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第2章

第6話 村での初日

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-1-
 それから村長に連れられて、空いているという家を見に行った。
 村長が加わって6人になった一行の後を、手空きの村人たちがぞろぞろとついてくる。
「こちらがその家になります」
 と、村長が指示したのはやっぱり土壁藁葺の小屋だった。
 扉を開けて中に入るとちょっと埃っぽい。そして暗い。
 間取りは大部屋一つと小部屋一つの二間だけ。
 1泊だけならまぁいいとしても、ここで2~3年寝起きするとなると3人暮らしではちと狭い気がする。
 というか、壁が結構ボロボロじゃね?ひび入ってるし。
「少し手直しが必要ですが、まぁこんなものでしょう」
 エレクィル爺さんが納得したように頷く。つーかこれでいいの?不満ないの?
(これが一般的な小作農の住居なんですよ、ディーゴさん)
 察したハプテス爺さんが小声で話しかけてくる。でも俺はもう一部屋二部屋は欲しいんだが。
「ではこれから手直しの人出を手配して……」
「ちょっと待った」
 話し出した村長にストップをかける。
「なにか?」
「俺、手直し、できる。人手、必要ない」
「おお、そういえばディーゴさんは魔法が使えるんでしたな」
 さっき壁の隅っこの穴をこっそり塞いでみたから、藁交じりの土も魔法で何とかできるのは分かった。
 今日から住むのにいちいち人手を手配して修理なんてやってられんしね。
「それと、部屋、増やしたい。大丈夫か?」
「ええ、魔法が使えるのでしたら特に問題はありません」
「なら、今のうちに」
「ちょ、ちょっとディーゴさん」
 こんどはエレクィル爺さんからストップがかかった。
「まだ時間はございます。とりあえずは大きな皹だけ直して、畑を見に行くのはいかがでしょう」
「そうだった。了解」
 外に出て壁面に走っていた罅を魔法で塞ぐと、村人たちの間から小さなざわめきが漏れた。
 そしてその後は村長に率いられて畑を見に行く。
 なんか後ろから、魔法だ魔法だとささやき声が聞こえるんだが、そんな珍しいか?珍しいんだろうなぁ、農村では。
 んで、割と離れたところに畑があるんだが……広いのか狭いのか見当がつかない。
 農業は完全に門外漢だからなぁ。
「本格的な移住ではなくて、2~3年という期限付きの移住でしたらこの程度の広さが妥当」と村長に言われたのでとりあえず頷いとく。
 エレクィル爺さんもハプテス爺さんも畑の広さに関しては何ともコメントのしようがないみたいだった。
 ただ歩いてみて分かったのだが、雑草生え放題だし土にそこそこ小石が混じってる。
 耕作放棄地とはいえ結構長いこと放置されていたっぽいな。
 こりゃー小石集めから始めなきゃならんのかとちょっと気が重くなった。
 試しに小石が1か所に集まらないもんかと意識を集中してみたら、その通りになった。
 なんだ、これも魔法でできるのか。
 これなら作業も楽になるな。
 そんなことを考えていると、村長に呼ばれた。
「ディーゴさんでしたな、失礼ながら農業の経験はおありですかな?」
 小学校の時の学級栽培でサツマイモ植えたくらいかのぅ。それすら、芋を植えたか苗を植えたかも覚えてないが。
 無論そんなことを説明してもわかってもらえないと思ったので「残念ながら、全然、ない」と答える。
「なるほどなるほど。でしたら作付の内容とかもこちらで決めてしまっても構いませんかな?」
「全部、任せる」
「わかりました。先にも言いましたがこの時期、小麦はもう済んでましてな、ディーゴさんの畑には大麦と芋と豆を主に植えてもらおうかと考えとります」
「とりあえず、畑の小石と雑草を取っておいてくだされ。それがすみましたら耕し方の説明をしますでな」
「わかった」
 その後、簡単な打ち合わせをして解散となった。

