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鈍感なあなたへ
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「…それじゃ、お互い頑張ろうね」
「…」
「…大好きだったよ、バイバイ」
(大好き…ね…)
私は彼の言葉に、無言で手を振って返す。
1月ももう終わりに近い今日
暗くなったこの時間には、まだイルミネーションが残っていた。
しかし、そのイルミネーションは今は澱んで見えてしまう。
きらびやかな街中を歩く彼の背中を
私はただその場で手を振り、
気づいた頃には見えなくなってしまった。
人との別れで涙をするのはいつぶりだろうか。
勝手になれていたと思っていた私の心は、まだ普通の人間と同じらしい。
知らぬ間に流れていた涙を拭い私は改めて前を向く。
…とりあえず、今回もあいつに連絡入れるかな
私は携帯を取りだし、とある人に電話をかける。
…プルル
…プ
「ういーどうしたー?ゲームかー?」
彼には待つという言葉はないのだろうか。
電話をかけるとすぐに出てくれる彼。
電話越しに聞こえる
ごく普通の男の声は
可愛くもない、低くてかっこよくもない
それでも、親しみを感じている特別な声だった。
「うーん、今日は違うんだ。えっとー…えへへ…なんで電話したのか当ててみてよ」
「…なんだその言い方。うーん、そうやなぁ、恋人と別れたとか??笑」
「…」
「…え、ちょ、まじ?またー?さすがに早くない?」
「…えへ」
「いや、えへじゃないんよ…やれやれ」
大和との出会いは4年前
ただのクラスメイトだっただけで、最初はほとんど会話をするような仲良しではなかった。
しかし、友達の友達、という関係だったのもあり会話の時間も増え、
今では私の心の安定剤になっている。
大和は知らぬ間に、私の人生における重要パーツのひとつとして数えられるようになっていたのだ。
「振られちゃったー、ねぇー?どうしよう」
「どうしよって言われても…うーん、やり直したいの??」
「正直、何をするのが正解なのか…わかんなくなっちゃった。」
「…そっか。とりあえず、元々どんな関係だったのとか、付き合う前と後の話をきせてよ」
彼はいつも私の話をこうして聞いてくれる。
そして、素直にその質問に答えると
「…美月らしいな」
そう言ってくれる。
今回別れた原因は、ちょっとした言葉のミスだった。
付き合うと束縛気味になってしまう私は、今回の彼には自由に過ごして欲しかった。
そのため、彼にDMで
「近すぎたよね、少し距離置いた方がいいよね」
と、私なりの彼への気遣いのつもりで送った。
しかし、文面だけの恐ろしさというものがある。
彼は、私の思っていた意図とは違う風に捉えられてしまった。
その結果…どんどん距離は遠くなっていき、今日こうして別れてしまうまで、関係に溝が出来てしまったのである。
この行動は私らしいのだろうか。
正直自分の行動に自信はない。
大好きだった人が、自分の選択で離れて言ってしまったのだから…
私の選択したこの行動は間違っているとしか言えない…。
しかし、大和は私の思っている答えと違うものをいつも答えてくれる。
自分だけじゃたどり着くことの出来ない
暖かい言葉をいつもくれる。
今回もそうだった。
「美月は不器用だからな…伝え方下手くそかよ」
「…仕方ないじゃん。初めてこうやって束縛しないように頑張ってみようって思ったんだから…」
「ま、初めてなら仕方がないよな…って言俺もいたいところだけど、それは違う。」
「え…なに…お説教?」
「バカちげぇよ」
捉え方が全部悪い方向に言ってるのがダメって言いたいんだよ。なんで自分のせいだって決めつけてんだ、バカかよ。
大和はそう言ってくれた。
その瞬間、涙の勢いが止まらなくなる。
「でも…だって…私がこう言わなかったら、別れなかったんだよ?わたしのせいとしか言いようが…」
「お前の善意を理解できない相手も悪い。自分ばっか責めんな。美月はよくやった…今回の相手とは相性が良くなかった。そう思っとけ。」
…相性が…良くなかった…か…
…でも、そんなこと言われても私と相性がいいやつなんて…
「…うっ…うん、そう…相性が…ね」
涙ぐんでいて、少し話しずらい。
冷え込む1月の夜、流れてくる涙はすぐに冷えてしまう。
身体も正直痛いくらいに寒い。
