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幼馴染
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「…なんで、俺ら恋人も作らねぇでこんなことしてるんだ」
「…そりゃ、私たちがモテないってだけで、バレンタインもホワイトデーも何も予定無かったからでしょ。」
「嘘つけ、お前モテるだろ。聞いたぞー、甘いものアレルギーとか言って全部お返し断ってた話し」
「え、なんでもう知ってるんー!?噂流れるの早くねー?ビビるわーまじ。てかまぁ、実際甘いのよりビターな方が好きなのでねー、あながち間違ってはない。」
「ま、昔からそうだったな…お前は」
「よくお分かりで」
いつもと変わらない部屋
いつもと変わらない時間の流れ
そして、いつもと同じように
俺はこいつの部屋でのんびり漫画を読んでいた。
背中合わせで各々したいことをする。
この背中合わせで過ごすこの時間は、小学生の頃から変わらないいつもの出来事。
2人でのんびり時間を過ごすとなれば、これ以外の体勢はないと言わんばかりにこうしていた。
ぺらぺらとめくる漫画の音
カチカチと時間の流れを知らせる時計の音
そして、すーっ…と、微かに聞こえる遥香の呼吸音
一見、まるで恋人のような時間の過ごし方をしているが
俺たちはそういう関係ではない。
なんも変哲もない
ただの仲のいい幼馴染なのである。
「…達也の読んでる漫画、今どのシーン?」
背中の向こうで携帯とにらめっこしていた遥香が眠そうな声で話しかけてくる。
「あー…今ちょうど幼馴染の女の子が主人公に告白してるシーンやな。」
「…あー…あのシーンね…ふーん。そっか」
話の内容なんてどうでもいいような口調
でも、何かしらの意味を含んでそうにも聞こえるこの話し方。
しかし、それはいつもの遥香の話し方であり、普段と何も変わらないいつものことなのである。
…今日がクリスマスだろうがバレンタインだろうがホワイトデーだろうが
いつもと何も違わない。
大切な幼馴染と過ごす時間は、どんな状況であっても何も変わらないはずなのだ。
「その後幼馴染ちゃん1回振られるんだけど、諦めずに告白して結ばれるんよなぁ」
「ネタバレやめろよ」
「達也はネタバレ大丈夫な人やろ?」
「率先してネタバレ受けたいってわけじゃないんやが」
「まぁまぁ、いいじゃないかー」
「よくねぇよ」
ケラケラと聞こえる笑い声
それに合わせて小刻みに揺れる身体
その笑いにつられて、自然と自分まで笑ってしまう。
「…まぁでもさ、漫画の中の幼馴染って…なんていうか…フィクション感強すぎるよね」
笑い終えた遥香は
いつも通り落ち着いた声で話し始める。
「…いや、そりゃ漫画なんやからフィクション感あるのは当たり前だろ」
「いやいや、そういう話じゃなくて…漫画もそうやし映画だってそう、幼馴染のくせにいい恋愛してるじゃん?」
「…幼馴染のくせにって…まぁええわ、何が言いたいんや?」
「だって、私たちはこんなに昔からずっといるんだよー?生まれた時から親が仲良し、幼稚園から高校生に至るまで全部同じ。なのに恋愛的な進展とか雰囲気とか…なーんにもないじゃん」
「…まぁ、そりゃあれやん。漫画の幼馴染って、俺らほどずっとくっついてる訳じゃないやん?家族感が俺らより無いんよ」
よく見る作品の幼馴染は、明らかに相手を異性として意識している。
昔からずっと好きだった。
相手が自分のことを好きなんだ。
そんな感情を表に出しまくっているのである。
それに比べて俺らはどうだろうか
恋愛的な感情?
好き?嫌い?
