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第6章
第6話 襲撃者たちの置き土産3
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―――前回のあらすじ―――
襲ってきた違法な奴隷商を返り討ちにして5人の奴隷を保護したディーゴ。
とりあえず保護した5人には、今後の身の振り方を提案して石巨人亭に泊まらせた。
5人が今後のことを考えている間、用事を片付けるためにディーセンの街中を行脚する。
―――――――――――――
-1-
屋敷に戻ると書斎にこもり、馬車の中にあった布袋を広げる。
ザラザラと貨幣が机の上に山盛りになる。
「さて、やるか」
貨幣を半金貨、金貨、大白金貨に選別する。幸い銀貨以下の少額貨幣はなかった。
結構な時間をかけてようやく集計が終わったが……総額にして金貨472枚相当になった。
これは……確かにひと財産だな。
貨幣をまとめ直して、全部金庫に放り込む。
これは一度ユニと話し合った方がいいかもしれんな。
あとはあそこかねぇ……。
ドルファーにやられた肩をさすって思う。痛みも違和感もないが、なにせポーションをぶっかけて治しただけだ。
一応専門家に診てもらった方がいいだろう。
というわけでやってきたミットン診療所。
見慣れた玄関の扉を開けると、今回は珍しくウェルシュが受付をしていた。
ちなみにアルゥは待合室の陽の当たるところで丸くなって昼寝をしている。
暑いのによく日向で寝てられるな。
「ディーゴじゃないか。今日はどうしたんだ?」
受付からウェルシュが声をかけてきた。
「大したこっちゃねぇんだが、先日ちょっと深手を負ってね。その場でポーション使って治したんだがホントに全部治ってるのか一度専門家に診てもらおうかと思ってさ」
「なるほど、そういう理由か。それならエルの方が詳しいから診てもらうといい。順番があるからちょっと待っててくれるか」
「了解」
そう言って待合室に上がると、アルゥの隣に腰を下ろす。
アルゥは先のほどやり取りで目が覚めたのか、目を開けてこっちを見上げていた。
「ディーゴではないか。深手を負ったと聞いたが、魔物にやられたか?」
「いや、違法の奴隷商にいきなり襲われてね。その中に一人腕の立つ奴がいたんだ」
「違法の奴隷商か……やはりいるのだな、そういうのが。おぬしは珍しき種族ゆえ高値が付こうな。して、そやつらは?」
「全員返り討ちにして、身ぐるみ剥いで埋めてきた」
「はっはは、それは痛快じゃ。そのような輩、生きておっても世の為になるまい」
そんな感じで世間話をしながら時間を潰していると、診察室から俺を呼ぶ声がした。
「おっと順番だ。じゃあ、アルゥまたな」
立ち上がりながらアルゥを一撫ですると診察室に入った。
「やぁこんにちはディーゴさん。なんでも傷を負われたとか」
診察室では椅子に座ったエルトールが出迎えた。こうしてみるとホントに医者だったんだな、と思う。
「ああ、手練れにぶつかってね。勝ちはしたが左肩を剣でぐさり、だ」
椅子に座ってシャツを脱ぐ。
「一応その場で中級ポーションと初級ポーションを使って治しはしたんだが、多分骨までいってたと思うからちょっと不安でな」
「なるほど。でもまぁ中級の傷ポーションならば骨折まで治せますから大丈夫とは思いますけどね。痛みとか違和感はありますか?」
「いや、特にはないな」
「じゃあちょっと失礼しますよ。痛かったら言ってください」
そう言ってエルトールが肩に手を添える。上下左右に動かしたり、肩を押したりしてみるが、特に違和感は感じなかった。
しばらくそうして探っていたが、エルトールなりに納得したようだ。
「うん、大丈夫ですね。引き攣れもないなら完治しているとみていいでしょう」
「そうか、なら一安心だ」
医者の太鼓判があるなら大丈夫だな。
脱いだシャツを着なおしながらエルトールに尋ねる。
「ここってポーションとかは扱ってるのか?あったら幾つか仕入れていきたいんだが」
「生憎ポーション類はウチは扱ってないんですよ。確かに効果はあるし便利なんですけど、値段が高すぎてね。ウチの患者さんじゃとても払えそうにないんで」
「なるほどな。じゃしょうがないか」
