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第5章

第3話 依頼の後のあれこれ

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-1-
 黒い虎に振られた後、近くの村に依頼完了の報告に行く。
 相変わらず村の入り口でひと悶着あったが、こちらが豚鬼を倒しに来た冒険者だと討伐証拠の鼻をみせると村の中に入れてもらえた。
 今は村長の家で、村長に結果を報告している。
「ハァ、豚鬼が9匹もおったのですか」
 老境の域に差し掛かった村長は、俺が差し出した豚鬼の鼻を気持ち悪そうに数えるとため息を漏らした。
「村の方には被害は出ていないんですよね?」
「ハァ、ですが行商人の方には可哀そうなことをしました。ワシらがもちっと早く冒険者様に頼んでいれば2人も犠牲にならずに済んだのでしょうが」
「まぁそれはある意味仕方ないかと。犠牲になられた行商人は、こちらで丁重に弔ってください」
「ええ、ええ、それはもう」
 村長が大きくうなずくのを見て話を切り上げることにした。
「じゃあ、俺はこれで。他の村への連絡はそちらでお願いします」
「わかりました。この度はどうもありがとうございました」
「なんの。また何かあるようでしたら、ディーセンの石巨人亭までお願いします」
 最後に軽く宣伝をして、村長の家を辞去した。

「ねぇディーゴ、黒い虎のことは言わなくてもよかったの?」
 村から出ると、イツキが訊ねてきた。
「んー、なんとなくだけどあの虎は人里には迷惑はかけんような気がするんだ。それに、俺たちにとっては助けた相手でも、村人にとっちゃ脅威だからな。そこら辺を突っ込まれると回答に困る」
「ああ……それはそうかもしれないわね」
「それに、万が一、人里に迷惑をかけて討伐されることになっても、それはアイツの自己責任だろ。それに、一度助けた相手だ。何もしてないのに脅威というだけで積極的に狩られるような目にはあってほしくない」
「そうね。でも意外だわ。あんな大きな虎でも、小さなトゲ一本であんなに弱るなんて」
「足にトゲが刺さると全力で走れなくなるからな。狩りで獲物をとってる肉食獣にとっては死活問題だろ。最も俺も、トゲが刺さった肉食獣なんて見たのは初めてだが」
 そんなことを答えながら、これって戦術に利用できんかなと考えたりしていたのはここだけの秘密だ。

-2-
 帰り道、特にトラブルもなくディーセンに帰り付いた俺たちはそのまま石巨人亭に顔を出す。
「そうか、豚鬼が9匹もいたか」
 俺の報告に亭主が頷く。
「まぁ実際に戦ったのは5匹と4匹だから、大したことはなかったけどな」
「上位種はいなかったんだな?豚鬼の戦士とか魔術師とか」
「見た感じいなかったな」
「なら運がよかったな。そのくらいの群れになると、たいてい1匹くらいは上位種が混じってるもんだ」
「ああ、緑小鬼の魔術師みたいなもんか」
 以前戦ったことがあるのを思い出しながら答える。
「そうだ。上位種がいるといないでは、群れの強さが変わってくるからな、そこらへんは注意が必要だ」
「そんなもんかね」
 以前討伐した緑小鬼は大したことなかったが。
「そういや話は変わるが、この辺りで最近黒い虎を見たって報告はないか?」
「黒い虎?いや、ないな。黒い虎がどうかしたのか?」
「いや、豚鬼の集落に現れたんだが、弱ってたんで肉食わせて逃がしたんだ。周辺に被害が出ているなら拙いことしたかなと思ってたんだが」
「ふむ、そういう話は聞いてないな。襲ってくるそぶりは見せなかったんだな?」
「ああ」
「じゃあ気にするな。それはたぶん動物だ。緑小鬼や豚鬼を餌付けしたってんなら問題だが、野生動物の1匹2匹なら問題はなかろう。それに目撃証言がないってことは、人里には近づいてない証拠だしな」
「そうか。ならよかった」
「しかし珍しいな、お前さんが動物に餌付けするなんて。同じ虎ということで親近感がわいたか?」
「それはあるかもな。でも俺は基本的に動物好きだぜ?腹減ってないとき限定だが」
「お前さんの場合はまずは食肉か」
「まぁ基本肉食だからな。ウサギじゃねぇんだ菜っ葉ばっかり食ってられんよ」
「そりゃそうだ」
 そう言って互いに笑いあう。
「じゃあ今回の報酬だな。豚鬼が9匹で半金貨9枚、依頼量が半金貨7枚で計16枚だが……金貨に変えるか?」
「そうだな、金貨1枚と半金貨6枚で頼むわ」
「あいよ」
 亭主が出してきた報酬を受け取り、明日から動ける何か面白い依頼はないかと依頼板を見てみたが、特に琴線に触れるものがなかったので、蜂蜜酒1本を買って店を出た。