そんな恋愛チックな感情はもう湧いてはいない。
とっくの昔にそんなものは消え去っている。
お互いがお互いを信頼しあい
人として好いているから
安心できるからそばにいる
ただそれだけの事なのだ。
「…ふーーんそっか、なるほどね。まぁ実際…ここまでベッタリしてる幼馴染から恋人なんて…ほぼほぼありえないよねぇ…」
何故か小さくため息を零す遥香
俺は、そんな遥香の話を聞き流し漫画に集中する。
「…あれだよねぇ、いい所も悪いところも全部知ってるわけやしさー…小6くらいまで一緒にお風呂入ってたし、なんなら中学まで一緒の布団で寝るとかもあったくらいの仲やもんなぁ。そりゃ何も進まんかー」
「…まぁな」
「お互いのほくろの数から寝相の癖…てか、達也はおしりに痣あったよねぇ」
「おいそれを掘り下げるな」
「めんどくさい女がいるから彼女役になれーとか言って演じさせられたりもあったなぁ…」
「そんなこともあったな」
「ほんと、なんで私たち付き合わないんだろうねぇ」
「…なー、ほんとなんでやろうな」
ペラリ…
部屋に響く漫画をめくる音
そして、定期的に聞こえてくる時計の針の音
そして、さっきと変わらず静かに呼吸をする遥香の音
それに加えて
何故だろうか
一瞬自分の心臓の鼓動が早くなったのを感じた。
「…今漫画どんな感じ?」
ガバッ
突然、背中に感じていた重みが消えたと思いきや
改めて違う形で体全体に重みがのしかかってくる。
それは、遥香が後ろから抱きついてきた
ただそれだけの事だった。
「うぉっ…急に辞めてくれ、重いわ」
「女の子に重いって言うのは失礼やな」
「はいはい…ま、俺からしたらお前は女じゃないけどな」
「私も達也のこと男とは思ってないけどね」
「はいはい」
ペラリ…
ペラリ…
さっきまで1人で楽しんでた幼馴染と主人公のやり取りを
今度は2人でめくっていく。
「…ちょっとページ進めるのはやすぎ」
「いいやん、お前もう何回もこの漫画読んだんやろ?」
「見返す時もじっくり見るのが私なんですー」
「そーですかい。なら俺が読んでない時にじっくり読んでください」
「はーー?ばーかばーか」
「はいはい、馬鹿ですよーだ。」
見なくてもわかるが
多分
今こいつムッとした顔してるんだろうな
長い時間を共にしたからこそ見なくてもわかるこの感じ
俺はその感覚にも浸りながら話を楽しむ。
「あっ」
すると、読んでいた漫画に進展が現れた。
「…キスしたね」
「したねって、お前どうなるか知ってたやん」
「いや知ってたけどさ?このシーン大好きだから、毎回初めて見ること同じくらいの気持ちで読んでるわけよ」
「ふーん。そっか」
「聞いた割には反応薄くなーい?」
「いつもの事やん」
「そうでした。」
ペラリ…
またひとつページを進めていく。
『ずっと一緒にいたけど…やっぱり俺…』
『私も…ずっと一緒がいい』
『『…大好き』』
再び熱いキスを交わす漫画に、何故か少し頬が熱くなる。
普段マンガを読むだけじゃこんなことにはならないはずなのに
なぜだかまた、鼓動が早くなってきてしまっていた。
「…な、なんか…2人で読むと恥ずかしいね…これ」
「…そやな」
「…」
「…」
漫画をめくる音はなくなり、キスシーンで止まるストーリー
そして、残る音は進む時間を知らせる音と
遥香から聞こえる静かな呼吸音
しかし、それに加え遥香から聞こえる
ドッドッドッ…という、普段では聞こえることの無い激しい心臓の音が聞こえてくる。
「…お前、なんかドキドキしてねぇか?」
「…べ、別に?」
「おいおい、こんだけずっと一緒にいるのによ…俺に嘘は通じねぇからなー?普段より今は絶対ドキドキしてる」