「止血用の軟膏くらいでしたらお分けできますが?」
「軟膏か……」
まぁ使わないことはなさそうだが、欲しいかと言われるとちょっとな。
「虫刺されにも効きますよ?」
エルトールのセールスを聞いて考えを改める。虫刺されにも効くんだったら持っておいた方がいいかもしれん。
虫刺されごときにポーションを使うのはもったいないしな。
「じゃあ1つ貰おうか」
「はい、ありがとうございます」
エルトールがそう言って棚から小瓶に入った軟膏を渡してきた。
「お代は兄さんにお願いしますね。じゃ、いいですよ」
「ああ、お世話さん」
診察室を出て受付に行く。
「診察終わったんだが、幾らだい?止血用の軟膏も一瓶わけてもらったんだが」
「じゃあ〆て半金貨1枚も貰っとこうか」
ウェルシュが受付から返してくる。
「地味に高ぇなおい」
「ウチは患者の懐具合で料金が変わるシステムでね。ディーゴは別に生活に困ってないだろう?」
「そういう理屈か。まぁいいや」
そう言って半金貨2枚を渡す。
「釣りはいらんよ」
「はは、豪儀だな。だが、いいのか?」
「なに、儲かった以上はちっとは社会に還元せんとな」
「そういう事なら、ありがたく貰っておくよ。じゃあまた、何かあったら来てくれ」
「ああ、世話になった。アルゥもまたな」
「うむ」
二人にそう言い残すと、診療所を後にした。
-2-
そしてその翌日、5人の去就を聞きに石巨人亭に顔を出した。
5人を呼び出してもらい、テーブルにつく。
「さて、それぞれ今後の身の振り方は決まったかい?」
「はい」
5人がそれぞれ頷いたので、順番に話を聞くと
身寄りがなかったり、親に売られたというポール、ウィル、アメリーが使用人として雇われることを望み、家族のいるエイミーとマドリーンが故郷に帰りたいと望んだ。
「ウィルは元冒険者だと聞いたが、冒険者に戻るつもりはないのか?」
「ええ、もともと争いごとは苦手でして、冒険者になったのも幼馴染に引っ張られてのことなんですよ。その幼馴染ももう……」
「そうか、悪いこと聞いたな」
ウィルに頭を下げた。
「よし、話も決まったしこれからエイミーとマドリーンの買い物に行くぞ。ポール、ウィル、アメリーは俺ン家に移動だ」
「?」
エイミーとマドリーンが首を傾げる。
「服は今のままでいいとしても、明日から長旅をするんだ。丈夫な靴と雨除けの外套くらいは必要だろ」
「そうでしたか。重ね重ねすみません」
というわけで、古着屋に行ってエイミーとマドリーンの外套と靴を買い込むと、そのまま俺の屋敷に移動した。
「お帰りなさいませディーゴ様。そちらの3人が話していた方ですね?」
「そうだ。ユニに預けるから仕事を教えてやってくれ」
「わかりました」
俺の屋敷を見てポカンとしている5人のうち、ポール、ウィル、アメリーを残して石巨人亭に戻る。
その帰り道、マドリーンから相談を受けたので了承しておいた。
石巨人亭に戻って事の次第をオヤジさんに報告する。
「なるほど、身内のある者は送り返して、残りはお前さんところで雇うか。それが一番いい方法だな」
オヤジさんがそう言って頷く。
「どれ、エイミーとマドリーンだったか。その二人を送り返すのは依頼扱いにしてやろう」
「助かる」
「領主様と剣闘士の方はどうするんだ?」
「それはこれから報告しに行く。1ヶ月くらいいなくなるしな。何も言わない、ってわけにもいくめぇ」
「そうしとけ」
「じゃあエイミー、マドリーン。明日の朝ここに俺が迎えに来て、それから出発するから準備しとけな」
「わかりました」
「パパとママの所に帰れるの?」
「ああ、俺が責任もって送ってってやる」
「そうなんだ、ありがとう!」
にぱっと笑ったエイミーの頭をぽんぽんと軽く叩くと、二人を残してまずはカジノへと向かった。
-3-
「依頼で1ヶ月か……」
俺の話を聞いたトバイ氏がため息をつく。
「しかしお前さんもお人よしが過ぎねぇか?」
「でかい看板背負って生きてる以上は、お人よしくらいじゃないと面倒なんですよ。妬み嫉みややっかみがね」
「ああ、まぁなぁ……」
トバイ氏が納得したように頷く。
「来月あたりにそろそろお前さんの試合を組もうと思ってたんだけどな」
「まぁ時期的にもそうですしね」
「それもあるがお前さんは新顔だからな、実力がまだ読めなくて賭けが盛り上がるんだ」