しかし、大和の存在のおかげで心だけは温もりが残っていた。
「泣くな泣くな、とりあえず外寒いだろ、早く家帰るか暖かいところ行きなー?」
「…あーもう!今そんなに優しくすんなバカ!何!?私の事好きなの!?」
…私の体調気にしてんなよ
彼氏かよ…もう…
いっつもいっつも…付き合ってきた男以上に私の事支えてくれちゃってさ…
あんたが消えない限り、私の中にある理想像がどんどん大和に似てきちゃうじゃん…
「あー?もちろん好きだよ?美月がいるから俺も楽しくこうやってお話出来てんだわ」
「…バカ。そういうところほんと嫌い!」
軽い気持ちで好きって言うな…
私の気持ちになんで気づいてくれないの…
誰よりも私のこと知ってる癖に
変なところばっか鋭くて
肝心なところは鈍感で…
「バカとはなんだバカとはー!こうやっていっつも話聞いてあげてんのにそりゃないんじゃねぇーのー?」
「あーはいはい!そうですね!いつも話聞いてくれてありがとうございますーだ!」
「分かればよろしいんだ分かれば。今度ラーメン奢りなー」
「いやでーす!話聞くくらい無料でやってくださーい。寒いんで切りまーすばいばーい」
「ちょ!おま!たまにはお礼に何かをだな!…」
プルルン…
向こうの言葉を最後まで聞かずに電話を切る。
これもいつもの事だ。
そして、普段と変わらないのなら…
ピロリン♪
スマホの画面に大和からメッセージが届く。
「ちょっとしたミスだ。お前の良さに気づく男はいくらでもいるから気にすんなよ。」
…こうやって、優しい言葉をしっかりくれる。
…なんで私メッセージが来るって分かってるんだろ。
あいつも私のこと知ってくれてるけど、私もあいつのこと知ってるのかな。
…相性バッチリじゃん。
…はぁ、あーあ
…やっぱり私
好きで好きで仕方ないんだろうな
…こいつのこと。
深く吸った息を細く長く吐く。
白く染るその息が空に溶けきった時にはもう私の心は晴れていた。
涙で痒くなった目を拭い、私は携帯の画面から外へと視線を戻した。
さっきまで澱んで見えていたイルミネーションが美しく見える。
「…バカバカしいや。かーえろっと!」
普段通りの何一つ変わらない夜の街へと歩みを進める。
そんな街は、何一つ曇りのない私の瞳にとって、とても美しい街に見えた。
「…」
「…大好きだったよ、バイバイ」
(大好き…ね…)
私は彼の言葉に、無言で手を振って返す。
1月ももう終わりに近い今日
暗くなったこの時間には、まだイルミネーションが残っていた。
しかし、そのイルミネーションは今は澱んで見えてしまう。
きらびやかな街中を歩く彼の背中を
私はただその場で手を振り、
気づいた頃には見えなくなってしまった。
人との別れで涙をするのはいつぶりだろうか。
勝手になれていたと思っていた私の心は、まだ普通の人間と同じらしい。
知らぬ間に流れていた涙を拭い私は改めて前を向く。
…とりあえず、今回もあいつに連絡入れるかな
私は携帯を取りだし、とある人に電話をかける。
…プルル
…プ
「ういーどうしたー?ゲームかー?」
彼には待つという言葉はないのだろうか。
電話をかけるとすぐに出てくれる彼。
電話越しに聞こえる
ごく普通の男の声は
可愛くもない、低くてかっこよくもない
それでも、親しみを感じている特別な声だった。
「うーん、今日は違うんだ。えっとー…えへへ…なんで電話したのか当ててみてよ」
「…なんだその言い方。うーん、そうやなぁ、恋人と別れたとか??笑」
「…」
「…え、ちょ、まじ?またー?さすがに早くない?」
「…えへ」
「いや、えへじゃないんよ…やれやれ」
大和との出会いは4年前
ただのクラスメイトだっただけで、最初はほとんど会話をするような仲良しではなかった。
しかし、友達の友達、という関係だったのもあり会話の時間も増え、
今では私の心の安定剤になっている。
大和は知らぬ間に、私の人生における重要パーツのひとつとして数えられるようになっていたのだ。
「振られちゃったー、ねぇー?どうしよう」
「どうしよって言われても…うーん、やり直したいの??」
「正直、何をするのが正解なのか…わかんなくなっちゃった。」
「…そっか。とりあえず、元々どんな関係だったのとか、付き合う前と後の話をきせてよ」
彼はいつも私の話をこうして聞いてくれる。
そして、素直にその質問に答えると
「…美月らしいな」
そう言ってくれる。