「……………う…うん」
「ほーら」
「そんなこと言ったら達也だって普段よりドキドキしてるじゃん!こっちにも聞こえてきてるからね!」
「うっ…」
「…」
「…」
意識をそらすために…ページめくろうと漫画の端に手を伸ばす
しかし、その瞬間
その手は遥香によって止められる。
「…このシーン、もっと見てたい」
「…なんで」
「…このシーンが一番好きだから」
「…でも恥ずかしいって言ってたよな?先も気になるしページめくりたいんやが…」
「いいの…お願い」
「…………ん」
時間が経つにつれ、どんどん早くなっていく鼓動
それは俺だけでなく遥香の心臓の音まで早くなっていく。
…それと同時に
俺はこの漫画の2人を、自分と遥香との関係に重ねていってしまう。
「…」
「…」
横目に遥香の顔を見ると
そこには真っ赤に頬を染め
俺の顔をそっと見つめている姿が見えた。
「…なに」
「…べ、別に」
「…そう」
「…うん」
さっきまでは普通に見れた顔も
何故かどんどん見れなくなっていく。
それどころか、漫画にも目を落とせなくなってしまう。
「…た、達也」
「…なんよ」
「……」
ん…っ
熱くなった顔のまま
声のする遥香の方を見る
そこには、軽く目を閉じて
そっと唇を捧げ震えている姿があった。
「…はぁ!?おま!なにしてって…うお、おっととお!うわぁ!!」
それを見た俺は、少しづつ顔が近づいてくる遥香を振り払おうと動く。
しかし…
遥香は抱きついていたこともあり、体制が崩れた勢いで床に倒れ込んでしまう。
そして、俺はいつの間にか
遥香を押し倒すような体制をとってしまっていた。
「…積極的じゃん」
「…態勢崩しただけだから勘違いすんな。ほら、早く起き上がr」
「やだ…だめ…」
起き上がろうとする俺を遥香は腕を回し抱きしめてくる。
抱きしめられて距離に隙間のなくなった俺に、ダイレクトに遥香の鼓動と震える呼吸の音が聞こえてくる。
そして、俺はそれ以外の音は何も聞こえなくなっていた。
「…まだ私たち、ずっと一緒にいたけどしてないことあるよね」
「…なんよ」
「…………キス」
抱きしめられた状態で囁かれるその二文字の言葉は少し震えている。
しかし、それ以上に…強く抱きしめるその体は震えていた。
しばらくして抱きしめる腕の力が抜け、軽く距離をとる。
押し倒されて俺を見つめる遥香は
何故か普段より色っぽく見えた。
「俺ら付き合ってないんだぞ?」
「何子どもみたいなこと言ってんの…別に大人ならよくあることでしょ」
「俺…誰とも付き合ったことないし、初キスが恋人じゃないのって…嫌なんだけど」
「はぁ…もう」
うるさい。こういう時はキスしとけバーカ
頭に手を回され、強引に引き寄せられる。
そして、俺はそれに抗うことはなく
唇同士を重ね合わした。
普段通り流れるはずの時間はなぜだかいつもより遅い。
しかし、それ以上に普段無意識に押えていた彼女への感情が心の底から溢れていく。
短かったのか長かったのか
キスをしていた時間はハッキリとは分からない。
満足した頃にお互い唇を離し
目を見ながら話を進めていく。
「…頭掴むなし…てか、俺の初キス…」
「良かったじゃん。変な女に奪われなくて」
「お前も十分に変な女やろ…」
「うっさい、お前には私くらいの女がぴったりなの」
「…」
「…」
「「…ずっと大好きだったよ。バーカ」」
そう言葉を残し、再び唇を重ね合い
本来もっと前から伝え合うべきだった愛情を交わす。
それは
これまでほとんど進展のなかったこの物語が
数十年ぶりに動き始めた瞬間だった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