ああ、そういう意味。
「ところで次の相手は決まってるんですか?」
「今のところクレアを相手に考えてる」
クレア?どんな相手だっけ。あとでブルさんに聞いてみるか。
「まぁなるべく早く帰ってくるようにしますし、そしたらこっちにも顔出しますよ」
「ああ、頼んだぞ」
トバイ氏の所を後にして、ブルさんを探しに行く。
何人かに聞いて、カジノのバーにいるところを見つけることができた。
「よぉ、ディーゴじゃねぇか」
「やぁブルさん」
挨拶して隣に腰を下ろす。
「急にどうした?仕事か?」
「いや、その逆だ。依頼で1ヶ月ほどこの街を離れることになった」
そう前置きして、ざっと説明をする。
「なるほど、違法奴隷商の後始末か。ご苦労なことだな」
「まぁそれは別にいいんだが、帰ってきたらどうやらクレアってのと試合をすることになるらしい。んで、事前に話を聞いとこうかな、と」
「なるほど。……クレアってのは俗にいう暗器使いでな、目つぶしや場外乱闘なんでもありな娘だ。ルール無用の喧嘩殺法とでもいうのか、それが観客に受けててな、結構ラフな試合を仕掛けてくる。場外でも気を抜かないことだ」
「なるほど。わかった。どうもありがとう」
その後ブルさんと軽く飲んで、カジノを出た。
さて次は領主の所だな。
「わかった。気を付けて行ってこい」
領主の方はあっさりと話が付いた。
「本来なら違法奴隷の被害者は、我々が責任をもって何とかしてやるべきなのだろうがな……」
「まぁ今回は運が良かったですよ。でも対策はしているんですよね?」
「ああ、我が領内では違法奴隷商は極刑だ。しかし奴らはどこからともなく湧いてきて暗躍するからな……。領内の見回りを強化するように言っておこう」
「お願いします。それと、役に立つかはわかりませんが、違法奴隷商から押収した木札を西門の衛視長に預けてあります」
「そうか、わかった」
領主はそう言って頷いた。
「しかし……なんだな、お前も狙われるくらいに顔が売れてきたか」
「あまり有り難くない顔の売れ方ですがねぇ」
「まぁ心配するな、お前が奴隷に落ちたら真っ先に買い戻してやるから」
「その時はよろしくお願いします」
苦笑しながら頭を下げて、領主の館を後にした。
襲ってきた違法な奴隷商を返り討ちにして5人の奴隷を保護したディーゴ。
とりあえず保護した5人には、今後の身の振り方を提案して石巨人亭に泊まらせた。
5人が今後のことを考えている間、用事を片付けるためにディーセンの街中を行脚する。
―――――――――――――
-1-
屋敷に戻ると書斎にこもり、馬車の中にあった布袋を広げる。
ザラザラと貨幣が机の上に山盛りになる。
「さて、やるか」
貨幣を半金貨、金貨、大白金貨に選別する。幸い銀貨以下の少額貨幣はなかった。
結構な時間をかけてようやく集計が終わったが……総額にして金貨472枚相当になった。
これは……確かにひと財産だな。
貨幣をまとめ直して、全部金庫に放り込む。
これは一度ユニと話し合った方がいいかもしれんな。
あとはあそこかねぇ……。
ドルファーにやられた肩をさすって思う。痛みも違和感もないが、なにせポーションをぶっかけて治しただけだ。
一応専門家に診てもらった方がいいだろう。
というわけでやってきたミットン診療所。
見慣れた玄関の扉を開けると、今回は珍しくウェルシュが受付をしていた。
ちなみにアルゥは待合室の陽の当たるところで丸くなって昼寝をしている。
暑いのによく日向で寝てられるな。
「ディーゴじゃないか。今日はどうしたんだ?」
受付からウェルシュが声をかけてきた。
「大したこっちゃねぇんだが、先日ちょっと深手を負ってね。その場でポーション使って治したんだがホントに全部治ってるのか一度専門家に診てもらおうかと思ってさ」
「なるほど、そういう理由か。それならエルの方が詳しいから診てもらうといい。順番があるからちょっと待っててくれるか」
「了解」
そう言って待合室に上がると、アルゥの隣に腰を下ろす。
アルゥは先のほどやり取りで目が覚めたのか、目を開けてこっちを見上げていた。
「ディーゴではないか。深手を負ったと聞いたが、魔物にやられたか?」
「いや、違法の奴隷商にいきなり襲われてね。その中に一人腕の立つ奴がいたんだ」