-2-
 さて、村長のほうは話は終わったんだが……さっきから遠巻きに眺めている村人らにも話を聞いてみるか。
「何か、御用ですかな?」
 エレクィル爺さんが人のいい笑顔で尋ねる。
「まぁ用ってほどじゃねぇんだが、あんたら、移住希望かい?」
「ええ、2~3年の間ですが、御厄介になろうかと考えてます。村長さんには先ほど許可をもらいましたでな」
 代表して聞いてきた村人に、エレクィル爺さんが答える。
「といってもワシらは付き添いみたいなもんでしてな、農作業は主にこちらのディーゴさんがやることになります」
「ディーゴです、よろしく」
「お、おう。俺はサンバルってんだ。よろしくな」
 こちらの挨拶に気圧されたように、サンバルと名乗った男が頷いた。
「でだ、いきなりで悪いんだが、あんた、魔法使いかい?」
「土と、木の魔法、少し使える」
「そうかい。……初対面でこんなこと頼むのも気が引けんだが、その魔法とやらで俺たちの家も直しちゃくれねぇかな?」
 どうする? てな感じでエレクィル爺さんがこちらを見てきたので頷く。
「一度には、無理、だと思う。一軒ずつ、直すのでいいなら」
 俺の回答に、村人たちの間から歓声が上がる。
「サンバルさんや、私たちは今日来たばかりでまだ荷解きもしてない状態でしてな、明日からで良ければ順次伺うというのでいかがでしょう?」
「ああ、それで構わねぇよ。明日の昼ぐれぇに迎えに行きゃいいかい?」
「そうですな。その程度ならばこちらも落ち着いていることでしょう。よろしくお願いしますよ」
「なに、よろしく頼むのはこっちのほうだ。じゃあ、また明日な」
 サンバルがそういうと、村人たちは散っていった。
「良かったのですかな?ディーゴさん」
 ハプテス爺さんが何か言いたげに訊ねてくる。
「俺たち、農業、知らない。村人の、手助け、きっと必要」
「そうですな。2~3年の間とはいえ隣人と仲良くしておくに越したことはありませんからな」
 エレクィル爺さんが頷く。
「畑のほうはどうします?」
「午前中に畑仕事をして、午後から家の補修に回るようにしましょうかな。まさか1日中家の補修をしてくれなどと無茶は言いますまい」
「では、さっそく荷を解くとしましょうか」
 ハプテス爺さんの言葉に頷いて、小屋に戻る。
 荷解きをするといっても、用意されてたのは箪笥とエレクィル爺さんとハプテス爺さんの着替え、寝具、台所用品の他、数日分の食料程度なもので、5人がかりで掃除と荷解きしたら2時間程度で終わってしまった。
「しかし持ってくるものは最低限に抑えたものの、やはり3人でこの小屋はやや手狭ですな」
「じゃあ、部屋、増やす」
「お願いできますかな、ディーゴさん」
「大部屋、一つ、増やす」
 外に出て、土魔法を発動させる。ずももも……と土が動き、大部屋が出来上がった。
 ちなみに屋根は軽い草葺だ。
 他の一般的な農家に合わせてみた。
 この部屋はそうだな……居間にしようか。
「これが魔法ですか。初めて見ましたが、便利なものですね」
 カニャードが感心したようにつぶやく。出来上がった壁を触って強度なども確認している。
「ディーセンの街でも、魔法使い、少ないか?」
「少ないですね。それにほとんどが冒険者だったり研究者気質といいますか……あまりこういう場面で魔法を使ったりはしてくれないんですよ」
「なるほど」
 せっかく便利なのにもったいないことで。
「この部屋は何に使いますか?」
「とりあえず、居間にして、使う」
「寝室ではないのですか?」
「当面は、竈の近く、寝室にする。夜寝る、温かい」
「なるほど、そういう理由ですか」
 寒さのピークは過ぎたとはいえ朝晩はまだ冷え込むからね。
「もういい時間ですし、カニャードたちは戻ってくれて結構ですよ」
 空を見上げてエレクィル爺さんが若い二人に話しかける。まだ明るいとはいえ、帰路を考えると確かにカニャード達はそろそろ街に帰ったほうがいいだろう。
「そうですね。ではこれで引き揚げますが、ディーゴさん、父とハプテスさんをよろしくお願いします」
「大丈夫。むしろ、俺、世話になる」
「ははは、そうかもしれませんが父たちももういい年です。無理をしないように見張っててくださいな」
「そういうことなら、引き受けた」
 俺がそう頷くと、カニャード達は街へと帰っていった。

-3-
 カニャード達が帰った後、少し時間が余ったので言葉の勉強をすることにした。
 と、その前に、だ。
「エレクィルさん、これ、貸しておく」
 財布から土の精霊石を出してエレクィル爺さんに渡す。
「なんですかな、これは?」
「土の、精霊石。それを持ってると、簡単な、土魔法、使える。あと、念話、使える」
「まことですか?」
「本当。それを持って、土に、念じる。魔法、なる。あと思うこと、念話、なる」
《というわけで、聞こえますかい?エレクィルさん》
「お、おお。頭の中に言葉が入ってきますな。これが念話というものですか」
「ですがこのような貴重なもの、よろしいので?」
「二人、から、言葉、習う。念話、使えない、不便」
「それはそうですが、これを私どもが借りるとなると、ディーゴさんが土魔法が使えなくなるのでは?」
 うん。それは俺も心配したんだが、前にこっそり試したところ精霊石なしでもなんとかなったのよね。
「問題ない。土魔法、コツ、覚えた。精霊石、ない、魔法、使える」
「左様ですか。では大切に預からせていただきますでな」
「うん。よろしく」
「大旦那さま、実際に魔法が使えるか試してみてはいかがですか?」
「……だそうですが、ディーゴさん構いませんかな?」
「大丈夫。使い減り、しない。実際、何ができる、できない、試す、いい」
 そういって頷くと、3人でぞろぞろと外に出てエレクィル爺さんの魔法を見物した。
 小石を打ち出したり土の壁を作ったりと、なんかどこかで見たような光景を微笑ましく見物させてもらった。
「エレクィルさん、注意。魔法、使いすぎる、体調、悪くなる」
「おお、そういうものですか。いやはや面白くてつい夢中になってしまいました」
「しかしなんですな。この歳になって魔法が使えるなんて、年甲斐もなくワクワクしますな」
 だよねー。
 俺も初めて魔法が使えたときにはいろいろやったもんな。
「ただ、この精霊石は村の衆には秘密にしておいたほうがよさそうですな」
 あー、やっぱり?
「然り。これだけ便利な品物ですからな、よからぬ考えを抱くものが出てこないとも限りませんでな」
 ハプテス爺さんもうなずく。
「じゃあ、エレクィルさん、魔法、こっそり使う」
「残念ですがそういたしましょうかな」
「では、いい頃合いですしそろそろ夕食にしましょうか」
 ハプテス爺さんの言葉で、ぞろぞろと村に1軒しかない居酒屋へと向かった。
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