小石井あきらの第二の人生

プロローグ

空が高い。
青空が好きな父を、こんな天気の日に送ることができてよかった。

早瀬あきらはそんなことを考えていた。
パートをしながら父の介護をして十五年、周りに助けられながらも務めを果たすことができた。

「でね、兄貴にも頼まれてた、あきらの今後の身の振り方なんだけどね」

仏間でしんみりしていると、叔父が話を切り出した。
父の弟である武靖叔父は大きな封筒を見せた。
中には写真が入っているようだ。

身体が動かなくても口だけは達者で厳しい父が、そんなことを心配してくれていたとは。
振り回されるだけの十年ではなかったと、あきらは少し嬉しくなる。

「大丈夫ですよ、叔父さん。
前の勤め先が、非常勤だけど雇ってくれるって。
この不景気にありがたいことだわ」

短大を出て、就職をして。
恋愛をして、結婚をして。
夢見勝ちなあきらの将来設計は、突然の父の病に阻まれた。
まあ、恋愛も結婚も、向いてはいなかったのだろうと、この歳になると認めざるを得ない。

「でもねぇ、あきらももうよんじゅ」

「35ですっ」

叔父に、皆まで云わせまいとするあきら。
女である。

「……云いにくいんだけどね、兄貴に借金があってね。
家や土地を処分してもまだ少し足りないんだよ。
それをこの人が肩代わりしてくれるって」

借金。
あきらは目を見開く。
それは知らなかった。
この家を維持しながらやっていけると、皮算用していたのだ。

「でかいこぶつきの、五十男なんだけどね。
どっかであんたを見初めたのかな、とうがたってる初婚でもいいと云ってくれてるんだよ」

「……読み書きそろばん、Excelも使えると云ってくれましたか」

「混ぜっ返すなよ」

いきなり宿無しになると云われれば、不満のひとつも云いたくなる。
当たり前だが、叔父に借財返済の義理はない。
相続放棄をしても家がなくなるのは同じだ。

「私を見初めた……？」

写真には精悍なスーツ姿の男性と、高校の制服らしいブレザーを着た少年が写っている。
鼻筋が似ていて、親子だと思わせる。

「奥さんを早くに亡くしてる。
家政婦さんが高齢で、続けられなくなったらしい」

結婚が女の幸せと、父も叔父も信じているらしい。

「でも、こんな大きな子供さん、お父さんの再婚なんて嫌じゃないのかな」

「どうかな。
ま、会うだけでも会ってみたら」

写真を凝視しているあきらを、武靖叔父は楽しそうに見下ろした。