「違法の奴隷商か……やはりいるのだな、そういうのが。おぬしは珍しき種族ゆえ高値が付こうな。して、そやつらは?」
「全員返り討ちにして、身ぐるみ剥いで埋めてきた」
「はっはは、それは痛快じゃ。そのような輩、生きておっても世の為になるまい」
そんな感じで世間話をしながら時間を潰していると、診察室から俺を呼ぶ声がした。
「おっと順番だ。じゃあ、アルゥまたな」
立ち上がりながらアルゥを一撫ですると診察室に入った。
「やぁこんにちはディーゴさん。なんでも傷を負われたとか」
診察室では椅子に座ったエルトールが出迎えた。こうしてみるとホントに医者だったんだな、と思う。
「ああ、手練れにぶつかってね。勝ちはしたが左肩を剣でぐさり、だ」
椅子に座ってシャツを脱ぐ。
「一応その場で中級ポーションと初級ポーションを使って治しはしたんだが、多分骨までいってたと思うからちょっと不安でな」
「なるほど。でもまぁ中級の傷ポーションならば骨折まで治せますから大丈夫とは思いますけどね。痛みとか違和感はありますか?」
「いや、特にはないな」
「じゃあちょっと失礼しますよ。痛かったら言ってください」
そう言ってエルトールが肩に手を添える。上下左右に動かしたり、肩を押したりしてみるが、特に違和感は感じなかった。
しばらくそうして探っていたが、エルトールなりに納得したようだ。
「うん、大丈夫ですね。引き攣れもないなら完治しているとみていいでしょう」
「そうか、なら一安心だ」
医者の太鼓判があるなら大丈夫だな。
脱いだシャツを着なおしながらエルトールに尋ねる。
「ここってポーションとかは扱ってるのか?あったら幾つか仕入れていきたいんだが」
「生憎ポーション類はウチは扱ってないんですよ。確かに効果はあるし便利なんですけど、値段が高すぎてね。ウチの患者さんじゃとても払えそうにないんで」
「なるほどな。じゃしょうがないか」
「止血用の軟膏くらいでしたらお分けできますが?」
「軟膏か……」
まぁ使わないことはなさそうだが、欲しいかと言われるとちょっとな。
「虫刺されにも効きますよ?」
エルトールのセールスを聞いて考えを改める。虫刺されにも効くんだったら持っておいた方がいいかもしれん。
虫刺されごときにポーションを使うのはもったいないしな。
「じゃあ1つ貰おうか」
「はい、ありがとうございます」
エルトールがそう言って棚から小瓶に入った軟膏を渡してきた。
「お代は兄さんにお願いしますね。じゃ、いいですよ」
「ああ、お世話さん」
診察室を出て受付に行く。
「診察終わったんだが、幾らだい?止血用の軟膏も一瓶わけてもらったんだが」
「じゃあ〆て半金貨1枚も貰っとこうか」
ウェルシュが受付から返してくる。
「地味に高ぇなおい」
「ウチは患者の懐具合で料金が変わるシステムでね。ディーゴは別に生活に困ってないだろう?」
「そういう理屈か。まぁいいや」
そう言って半金貨2枚を渡す。
「釣りはいらんよ」
「はは、豪儀だな。だが、いいのか?」
「なに、儲かった以上はちっとは社会に還元せんとな」
「そういう事なら、ありがたく貰っておくよ。じゃあまた、何かあったら来てくれ」
「ああ、世話になった。アルゥもまたな」
「うむ」
二人にそう言い残すと、診療所を後にした。
-2-
そしてその翌日、5人の去就を聞きに石巨人亭に顔を出した。
5人を呼び出してもらい、テーブルにつく。
「さて、それぞれ今後の身の振り方は決まったかい?」
「はい」
5人がそれぞれ頷いたので、順番に話を聞くと
身寄りがなかったり、親に売られたというポール、ウィル、アメリーが使用人として雇われることを望み、家族のいるエイミーとマドリーンが故郷に帰りたいと望んだ。
「ウィルは元冒険者だと聞いたが、冒険者に戻るつもりはないのか?」
「ええ、もともと争いごとは苦手でして、冒険者になったのも幼馴染に引っ張られてのことなんですよ。その幼馴染ももう……」
「そうか、悪いこと聞いたな」
ウィルに頭を下げた。
「よし、話も決まったしこれからエイミーとマドリーンの買い物に行くぞ。ポール、ウィル、アメリーは俺ン家に移動だ」
「?」
エイミーとマドリーンが首を傾げる。
「服は今のままでいいとしても、明日から長旅をするんだ。丈夫な靴と雨除けの外套くらいは必要だろ」