無意識に押さえ込まれていた異性としての好意と想い
それは、普通の恋人でも幼馴染でも本来は変わらない。
ただその想いを、伝えるきっかけと雰囲気が出来やすいかできにくいか…
ただそれだけの事なのである。
その後、この二人の関係が続いたのか続かなかったのかは…
誰も知らない。
「…そりゃ、私たちがモテないってだけで、バレンタインもホワイトデーも何も予定無かったからでしょ。」
「嘘つけ、お前モテるだろ。聞いたぞー、甘いものアレルギーとか言って全部お返し断ってた話し」
「え、なんでもう知ってるんー!?噂流れるの早くねー?ビビるわーまじ。てかまぁ、実際甘いのよりビターな方が好きなのでねー、あながち間違ってはない。」
「ま、昔からそうだったな…お前は」
「よくお分かりで」
いつもと変わらない部屋
いつもと変わらない時間の流れ
そして、いつもと同じように
俺はこいつの部屋でのんびり漫画を読んでいた。
背中合わせで各々したいことをする。
この背中合わせで過ごすこの時間は、小学生の頃から変わらないいつもの出来事。
2人でのんびり時間を過ごすとなれば、これ以外の体勢はないと言わんばかりにこうしていた。
ぺらぺらとめくる漫画の音
カチカチと時間の流れを知らせる時計の音
そして、すーっ…と、微かに聞こえる遥香の呼吸音
一見、まるで恋人のような時間の過ごし方をしているが
俺たちはそういう関係ではない。
なんも変哲もない
ただの仲のいい幼馴染なのである。
「…達也の読んでる漫画、今どのシーン?」
背中の向こうで携帯とにらめっこしていた遥香が眠そうな声で話しかけてくる。
「あー…今ちょうど幼馴染の女の子が主人公に告白してるシーンやな。」
「…あー…あのシーンね…ふーん。そっか」
話の内容なんてどうでもいいような口調
でも、何かしらの意味を含んでそうにも聞こえるこの話し方。
しかし、それはいつもの遥香の話し方であり、普段と何も変わらないいつものことなのである。
…今日がクリスマスだろうがバレンタインだろうがホワイトデーだろうが
いつもと何も違わない。
大切な幼馴染と過ごす時間は、どんな状況であっても何も変わらないはずなのだ。
「その後幼馴染ちゃん1回振られるんだけど、諦めずに告白して結ばれるんよなぁ」
「ネタバレやめろよ」
「達也はネタバレ大丈夫な人やろ?」
「率先してネタバレ受けたいってわけじゃないんやが」
「まぁまぁ、いいじゃないかー」
「よくねぇよ」
ケラケラと聞こえる笑い声
それに合わせて小刻みに揺れる身体
その笑いにつられて、自然と自分まで笑ってしまう。
「…まぁでもさ、漫画の中の幼馴染って…なんていうか…フィクション感強すぎるよね」
笑い終えた遥香は
いつも通り落ち着いた声で話し始める。
「…いや、そりゃ漫画なんやからフィクション感あるのは当たり前だろ」
「いやいや、そういう話じゃなくて…漫画もそうやし映画だってそう、幼馴染のくせにいい恋愛してるじゃん?」
「…幼馴染のくせにって…まぁええわ、何が言いたいんや?」
「だって、私たちはこんなに昔からずっといるんだよー?生まれた時から親が仲良し、幼稚園から高校生に至るまで全部同じ。なのに恋愛的な進展とか雰囲気とか…なーんにもないじゃん」
「…まぁ、そりゃあれやん。漫画の幼馴染って、俺らほどずっとくっついてる訳じゃないやん?家族感が俺らより無いんよ」
よく見る作品の幼馴染は、明らかに相手を異性として意識している。
昔からずっと好きだった。
相手が自分のことを好きなんだ。
そんな感情を表に出しまくっているのである。
それに比べて俺らはどうだろうか
恋愛的な感情?
好き?嫌い?
