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第八章『最後の晩餐と安土饗応』

36 『信長、最期の歌』(1)

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「――では、信長様の一句を信忠様!」と連歌会会場である威徳院西坊住職・行佑。

「――と、その前に光秀殿に、信長様の句の直前に詠む為に用意してた――

――“あの句”を」と里村紹巴。

「うむでは、


――『 朝霞 薄きがうへに 重なりて 』」


と、朗々と歌を詠みあげる明智光秀。


光秀のこの一句は、前述した通り――

『この光秀の句の後に、信長様の句がきて合わさり――

一首となります』。

そう、信長の句が届いたら、その前に詠って――

後に続く信長の句と合わせて一首にする為に、前もって用意されたものである。


そして、「さら、さら、さら」と光秀の句の前に詠まれた句とも、当然光秀の句と合わせて問題なく一首となるように、紹巴がすぐ懐紙を書き換えている。

「よし、これで自然な連歌の流れになりましたね」

つまり、後世の人が百韻連歌を書き写した懐紙を見ても、何も違和感がないように修正したのである。


「――はい、準備ができましたね」と紹巴は言うと、

突然佇まいを正し、きちっと正座をする。

そしておもむろに赤い布に覆われた細長い物を、恭しく前におく。

「いよいよ、儀式の始まりですじゃ」

その赤い布に覆われた物の中身を知っている光秀。

「では」紹巴は、ゆっくりと赤い布をどけていくと……

中から、和歌を書くための細長い色紙が出てきた。


……しかし、その色紙には何も書かれていない。


――ここまで読んで、「また作者さん、ようやく伏線回収したな!」とお気付きの方、ありがとうございます!


そうです、この何も書かれていない色紙、あの信長と光秀の今生の別れである『安土饗応』のシーンで、

織田信長が徳川家康饗応の場で、

「お前のしようとしてることを、早くせよ!」と、明智光秀に渡したあの色紙なのです!


そしてこれを受けた光秀が、安土城の自らの邸宅で、

『信長の覚悟』を思ってひとしきり涙したあと――

この色紙を早馬で紹巴に渡した日から、十日後に『愛宕百韻』――

そう、信長による『天下創世の儀式』を執り行う段取りになっていたのである。(そして、その三日後に『本能寺の“儀式”』を執り行う段取りになっている。)


――そしてその『天下創世の儀式』の日のために、紹巴ら参加者みなが万端の用意をして、この日を向かえたのである。


「……では、父上の歌を、

不肖な息子である私ですが――

慎んで詠み上げさせて頂きます!」


信忠が、おもむろに懐から手紙を出す。

「お願い致します」と紹巴が恭しく色紙を、佇まいを正した信忠に渡す。

「はい、師匠」

信忠は頷くと、ゆっくりと信長の歌を色紙に書き写していく――



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