 次いで寄ったのは刃物を扱ってる武器屋。
「おやディーゴさんいらっしゃい」
「こんちわ。また下取りなんだが、構わんかな」
 もう何度目かの下取りで、すっかり顔を覚えられたカウンターに腰掛ける。
「ええ、構いませんよ。今回はなんですか?」
「長剣と小剣が一振りずつに、ナイフが2振りだな」
 そう言って品物をカウンターに出す。
「拝見します」
 店員が出された刃物を手に取って調べる。が、大して時間はかからなかった。
「どれも量産品ですね。長剣が銀貨1枚と半銀貨5枚、小剣が半銀貨6枚、ナイフがそれぞれ半銀貨1枚になります。〆て銀貨2枚と半銀貨3枚になります」
「ああ、それで構わんよ」
「では、これが代金になります。どうもありがとうございます」
「あいよ」
 出された銀貨と半銀貨を財布にしまう。
「今回は何かの討伐でしたか?」
 買い取った武器をしまいながら店員が訊ねてくる。
「ん、今回は豚鬼を9匹ほどね」
「そうでしたか。ご苦労様です。ところでディーゴさんは遺跡に興味とかありませんか?」
 遺跡とは古代文明期の遺跡のことで、ディーセン周辺にもちらほらある。
 というか、ディーセンの街そのものが遺跡の上に建っている。
 俺の住んでいる旧市街には下水道が通っているが、それは遺跡のものをそのまま使っているらしい……と聞いたことがある。
 古代ロマンの例にもれず、遺跡には古代人が暮らした痕跡があり財宝なんかもあったりするのだが、それと同時に罠なんかもしかけてあったりするので、今の俺にはちょっと手が出しにくい。
 それ以前に、この辺りの遺跡などとうに掘りつくされて、財宝のざの字も残っていないのだが。
「遺跡ねぇ……興味はあるしうまく行けば一山当てられそうな気はするんだが、手の入ってない遺跡の情報でもあるのか?」
「いえいえ、そういう話は我々にも滅多に廻って来ませんよ。ただ、ディーゴさんくらいになるとそろそろ遺跡の探索も依頼に入ってくるだろうと思いまして」
「うーん、でも今のところそういう依頼はねぇなぁ」
「そうですか。魔法の武器というのは大抵遺跡から出てくるものですから、ディーゴさんがもし手に入れられるような事があれば是非とも当店にと思ったのですが」
「そうか。その時にはよろしく頼むか。でも魔法の武器なんてそうそう売りに出る……もんみたいだな」
 店の中の品ぞろえを見て言い直す。
 棚の下の方は量産品の鉄や鋼の武器だが、上の方はいくつか輝きの違う魔法の武器がかかっている。
「魔法の武器といいましても拾い物ですから、重すぎたり軽すぎたり、戦闘スタイルに合っていなかったりと売りに出される場合も多いのですよ」
「なるほどな」
「ま、そういうわけですので、今後ともどうかご贔屓に」
「わかった」
 ……と頷いてはみたものの、実はもう水精鋼持ってんだよね。
 まぁ実際これで武器を作るのはもうちょっと実力がついてからだが……ゼワンゴの武器屋とこの店と、どっちに頼むかな。

 そんなことを考えながら屋敷に戻ると、ユニが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませディーゴ様。お仕事の方、お疲れ様です」
「おう。ユニもお疲れ。留守中なんかなかったか」
「あ、はい。領主様から使いの方が見えられまして、先日の鱗イタチの報奨といわれて金貨5枚を受け取りました」
「おう」
 意外と早かったな。あとでなんかユニと美味いものでも食いに行くか。
「それと、ミットン診療所のエルトール様から、まそう?の魔法陣の書き出しが終わりましたと書類を受け取ってます」
「お、そうか」
「お金と書類はディーゴ様の自室に置いておきました」
「わかった。他にはないか?」
「いえ、今回はそれだけです。お風呂はこれから用意しますので、ちょっとお待ちいただけますか」
「ああ、構わんよ。用意できたら呼んでくれ」
 自室に戻り、鎧を脱いで平服に着替え、一息つく。
 煙草をくゆらせながら、金貨を数えて小型金庫に放り込み、エルトールが持ってきたという書類に目を通す。
 ……ふむ、全くわからん。
 多分魔法の文字か何かで魔法陣が書かれているのだろうが、それについては門外漢だ。
 眺めたところで規則性のある表記としか見当がつかない。
 よし、明日は魔術師ギルドに顔を出して解読を頼むか。
 それに臨時収入があったから、たまにはユニを労うのもいいな。
 午前中はユニの買い出しに付き合って、一緒に昼飯食って、午後は別行動だな。
 そんなことをつらつらと考えていると、ユニが風呂の用意ができたと呼びに来た。
 久しぶりの風呂につかり、汚れと疲れを洗い流す。
 ああ、やっぱり風呂は気持ちいいわ。
 湯船の中で自前の毛皮をわしわしと掻くと、毛皮の中に紛れ込んでいた小さなごみや虫、抜け毛が浮いてくる。
 お湯が汚れるからあまり褒められた行為じゃねぇんだが、ま、自宅の風呂だしな。
 共同浴場じゃやらんよ。
 でもおっかしいなー、ちゃんと服は着てるのにどこで紛れ込んでくるんだろうな?やっぱ野宿のときか?
 久しぶりの風呂ということで、たっぷり長湯をして風呂から上がると、ユニが夕食の用意ができていると呼びに来た。
 オクラとひよこ豆の煮込みや、ズッキーニのチーズ焼き、ピーマンの詰め物などが並んでいる。
 全体的に野菜多めなのは、旅の間は肉メインの食事が続いていた俺の体への気遣いだそうだ。
 確かに旅の間は、干し肉焼肉生肉がメインだからなー。
 旅の後は野菜が食いたいと思っていたので、この配慮はありがたい。
 ユニといつの間にか姿を現したイツキと3人でユニの手料理を堪能しながら、明日の予定を伝える。
 明日の午前中は一緒に行動すると聞いて、なんとなくユニが嬉しそうなのは気のせいか。
 ちなみにイツキは庭で蜂蜜酒を飲みつつ日向ぼっこの予定らしい。いい身分だなこんにゃろう。
 食後のまったりした時間を過ごし、床に入る。
 さて明日は何か面白い買い物ができるかね……。
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