスなんだが、クレアとの試合、かなり荒れることになると思ってくれ」
 ベネデッタが少し言いにくそうに言う。
「あー……了解」
 なんとなく察したのでそう返しておいた。多分ルール無視のラフファイトになるんだろうな。
「で、ディーゴ。この後はどうする?」
「あちこち挨拶回りの途中なんだ。まだ寄るところが残っててね、今日はこれで失礼させてもらうよ」
「そうか、分かった。それじゃ無理には引き止めないよ」
 そういうベネデッタ、ブルさんほか剣闘士たちに挨拶をして、寮を出た。

-2-
 さて、今日の最後はカワナガラス店だな。
 ここからだとちょいと距離があるので、乗合馬車を拾って近くまで乗り付ける。
 店先で掃除をしている店員に軽く手を挙げて挨拶し、「裏口に回る」とハンドサインを送って店の裏口に向かう。
 このあたりは慣れた気楽さだ。
「こんちわ」
 裏口に回ると、扉を開けてごみを捨てに出たらしいモイラがいたので声をかけた。
「おやディーゴさま、久しぶりだねぇ」
「久しぶりなのに手土産もなくて申し訳ない。エレクィルさんかハプテスさんはいるかな?」
「大旦那様たちかい?いるはずだからちょっと聞いてくるよぅ」
 そういってパタパタとモイラが中に引っ込んだので、そのまま待つことしばし、モイラが戻ってきた。
「大旦那様が会うってよぅ。いつもの奥の部屋だぁ」
「んじゃ、お邪魔します」
 モイラに断って、エレクィル爺さんたちがいつもいる部屋に向かう。
「こんにちは、ディーゴです」
「おお、参られましたな。ささ、どうぞ中へ」
 部屋の前で声をかけると、待ちかねたようにエレクィル爺さんが答えた。
「どうもお久しぶりです。ご無沙汰してすいません」
「いえいえ、なんでもユニさんに伺ったところによると、蜥蜴人たちと長旅をしてきたとか」
「ええ、そうなんですよ」
 と、違法奴隷商に襲われたことから始まった一連の騒ぎを、ざっと話して聞かせた。
「ほっほ、危うくディーゴさんが奴隷に落ちるところでしたか」
「イツキがいなければ確実に一撃貰って、そのままどこかに売られるところでした」
「ディーゴさんでしたら高値が付くでしょうなぁ」
「そうかもしれませんね。でも値段付けられて売られるなんて御免です」
 はっはっは、と笑いあう。
「そうそう、奴隷で思い出しましたが、屋敷に新しい人を雇ったそうですな。ユニさんから聞きましたが、なんでも違法奴隷商から助け出した人たちとか」
「ええ、5人助けたのですがあの3人は身寄りがないとかで、なら人を探してるウチで面倒見るか、と。もしかしたらあと3人増えるかもしれませんが」
「ほぅ、といいますと?」
「送り返した一人……若い娘さんなんですが、牧場を盗賊どもに襲われたそうで、祖父母と自宅は無事でしたが両親と家畜をやられてもう牧場は続けられそうにない、と。土地はあるので畑を作って暮らすようなことを言ってましたが、年寄り2人と若い娘で畑を1から作るのは大変だと思います。それを案じた娘さんから相談を受けましてね。難しそうならウチに来なさいと声はかけてあるんですよ」
「なるほど、そういうことでしたか。確かに老夫婦と若い娘で農業を1から始めるのは、村の人の協力があっても難しいでしょうな」
 それぞれがそう言って、セルリ村での1年を思い出す。畜産のことはよくわからないが、農業もあれでなかなか重労働だ。齧った程度とはいえ経験があるのでよくわかる。
「まぁ、上手くいってくれればそれに越したことはないんですけどね」
「ですな」
「残る一人の方は大丈夫なのですか?」
 ハプテス爺さんが訊いてきた。
「あ、そっちはたぶん大丈夫です。薬草摘みに出ているところをさらわれたそうなので、家も両親も無事でしたから」
「それはようございました。家族の方もさぞ喜んだのではないですかな?」
「ええ、まだ子供だったので村長ともどもえらく感謝されて、一晩飲み明かすことになりました。お陰で滞在が1日延びましたよ」
「なんと、子供まで手にかけていましたか」
「若いのを中心に男女問わず、って感じでしたね」
 そう言ってふん、と鼻を鳴らす。
「ところで、蜥蜴人たちとの旅はいかがでしたかな?」
 エレクィル爺さんが話題を変える。
「群れを率いるのが魔法が使えたので、念話で意思疎通ができましたが、なかなか古風で気のいい連中でしたよ。見た目はなんですけど、言葉が通じるならばいい隣人になれそうな気がします。ただ、その言葉が問題なんですけどね」
「やはり蜥蜴人の言葉は難しいですか」
「1ヶ月以上一緒にいましたが、結局言葉は分からないままでしたね。シューとかシャーとか言われても、違いが判らなくて」
「ほっほっほ、そうでしたか。しかし念話が通じる者がいたのは僥倖ぎょうこうでしたな」
「まったくです。あと困ったのが食生活で」
「といいますと?」
「彼らは人間以上に雑食なんですよ。草の実でも虫でも食べるので、移動中食べ物に困ることはあまりなかったのですが、さすがに虫を生のままもぐもぐされるのは見ていてちょっと」
「それは確かに困りますな」
「あとは料理という概念もあまりなくて、生か丸焼きなんです。まぁそれについては、野山に暮らしてた頃の私も似たよなものだったので構わんのですが、こうやって皆さんの世話になってから舌が随分肥えましてね」
「はっははは、確かにそれは辛いでしょうなぁ」
「そんな感じで、保存食の干し肉も当分は見たくないですね。他所からも釘を刺されましたが、今年いっぱいは街で大人しくしてるつもりです」
「左様ですか。まだ11月とはいえ、年末に向けていろいろ忙しなくなりますからな、その方がいいでしょう」
 エレクィル爺さんがそう言って頷く。
 そんな感じで和やかに話は続き、夕食を勧められたがこれは遠慮して屋敷に帰ることにした。
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