そんな恋愛チックな感情はもう湧いてはいない。
とっくの昔にそんなものは消え去っている。
お互いがお互いを信頼しあい
人として好いているから
安心できるからそばにいる
ただそれだけの事なのだ。
「…ふーーんそっか、なるほどね。まぁ実際…ここまでベッタリしてる幼馴染から恋人なんて…ほぼほぼありえないよねぇ…」
何故か小さくため息を零す遥香
俺は、そんな遥香の話を聞き流し漫画に集中する。
「…あれだよねぇ、いい所も悪いところも全部知ってるわけやしさー…小6くらいまで一緒にお風呂入ってたし、なんなら中学まで一緒の布団で寝るとかもあったくらいの仲やもんなぁ。そりゃ何も進まんかー」
「…まぁな」
「お互いのほくろの数から寝相の癖…てか、達也はおしりに痣あったよねぇ」
「おいそれを掘り下げるな」
「めんどくさい女がいるから彼女役になれーとか言って演じさせられたりもあったなぁ…」
「そんなこともあったな」
「ほんと、なんで私たち付き合わないんだろうねぇ」
「…なー、ほんとなんでやろうな」
ペラリ…
部屋に響く漫画をめくる音
そして、定期的に聞こえてくる時計の針の音
そして、さっきと変わらず静かに呼吸をする遥香の音
それに加えて
何故だろうか
一瞬自分の心臓の鼓動が早くなったのを感じた。
「…今漫画どんな感じ?」
ガバッ
突然、背中に感じていた重みが消えたと思いきや
改めて違う形で体全体に重みがのしかかってくる。
それは、遥香が後ろから抱きついてきた
ただそれだけの事だった。
「うぉっ…急に辞めてくれ、重いわ」
「女の子に重いって言うのは失礼やな」
「はいはい…ま、俺からしたらお前は女じゃないけどな」
「私も達也のこと男とは思ってないけどね」
「はいはい」
ペラリ…
ペラリ…
さっきまで1人で楽しんでた幼馴染と主人公のやり取りを
今度は2人でめくっていく。
「…ちょっとページ進めるのはやすぎ」
「いいやん、お前もう何回もこの漫画読んだんやろ?」
「見返す時もじっくり見るのが私なんですー」
「そーですかい。なら俺が読んでない時にじっくり読んでください」
「はーー?ばーかばーか」
「はいはい、馬鹿ですよーだ。」
見なくてもわかるが
多分
今こいつムッとした顔してるんだろうな
長い時間を共にしたからこそ見なくてもわかるこの感じ
俺はその感覚にも浸りながら話を楽しむ。
「あっ」
すると、読んでいた漫画に進展が現れた。
「…キスしたね」
「したねって、お前どうなるか知ってたやん」
「いや知ってたけどさ?このシーン大好きだから、毎回初めて見ること同じくらいの気持ちで読んでるわけよ」
「ふーん。そっか」
「聞いた割には反応薄くなーい?」
「いつもの事やん」
「そうでした。」
ペラリ…
またひとつページを進めていく。
『ずっと一緒にいたけど…やっぱり俺…』
『私も…ずっと一緒がいい』
『『…大好き』』
再び熱いキスを交わす漫画に、何故か少し頬が熱くなる。
普段マンガを読むだけじゃこんなことにはならないはずなのに
なぜだかまた、鼓動が早くなってきてしまっていた。
「…な、なんか…2人で読むと恥ずかしいね…これ」
「…そやな」
「…」
「…」
漫画をめくる音はなくなり、キスシーンで止まるストーリー
そして、残る音は進む時間を知らせる音と
遥香から聞こえる静かな呼吸音
しかし、それに加え遥香から聞こえる
ドッドッドッ…という、普段では聞こえることの無い激しい心臓の音が聞こえてくる。
「…お前、なんかドキドキしてねぇか?」
「…べ、別に?」
「おいおい、こんだけずっと一緒にいるのによ…俺に嘘は通じねぇからなー?普段より今は絶対ドキドキしてる」
「……………う…うん」
「ほーら」
「そんなこと言ったら達也だって普段よりドキドキしてるじゃん!こっちにも聞こえてきてるからね!」
「うっ…」
「…」
「…」