「そうでしたか。重ね重ねすみません」
というわけで、古着屋に行ってエイミーとマドリーンの外套と靴を買い込むと、そのまま俺の屋敷に移動した。
「お帰りなさいませディーゴ様。そちらの3人が話していた方ですね?」
「そうだ。ユニに預けるから仕事を教えてやってくれ」
「わかりました」
俺の屋敷を見てポカンとしている5人のうち、ポール、ウィル、アメリーを残して石巨人亭に戻る。
その帰り道、マドリーンから相談を受けたので了承しておいた。
石巨人亭に戻って事の次第をオヤジさんに報告する。
「なるほど、身内のある者は送り返して、残りはお前さんところで雇うか。それが一番いい方法だな」
オヤジさんがそう言って頷く。
「どれ、エイミーとマドリーンだったか。その二人を送り返すのは依頼扱いにしてやろう」
「助かる」
「領主様と剣闘士の方はどうするんだ?」
「それはこれから報告しに行く。1ヶ月くらいいなくなるしな。何も言わない、ってわけにもいくめぇ」
「そうしとけ」
「じゃあエイミー、マドリーン。明日の朝ここに俺が迎えに来て、それから出発するから準備しとけな」
「わかりました」
「パパとママの所に帰れるの?」
「ああ、俺が責任もって送ってってやる」
「そうなんだ、ありがとう!」
にぱっと笑ったエイミーの頭をぽんぽんと軽く叩くと、二人を残してまずはカジノへと向かった。
-3-
「依頼で1ヶ月か……」
俺の話を聞いたトバイ氏がため息をつく。
「しかしお前さんもお人よしが過ぎねぇか?」
「でかい看板背負って生きてる以上は、お人よしくらいじゃないと面倒なんですよ。妬み嫉みややっかみがね」
「ああ、まぁなぁ……」
トバイ氏が納得したように頷く。
「来月あたりにそろそろお前さんの試合を組もうと思ってたんだけどな」
「まぁ時期的にもそうですしね」
「それもあるがお前さんは新顔だからな、実力がまだ読めなくて賭けが盛り上がるんだ」
ああ、そういう意味。
「ところで次の相手は決まってるんですか?」
「今のところクレアを相手に考えてる」
クレア?どんな相手だっけ。あとでブルさんに聞いてみるか。
「まぁなるべく早く帰ってくるようにしますし、そしたらこっちにも顔出しますよ」
「ああ、頼んだぞ」
トバイ氏の所を後にして、ブルさんを探しに行く。
何人かに聞いて、カジノのバーにいるところを見つけることができた。
「よぉ、ディーゴじゃねぇか」
「やぁブルさん」
挨拶して隣に腰を下ろす。
「急にどうした?仕事か?」
「いや、その逆だ。依頼で1ヶ月ほどこの街を離れることになった」
そう前置きして、ざっと説明をする。
「なるほど、違法奴隷商の後始末か。ご苦労なことだな」
「まぁそれは別にいいんだが、帰ってきたらどうやらクレアってのと試合をすることになるらしい。んで、事前に話を聞いとこうかな、と」
「なるほど。……クレアってのは俗にいう暗器使いでな、目つぶしや場外乱闘なんでもありな娘だ。ルール無用の喧嘩殺法とでもいうのか、それが観客に受けててな、結構ラフな試合を仕掛けてくる。場外でも気を抜かないことだ」
「なるほど。わかった。どうもありがとう」
その後ブルさんと軽く飲んで、カジノを出た。
さて次は領主の所だな。
「わかった。気を付けて行ってこい」
領主の方はあっさりと話が付いた。
「本来なら違法奴隷の被害者は、我々が責任をもって何とかしてやるべきなのだろうがな……」
「まぁ今回は運が良かったですよ。でも対策はしているんですよね?」
「ああ、我が領内では違法奴隷商は極刑だ。しかし奴らはどこからともなく湧いてきて暗躍するからな……。領内の見回りを強化するように言っておこう」
「お願いします。それと、役に立つかはわかりませんが、違法奴隷商から押収した木札を西門の衛視長に預けてあります」
「そうか、わかった」
領主はそう言って頷いた。
「しかし……なんだな、お前も狙われるくらいに顔が売れてきたか」
「あまり有り難くない顔の売れ方ですがねぇ」
「まぁ心配するな、お前が奴隷に落ちたら真っ先に買い戻してやるから」
「その時はよろしくお願いします」
苦笑しながら頭を下げて、領主の館を後にした。
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