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「今日はバスなんだね」
地下鉄へ向かうバスの中で、当麻に声をかけられた。
昼近い時間だからか、バスは空いていた。
それでも筋トレ代わりに立っている私に、当麻は人懐っこい笑顔で近づいてきた。
「いつも地下鉄までチャリで激走してるでしょ」
「今日は雨予報だったから……ってか、激走って」
「バスより全然早いよね。
初めて見たとき超人ハルクかと思ったよ」
「……それ、何だかわかんないけど、褒めてないよね?」
「褒めてるよ」
怪しいものだ。
私は当麻を眺めた。
確かにイケメンなのだろうが、服装にこだわっていないせいか、この屈託のない笑顔のせいか、あまり近寄りがたい雰囲気がない。
なんというか、こう。
「犬か」
愛玩犬に雰囲気が似ている。
「犬、はないでしょ」
「ごめんなさい。
でも、土佐犬とかじゃないよ。
マルチーズとかトイプードルとか、そんな感じだよ」
「褒めてないよね」
「褒めてるよ」
二人は同時に吹き出した。
異性との会話で大笑いするなんて初体験だ。
だから、ランチのお誘いに乗ってみたのだ。
「激チャリを初めて見てさ。
生命力の塊のような人だなと思ったのよ」
「生命力、ではないけど。
ただ、早く走れないから自転車でだけでも早く走ってみたかったの」
「風になりたいならオートバイがいいよ」
「あれは転んだら痛そう」
「転ぶ前提なんだ」
学生向けの定食屋で、話が弾んだ。
私は久しぶりに笑い転げていた。
真奈美以外でこんなにはしゃげるとは新たな発見だ。
「あれぇ、三ノ宮さん、新しい彼氏?」
私は凍りつく。
女同士と云うのは、ダメージがわかる分攻撃力が半端ない。
彼女も会うたびに私を叩きのめした。
鴻上瑞樹と別れてからも、執拗に。
「なに?
知り合い?」
当麻は明るい調子で彼女を見る。
彼女も当麻を品定めするように眺めた。
「相変わらず面食いなんだぁ。
でも、あっちの方でも努力しないとまた捨てられちゃうよ?
瑞樹は、私の方が身体の相性いいって。
今日もこれから会うの」
ぞっとした。
私が青くなっているのが当麻にもわかったようだった。
「あのさ、あんまりそういう話、外ではしない方がいいよ。
自分を貶めるような話はさ」
彼女の顔色が変わった。
「あんただって、この女の見かけに騙されてんのよ。
瑞樹に抱かれてんのに、ベッドで石みたいに動かないんだから」
「……約束があるなら早く行った方がいいよ」
当麻は会話を切り上げたように、コーヒーを飲んだ。
彼女は鼻を鳴らして立ち去った。
私は俯いたままだった。
地下鉄へ向かうバスの中で、当麻に声をかけられた。
昼近い時間だからか、バスは空いていた。
それでも筋トレ代わりに立っている私に、当麻は人懐っこい笑顔で近づいてきた。
「いつも地下鉄までチャリで激走してるでしょ」
「今日は雨予報だったから……ってか、激走って」
「バスより全然早いよね。
初めて見たとき超人ハルクかと思ったよ」
「……それ、何だかわかんないけど、褒めてないよね?」
「褒めてるよ」
怪しいものだ。
私は当麻を眺めた。
確かにイケメンなのだろうが、服装にこだわっていないせいか、この屈託のない笑顔のせいか、あまり近寄りがたい雰囲気がない。
なんというか、こう。
「犬か」
愛玩犬に雰囲気が似ている。
「犬、はないでしょ」
「ごめんなさい。
でも、土佐犬とかじゃないよ。
マルチーズとかトイプードルとか、そんな感じだよ」
「褒めてないよね」
「褒めてるよ」
二人は同時に吹き出した。
異性との会話で大笑いするなんて初体験だ。
だから、ランチのお誘いに乗ってみたのだ。
「激チャリを初めて見てさ。
生命力の塊のような人だなと思ったのよ」
「生命力、ではないけど。
ただ、早く走れないから自転車でだけでも早く走ってみたかったの」
「風になりたいならオートバイがいいよ」
「あれは転んだら痛そう」
「転ぶ前提なんだ」
学生向けの定食屋で、話が弾んだ。
私は久しぶりに笑い転げていた。
真奈美以外でこんなにはしゃげるとは新たな発見だ。
「あれぇ、三ノ宮さん、新しい彼氏?」
私は凍りつく。
女同士と云うのは、ダメージがわかる分攻撃力が半端ない。
彼女も会うたびに私を叩きのめした。
鴻上瑞樹と別れてからも、執拗に。
「なに?
知り合い?」
当麻は明るい調子で彼女を見る。
彼女も当麻を品定めするように眺めた。
「相変わらず面食いなんだぁ。
でも、あっちの方でも努力しないとまた捨てられちゃうよ?
瑞樹は、私の方が身体の相性いいって。
今日もこれから会うの」
ぞっとした。
私が青くなっているのが当麻にもわかったようだった。
「あのさ、あんまりそういう話、外ではしない方がいいよ。
自分を貶めるような話はさ」
彼女の顔色が変わった。
「あんただって、この女の見かけに騙されてんのよ。
瑞樹に抱かれてんのに、ベッドで石みたいに動かないんだから」
「……約束があるなら早く行った方がいいよ」
当麻は会話を切り上げたように、コーヒーを飲んだ。
彼女は鼻を鳴らして立ち去った。
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