意識をそらすために…ページめくろうと漫画の端に手を伸ばす
しかし、その瞬間
その手は遥香によって止められる。
「…このシーン、もっと見てたい」
「…なんで」
「…このシーンが一番好きだから」
「…でも恥ずかしいって言ってたよな?先も気になるしページめくりたいんやが…」
「いいの…お願い」
「…………ん」
時間が経つにつれ、どんどん早くなっていく鼓動
それは俺だけでなく遥香の心臓の音まで早くなっていく。
…それと同時に
俺はこの漫画の2人を、自分と遥香との関係に重ねていってしまう。
「…」
「…」
横目に遥香の顔を見ると
そこには真っ赤に頬を染め
俺の顔をそっと見つめている姿が見えた。
「…なに」
「…べ、別に」
「…そう」
「…うん」
さっきまでは普通に見れた顔も
何故かどんどん見れなくなっていく。
それどころか、漫画にも目を落とせなくなってしまう。
「…た、達也」
「…なんよ」
「……」
ん…っ
熱くなった顔のまま
声のする遥香の方を見る
そこには、軽く目を閉じて
そっと唇を捧げ震えている姿があった。
「…はぁ!?おま!なにしてって…うお、おっととお!うわぁ!!」
それを見た俺は、少しづつ顔が近づいてくる遥香を振り払おうと動く。
しかし…
遥香は抱きついていたこともあり、体制が崩れた勢いで床に倒れ込んでしまう。
そして、俺はいつの間にか
遥香を押し倒すような体制をとってしまっていた。
「…積極的じゃん」
「…態勢崩しただけだから勘違いすんな。ほら、早く起き上がr」
「やだ…だめ…」
起き上がろうとする俺を遥香は腕を回し抱きしめてくる。
抱きしめられて距離に隙間のなくなった俺に、ダイレクトに遥香の鼓動と震える呼吸の音が聞こえてくる。
そして、俺はそれ以外の音は何も聞こえなくなっていた。
「…まだ私たち、ずっと一緒にいたけどしてないことあるよね」
「…なんよ」
「…………キス」
抱きしめられた状態で囁かれるその二文字の言葉は少し震えている。
しかし、それ以上に…強く抱きしめるその体は震えていた。
しばらくして抱きしめる腕の力が抜け、軽く距離をとる。
押し倒されて俺を見つめる遥香は
何故か普段より色っぽく見えた。
「俺ら付き合ってないんだぞ?」
「何子どもみたいなこと言ってんの…別に大人ならよくあることでしょ」
「俺…誰とも付き合ったことないし、初キスが恋人じゃないのって…嫌なんだけど」
「はぁ…もう」
うるさい。こういう時はキスしとけバーカ
頭に手を回され、強引に引き寄せられる。
そして、俺はそれに抗うことはなく
唇同士を重ね合わした。
普段通り流れるはずの時間はなぜだかいつもより遅い。
しかし、それ以上に普段無意識に押えていた彼女への感情が心の底から溢れていく。
短かったのか長かったのか
キスをしていた時間はハッキリとは分からない。
満足した頃にお互い唇を離し
目を見ながら話を進めていく。
「…頭掴むなし…てか、俺の初キス…」
「良かったじゃん。変な女に奪われなくて」
「お前も十分に変な女やろ…」
「うっさい、お前には私くらいの女がぴったりなの」
「…」
「…」
「「…ずっと大好きだったよ。バーカ」」
そう言葉を残し、再び唇を重ね合い
本来もっと前から伝え合うべきだった愛情を交わす。
それは
これまでほとんど進展のなかったこの物語が
数十年ぶりに動き始めた瞬間だった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
無意識に押さえ込まれていた異性としての好意と想い
それは、普通の恋人でも幼馴染でも本来は変わらない。
ただその想いを、伝えるきっかけと雰囲気が出来やすいかできにくいか…
ただそれだけの事なのである。
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