今回別れた原因は、ちょっとした言葉のミスだった。
付き合うと束縛気味になってしまう私は、今回の彼には自由に過ごして欲しかった。
そのため、彼にDMで
「近すぎたよね、少し距離置いた方がいいよね」
と、私なりの彼への気遣いのつもりで送った。
しかし、文面だけの恐ろしさというものがある。
彼は、私の思っていた意図とは違う風に捉えられてしまった。
その結果…どんどん距離は遠くなっていき、今日こうして別れてしまうまで、関係に溝が出来てしまったのである。
この行動は私らしいのだろうか。
正直自分の行動に自信はない。
大好きだった人が、自分の選択で離れて言ってしまったのだから…
私の選択したこの行動は間違っているとしか言えない…。
しかし、大和は私の思っている答えと違うものをいつも答えてくれる。
自分だけじゃたどり着くことの出来ない
暖かい言葉をいつもくれる。
今回もそうだった。
「美月は不器用だからな…伝え方下手くそかよ」
「…仕方ないじゃん。初めてこうやって束縛しないように頑張ってみようって思ったんだから…」
「ま、初めてなら仕方がないよな…って言俺もいたいところだけど、それは違う。」
「え…なに…お説教?」
「バカちげぇよ」
捉え方が全部悪い方向に言ってるのがダメって言いたいんだよ。なんで自分のせいだって決めつけてんだ、バカかよ。
大和はそう言ってくれた。
その瞬間、涙の勢いが止まらなくなる。
「でも…だって…私がこう言わなかったら、別れなかったんだよ?わたしのせいとしか言いようが…」
「お前の善意を理解できない相手も悪い。自分ばっか責めんな。美月はよくやった…今回の相手とは相性が良くなかった。そう思っとけ。」
…相性が…良くなかった…か…
…でも、そんなこと言われても私と相性がいいやつなんて…
「…うっ…うん、そう…相性が…ね」
涙ぐんでいて、少し話しずらい。
冷え込む1月の夜、流れてくる涙はすぐに冷えてしまう。
身体も正直痛いくらいに寒い。
しかし、大和の存在のおかげで心だけは温もりが残っていた。
「泣くな泣くな、とりあえず外寒いだろ、早く家帰るか暖かいところ行きなー?」
「…あーもう!今そんなに優しくすんなバカ!何!?私の事好きなの!?」
…私の体調気にしてんなよ
彼氏かよ…もう…
いっつもいっつも…付き合ってきた男以上に私の事支えてくれちゃってさ…
あんたが消えない限り、私の中にある理想像がどんどん大和に似てきちゃうじゃん…
「あー?もちろん好きだよ?美月がいるから俺も楽しくこうやってお話出来てんだわ」
「…バカ。そういうところほんと嫌い!」
軽い気持ちで好きって言うな…
私の気持ちになんで気づいてくれないの…
誰よりも私のこと知ってる癖に
変なところばっか鋭くて
肝心なところは鈍感で…
「バカとはなんだバカとはー!こうやっていっつも話聞いてあげてんのにそりゃないんじゃねぇーのー?」
「あーはいはい!そうですね!いつも話聞いてくれてありがとうございますーだ!」
「分かればよろしいんだ分かれば。今度ラーメン奢りなー」
「いやでーす!話聞くくらい無料でやってくださーい。寒いんで切りまーすばいばーい」
「ちょ!おま!たまにはお礼に何かをだな!…」
プルルン…
向こうの言葉を最後まで聞かずに電話を切る。
これもいつもの事だ。
そして、普段と変わらないのなら…
ピロリン♪
スマホの画面に大和からメッセージが届く。
「ちょっとしたミスだ。お前の良さに気づく男はいくらでもいるから気にすんなよ。」
…こうやって、優しい言葉をしっかりくれる。
…なんで私メッセージが来るって分かってるんだろ。
あいつも私のこと知ってくれてるけど、私もあいつのこと知ってるのかな。
…相性バッチリじゃん。
…はぁ、あーあ
…やっぱり私
好きで好きで仕方ないんだろうな
…こいつのこと。
深く吸った息を細く長く吐く。
白く染るその息が空に溶けきった時にはもう私の心は晴れていた。
涙で痒くなった目を拭い、私は携帯の画面から外へと視線を戻した。
さっきまで澱んで見えていたイルミネーションが美しく見える。
「…バカバカしいや。かーえろっと!」
普段通りの何一つ変わらない夜の街へと歩みを進める。
そんな街は、何一つ曇りのない私の瞳にとって、とても美しい街に見えた。
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