二度目の恋

櫟 真威

文字の大きさ
上 下
3 / 11

しおりを挟む
「今日はバスなんだね」

地下鉄へ向かうバスの中で、当麻に声をかけられた。
昼近い時間だからか、バスは空いていた。
それでも筋トレ代わりに立っている私に、当麻は人懐っこい笑顔で近づいてきた。

「いつも地下鉄までチャリで激走してるでしょ」

「今日は雨予報だったから……ってか、激走って」

「バスより全然早いよね。
初めて見たとき超人ハルクかと思ったよ」

「……それ、何だかわかんないけど、褒めてないよね?」

「褒めてるよ」

怪しいものだ。
私は当麻を眺めた。
確かにイケメンなのだろうが、服装にこだわっていないせいか、この屈託のない笑顔のせいか、あまり近寄りがたい雰囲気がない。
なんというか、こう。

「犬か」

愛玩犬に雰囲気が似ている。

「犬、はないでしょ」

「ごめんなさい。
でも、土佐犬とかじゃないよ。
マルチーズとかトイプードルとか、そんな感じだよ」

「褒めてないよね」

「褒めてるよ」

二人は同時に吹き出した。
異性との会話で大笑いするなんて初体験だ。
だから、ランチのお誘いに乗ってみたのだ。

「激チャリを初めて見てさ。
生命力の塊のような人だなと思ったのよ」

「生命力、ではないけど。
ただ、早く走れないから自転車でだけでも早く走ってみたかったの」

「風になりたいならオートバイがいいよ」

「あれは転んだら痛そう」

「転ぶ前提なんだ」

学生向けの定食屋で、話が弾んだ。
私は久しぶりに笑い転げていた。
真奈美以外でこんなにはしゃげるとは新たな発見だ。

「あれぇ、三ノ宮さん、新しい彼氏?」

私は凍りつく。
女同士と云うのは、ダメージがわかる分攻撃力が半端ない。
彼女も会うたびに私を叩きのめした。
鴻上瑞樹と別れてからも、執拗に。

「なに?
知り合い?」

当麻は明るい調子で彼女を見る。
彼女も当麻を品定めするように眺めた。

「相変わらず面食いなんだぁ。
でも、あっちの方でも努力しないとまた捨てられちゃうよ?
瑞樹は、私の方が身体の相性いいって。
今日もこれから会うの」

ぞっとした。
私が青くなっているのが当麻にもわかったようだった。

「あのさ、あんまりそういう話、外ではしない方がいいよ。
自分を貶めるような話はさ」

彼女の顔色が変わった。

「あんただって、この女の見かけに騙されてんのよ。
瑞樹に抱かれてんのに、ベッドで石みたいに動かないんだから」

「……約束があるなら早く行った方がいいよ」

当麻は会話を切り上げたように、コーヒーを飲んだ。
彼女は鼻を鳴らして立ち去った。
私は俯いたままだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

腹黒王子は、食べ頃を待っている

月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。

【R18】幼馴染な陛下と、甘々な毎日になりました💕

月極まろん
恋愛
 幼なじみの陛下に、気持ちだけでも伝えたくて。いい思い出にしたくて告白したのに、執務室のソファに座らせられて、なぜかこんなえっちな日々になりました。

騎士団長の欲望に今日も犯される

シェルビビ
恋愛
 ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。  就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。  ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。  しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。  無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。  文章を付け足しています。すいません

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

義兄様に弄ばれる私は溺愛され、その愛に堕ちる

一ノ瀬 彩音
恋愛
国王である義兄様に弄ばれる悪役令嬢の私は彼に溺れていく。 そして彼から与えられる快楽と愛情で心も身体も満たされていく……。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

【R18】幼馴染な陛下は、わたくしのおっぱいお好きですか?💕

月極まろん
恋愛
 幼なじみの陛下に告白したら、両思いだと分かったので、甘々な毎日になりました。  でも陛下、本当にわたくしに御不満はございませんか?

【完結】堕ちた令嬢

マー子
恋愛
・R18・無理矢理?・監禁×孕ませ ・ハピエン ※レイプや陵辱などの表現があります!苦手な方は御遠慮下さい。 〜ストーリー〜 裕福ではないが、父と母と私の三人平凡で幸せな日々を過ごしていた。 素敵な婚約者もいて、学園を卒業したらすぐに結婚するはずだった。 それなのに、どうしてこんな事になってしまったんだろう⋯? ◇人物の表現が『彼』『彼女』『ヤツ』などで、殆ど名前が出てきません。なるべく表現する人は統一してますが、途中分からなくても多分コイツだろう?と温かい目で見守って下さい。 ◇後半やっと彼の目的が分かります。 ◇切ないけれど、ハッピーエンドを目指しました。 ◇全8話+その後で完結

処理中です...